シーン2:魔力と装備の相性(理論講義)
装備庫の一角に設けられた講義スペースで、生徒たちは簡易椅子に腰を下ろした。背後には、先ほど見たばかりの魔導銃と防護装備が、無言の教材として並んでいる。
教官は投影板を起動し、簡素な図を表示した。
「魔力の基本は三要素です」
淡々とした口調で、指示棒が図をなぞる。
「第一に、量。
どれだけの魔力を持っているか。
第二に、質。
魔力の性質、波形、反応傾向。
第三に、制御。
どれだけ正確に扱えるか」
生徒たちは真面目に頷く。この内容は基礎中の基礎だ。初等課程で既に叩き込まれている。
「装備の役割は、このうち二つです」
教官は続ける。
「量を均一化する。
制御の揺れを補正する。
想定外の出力を削ぎ、使用者を平均値に寄せる」
投影板の図が変わり、尖った波形が滑らかな曲線に変換される。視覚的にも分かりやすい。
「これにより、安全性が確保されます。個人差は問題になりません」
安全。
再び、その言葉が当然のように置かれる。
ディアナは腕を組み、静かに聞いていた。
説明自体に誤りはない。論理は通っている。だが、どこかが意図的に軽く扱われている。
教官は、補足のように言った。
「なお、魔力の『質』については――測定が難しい。現行の装備では正確な数値化ができません」
言葉はさらっと流された。重要ではない、という扱いだ。
「そのため、装備が参照するのは量と制御のみです。質の差異は、基本的に問題にならないとされています」
投影板が消える。講義は終わりだという空気が流れる。
だが、ディアナの中では、今の一言がはっきりと残っていた。
質は測れない。
だから見ない。
見ないから、考慮しない。
装備は量と制御しか見ていない。
つまり――
「平均」に寄せるという設計思想は、魔力の質が似通っていることを前提にしている。
ディアナは理解する。
これは欠陥だ。偶然でも未熟さでもない。構造的な盲点だ。
安全とは、測れるものだけで構成される。
測れないものは、存在しないことにされる。
教官の言葉が終わったあとも、ディアナは動かなかった。
静かな表情のまま、確信だけが積み上がっていく。
――この学園の装備は、
――想定外を、想定していない。




