第三章 「装備と魔法」 シーン1:装備庫(安全という言葉)
学園地下の魔導装備庫は、朝の空気を持たなかった。
天井の高い通路に白色灯が等間隔で並び、影はすべて計算された位置に落ちている。金属と魔力触媒の匂いが混じり、軍需倉庫に近い無機質さが、ここが「教育施設」であることを忘れさせた。
棚には魔導銃が規格ごとに整列し、銃身の刻印が同じ角度で光を返している。防護服はサイズ別に封緘され、魔力制御リングは出力帯域ごとに色分けされていた。乱れはない。誤差もない。安全という言葉が、形を持って並んでいる。
教官は淡々と説明を続けた。
「出力は制限されています。上限を超えれば自動停止がかかる。致死性はゼロです。これは訓練用であり、事故は起こりません」
声に抑揚はなく、読み上げるようだった。生徒たちは頷き、誰も異を唱えない。安全は前提であり、疑う対象ではない。
ディアナは、棚の列を静かに見渡した。
どの装備も、同じ思想で作られている。
魔力を測り、均し、枠に押し込む。突出を削り、ばらつきを抑え、使用者を「想定範囲」に留める道具だ。
――縛るための道具。
そう理解した瞬間、もう一つの前提が浮かび上がる。
縛れること。
縛られること。
装備が想定しているのは、平均的な魔力量、平均的な制御、平均的な揺れだ。規格は人を守るためにあるが、その人は最初から「普通」であると決められている。
ディアナの視線が、魔力制御リングの表示灯に止まる。安定を示す緑が、均一に並んでいる。
(これは、普通の人間用だ)
内心の声は、冷静だった。失望も、驚きもない。ただ事実を確認しただけだ。
安全という言葉は、万能ではない。
それは条件付きの約束に過ぎない。
装備庫の静けさの中で、ディアナは理解していた。
ここに並ぶ安全は、自分のためのものではない、ということを。




