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シーン8:章末(ディアナの自己確認)
演習区画を離れ、
夕方に近づいた学園の回廊を、
ディアナは一人で歩いていた。
勝敗の余韻は、
もう背後にある。
胸の内に、
高揚はない。
達成感もない。
あるのは、
静かな確認だけだ。
(無双をやめた結果、私は生き延びた)
少なくとも、
今日の時点では。
だが、
周囲を見渡せば分かる。
学園は、
いつも通りに回っている。
生徒たちは笑い、
次の授業の話をし、
明日の予定を語っている。
誰も、
世界が少しズレたことなど、
気づいていない。
(世界は、何も変わっていない)
自分が勝たなくても、
授業は進む。
自分が目立たなくても、
物語は進行する。
理解は、
冷たく、だが明確だった。
(私が消えても、物語は進む)
ならば、
取るべき行動は一つしかない。
(消え続ける)
存在を薄める。
判断を委ねる。
介入しない。
勝たない。
正しくならない。
目立たない。
今日の敗北は、
許容された。
不調という評価は、
安全圏だった。
そして、
無双をやめるという選択は、
確かに有効だった。
ディアナは、
足を止め、
一度だけ空を見上げる。
夕焼けに染まる空は、
驚くほど平穏だ。
――勝たないことが、
生存に直結する。
その事実が、
初めて現実として、
彼女の中に定着した。
第二章は、
その静かな確信をもって、
幕を下ろす。




