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【2】   料理と芸術の共通点

カトレアが八歳くらいの時の話です。大体九話目あたり。


カトレアが料理をやりたい理由、させてもらえない理由。

 「ねえ、お母様。私お料理がしてみたい」


 シゼリウス家の料理長特製ベリータルトを食べながらカトレアが言った。

 甘酸っぱいベリーにサクッとしたタルト生地。お供のお茶はちょっと苦味があって大人の味。

 コーヒーによく似ていて、カトレアは密かにコーヒーもどきと呼んでいる。

(正しい名前は何だっけ? さっきカナが言ってた気がするけど聞いてなかった)

「お料理? カトレア、お料理するの?」

 一緒に席についていたネフティリアが驚いて目を丸くする。

「そうだよ、お姉様。お茶は淹れられるようになったから次は料理を作ってみたいの」

 主に和食を。

 まずは食材があるかどうかを調べなきゃいけない。そのためには堂々と厨房へ出入りできるようにならなくては駄目だ。

 こっそりと誰にもバレないように侵入することは容易いけれど、それじゃあ聞きたいことが聞けない。

 屋敷にはなくて探してほしい食材とか調味料とかあるかもしれない。いや、たぶんあるだろう。

 そんな時に大手を振って頼むにはこっそりとやっていちゃ駄目なのだ。

(全ては私の食の充実のために!)

「何か食べたいものがあるなら作ってもらえばいいよ。それじゃ駄目なの?」

 エヴァートンがお代わりのベリータルトを受け取りながら聞いた。

「駄目なの! 自分で作りたいの。お母様いい?」

 子供たちの話を静かに聞いていたシルヴィアはゆっくりと茶器を戻すと真剣な顔をしてカトレアと目を合わせる。

「駄目よ。危ないわ。料理と言うのは何年も何年も修行をした人だけが作れるものよ。安易な気持ちで素人が手を出したら大変なことになるのよ? だって料理は爆は――――」

「しません」

 遮った。

 シルヴィアが最後まで言い切る前にカナがきっぱりと否定する。

「え? でもカナあの時は本当に爆発したのよ?」

 オロオロと狼狽(うろた)えるシルヴィアにカナは子供に言い聞かせるように、けれどはっきりとした口調で語る。

「えぇ、確かにあの時は爆発しました。それは事実です。料理が爆発するなんて、私初めて見ました。ですが、あの時が()()なのです。本来、料理とは爆発などしないものです。爆発するのは芸術だけです」

「まあ、そうなの!?」

「知らなかったわ!」

「へぇ、芸術って爆発するんだ」

「すごいねっ」

 シルヴィア、ネフティリア、エヴァートン、カトレアの順だ。

 初めて知った、と驚くシルヴィアとネフティリア。エヴァートンは分かっていて()えての反応。カトレアもちゃんと空気を読んだ。

(駄目だ。ツッコみがいない。ボケ殺しになってる。カナの中ではそれが真実なんだよねっ!)

 どうしよう収拾がつかない、と内心焦るカトレア。

 話が違う方向へいってしまう。どうにかして軌道修正しなくては。

 あそこであの反応は間違えたか? でもカトレアは空気が読める人になりたい。


「カナ、どうしましょう! 屋敷にある絵画や調度品も爆破するのかしら!?」

「そんな危険と隣り合わせで生活していたなんて……」

 顔を青くするシルヴィアとネフティリア。

「奥様、ネフティリア様。心配はいりません。芸術が爆発するのは製作過程においてのみです。お屋敷にある物は安全です」

 即答、そして断言。

(言い切った、言い切ったよ。カナ、その根拠はいったい何!?)

「母上、姉上、良かったね」

 それなら安心だね、と笑うエヴァートン。あれは絶対に面白がっている。

 ホッと胸を撫でおろす(シルヴィア)(ネフティリア)を見て頭痛がしてきたカトレア。

 誰かどうにかしてほしい。切実に。

 エヴァートンは悪乗りしているし、いつの間にそんな性格に育ってしまったのか……。しくしく、と流れてもいない涙を拭ってみたり。


「でも、やっぱり料理は危ないからいけないわ」

「えっ?」

(今、このタイミングで話が戻るの?)

 突然の事態に混乱するカトレア。

「あ、危なくないようにやるよ」

 こちとら料理初心者じゃないのだから。しかし、そんなこと誰も知らないわけで。

「カトレア、厨房は危険がいっぱいなのよ? 火で火傷するかもしれないわ。包丁で手を切ってしまうかもしれないわ」

「カトレア様、なにもこれから先ずーっと駄目だと言うのではないのです」

「そうよ。カトレアがもう少し大きくなってからにしましょ?」

 ね? と眉尻を下げて困ったような顔をする。

 カトレアだって母を困らせたくて言っているわけではない。ないのだが。

 安心させるために、料理は初めてじゃないと言っても仕方がないだろう。

 信じてもらえない上に、当然いつの間に? と聞かれて答えられないのは目に見えている。

 だから、ここはカトレアが折れるしかない。しょんぼりだ。

 料理なんて一切駄目、と言われたわけじゃないのだ。

 涙を飲んで頷くしかないのだ。

「はーい。分かったぁー」

 それでもやっぱり納得できず口を尖らせてしまうのは仕方のないことなのだと許してほしい。


しっかり者かと思っていたカナ。似たもの主従。

エヴァの性格がだんだん黒くなる。

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