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Enisi  作者: 中田 敦
エニシ教編
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95/208

95.隠蔽作業(二)

      隠蔽作業(二)


 「今、ジェームズがリーダーになって、『赤えにし』を全て回収している。

 これは、この世にあってはいけない物だからな。ただ、問題が二つ残っている。」

 「問題ですか?」

 「ああ、どちらも我々の力では、解明できそうにない問題なんだ。

 平本とナナは、まだジョーイの中にいるかな?」

 (平本、ナナ、いる?)

 (はい、いますよ。トムが、今、考えている問題も把握しています。

 音声にいちいち直して貰うのは面倒ですから、ジョーイを通じて、トムとアイザックにも私の言葉が伝わるようにしましょう。)

 「トム、まだ二人はいました。今から、トム達にも頭の中で会話が、行える様にするそうです。」

 (トム、貴方が心配している事の一つ目は、この大量の『赤えにし』がどこから来たのか、と言う事ですね。)

 (これは凄いな。こうやって頭の中に直接話しかけられるんだ。

 うん、先ずは『赤えにし』の出所が、問題なんだよ。何か解るかい?)

 (はい。今回、出てきた『赤えにし』は、二千年以上前に製造された物だという事が判りました。)

 (紀元前の代物か…。『えにし』はそんなに昔から造られていたんだ。)

 (私も驚きました。

 しかし、純粋にこの宇宙の力ではなく、生き物の「憎悪」などのマイナスの情念だけを集める『赤えにし』を、どこの誰が作り、何に使おうとしていたのかは、まだ、謎のままです。)

 (そうか。そこまでは判らないのか。)

 (そして、トムが心配している二つ目の問題は、『赤エニシ』が、ここにある物だけなのか、あるいは、他にもあるのか?と言う問題ですね。)

 (ああ、その通りだ。)

 (簡潔にお答えすると、他にも存在しています。)

 (何だって?一体どこに?)

 (申し訳ありません。私も痕跡を確認できただけで、現在どこにあるのか、判明していません。)

 (そうか、それでは、今回の問題は始まったばかりで、終わりじゃないって事だね。)

 (その通りです。二年後にはブライトン商会が『えにし』の生産を全世界で開始する計画ですね。その際に生まれてくる不良品『赤えにし』が、悪人の手に渡れば、問題は更に悪化します。)

 (では、我々が『えにし』を生産してはいけないと…)

 (そうでは、ありません。逆に全世界に『えにし』を行き渡らせて下さい。『えにし』の数が増えれば、そこから、『赤えにし』の存在位置が見つけやすくなります。

 ただ、品質管理を万全にして、間違っても新しい『赤えにし』が流動する事は阻止して下さい。お願いします。)

 (うん。分かったよ。徹底しよう。せっかくこの世から不毛な戦争を根絶できるチャンスだからね。

 ところで、ナナさんと平本さんにお願いしたい事があるんだ。

 今、この領地にいる人間で、『赤えにし』の力と使い方を知っている者から、その記憶を奪う事は可能だろうか?)

 (平本さんの了承と協力があれば可能です。)

 (おい、おい。また、俺に人の記憶を操作しろと?)

 (平本さんがやってくれなければ、『赤エニシ』を悪用できる事が、世界に知られかねません。戦争に飢えた人間は必ず飛びついてきますよ。)

 (それは…まずいよな。仕方ない、やりますよ。でも、あんまり頻繁にこんな事を俺にやらせないでおくれ。)

 (よかった。では、ブライトン商会内では、今回の事は極秘事項として外部には一切漏らさせません。後は、領主や教祖を始めとして、製造に関わり、その力を知っている人間の記憶を消してやって下さい。それと、傭兵達からも。)

 (ナナ、行けそう?)

 (いま、該当する人間を全員洗い出しました。いつでも取り掛かれます。)

 (それでは、さっさとやりますか。ナナ、頼む。)

 (了解しました。)


 「よう。アイザック、ジョーイ。大活躍だったそうじゃないか!」

 「トーマス、ジャン、フレディ。みんな揃って何してるの?」

 「ご挨拶だな。お前が、緊急招集をかけたから、皆、駆け付けたんじゃないか。」

 「いや、俺は、四人のうち、誰か一人で良いからって…。」

 「で、四人全員にトムから、早い者勝ちだって、連絡が入って、駆け付けたんだ。」

 「俺なんて、ウィーンから飛んで来たんだぜ。」

 と、フレディ。

 「アイザックは、ベルリンからだっけ。近くていいよな。」

 「トーマスとジャンは、パリとアムステルダムだっけ。」

 「やあ、やっとみんな揃ったね。」

 「あ、トム。ご苦労様です。」

 「早速で悪いんだけど、三人に仕事をお願いしたいんだ。この砦の中に、領主の屋敷と教会があるんだが、その中に、エニシ鋼製の鎧で捕えてある傭兵と、エニシ教の僧侶がいる。そいつらを、屋敷の地下にある牢屋に放り込んで欲しいんだ。」

 「なんだ、それだけですか?」

 「うん、面倒だけどお願いするよ。あ、牢の中に、この屋敷で雇われていた侍女や、調理人が入れられているかも知れないけど、彼らは、手荒にしないでね。」

 「分かりました。トム。」

 三人は、素早く屋敷と教会に向かって行った。

 「トム、いくら何でも、全員は多すぎませんか?」

 「いや、ちょっと少ないかな、って心配なんだけれど…」

 「だって、屋敷の中には、ジェームズ達もいるんだし…。」

 「明日の朝には、全員が必要なんだよ。」

 「明日ですか?」

 「今夜、五人揃ったら打ち合わせだ。」


 (トム、記憶の書き換えが終わったよ。もう、誰も『赤えにし』の事も、それで造られた武具の事も覚えていないよ。)

 平本が律義にトムに報告を上げてきた。

 (ああ、助かりました。有難うございます。)

 (では、私たちはもう帰りますね。)

 (さようなら、また機会があればいつの日にか。)

 「ああ、平本とナナか。グレイ達の話を疑っていた訳じゃないけど、改めて、直接話を出来ると、何か感動するなぁ。」

トムは、一人で感動に震えている。


 「トム、屋敷と教会は片付きました。」

 感動に震えているトムを、何か変な生物を見るように、遠慮がちにトーマスが報告した。

 「ああ、早かったね。ありがとう。今夜、領主の館の食堂をお借りして明日の打ち合わせをしたいから、夜七時に集まってくれないか?」

 「分かりました。トム。」

 敬礼こそしないが、五人全員が、水夫の頃の習慣で、起立して返事を返していた。

 砦の外壁を夕日が優しく照らし始めている。


 「やあ、今日は、みんな大変だったね。皆さんのお陰で、どうにか、明日、プロイセン軍の方たちをお迎えする準備も整いました。この場は、ゆっくりと寛いで食事をして下さい。

 で、明日、プロイセン軍の方達に、報告する筋書きですが…、あ、どうぞ食べながら聞いてて。」

 トムは、ここへ来ているブライトン商会の全員に話を始めた。

 「一つ目は、ジョーイ君とジェームズさんの一行が、この地に耕運機のセールスに来たところに、領地の住民から助けを求めらた。

 この地の領主をされているホフマン伯爵が、エニシ教を語る詐欺師に騙されて、アヘンを飲まされ、言いなりにされていると。

 その教祖を語る悪人は、この砦内で、エニシ鋼製の武具を造らせ、各地から集められた傭兵を使って反乱を企てているとの話も聞かされた。

 二つ目に、ジョーイ君は、直ちにベルリンへ知らせを走らせたが、屋敷の中の人たちのアヘン中毒の進み方の速さに、目をつぶることは出来ず、仲間四人と共に、屋敷に踏み込み、伯爵と、その他の屋敷の使用人の救出に動いた。

 その方法は、エニシ鋼の防具を身に付けた傭兵達を順番に誘い出し、数名ずつ怒らせては、防具の力を利用して、捕えて行った。

 三つ目に、遅れて駆け付けた医療チームと共に、屋敷の使用人達を救い出し、傭兵を全て捕えた。

 更に、教会に踏み込んだ五人は、教祖とその弟子を名乗る二人を捕え、同様に地下の牢に閉じ込めた。

 だが、不幸なことにホフマン伯爵夫人は、病とアヘンの中毒により、既にお亡くなりになっており、側に居られたホフマン伯爵は、悲しみの余り、正気を失っておられた。

 以上が、今回、プロイセン軍にお話しする内容です。みなさん、上手に口裏を合わせて下さいね。何か質問は?」

 「あのー、五十人以上の傭兵を、五人で全員捕まえたというのは、無理がありませんか?」

 ジョーイが、素朴に質問した。

 「そこは、無理やりにでも押し切ります。ジョーイは、さっき、五人は多すぎる、と言ってなかったかい?

 では、以上で、良いですね。

 さて、これで、この事件の隠蔽作業は完了だ。

 残りの後始末は、全てプロイセン軍に丸投げして、お終いです。」


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