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Enisi  作者: 中田 敦
プロイセン国近衛騎士団 二人の少尉編
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62/208

62.フランス軍の侵攻 後編

    フランス軍の侵攻 後編


 フランスの軍勢は昼前には、峠を昇り終えた。

 平野部に出ると兵士たちは、鶴翼の陣形を取り進軍を続けた。

 「フム。一兵の姿も見えぬか。皆、恐れをなして逃げ帰ったか。」

 アントワーヌ将軍は、鶴翼の陣形の最奥部で馬上から平原を見渡し、鼻で笑った。

 「どうせ、敵軍は斥候からの報告で、到底敵わぬと考えたのでしょう。

 このまま行けば、プラハまで何の抵抗も受けずに進めようかと存じます。」

 「しかし、油断はするなよ。兵士たちの士気を高めておくように。」

 「はっ。将軍閣下。仰せのままに。」

 側に控えたラヴニュ大佐が、仰々しく答えた時だった。

 「前方、左右の丘の上にプロイセンとオーストリアの旗が上りました。」

 「ふん、小癪な。挟み撃ちか。歩兵部隊は砲兵隊を援護しつつ、大砲の射程まで前進せよ。

 軽騎兵は、周囲の伏兵を探索し、見つけ次第報告!」

 アントワーヌ将軍が、指示を飛ばす。

 斥候の軽騎兵が本陣に騎馬を飛ばして来た。

 「敵軍が丘の中腹に姿を現しました。その数およそ千人ずつ。密集陣形です。

 左右の丘は同程度の兵数と思われます。

 砲兵部隊の姿は確認できません。

 丘の周囲に伏せられている兵は確認できません。」

 「密集陣形とは、戦の初歩も知らぬのか。砲撃の格好の的だな。」

 アントワーヌ将軍は、嘲るように言い捨てた。

 望遠鏡で敵軍の用数を窺っていたラヴニュ大佐が、報告をしてきた。

 「今、両方の丘から白旗を持った軽騎兵がこちらに向かって来ました。」

 「ほう。素直なものだ。早速、降伏の使者か。」

 声が届く位置まで進み出てきた軽騎兵が向上を述べ始めた。

 「あなた方は、フランス軍の方々とお見受けする。

 何故、何の申告も無く我が国の国境を侵されたのか?」

 「わが軍は、プロイセン軍がオーストリアに侵攻したとの報を受け、急ぎオーストリアの加勢に参ったのだ。」

 「我が国は、プロイセンに侵攻など、受けてはおりません。

 昨日は、両国の軍事協定締結の為、フリードリヒ王陛下は、皇帝陛下のお招きに応じてお越しになられたのだ。

 即刻お国に帰られよ。さも無くば、不法侵入者として、全員を捕縛致しますぞ。」

 「閣下、砲兵隊が射程位置に付きました。砲には新型の榴弾を込めてあります。」

 将軍の背後で、大佐が小声で報告した。

 榴弾、別名、炸裂弾は新たに開発された砲弾で、着弾と同時に無数の破片をまき散らし、着弾地点の周囲十メートルの敵をなぎ倒せる。

 敵が、密集陣形を取っているならば、その効果は絶大なはずだ。

 「そのような戯言を信じる訳は無かろう。

 どうせ、フリードリヒに言わされているだけであろう。

 降伏をせぬならば、全軍を撃ち滅ぼす!」

 アントワーヌ将軍の言葉を聞き届けた軽騎兵は、それぞれの陣へと取って返した。

 将軍は、白旗を持った騎兵が陣に戻った所を見届け命じた。

 「全砲門開け!一斉射撃、撃て!」

 轟音と共に、五十門の大砲が火を噴き、プロイセン、オーストリアの両陣は、白煙に包まれた。

 「歩兵部隊。全軍突撃!」

 突撃ラッパが吹き鳴らされ、フランス軍が殺意の塊となって走り出そうとしたその時。

 バタバタと歩兵は、地面に倒れこみ、うめき声を上げ始めた。そして、周囲を駆け回っていた騎兵も馬ごと地面に倒れ伏してしまった。

 その様子を驚きの表情で見た将軍は、歯ぎしりと共に、側で呻いている歩兵に鞭を振り下ろそうとした。

 その瞬間、身に付けた『えにし』鋼の鎧が固まり、重さを増して将軍は、地面に倒れこんだ。


 大砲の白煙が風によってかき消されると、オーストリアとプロイセンの部隊の先頭に立ち、その様子を眺めていたフリードリヒとフランツは、腹を抱えて笑い転げていた。

 「ヒ、ヒ、く、苦しい。可笑しすぎて腹が痛い。」

 フランス軍の砲撃は、「えにし」鋼製の大楯と、各自が身に付けた簡易鎧により、完璧に防御されていた。

 ただの一人の死傷者も出していない。

 対するフランス軍は、まともに立っていられたのは、直接の殺意とは無縁だった砲兵部隊と後方に控える補給物資を運ばされていた従者だけだった。

 ようやく、笑いの発作から回復したフリードリヒとフランツが命じた。

 「歩兵部隊及び軽騎兵は、一人六個づつ手枷を持ち、敵軍の将兵に付けて来い。

 まだ、身動きができる者も全員だ。

 重騎兵は、『えにし』鋼のハンマーで、フランス軍の大砲を全て粉々に砕け!」

 「総員かかれ!」


 夕刻前には、一万二千人近くが『えにし』鋼製の手枷を付けられ、地面で呻いていた。

 従者の中には、鎧を当てがわれいないにもかかわらず、武器を手に取り、プロイセンの兵に兵士たちに襲い掛かって来た者もいた。

 だが、殺意・害意を持たずに相手を制圧する訓練を受けていたプロイセン兵の敵では無かった。

 「皇帝陛下、国王陛下。敵軍の制圧が完了しました。」

 夕刻にその報告を受け取ったフランツが尋ねた。

 「自力で起き上がって歩けるものはいるか?」

 「はい。四千名程は、自力で歩けます。」

 「では、その者達は、砦の地下牢に入ってもらい、食事と飲み物を上げて下さい。」

 「ああ、それから、フランス軍の所持していた武器は全て没収して、製鋼所に送って下さい。安い原料が手に入ってよかった。」

 フリードリヒが、自軍の歩兵の隊長に命じた。

 「後方の補給物資はしっかりと回収しておいてくれ。

 捕虜たちの食事を我々が面倒を見るには人数が多すぎるからな。」

 「まだ、立ち上がる事もできない兵士は、如何致しましょう?」

 「できるだけ一か所に集めて、見張りを立ててくれ。

 『えにし』鋼の鎧を身に付けている分には夜の冷え込みでも風邪はひかなくて済むだろう。」

 「承知しました。」


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