↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白いカトレアの花言葉(旧題:白いカトレア)  作者: 由布 叶
第2章  ペルガニュス学園編
PR
39/42

【18】   学園生活二年目7

お待たせ致しました。

ジャンの脱、空気!






 やはり、初めての課外活動であり学園に来てから初めての実践ということで緊張していたようだ。

 夜はいつもより早い時間に眠くなり、朝までぐっすり眠った。

 翌日が自習日なのは学園側の配慮だろう。



 今さらだが。

 一週間は7日間であり、講義があるのは5日間で、6日目は自習の日、7日目が休校日となっている。

 6日目は自習日なので体を休めるのに使ってもいいし講義の予習復習、研究、フィールドワーク等々生徒は様々なことをしている。

 7日目は6日日目と同じように過ごしてもいいが、こちらは完全に休校という扱いなので学園の一部施設が使用できない。

 主に教室や全てではないがカフェテリアがそうである。職員だって休日は必要だ。

 なぜ一部施設かと言うと、学科によっては植物や生物を育成飼育しているからである。世話をしなければ死んでしまう。

 そんな一週間の6日目。先日は初の課外活動で疲れたが、朝までぐっすり眠ったので元気いっぱいなカトレアだ。

 子供故に体力はないが、若さ故に回復は早い。

 実家ではよく祖父や父、兄姉と共に狩りや採取に出掛けていたので同い年の子供に比べれば体力はある方である。野営も体験済みだ。

 さて、そんなカトレアであるが、本日は過度な運動は避けて昨日は採取した雪イチゴをジャムにした。

材料を分けてもらえないかとつくる科に行ったら、もう旬も終わりだからと規格外の大小様々な赤いイチゴが貰えた。スーパーとかでよく見かけたやつだ。

 ホクホクと足取りも軽やかにそのまま学園内にある一番大きな食堂へ向かった。

 そこならば開いているので、昼食と夕食の間の空いた時間にお邪魔して片隅を使わせてもらったのだ。



 そうして雪イチゴは赤いイチゴと同じ色に染まった美味しいジャムになった。休園日である今日は昨日作ったジャムでパウンドケーキを作るつもりだ。

「おはようございまーす」

「おはよう」

 元気に挨拶をすれば、予想を裏切らず返事が返ってきた。研究熱心な調理場の主は休園日にもこうして趣味と称して何かしら作っている。

 肝っ玉母さん、という言葉が似合いそうな調理場の主エマである。ちなみに、年齢は不詳。きいちゃいけないのだ。

「わぁ、材料と器具も出してくれたんですか? ありがとうございます」

 作業台の上はすでに準備が整っている。

「どういたしまして。パウンドケーキとスコーンを作るんだろう? 小麦粉も振るっておいたよ」

「あぁ、何から何までありがとうございます」

(ちょっと、拝んでもいいかな?)

 至れり尽くせりである。

 これで、作りかけの料理とかまであれば某調理番組みたいだなと思ったカトレアだ。

 パウンドケーキは全員に配って、スコーンはジャムとセットでリリーだけに渡す予定だ。これはアイテム袋のお礼なのでリリーだけ。

「いいの、いいの。さあ、ちゃっちゃっと始めないと時間がなくなっちまうよ」

「はーい」

バターを湯煎で溶かして砂糖を入れたら、白くもったりするまで混ぜる。溶いておいた卵を加えて更に混ぜる。そこへ、小麦粉とふくらし粉を振り入れて木ベラでさっくりと混ぜ合わせる。混ぜすぎないのがポイントです。

「カトレア、肝心のジャムを入れ忘れてるよ!」

「あー! たいへん、たいへん。ありがとうございます、エマさん」

「まったく、カトレアは」

 へへ、と笑って誤魔化しておく。

 ジャムを入れて2、3回混ぜたら型に流し入れてエマに託す。窯を使うのでカトレアは危ないからとやらせてもらえないのだ。

 確かに大勢を相手にするこの広い食堂では大きな窯が必要だしカトレアだって扱ったことはない。でも、隣の一回り小さい窯ならできると思うのだ。

 カトレアが何か作る時は大抵こちらを使用する。まあ、使わせてもらえるだけありがたいので言わないけれど。

「エマさん、お願いします」

「はいよ、任せな」

 カトレアを見守りながら隣で同じく調理をしていたエマはカトレアからパウンドケーキの種を受けとると 自分が作った物と一緒に窯に並べた。

「エマさん、エマさん。何を作ったんですか?」

 位置を調整して扉を閉めたエマに問いかける。

「チーズケーキだよ。おやつに食べようね」

「エマさんのおやつ、楽しみです!」

 これが漫画の世界なら背景にハートが飛んでいる。

「たくさん食べて大きくおなり」

「はい!」

 万歳をしながら元気に返事をする。

エマから見たらカトレアはまだまだ子供で目が離せないらしい。

 別の日にカトレアにとっては見知らぬ生徒である青年にも同じ事を言っていたので、エマの「大きくおなり」は身体的ではなくて人間的に「大きくおなり」という意も含むのではないかと思っている。



 続けて作ったスコーンの生地を焼いている間にお昼になったので料理の試作品の味見、という名目で昼食を頂く。新しいメニューの開発中だそうなのであながち嘘ではない。

 男性向けのお肉料理だったが、昨日から煮込まれたお肉は口の中でホロホロとほどけて全然くどくない。これなら女性にも好まれそうだ。

「量を調整すれば男女どちらでも好まれそうです」

 武導科の女性なら体を動かすからペロリと食べれてしまうかもしれない。

「そうだね、成長期の子供はよく食べるからねぇ」

 お腹いっぱい食べられることは幸せだ。それがエマの料理なら尚更。

 小さなことまで気づいたことをエマに伝える。

「ありがとう、カトレア。参考になったよ」

「どういたしまして。こちらこそ、美味しいお昼をご馳走様です」

 プロの作る料理は美味しい。



 昼食の後もせっせと焼き続け、全て出来上がる頃にはおやつの時間になっていた。

 粗熱をとっている間に楽しみにしていたエマのおやつを頂く。

 切り分けられたチーズケーキにはのばしてソースとなったカトレアの作ったジャムがかけられていた。

「はわわわ。凄い! 美味しそう! でも、可愛いくて食べられない」

 お皿には飾り切りされた果物も添えられていて、彩りもきれいでとても華やかだ。普段はこんな風ではない。

「ははは、ジャムのソースがある分チーズケーキの方の甘味を抑えてみたんだ。食べて感想を聞かせとくれ」

 エマに言われて一口頬張る。

「ん~~!!」

 ハート再び、である。今度は花も追加だ。

「口に合ったみたいで良かったよ。カトレアは分かりやすいね」

 喋れないので何度も頷いて美味であることを主張する。

 エマのチーズケーキがあまりにも美味しくて二片も食べてしまった。

(またやってしまった。明日から甘味を控えなくちゃ……)

 空になったお皿を眺めながらカトレアは思った。反省はしている、が後悔はしていない。



 冷めたパウンドケーキとスコーンを包装している間にルールー・ルッカへ魔術の手紙を送る。

 各自届けるのにどこにいるの分からないのだ。

 その点、同じ魔女である彼女ならばすぐに返信がくるのでメンバーに何か用があればつい頼ってしまう。

 用事があればルールー・ルッカへ、がパーティー内の暗黙のルールである。むしろ、本人が進んで引き受けている。

 


 さて、紙であるが……それはここ八十年ほどで一気に発展したらしい。

 魔術を使い、大量生産が可能になったことも要因の一つである。

 そんな中で物を包む、包装という行為は珍しい。カトレアは何気なくやってしまうが、紙とは書いたり描いたりという意識が強いため奇異に見られてしまう。

 気軽に買えたあちらと違い、まだまだ安価とは言えない紙をそのように使用するから、当初は絶対に良いところのご令嬢だと思われるユリアにでさえ珍しがられたのだ。今では慣れたようだが。順応性の高いご令嬢、それがユリアだ。

 ちなみに、リズには驚かれてこんこんとお説教された。

 最終的には納得してもらった。逆に色々訊かれもしたが。なんだか目がギラギラしていて怖かったのを覚えている。

 今カトレアが使っている包装紙(カトレアが勝手にそう呼んでいる)はリズからもらった色付きの物だ。

 始めはメモ用紙等で代用していたのだが、リズに色々と訊かれてしばらくしたらリズが試しに作ってみた余りだと言ってくれた。どうやら、つくる科の生徒に作ってもらったらしい。

 使用したときの感想を(たず)ねられたのでモニターの役割を求められているのだと理解した。

 なので、厚い、薄い、大きい、小さい等遠慮なく意見を述べさせていただいている。

 モニター役を務める度に改善された包装紙がもらえるので嬉しい。今では色も大きさも様々な物が揃っている。



 全てを包装し終わる頃にルールー・ルッカから返事が帰って来た。

「えっと……ルールーはリリーと、ん? 食堂(ここ)にいる!?」

 なんとルールー・ルッカとリリーは食堂にいるらしい。

 確かにここはカトレアが作業している間も開いていた。本日カトレアが作業をしている場所は調理場の奥にあり、飲食スペースの様子は見えないから気づかなかった。

 居場所が分かれば早速届けに行かねば。

「エマさんお邪魔しました。ありがとうございました。ご馳走です」

「いいの、いいの。こっちも美味しい思いをしてるしね」

 カトレアが作ったジャムとパウンドケーキにスコーンはせめてものお礼にとエマに渡した。

「素人作ですが、あとこれもいつものお茶です」

「とても美味しいよ。ああ、ありがとう。助かるよ」

 これは冷え性に効くお茶だ。母シルヴィア直伝のブレンドなので、聖女である母には劣るが効能は折り紙つきだ。

 材料は学園でも簡単に手に入るし、以前エマが冷え性だと知ってプレゼントした。それ以来エマはこのお茶の常連さんである。

「じゃ、配りに行ってきまーす」

「はいよ、気をつけて」

「はーい! ありがとうございました!」

 手を振って調理場を後にする。



「あ、いた!ルールーさん、リリーさん」

 調理場を出てすぐに二人を見つけた。向こうもこちらに気づいたのか手を振ってくれた。

「こんにちは、ずっとここに居たんですか?」

「こんにちは、違うわよぉ。来たのは少し前よ」

「はい、こんにちは。ほんの10分くらい前ですね」

 なるほど、彼女たちの前に置いてあるカップからはまだ湯気がたっている。

「そうなんですね。これ、どうぞ。お約束のお菓子です」

素人作ですが、と言いながら渡す。ルールー・ルッカにはパウンドケーキをリリーにはそれとジャムとスコーンのセットをそれぞれに渡す。

「まあ、これは何でしょう?」

「紙に包んであるのぉ?」

 やはり、最初は驚かれるらしい。

「はい、せっかくなので可愛い方がいいじゃないですか。なので包装しました」

 幅広の紐でリボンも付けてある。これは女の子限定である。男性陣には付いていない。シンプルな方がいいと思ったのだ。

「ええ、可愛いわぁ! 開けてしまうのが惜しいくらいね」

「そうですね。紙にこのような使い方があるなんて存じませんでしたわ」

「珍しいですからね。そちらのセットはアイテム袋を貸してくれたお礼です」

「まあ、ありがとう存じます」

(はい、深層の令嬢の微笑みいただきました。ご馳走さまですありがとうございます)

 眼福である。

「どういたしまして。ところで、ゼリム以外の他の方たちがどこにいるのかわかりますか?」

「他のメンバーはジャンはたぶん訓練場ね。課外活動の後は自主訓練しているはずだからぁ。ユーさんとヴィーさんはどこかしらぁ? ちょっと待っててちょうだい」

「あ、はい。お願いします」

 すぐにルールー・ルッカが魔術の手紙を飛ばしてくれた。念のためにジャンにも。休みの日なのにジャンは訓練をしているらしい。すごい。

「ジャンは真面目ですからね」

 苦笑しながらリリーが言う。

「リリーさんはずっとルールーさんと一緒だったんですか?」

「いえ、違いますよ。わたくしは鉱石を探している時と眺めている時が一番心休まりますから。本日は研究室に居ましたの。そうしましたら……」

リリーは変わってはいるが、優秀故に部屋もちだ。

「私が誘ったのよぉ。リリーは研究室にこもったら何日も出てこないのだもの」

「そうなんですね」

 それは危険だ。

「そうなのよ。あら、返事が来たわねぇ……んージャンはやっぱり訓練場ね。でもユーさんとヴィーさんは分からないわ。魔術の範囲外にいるようねぇ」

 ごめんなさいね、と両手を合わせながら小首を傾げる。

「とんでもないです。ありがとうございます」

「範囲外となると、学園の敷地外でしょうか?」

「そうねぇ、あの二人のことだからぁ依頼を受けているのかもしれないわねぇ」

 学園には生活費を稼ぐためや経験を積むために仕事の斡旋をしている所がある。

 よくラノベに出てくる冒険者ギルドのような物とハロワを掛け合わせたような所だ。

 ボードに貼り出された依頼証を受付けに提出して依頼を受諾し、完遂したらサインをもらい再度受付に提出する。

 または、条件を出してそれに合った依頼を紹介してもらう。

 依頼は生徒や教師、その他の職員からも集まり内容は多岐にわたる。

 学園外に行くには許可が必要で誰でも気軽に行けるわけではない。

 ルールー・ルッカとリリー曰く、魔術の範囲外であることを鑑みるにユーとヴィーは学園の敷地外に居る可能性が高いらしい。

 先程の会話はそういうことた。ならば、仕方がない。先にジャンへ届けに行った方がいいだろうとカトレアは結論付けた。

「ありがとうございます。先にジャンさんの所へ行ってみます」

「いいのよぉ。可愛い後輩のためだもの。どんどん頼ったちょうだい」

「カトレア、こちらもわざわざありがとう存じます」

「いえ、(ささ)やかな物ですけど。じゃぁ、行ってきますね」

 笑顔で見送る二人に手を振って食堂を後にする。



「確か、こっちの訓練場で合ってるはず……」

 いくつかある訓練場の内、どこにいるのかルールーに教えてもらった。

 今カトレアが居る所から比較的近い訓練場を使用してるらしい。

 休園日の今日使用するには申請をしなければいけないので、本日はほぼ貸し切り状態のはずだ。居たとしても数人程度だろう。

「おお、閑散としてる」

 いつも講義で使用する時はクラスメイトがいるので何だか不思議な感じがする。

「あ、発見! ジャンさっ……ん!?」

 休憩をとろうとしたようで、剣を降ろしたジャンの元へ誰かが近づいていく。

「もしかしてもしかしなくてもあれはユリア?」

 二人はそういうご関係なの? と考えてしまうあたり私ちゃんと乙女脳だと謎の安心感を抱いたり。要するにカトレアは混乱中だ。

「あら、カトレア」

「カトレア、体調はどうだ?」

 それに対し、二人とも驚くくらい普段通りだ。逆に動揺しているカトレアがおかしいのか。

(って言うか、二人の共通点って何? どうやって出会ったんだろう?)

 踏み込んでいいのか。

「ユリア、奇遇だね。ジャンさん、昨日しっかり休んだので元気です」

 光の速さで駆け巡る思考。カトレアは追求せずにそのまま返答する選択をした。乙女脳はちょっと横に避けておく。

「わたくし、少々ジャンに用があって来たのですが、カトレアに会えるなんて素敵な奇遇ですわ」

「突然ルールーから連絡が来たんだが、どうしたんだ? って、ああ、もしかして先日のことか?」

 ルールー・ルッカは用件を伝えなかったらしい。

「はい、そうです。こちら、約束してたお菓子です。今皆に配って回ってるんですよ」

 素人作ですが、とここでも言いながら渡す。

「わざわざ配ってくれてるのか。逆に済まないな」

「いえいえ、作ることは嫌いじゃないので」

 エマのご飯とお菓子が食べられたのでむしろ得をしている。

「あら、カトレアのお菓子ですの? 羨ましいですわ」

 とても美味しいのです、とユリアから高評価を頂いた。

「ちゃんとユリアの分もあるからね」

 後で一緒に食べよう、と言ったら美少女の笑みも追加で頂いた。ありがとうございます。眼福です。

「紙で包んであるのか」

 これが、と言いながら何故かふむふむと何度も頷く。

「可愛らしいでしょう?」

 心なしか誇ら気である。

「あぁ、そうだな。話には聞いていたが……」

「話に聞いて、いた?」

 どういうこと、とユリアに視線で問う。

「ジャンに、自慢をしておりましたのよ。わたくしのお友達はとても可愛らしいくて料理も上手で器用なの、と」

 察したユリアが教えてくれたが、とても照れる内容だ。

「あ、ありがとう」

 顔が熱い。無意識に両手を頬に添える。

 今、カトレアの顔は絶対に赤くなっている。

(嬉しいけど、恥ずかしい!)

「ユ、ユリアとジャンさんは知り合いはだったんだね」

 照れ隠しで訊くつもりのない事を口走ってしまった。

「ええ、学園に入る前からの知り合いですの」

「カトレアには別に隠すつもりはなかったんだが、俺からユリアの話題を振るのも不自然な気がしてな」

 敢えて言うものでもないし、同じパーティーにならなければカトレアがジャンと知り合う機会もなかったかもしれない。

 そう考えると二人を責められない。いや、責めたいわけではないけれど。

「紙で包装する話もユリアからですか?」

「そうだ。たまに世間話をするんだ。その時に」

「気を悪くさせてしまいましたか?」

 しょんぼりと肩を落とすユリア。

「ううん、そんなことないよ。気にしないで」

 気にはなったけど、訊くつもりがない事を訊いてしまって悪いなと思ってるのはカトレアの方だ。

「そうですか? それならばよいのです。わたくしはそろそろ帰りますわ」

「うん、また後でね」

「気をつけて帰るんだぞ」

 去っていくユリアを見送る。

「さて、私も次に行きますね。ユーさんとヴィーさんに届けなきゃ!」

「あの二人なら今日は外に出てるはずだか……そろそろ戻ってくる時間か。受付に行けば捕まえられるかもしれない」

 時間を見てジャンが言った。

「そうなんですか! 早速行ってみます。ありがとうございます」

 カトレアからも二人に魔術の手紙を送ってみようかと考えていたところだったので、ジャンの情報は渡りに船だ。

「気をつけてな」

 言いながら、頭をぽんぽんとされた。

「私、そんなちびっ子じゃありません!」

 背が縮むと抗議する。

「ははは、済まない。ちょっと幼馴染みに似ていたんだ」

「もう! それじゃ、次の講義で」

 手を振ってジャンと別れた。



「ナイスタイミング、私!」

 丁度良く依頼達成の受付を済ませたユーとヴィーに遭遇した。

「ユーさん、ヴィーさん!」

 呼んで引き留める。

「ん? カトレアか。どうしかしたか?」

「何かあった?」

「これ、お約束のお菓子です」

 素人作ですが、とここでも言いながら渡す。

「おお! いい香りがするな。ありがとう」

 そう言って破顔するユー。

「ありがとう。ふむ、これは紙で包んであるのか」

「そうです。可愛いでしょう?」

 ルールー・ルッカたちと似たようなやり取りをする。

ヴィーはやはり気になるようだ。

「女性らしい発想だね」

「そうかもしれません」

 カトレアにとっては普通だけれど。

「そうだそうだ、オレたちからカトレアに」

 探す手間が省けたとユーが笑う。

「このお菓子のお礼だと思って受け取って」

 手渡された大きな布の中には根ごと採ってきた花が10株ほど。

 そんな物をプレゼントされて喜ぶ女性は

「きゃー! 唄う花ですね!? それもまだかすかに唄ってるー」

 この学園にはわりかし多い。

 カトレアもその例に漏れない。むしろ、この手の女性は下手に茎の部分で切って渡した方が怒る。「貴重な素材に何てことしてくれたのだ」と。

「わぁ、ありがとうございますー! 赤と白の2種類も見つけたなんてすごいですね」

「そこは、さすがのユーさんだよ。この人引きとか運とか良いから」

 やや呆れたように親指で指す。

「この間欲しいって言っていた素材の中にあったってヴィーが言ったんだよ」

 目を丸くして、二人を交互に見る。

「覚えててくれたんですか? ヴィーさん、モテるでしょう? ユーさんだって」

 何気なく言ったことを覚えてくれてて、さらにそれをプレゼントしてくれるなんて嬉しくないわけが無いだろう。

「ふふ、モテるよ。本人は自覚が無いみたいだけど」

 堪えきれなかったのかヴィーが吹き出しながらも答えてくれた。

「ヴィーさんだってモテるでしょう?」

 先程横に避けておいたカトレアの乙女脳が絶対にそうだと訴えていて、ほぼ確定として再度問う。

「さあ、どうだろう?」

 少し首を傾けながら意味深な笑みを浮かべる。

(あざとい! これは黒だ。確定だ!)

 こういう腹黒そうな所が好みだと言う女性は必ず一定数はいる……はず。

「それでは、私は唄う花の処理があるので。ありがとうございます! あ、あとゼリムにも届けないといけないので」

「ゼリムがついでになってるな」

「なんだかゼリムに悪いことをしたかな」

「大丈夫です。ゼリムはいい子なので分かってくれます」

 真面目な顔で頷くカトレア。

「訂正しないんだ」

「まあ、とにかく早く届けてやれ。遅くなると困るだろう」

二人とも苦笑いだ。

しかし、彼らの台詞は最もである。門限があるし、何より遅くなると()()()()()が怖い。

「はい、それでは次の講義で」

 ここでも手を振って別れる。



「今日のゼリムはロイドの所に居るって知ってるから楽だね。工房の隅でコレの処理もさせてもらおう」

 唄う花には睡眠効果がある。それについてちょっと実験したいことがあり探していたのだ。

 まさかさりげない世間話をユーとヴィーが覚えていてくれたとは思わなかった。なんていい先輩に恵まれたのだろう。

 カトレアが感動している内に工房に着いた。

 一応、形だけのノックをして中に入る。

「失礼しまーす。差し入れですよー」

 ゼリムの分とは別に一口サイズに切ったパウンドケーキも用意してある。こちらはいつもカトレアの要望に応えてくれるロイド含めたこの工房の皆への差し入れだ。

「お、カトレア待ってたぞ」

 最初に気づいたのはゼリムだ。

「お待たせー。はい、どうぞ」

 ちゃんと包装はしてあるが、初めてではないので珍しがらない。

 ゼリムはよくここに来てカトレアが試作したお菓子や趣味で作った料理を食べている。包装をしている場面も見ているので今さらである。

「やった! ありがとう」

 育ち盛りの少年は嬉しそうだ。

「どういたしまして。ロイド、ちょっと隅を借りるね」

「うん、いいよ」

 答えながら、手はすでに大きいはずなのに隙間がほとんど無い机に置かれた籠の中のお菓子に伸びている。

「ちゃんと他の皆の分も残しておいてね」

 今はゼリムとロイドしか居ないようだ。相も変わらず散らかっている。

「分かってる。それで、何を持ってきたの?」

「唄う花だよ。さっき貰ったばかりなの」

見た目はカレンデュラに似ている。根の土を落としてきれいに洗い、それぞれ2株ずつ水に浸ける。水耕栽培が可能か試してみたかったのだ。

「唄う花? よく見つけたね」

「うん、引きとか運とかが良いらしいよ」

「それってユーさん?」

 貰ったお菓子を早速頬張りながらゼリムが訊く。

「そうそう。羨ましいよね」

 角ウサギの例もあるし、付き合いが長いヴィーが言っているのだからそうなのだろう。

「パーティーメンバーの人?」

「おう、ユーさんもヴィーさんもすごいんだ!」

 ゼリムがロイドにキラキラと目を輝かせながら二人の事を語っている。

 後だから見えないが聞こえるし、予想はできる。

 残りは根とガクから上の部分を切り取り、茎と葉は使わないので捨てる。

 さすがにこの時点でもう唄は聞こえない。

(どちらも乾燥させて~、花の方は工芸茶に使おう)

 障壁の魔術を応用して空間を作り、中で根と花を乾燥させる。それぞれ乾燥する時間が違うので別々で行う。

 工芸茶は元々姉のネフティリアの呟きから生まれた。

 風に舞って紅茶に落ちた花びらを見たネフティリアが「綺麗だわ。こんなのがあったら素敵ね」と言ったのが始まりだ。

 ならば他にも試してみようと庭や薬草園にある花を集めている途中で、カトレアが工芸茶の存在を思い出し提案をしたら面白そうだと採用された。

 姉妹二人でキャッキャッと楽しんでいたら母シルヴィアがやって来て興味を示し、薬草の花が使えるのなら法術を使い薬効を上げて見た目が素敵な薬草茶にできないかとなった。

 魔術師も法術師も薬草の下処理や製作を行うが、法術師はその過程で薬効を格段に引き上げることができる。

 彼らの作る薬は効果が高く値段も高いのはそのためだ。

 そこからはあれよあれよと言う間に話が協会に持ち込まれ、協会にて実験が繰り返されたらしい。

 カトレアは部外者なのでシルヴィアとネフティリア情報だ。

 完成した工芸茶は今では協会の人気商品になっている。

 ネフティリアとカトレアは発案者、と言うことで特許のようなものをいつの間にかシルヴィアが申請していて、向こう20年は二人に使用料として利益の一部が納められることになっている。カトレアが6歳の時である。母に抜かり無し。

(あ、後でユリアとお菓子を食べるときは工芸茶を出そう)

 まだいくつか残っていたはずだ。

 後方からまだ終わりそうにないゼリムの語りを聞き流しながら、そう決めた。


 

 尚、後日ゼリムは工房での実験の手伝いを、ルールー・ルッカは魔術の練習の付き合いを、ジャンは試作した工芸茶の試飲をしてくれた。配合を間違えたのか、苦すぎて悶絶していた。ちょっと悪いことをしたな、と思ったカトレアだった。






ジャンとユリアは従兄妹どうしです。本編には書いてませんが、どこかで書きたい。

工芸茶、以前友人に淹れてもらったことがあります。そこからの案です。

エマにあげたお茶は普通の薬草茶です。

次話は、また間があきそうです。……善処します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。