シーン2:装備最終装着 ――実弾が残ったまま通過する工程――
開始前の準備区画は、静かだった。
騒がしさはない。混乱もない。
あるのは、慣れ切った手順だけだ。
生徒たちは各自の区画に分かれ、装備を身につけていく。
防護服の固定、魔導銃の接続、制御リングの起動確認。
すべてが事前に何度も繰り返された工程で、誰の動きにも迷いはない。
教官は通路を歩きながら、目視で確認する。
留め具が外れていないか。
配線が露出していないか。
魔導銃の起動ランプが正常色か。
細部を見るが、深くは踏み込まない。
ログ確認は行われる。
だが、全量ではない。
抜粋された項目だけが、端末に短く表示される。
出力値――基準内。
反応速度――誤差内。
重量――規格内。
そこで終わる。
実弾は、そこにある。
だが、数値を超えない。
重くもなく、反応も過剰ではない。
異物として検出されるほどの違いを持たないまま、
規格の中に収まっている。
教官の指は端末を滑らせ、次の生徒へと移る。
誰かが立ち止まることはない。
質問も出ない。
「問題ありませんね」
それは確認ではなく、合図に近い。
この工程を終えるための言葉だ。
生徒たちは装備を整え終え、列に戻っていく。
誰も、自分の装備を疑わない。
疑う理由が与えられていないからだ。
ディアナは、静かに装備を装着している。
彼女の装備は、必要以上に鈍い。
反応は抑えられ、出力は沈められている。
だが、彼女は知っている。
自分の装備が安全だからといって、
隣の装備が同じとは限らない。
それでも、何も言わない。
言えることが、ない。
ここでは、
危険は排除されていない。
だが同時に、
排除する理由も、存在しない。
工程は、完了する。
誰の手にも引っかからないまま、
大会は、静かに次の段階へ進む。
実弾は、
装備の中に残ったまま。




