シーン4:セシルの配置変更 ――引き金に近づく――
戦況は、わずかに偏り始めていた。
左翼が想定よりも早く押し込まれ、右側の支援線に余裕が生じている。
どちらも致命的ではない。
だが、均衡という観点では修正が必要な程度のズレだった。
教官席から、短い指示が飛ぶ。
「セシル。右側の支援に回れ」
それだけだ。
理由の説明も、補足もない。
戦況を見れば、誰が聞いても妥当な指示だった。
セシルは一瞬だけ周囲を見回し、頷く。
特別な役割だとは思わない。
名指しされたことにも、深い意味を感じない。
ただ、空いたから。
ただ、必要だから。
いつも通りの判断だ。
彼は遮蔽物の間を抜け、指定された位置へと移動する。
足取りは軽くも重くもない。
緊張も高揚もない。
訓練で何度もやってきた動き。
指示に従い、持ち場を変えるだけの行為。
その位置は、支援線の要だった。
複数の射線が交差する。
前線を援護しつつ、後方への抜けも抑えられる。
戦術的には合理的で、教科書的な配置。
そして、
実弾が混入した装備ラインが、
その射線の延長上にあった。
だが、それを知る者はいない。
重量は誤差内。
反応値も基準通り。
ログ上は、完全に「安全」な装備だ。
セシルは姿勢を整え、銃を構える。
照準を合わせ、呼吸を落ち着ける。
いつもと同じ。
何も変わらない。
ディアナは、その動きを遠目に見ている。
配置の変化。
射線の集中。
偶然が重なった結果としての一点。
理解はできる。
だが、止める理由がない。
今のセシルは、
選ばれてはいない。
英雄でも、問題児でもない。
注目も、評価も、期待もない。
ただ、
空いた場所に、押し出されただけだ。
戦場は依然として正常に動いている。
指示は正しく、行動は規定通り。
だから誰も、
この瞬間を特別だとは認識しない。
だが、引き金に最も近い位置へ、
確かに一人の生徒が配置された。
それは決断ではなく、
処理の結果だった。




