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Enisi  作者: 中田 敦
グレイ小隊編
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グレイとの同調

    グレイとの同調


 仲間と共にボートを上陸地点に着け、グレイ達は、早速テントを張り、宿営の準備を終わらせた。まだ、日は頭の上にあり、森の影が一層暗く見える。

 「おう!みんな集まってくれ。」

 グレイが声を掛けると全員がすぐに、周りに集合した。

 「は、海尉。何でありましょうか?」

 フランク軍曹が、かしこまって答えた。

 「おい、やめてくれ。ここは船の上でも、戦場でもない。普通に話せばいいぞ。」

 「ふう。あー、肩凝った。乗船してからこっち、息が詰まるかと思ったぜ。」

 フランクはそう言うと、近場の石に腰を下ろし、肩を回した。

 他の連中もほっとした顔になり、笑顔を見せて座り込んだ。

 「みんな、聞いてくれ。このままじゃ、先住民に怪我人や、死人が出そうだ。

 聞いてたろ?あの馬鹿大尉の話。」

 「ああ、あんまり馬鹿すぎて笑えもしねえ。」

 「そこでだ。まず、俺が先住民と話してこようと思う。」

 「でも、どこにいるか分かりませんぜ?」

 「なあに、俺たちが上陸したときから、しっかりとあの森の中で監視してるさ。」

 「海尉、お一人では危ない。お供させて下さい。」

 「いや、フランクは、ここでみんなをまとめていてもらう。そうだな、ホーソン、一緒に来てもらえるか?」

 「もちろんです。喜んで。」

 話がまとまると、二人は、艦からは見えない位置に移動して、森の中に入って行った。

 「海尉は、この土地の言葉が話せますか?」

 「いいや。ホーソン、お前は?」

 「どの部族かによりますが、話せるかもしれません。」

 二人は茂みから抜け出し、森の中の小道に出た。


 (平本さん。グレイに話しかけて下さい。)

 唐突に「ナナ」から指示が来た。

 (いいのか?きっと驚くぞ。)

 平本は、少し迷った後、グレイに呼び掛けてみた。

 (こんにちは。ちょっとお邪魔させて頂きます。)


 「ホーソン!止まれ!」

 グレイは、ホーソンの肩を掴んで茂みの中にしゃがませた。

 何だ?今のは?

 グレイはホーソンの耳に顔を近づけて囁いた。

 「お前、何か聞こえなかったか?」

 「いえ、何も」

 (グレイ。お久しぶりです。)

 突然、ナナがグレイに直接話しかけ始めた。

 (ナナ、知り合いだったの?)

 (ある意味で、そうです。でも、ある意味で初対面です。)

 (また、意味不明なことを。)

 (平本さんにとっても同じなのですが…)

 (へ?グレイとは今日が初めてだよ。)


 グレイは思い出していた。あの夜の狂気の出来事を。

 怒りに取り付かれ、自分の視界が急に赤く染まり、周囲の動きが急に遅く見えた。リーシャのおびえた顔、荒れ狂う大男たち。

 結果として、無事ゴロツキ共を全員追い出し、リーシャも無傷で救出できた。おかげで、「クレイジー・グレイ」などと言う異名でしばらく揶揄われたが…。

 (ああ、また、あんたらか。)

 グレイは、思考だけで応答した。

 (はい。また、お節介を焼きに来ました。)

 (ナナ、話が見えない。どうゆう事?)

 (グレイがクレイジー・グレイと呼ばれる原因になってたみたいですよ。四年ほど前に。)

 (まだ、俺はそんなことしてないぞ!)

 (でも、するんでしょうね、いつか。)

 (あん時は、バタバタしてたんであんたらが何者か聞けなかったが、今は時間もある。ちょっと説明してもらえるかな?)

 (もしかして、怒ってますか?)

 (いや、感謝もしてるし、怒るようなこともない。ただ、あんたたちの正体が分からないから不気味なんだよ。

 あんたらは、神か?悪魔か?俺に何を求めている?)

 (ナナ、説明は任せた。)

 (私たちは、神の使いでも悪魔でもありません。そして、ジョン・グレイ、貴方から対価を頂く心算もありません。)

 (で、その正体は?)

 (『えにし』の願いです。)

 (『えにし』って、あの時もそんな事を言ってたな。)

 (そうです。無意味に人間の欲望で、誰かが虐げられることが無いよう『エニシ』は願っています。)

 (って、事は、あんたらは、その『えにし』に付いてる妖精か使い魔になるのか?)

 (いいえ、どちらでもありません。正確な説明をしても良いのですが、一年ほどお時間を頂く事になります。)

 (そんな暇はない。で、今回は何しに現れた。今は、この間みたいに切羽詰まっちゃいないし。

 四年前は、変な力で助かったがな。)

 (今回は、この土地の住民が虐待されないよう、あなた方に力を貸して頂きたくて、お邪魔させて頂いております。

 先ずは、ワイアンドット族の酋長の元にご案内して、通訳をさせて下さい。)

 (おお、そりゃ助かる。お願いするぜ。)


 (また、俺の視界がRPGのゲーム画面に切り変わった。三角マークが、周囲のいたるところに現れた。なんと、グレイ達の回りはすでに包囲されている。道の奥に二重丸が点滅中。これが酋長のいる場所かな?)

 (その通りです。グレイは同調が二度目なのでそんなに驚かれないと思います。マシューの時と同じでお願いします。)


 「グレイ?大丈夫ですかい?」

 頭の中で話している内に、ホーソンの事をすっかり忘れていた。

 「ホーソン。酋長の居場所が分かった。付いて来い。

 ところで、ワイアンドット族は知ってるか?」

 「ワイアンドット族は、でかい部族だそうですが、まだ、イギリス人は、出会ったことが余りないそうです。」

 「今から会うのは、そのワイアンドットの酋長らしい。」

 「へ、どうして判ったんで?」

 「それは秘密だ。」

 平本がグレイとの視界同調に成功した。

 「お?こりゃスゲーな。全く気付かなかったが、もう完全に取り囲まれてるな。」

 グレイが、そう言った所で、周囲の木々の後ろから男たちが次々と姿を現した。

 (ナナ、通訳、よろしく。)

 (普通に話してみて下さい。全部彼らの言葉に変わります。)

 「俺は、イギリス海軍所属グレイ海尉だ。酋長にご挨拶をしたい。誰か案内をしてくれないか。」

 「ホーソン、武器には触れるな。心配しなくても、今、俺たちは無敵だ。」

 グレイが、隣のホーソンに小声で注意したところは英語だった。しかし、それ以外の言葉はどうも現地の住民の言葉だったらしく、周囲からざわめきが漏れた。

 「イギリスからおいでたか。で、酋長に何用で。」

 すこし、年のいった戦士が尋ねてきた。

 「詳しくは酋長殿に直接話したいが、あなた方も、もう知っているように、海岸に大きな船が着いた。あれは軍艦だ。銃を持った兵隊がたくさん乗っている。

 あの船の船長は腹黒く、あなた方の集落を襲って略奪する事を企んでいる。

 私たちは、あなた方を無傷で助けたい。」

 「判った。酋長のところへ案内しよう。」

 「それから、今、海岸に上陸している四人は俺の仲間だ。襲わないでやってくれ。」

 グレイとホーソンはみんなに厳重に囲まれて道の奥へ案内された。やがて、大きなテントとそれを取り囲むように小さなテントが幾つも立てられている広場に到着した。

 案内役の戦士が、大きなテントの入り口をめくりあげ、中に入るように促した。

 グレイとホーソンが中に入ると、今朝、海岸で見かけた酋長が座っていた。その酋長の前には、小さな囲炉裏があり、二人は囲炉裏を間に挟む形で酋長の前に座らさられた。

 「お初にお目にかかる。イギリス海軍海尉グレイと申します。」

 「ワイアンドット族の酋長ヒューロンですじゃ。

 それにしても、いつ、どこで私共の言葉を覚えられた?」

 「『えにし』の力だそうです。私にも良く分かりません。」

 「そうか、『えにし』とな。それはこのようなものかの。」

 そう言うと酋長は懐から黒く長細い石を取り出した。

 「その通りです。」

 では、我々の言い伝えは本当の事じゃったか…。」

 「あなた方も『えにし』を使われるのですか?」

 「いや、ただのお守りじゃ。これまで、何の役にも立たなんだ。」

 「イギリスでは、『えにし』を使ってどんどん便利な道具ができ始めていますよ。だから、イギリスでは、その位の『えにし』でも、とても高く売れる。もっとたくさんあるのですか?」

 「いや、お守りは、これ一つだけじゃよ。古から伝わる秘宝じゃと言うてな。」

 「そうですか。」

 「で、あなた方は『えにし』を探しに来られたのかな?」

 「いいえ。あなた方を守りに来ました。イギリスの軍艦が入り江に泊まっています。

 彼らは、あなた方の集落を襲って略奪し、女子供は、さらって奴隷にするつもりなのです。そして、この土地をイギリス国王の物として支配するつもりです。」

 「恐ろしいことを言われる。しかし、そう簡単に行きますかな。我々の戦士は二百名以上おります。軍艦の兵士はどの程度で?」

 「総勢三十名程度です。」

 「ならば、戦にもなりますまい。」

 「しかし、軍艦には、射程三千ヤードを超す大砲が二十門積まれています。この大砲一つで、あなた方の戦士二十名分以上の戦力になります。

 また、兵士は、それぞれ小銃を与えられています。そのおかげで、彼らは遠く離れた場所から、あなた方の屈強な戦士を打ち倒してしまいます。

 正面から戦いを挑んだら、大変な数の戦士が殺されます。」

 「それで、今朝の男は、偉そうに貢物を差し出せなどと言いよったのか。」

 「あなたは、英語が分かっておられたのですか?」

 「あのぐらいなら、話は理解できる。判らぬふりをしておったがな。」

 「では、明日の朝には、どうされるおつもりでした。」

 「森で待ち伏せて、来た者から倒していく手はずじゃ。」

 「それでは、大砲を撃ち込まれて全滅ですよ。まあ、俺達はそれまでに、森の中を探索して、大砲を打ち込む場所を船に伝える役目をやっているはずだったんですが…。」

 「では、おぬしらがそれをやらねば問題なかろう。」

 「いや、俺達の代わりの兵隊を上陸させて、同じことをやりますね。」

 「では、上陸を阻止しよう。」

 「どうやって?」

 「岸に近づく小舟に弓矢と槍の雨を降らせてやるわい。」

 「そこを大砲が狙い撃ちしてきます。やっぱり全滅です。」

 「ううむ。では、どうしろと?」

 「俺達にまかせてもらえませんか?そうすれば、だれも殺されずに軍艦を追い払えますよ。」

 「『えにし』の使いの言葉、信じてよいものか、ホークよ、どう思う?」

 「は。以前ほかの部族から聞いた話では、大砲の威力はすごいものだそうです。一発で大きな木をなぎ倒したとか。大砲が舟の上に有っては背後から襲う訳にも行きません。

 グレイ殿の話を詳しく聞いた方が良いかと。」

 「ホーク、有難う。」

 グレイが、笑顔で礼を言う。

 その後、酋長と今後の動き方について打ち合わせをして、グレイ達は一旦、野営地に戻って行った。

 「いやー、グレイ海尉は、やっぱりすごいぜ。」

 興奮気味のホーソンが、野営地に着くや、否や早口で先程までの出来事を話し始めた。

 「先住民の言葉をあんなに流暢に話せる奴なんてめったにいないぞ。

 「海尉、一体どこであんな知識を覚えられたんで?」

 「それは、今は秘密だ。」

 秋も終わりに近いこの時期、日が落ちるのも早く、寒さが足元から登ってくるようだった。

 グレイは、焚火の前に置かれた、丁度良い高さの石に腰を下ろし、同じように焚火を囲んでいる五人を見回した。

 「まずは、上官殿に報告に戻らないとな。フランク同行してくれ。」

 「いいぜ。」

 グレイは、フランクと共にボートに乗り、艦へ戻って行った。

 

 「大尉殿。ご命令に従い前哨基地の設置を完了しました。」

 「うむ。ご苦労。早速だが、次の任務だ。今夜のうちに森の中を探索し、原住民の集落の位置と大きさ、大体の人数を調べてきてほしい。」

 「承知しました。明朝、早くにご報告に伺えると思います。」

 「よし、頼んだぞ。では、行け!」

 「イエッサー!」

 

 焚火の前に戻ったグレイは、笑顔で命じた。

 「全員、ワイアンドット族の集落へ移動するぞ。暖かな食事と柔らかい寝床が待っている。この場所は、明かりを残して置け。」

 小隊のメンバー全員で必要な荷物をまとめるとすぐに出発した。

 フランクが、松明を持って先頭に立ち最後尾はグレイが務めた。

 (『えにし』のだんな。まだいるよな?)

 グレイが頭の中で問いかけた。

 (ああ、いるよ。)

 (あんた達の力で、戦艦の中の様子を調べることはできるかい?)

 (はい、おやすい御用です。)

 (先程まで、艦長と海兵隊の幹部が会議を行っており、明朝、グレイ海尉の報告を受け次第、マッキントッシュ中尉の部隊を全員上陸させ、先住民の居留地を襲撃する計画となっています。

 艦の方は右舷の大砲十門で、いつでも砲撃ができるようにしています。)

 (オコナー大尉の部隊はどうなる?)

 (中尉の報告次第で上陸をするか改めて考えるとの事で、艦内で待機するそうです。)

 (まあ、妥当な判断だな。有難う。また、あいつらに変わった動きが有ったら教えてほしい。)

 (はい。)


 前方にワイアンドット族の集落が見えてきた。うまそうな料理の匂いが漂ってきている。

 グレイ達を歓迎するために、テント前には火が焚かれ、席が用意されていた。グレイは、酋長の前に仲間達を連れて行き全員を紹介した。

 それが終わると、その場にいた全員に酒と料理がふるまわれ、ちょっとした宴会が始まった。

 グレイは、酋長とホークの側に座り、軍艦の動きを伝え、今後の作戦を打ち合わせた。

 大まかな作戦が決まったところで、ホークは部下の戦士たちを連れて、準備のために集落を離れた。

 フランク達は、言葉もほとんど通じないというのに、先住民の子供たちに懐かれて楽し気に過ごしていたが、小さな子供達が、うたた寝を始めるとグレイの側に戻ってきた。

 「そろそろ休ませてもらおうか。明日の朝は、早くから動くぞ。」

 グレイ小隊の為に用意してもらったテントに、各自が潜り込んだ。



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