第28話(5)
春一
〔こちらコミュニティセンター〕
〔朝から遊び疲れたみたいなんで、フルーツジュース飲ませて休ませてます〕
〔そしたら虎哲と合流して〕
〔その後バンビさんとばったり遭遇して、なんと今こんな感じです〕
ー春一が写真を送信しましたー
蛍
〔おお…タイガー&バンビだ…〕
潮
〔ほう イカついなぁ〕
〔タコ殴りにされそう〕
蛍
〔お こちトラ、やるシカねぇってこと?〕
かのあるふぁ
〔ウマいっっ!座布団5枚!!〕
セリー
〔いや…これで5枚はさすガニサメます〕
潮
〔厳しいゾウ…〕
あまねん
〔え、何かの対決始まっちゃった…?〕
春一
〔クマっちゃうなぁ〕
〔というわけでタイガー&バンビの話に戻るけど、この2人初対面のはずなのにさっきから人目も憚らずお互いの筋肉触り合い始めてさ〕
〔で、今俺もついでのように触られてて〕
〔置いて行っちゃおうか悩んでる最中なんだよね〕
蛍
〔なんと クマっちゃいますねそれは〕
潮
〔ちなみにそれ多分、ついでじゃなくてメインですね 残念ながら〕
〔いきなり触るのはヤバいから、多分虎哲さんでワンクッション入れてるっすね〕
春一
〔えぇ…マジか〕
〔もしかして虎哲の筋肉がだしに使われてた?〕
〔初手で触られそうになったら断ってたと思うから、まんまと…ってことか〕
蛍
〔ん?〕
〔そうなると「ばったり遭遇した」もちょっと怪しいか〕
春一
〔あ、ちょっと 急に怖いこと言うのやめてくれる?〕
〔今まで割と色んな経験してきたけど、あそこまで筋肉隆々な殿方にがっつり狙われたことはないなー〕
蛍
〔おお〕
〔じゃぁ、春さんほどの武術の使い手でもバンビさんをいなすのは厳しいものがありますか?〕
春一
〔うーん 未知数すぎて間合いを測るのが難しいかもね〕
〔ちなみに本当に未知数すぎて分からないんだけど、俺はケツを守る側?〕
〔それともこっちが仕掛けない限り何も始まらなくて済むの?〕
〔てか俺は今何を聞いてるの?〕
蛍
〔春さん「俺はケツを守る側?」〕
〔さすがに解釈不一致か…〕
潮
〔普段の春さんなら絶対言わないセリフで草〕
セリー
〔兄さんが本当に困惑してて笑えるんだけど〕
春一
〔いやいや するだろ困惑〕
〔まさに今既に距離詰められてる状態なんだけど、これはどう対処するのが正解なのかな?〕
潮
〔いやぁ バンビのスイッチが入ったらどうなっちゃうのか正直私も分からないんですが〕
〔基本的には春さんの嫌がることはしない……………と思うので、一旦間合い取りながら様子見で良いんじゃないですかね?〕
〔知らんけど〕
蛍
〔間が長いなぁ〕
セリー
〔知らんけどえぐい〕
春一
〔メッセ覗き込まれてて、「潮!余計なこと言わないで頂戴!」とバンビさんお怒りですが〕
〔ここで一番問題なのは、パニーニが美味すぎたってとこなんだよね…〕
あまねん
〔ほんっとに美味しかったですよね~!〕
潮
〔胃袋がっつり掴まれてますやん〕
春一
〔まぁ とにもかくにも、現在こっちはこんな感じなわけですが〕
〔潮ちゃんたちは今どのへん?〕
潮
〔よくぞ聞いてくれました〕
〔我々は今ですね そちらと合流しようと思って移動してたんですが〕
〔数々のサブクエをクリアしたら体力ゲージが赤点滅しだしたんで〕
〔お茶屋さんでほうじ茶飲んで休んでる最中っす〕
春一
〔サ、サブクエ…?〕
潮
〔はい なんとメインストーリーが進むまでクエスト消化してました〕
〔ちなみに各店舗のお願いごとを聞いて回るサブクエクリアの、全報酬がこちらでございます〕
ー潮が写真を送信しましたー
セリー
〔うわ…トーク履歴見てたけど、ホントにクエストやってたんだ…〕
〔てか何か、報酬がっつり貰ってない?〕
潮
〔そうなんですよ…まさかこんなに貰うとは思ってなくてですね…〕
〔クーポン券とかじゃなくて、各所でがっつり報酬貰っちゃって戸惑ってます…〕
〔あ 頼まれてたはなやぎ弁当も報酬で貰っちゃったんで…〕
〔あ それから更に筍弁当も貰っちゃったんで…あの…あとで、渡しますね…〕
セリー
〔めちゃめちゃ申し訳なさそうで草〕
〔あれだね 今度皆で商店街巡りしてお買い物しよっか〕
潮
〔せやね…そうしよう〕
〔そういう感じで今はお茶屋さんにいるんで〕
〔そっち合流しようと思ったら5分後くらいには行けまっす〕
セリー
〔分かった〕
〔何やかんやで17時過ぎ…結構遊んだね〕
〔ドンパチ企画はもう始まってるのかな?〕
おその
〔あ お話中のところすんませーん 皆さんおっすおっす〕
〔楽しんでもらってた大広場とふれあいホールのイベントが撤退終わって〕
〔そそくさと会場の設営の方も終わりましたので〕
〔今からドンパチイベントがはじまりまーす〕
潮
〔おそのお疲れー〕
〔ドンパチキターーーーーーー〕
かのあるふぁ
〔そのおつーーーー!!!!〕
〔メインイベント解放キッターーーーーーーァ!!!!〕
セリー
〔お疲れさまー〕
〔楽しみ〕
おその
〔色々食べてそんなお腹空いてないと思うけど〕
〔一応テイクアウトイベントなんでね 持ち帰って、腹が減ったら食べてもろて〕
〔食べて帰るなら飲食スペースも前年度同様広く解放してたりで、席も場所も多く用意してるんでね〕
潮
〔これは今此処で食べなきゃダメでしょ!!ってやつは食べて帰ろうかな〕
〔てなわけで鶏白湯ラーメン食べて、焼き鳥丼は持ち帰って食べるわ〕
蛍
〔せやねぇ〕
〔ワイはカレーうどん食べて、韓国料理屋さんのビビンバ丼を持ち帰りますわ〕
かのあるふぁ
〔かのあはねー!!かのあはねー!!!〕
〔よもぎ餅たべちゃってお腹いっぱい…〕
潮
〔もしかして:アホ〕
かのあるふぁ
〔何とでも言え!!焼肉丼は絶対食べたいから、持って帰って配信中に食べまっっっす!!〕
〔だから皆がお祭り中に何か食べてる時は、潮の鶏白湯ちょっと貰うことにする!!〕
潮
〔おい 何勝手に決めてやがる〕
〔まぁでも一旦シェアはアリか〕
おその
〔取り皿は今回、企業さんからエコ紙皿を提供してもらってますんで〕
〔注文した時に一緒に言ってもらえたらオッケーっす〕
セリー
〔食べて帰ろうと思ってたから、取り皿めっちゃありがたい〕
〔萌とシェアしながら食べまーす〕
おその
〔ぜひぜひ〕
〔てなわけで私はドンパチ中、じいちゃんと入れ替わりで店入ってますんで 最後に楽しんで来てもろて〕
蛍
〔おお 長い時間お疲れさまだよホントに〕
おその
〔さっき自分の部屋行って横になってたわ マジで再々様子見に行かなきゃ〕
潮
〔そんな縁起でもない〕
おその
〔あ そういえば 白玉餡子のミニ鯛焼きを潮たちに渡してくれって言われてたんだった〕
〔ドンパチの後、駐車場行く前にちらっと寄ってくれー〕
〔色々各店舗でクエストクリアしてくれてありがとねー〕
潮
〔おう こちらこそなんやで〕
〔ミニ鯛焼き了解 ありがとう〕
おその
〔春さんたちにも三鼓家用に手土産用意してますんで〕
〔軽く寄ってもらえたらっす〕
春一
〔え うちの分まで?ありがとね〕
おその
〔いえいえ こちらこそいつもご贔屓にしてもろて)
〔ほな、春祭り最後まで楽しんでくださいなー〕
潮
〔ありがとね おそのも無理せず〕
〔んじゃこちらも、お茶飲み終わったら向かいます〕
セリー
〔はーい〕
〔じゃぁ私たちもドンパチ会場移動しようかな〕
春一
〔じゃ、ノリノリなバンビさんとうきうきの虎哲引き連れて行くわ〕
〔待ってまーす〕
蛍
〔おともが逞しすぎる件について〕
〔了解です、またあとで〕
かのあるふぁ
〔わーい!バンビさんと会えるのワクワク!!〕
〔まったあっとでーー!!!〕
「ちょっとアンタ!!何してくれてんのよーーぅ!」
ーーー春祭り最後の盛り上がりを見せる、ドンパチ会場にて。
イカつい威嚇声が響き渡り、辺りは一時騒然となった。
一触即発の雰囲気に、何事かと距離を取る祭り客たち。
人混みに円が描かれていき、皆の視線の中心にバンビが仁王立ちで現れる。
「道はね、あんた達のゴミ箱じゃないのよ!!商店街の人が丁寧にゴミ箱用意してくれてんだから、きちんとそこに捨てなさい!!」
「うわー…めんどくせー…」
その対面には、少しやんちゃそうな小学生高学年くらいの少年がいた。
面倒なのに絡まれた、と一緒に来ていた友達に目配せした後、バンビに向かって怯まず睨みを利かせて口を開く。
「…俺さっき、花壇にゴミ捨ててる人見ましたけど。他にも自販機の横に置いてどっか行く人とかもいたし。それなのにこんな大勢の人がいる中で、俺だけにでかい声で言うのは不公平じゃないっすか?」
「あのねぇ。他に捨ててる人がいたら、同じように捨てていい理由になるの?他に捨ててる人がいたら、道にゴミを捨てたあんただけに『ゴミをゴミ箱に捨てなさい』って注意するのは不公平って扱いになるのかしら?」
バンビはそう言って、少年によって落とされたゴミの入った袋を拾って掲げてみせた。
少しだけ穴の開いてしまっていた箇所から、飲み残したジュースがぽたぽたと漏れている。
それによって道が汚れていく様子を見つめて尚、少年は面倒臭そうに続けた。
「…てか、ゴミ箱に集まったゴミ捨てる時に落ちてる分も一緒に拾って回ればいいだけっすよね?どうせ最後に誰かが全部掃除するんでしょ?その時一緒にゴミ拾えばいいだけじゃん、そんな手間なことっすか?」
「手間に決まってるでしょ!手間じゃないと思うなら、最初から自分でゴミ箱に捨てなさい!」
「いやいや…。別にほとんどの人はちゃんと捨ててるみたいじゃないすか?それがちょっと、1つ2つゴミ箱に入ってないくらいでそんな、そこまでキレる必要ないでしょ別に」
「1個でも違うところに捨ててあったら、あんたみたいな考え方の奴がどんどん真似して捨てていくのよ。ゴミ箱にゴミ捨てるっていう行動の、ハードルがどんどん下がっていくのよ!伝統ある春祭りには小さい子どもたちもいっぱい来るんだから、それより早く育った人間たちがきちんと背中見せてやらないでどうすんの!!」
後ろにいた萌や綾瀬、織寿を振り返って言ったバンビ。
少年は少し考えた後、バンビからゴミを奪うようにして取ると、不服そうにゴミ箱へと捨てに行った。
そして、勢いよくボンッと音を立てて入れられたゴミ。
「はい。これでいいっすか?」
「お天道さまは見てるわよ。それができたなら、次はゴミを捨てて回ることね」
「は?」
「道のゴミを見つけたら、拾って捨ててきなさいって言ってるのよ。ボクちゃん」
さっさとどこか立ち去ろうとしていたはずの少年だったが、その言葉に立ち止まる。
そこへ、一緒に行動していたのであろうお友達がわらわらと集まって来た。
「ーーあのさ。さっきから偉そうに言ってるっすけど……何でボランティアでもなんでもない俺がそんなことやんなきゃいけないんすかね?ボランティアって言っても、最後に飯もらえたり物もらえたりしてんすよね?じゃぁそれ貰う人がやれば良くないっすか」
「ボランティアの人もね、善意でやってくれてるから。あんた達の捨てたゴミを拾う為に協力してくれてるわけじゃないのよ」
「善意って…笑える。ボランティアなんて、働いてないおばさんとかがやってるっすよね?だったらゴミ捨てくらい働かせてやった方が良くないっすか?」
「プッ、俺の母ちゃんとかな。あいつ父さんの金で飯食わせてもらってるから」
「ウケる。んじゃ今から呼んでよ。どうせ暇だろ?こいつの相手させようぜ」
「俺も呼ぼっと。今日俺が祭りで飯食って帰るからって、絶対家事サボってるわアイツ」
と言って本当にスマホで電話を始めた少年たち。
そして各々、「出たけど、なんか弟の泣き声で何て言ってるか分かんねー」「なんかばーちゃんの病院の迎え行くからとかって電話切られたーウゼー」など言い始める。
「自分一人ででかくなったような面して、良く回る口じゃないの…」
その様子を見ていたバンビが溜息をつくと、一部始終を見ていたらしいジム通いのマッチョたちが集まり始めた。
ドンパチ会場でドンパチが始まりそうな雰囲気に、通りすがる人々やテイクアウトプレートを持った人たちが何だ何だと見物していく。
バンビの周りに集まったマッチョたちの圧に一瞬怯んだ様子の少年たちだったが、持っていたプライドだけでバンビに食ってかかる。
「てかー、海外行ったことあります?こんな厳しくゴミ捨てのこと言ってる奴なんていないっすよ。そもそも祭りなんていっぱい人来るんだから、ゴミが散らかることくらい想定して開催して当然でしょ?」
「はー…さっきから視点がおかしいのよねぇ。海外だったらどうだの、ボランティアにやらせろだの、祭りなんだから散らかって当然だの。
そんなのどうだっていいのよ。アタシは最初から1つのことしか言ってないんだから。ーーー自分のゴミは、自分でゴミ箱に捨てなさいって」
無言で向き合う少年とバンビ。
すると、ドンパチ会場横のステージから元気な声が聞こえてきた。
『さー!!盛り上がって参りました!!ただいま付近の一角では、ドンパチイベントらしい喧嘩が始まっておりますーー!!』
今度は何だと振り返ったお客たちの視線の先には、定食屋の息子 理助の姿。
自身で作曲を手掛けたお祭りらしい楽しげな音楽をBGMに、マイクに向かって声を張り上げる。
『いやーー、列の邪魔にならないとこでやってる辺りが日本らしくて良いっスよねぇ!!
議題は「ゴミはゴミ箱へ!」という感じみたいですけど皆さんどうですかねー?ちなみに俺は、お客さんが食べ終わった後に下げやすいようテーブルの端にキレーーーーイに寄せてくれてんの見たらめっちゃ嬉しくなる派なんで!!
一人一人の配慮って素晴らしい!というわけで運営側としては全面的にマッチョのお兄さんたちに肩入れしたい気分っすね!ゴミ箱にきちんとゴミを入れてくださる皆様ー!!!感謝申し上げまーすーーー!!』
その言葉にぱちぱちぱちとどこからともなく拍手が飛び交い、『ありがとうございます、ありがとうございまーす!』と理助が楽しそうに応えた。
バンビも理助に向かって堂々と拍手を送り、少年に向かって片眉をあげてみせる。
そんな様子を見つめていた芹と春一の傍に、困惑気味の潮たちが合流した。
「遅れましたー。えーと、早速ですがこれは何事?」
「ドンパチ会場でドンパチ始まってるのマ?」
「えーとねぇ…」
春一が説明をしようとしたのと同時に、少年がバンビの後ろから歩いてきた人物を視界に入れて「うわ!」と一際大きな声を上げた。
気が付いた他の少年たちからも「やべ!」「やばすぎ!」と焦った声が漏れ始める。
今度は何だとざわつく観衆。
そんなドンパチの中心に現れたのは、老齢の男性だった。
「おい、逃げようぜ…!」
「は、花房師範だ…!」
「ーーーお前ら、一歩も動くな」
男性から低い声で先手を打たれ、観衆に紛れようとしていた少年たちはぴたりと止まる。
のんびりと事の次第を眺めていた芹が、その様子を見て驚いて言った。
「びっくりした、あの子たち花房道場の門下生だったんだ…。そういえば一週間くらい前に小学生が親に無理やり連れられてまとめて入って来たって、兄さん言ってたっけ」
「そうそう」
「あのー、突然の展開すぎてワケ分かってないんですけど、マジで何事なんすか?」
「ドンパチなうですか?これは」
「えっとね。今虎哲が丼と鉢代わりに買いに行ってくれてるんだけど…待ってたら前歩いてったあの少年たちがゴミを道端に捨てちゃって。それをバンビさんが見つけて咎めてくれてね」
「気付いたら少年たちvsマッチョ軍団の構図になってて、そしたら突然少年たちの師範が現れたって感じ」
「えっと…とりあえず今、起承転結の転まで終わったってコトで合ってる?」
「多分合ってる」
潮たちが唐突な展開に唸る。
そんな中、現れた男性は凄みのある良く通る声をドンパチ会場に響かせた。
「こんな往来でワケの分からねぇ御託並べて道にゴミ捨てて、こんなに人に囲まれて尚でけぇ面して。どこの門下に入ったか理解してないようだ」
「………、」
「うちの門下生である前に、一端の人であれ。おんぶに抱っこしてもらえるのは赤ん坊までだ。二本足で立てるようになったなら、てめぇのケツぐらいてめぇで拭け」
「…おい、言われてるぞかのあ…」
「ちょっと!このシリアスな場面で名前出すのやめてよ!」
聞こえないようにこそこそとやり取りする潮とかのあ。
俯く小学生たちに背を向け、男性はバンビを見つめて続けた。
「このご時世だ…他人の子を叱るってのはどこも慎重にならざるを得ない。それをこの往来でしっかり叱ったあんたには恐れ入った。
叱りがいのある子どもたちが入門してきたと思っていた矢先のコレだ。面目ない。この後こっちで引き取って指導する。此処は俺の顔に免じて、ひとまず此処までとさせちゃぁくれないか」
「ちょっとやだ、顔だけじゃなくて根性までイイオトコ…♡」
「言ってる場合ですかバンビさん…」
マッチョ軍団が冷静に突っ込む。
バンビは一つ咳払いをして、少年たちに向かって言った。
「少年、叱ってくれる人がいる内が花だと思うわよ。海外がどうだ何だと物事を俯瞰して見る力が有るなら、まずは自分のことを俯瞰して見てみなさいな」
「………」
「おい。返事くらいまともにしねぇか」
「…はい」
「不服そうとはいえ、きちんとゴミは捨ててくれたんだもの。本来これ以上言うこともなかったわね…楽しいイベントの最中に茶々いれて悪かったわ!アタシはこれで」
最後に、周囲の人にも「お騒がせしてごめんなさいねー!!」と元気に告げたバンビ。
バンビが春一の方へと下がるのを確認すると、男性も改めて小学生を振り返った。
「いいか。半端な気持ちとはいえ、他でもなく俺の道場に入ったからには…今後知らないところで大勢の兄弟子がお前らのことを見ていて、その話は全て俺まで筒抜けになるってことを忘れるな。電柱にいるカラスや、そのへんで巣張ってる蜘蛛のようにな。往来で下手なことはするもんじゃねぇ」
「……はい…」
「お天道さまも見てるが、兄弟子はもっと見てるぞ」
男性がそう言った瞬間、春一を含めた十人ほどの大人がすっと前に出た。
その内の一人の男性が、持っていた45ℓゴミ袋をゴミ箱の近くに置いて頭を下げる。
ボランティアの商店街スタッフが御礼を言うと、「お手間にならないよう、道端のゴミを集めておきました」と微笑む。
それから、春一以外の全員が再びすっと人混みの中へ消えていく。
「親に無理やり入門させられて不貞腐れてる内はただの人、うちの規範を守れるようになって初めて一門の一員だ。道場の稽古、半端な気持ちで来るんじゃねぇぞ」
ーーーそれから男性は観衆に向かって騒ぎを起こしたことについて深々と頭を下げた後、春一とバンビの方へ視線を向ける。
「さて。あんた、春一と知り合いのようで話が早い。後日改めて詫びにいく。叱る手間をかけさせて悪かった」
「やーーーんいいのよーーーーん!!アタシの方こそ大袈裟にしてごめんなさいね。春一ちゃんとは、知り合いなんてそんな遠い距離ってワケでもないんだけど…♡」
「師範。後で誤解のないよう説明も踏まえて伝達します」
『みなさーーーん!!めっちゃかっこいい三つ巴ドンパチを見終わった後は、ぜひぜひ美味しい丼と鉢を買って、ドンパチイベント最後まで楽しんで帰ってくださいねーーー!!!』
商売根性の座った理助がステージからそう叫ぶと、観衆はがやがやと列に並び直していく。
「おじいちゃんかっこよかったねー!」「お前もゴミちゃんと捨てろよ」「分かってるよ」など声が聞こえる中、お祭り会場は再び賑々しさを取り戻していった。
男性が人混みの中へと消えていくのを見送った後。
潮達は改めて先ほどのドンパチについてを話題にする。
「いやーーーー。メインストーリー、思いも寄らない展開で激アツでしたわ。あれが噂の花房君のおじいさんですか…」
「なんか兄弟子さんとかも一瞬出てきてましたけど…春さん気付いてたんすか?」
「うん。そもそも、新しく入門した小学生たちがゴミ捨てて歩いてるってのは既に伝達されてて…そしたら彼らが目の前でゴミ捨てたから、声掛けようかなーとは思ってたんだけど。まさかバンビさんが啖呵切ってくれるとは思わなくて。俺びっくりしちゃったよ」
「やばい、そういえば春さんも常人じゃないんだった」
「伝達とか、そういうのってメッセで来るんすか?」
「いや?すれ違い様とか、遠目で目が合った時とかかな」
「もう意味が分からないよ…」
「やっぱこの人異次元にいるんだわ…」
そこへ、「おーい」と声が聞こえて、虎哲がやってくる。
芹たちの分を購入して両手に丼と鉢の入った袋を下げた虎哲が、慌てた様子で口を開いた。
「なんか騒ぎあったみたいだけど、大丈夫?巻き込まれてない?」
「いや、当事者だった。でも全然大丈夫」
「と、当事者だったの!?何もなかったなら良かったけど…お、潮ちゃんたち!久しぶりだね!」
「虎哲さんこんにちは。うわ、めっちゃ美味しそう!」
「もしかして今から買いに行く?人多いし俺手伝うよ!メニュー言ってくれたら買ってくる。皆でテーブル座っといて」
「え…いいんすか?すんません、かのあがいるとホント列に並ぶの大変で…。じゃぁ、せめて二手に分かれますか」
「あれ、潮ちゃんってかのあちゃんの保護者だっけ…?」
「もう実質そうですね」
虎哲の善意に甘えて、潮と虎哲で二手に分かれて、皆の欲しいメニューを買ってくることに。
そうして残りの面々で席を確保して座って待っていると、程なくして戻ってきた潮と虎哲。
「おお、早すぎんか」
「いや、商店街のスタッフさんたちが優秀すぎて、列が爆速でハケていくんよね。お客さんたちもそれを邪魔しないようにすっと会計済ませてさっと列から外れてくれるし」
「あれだけどの列も並んでたら、一つ買うのでも10分くらい待ちそうなもんなのにね」
「行き届いてますなぁ」
「テーブルの方も、食べ終わったら空けるようにアナウンスが再々あるし、席空いたら拭いてくれるし」
そんな話をしながら席に着き、早速2人で買ってきた分をテーブルに広げていく。
「じゃーん。とりあえず今食べる分。私とかのあの鶏白湯ラーメン、蛍のカレーうどん、あまねんの五目あんかけ丼ね」
「で、俺の買ってきた方はテイクアウト用だからテイクアウト用はこっち避けとくね。取り皿貰ってきたから、使う人使って!」
「2人ともありがとう」
「うわマジで美味そすぎる」
「ラーメン!!ラーメン!!とりぱいたん!!」
「かのあ。キッズたちよりうるさいのヤバいだろ自重せんか」
「ごめん!!」
大人しく座って待っている綾瀬、織寿、萌の隣で、待ちきれずにうずうずするかのあが叱られる中。
全員に料理が行き渡り、皆で合わせて「いただきます!」と合掌をする。
良い匂いが立ち込めて、にこにこの食事が始まった。
「鶏白湯ラーメンおいしいいいい!!!」
「えー、リピ確定です。ありがとうございました」
「五目あんかけってこんなに美味しかったっけ?めっちゃ好きな味だ~!」
「海鮮丼うま。相変わらずここの魚屋さんの血抜きは完璧で美味しいよ」
「春さんは海鮮丼、バンビのビビンバ丼、芹と萌はジャージャー麺、虎哲さんの焼き鳥丼。あとは綾瀬くんと織寿くんのかつ丼か」
「今回全部美味そうすぎるんやが」
「ジャージャー麺も美味しいよ。ちょっと食べる?」
「あざすあざす」
「かつ丼美味しい!」
「知り合いがかつ丼美味すぎてずっとリピーターしてるって言ってたわ」
「お。さっきマイク握ってた人の定食屋さんだよね?確か」
「今度食べに行こうっと」
「色んな美味しいもんが知れて、ドンパチ最高っすわ」
楽しく食事を進めていると、潮とかのあの間で段々と小競り合いが始まったいつもの様子に、面々は生暖かい目を向ける。
「おいこら、半分こって言ったろ!どんだけ食うのよ!もう一回並んで買ってこんかい」
「えーん!!あんまりお腹空いてないと思ったけど、食べ始めたら美味すぎてお腹空いてきちゃったんだもーーん!!」
「あーあー。ここでもドンパチ始めるのやめてね?ほらかのあ、ワイのカレーうどんも分けてやるから。潮の分まで取ってやるな」
「わーい!いいの?!」
「かのあちゃんほら!アタシのビビンバ丼もちょっと分けてあげるわよん♡」
「えーーーー!!!う、うれぢいいいいーーーーー!!」
「ちょっと、バンビまでかのあを甘やかさないでくんない?図に乗るからマジで」
「いいじゃないの!こんな風に皆がお世話してくれる人柄なんて、早々見ないわよ。人徳よコレは」
「いや違うね。そんないいもんじゃないね。逆に皆、かのあから取られてる私が可哀想だからかのあに恵んでるまであるねコレは。つまり私の人徳でしょコレは」
「まぁちょっとある」
「ちなみにコイツあげすぎたら逆にもういらないとか言い出すからね」
「あの、かのあちゃん、もしかして3歳じゃないよね…?俺の姪っ子みたいだよ何か…」
「虎哲さん!!!正直自分!!否定できないっす!!!」
「そんな堂々と…」
楽しくご飯の時間が進んで行くと同時に、眩しい夕日も着々と山の向こうへ帰っていく。
食べ終わって器の中が空になった頃、商店街の至る所にかけられた提灯が淡く光り始めた。
容器をゴミ箱に捨てに行きながらそれを見上げていると、お祭りのBGMが変化する。
「お、新しいBGMになった!」
「なんだろ、ちょっと切ないような…祭りの後のような…」
「マジで理助さんのBGMいいよなぁ」
「さぁ。この神曲をBGMに、祭りの余韻に浸りながら帰りますか」
「いいね。じゃ、一回おそのの和菓子屋に顔出そう」
「ミニ鯛焼き♪ミニ鯛焼き♪」
「食後のデザート♪デザート♪」
先ほどまで喧嘩していたとは思えない様子で肩を組む、潮とかのあ。
それを見つめながら、面々は今年も盛り上がった春祭りの商店街を穏やかな気持ちで歩いた。
* * * * * epilogue
(おそのおつかれーい。ミニ鯛焼き貰いにきたぞーい)
(おお、来たか。ありがとねー。こっちももう閉店準備してたとこ)
(長時間大変だったね。ほんとにお疲れ様)
(お陰様で大盛況でしたわ。ほい、ミニ鯛焼き。春さんたちも良かったら)
(うちの分までありがとね)
(わーい!!しかもミニ鯛焼きミニミニでかわいいい!!!)
(かわいいっしょ。お子さんも食べやすいってことで有難いことに好評でした)
(待って、白玉だけかと思ったら全種入れてくれてんじゃん)
(せっかくなんでね。食べ比べてもろて)
(サンクスすぎるわ…)
(てか、なんかドンパチイベント中に本当にドンパチあったって聞いたけど見た?)
(あの、見たっていうか…当事者でごめんね)
(当事者ぁ?!春さんが?!怪我とかなかったっすか?)
(いやん、違うのよー!!当事者はア・タ・シ♡楽しいお祭りの最中にも揉め事起こしちゃってごめんなさいねぇー。ポイ捨てしてるガキんちょがいたから、ちょっとお灸を据えようとしたの…)
(お、おお…!そりゃぁガキんちょも怖かっただろうに…!ポイ捨て注意してくれたんすね、ありがとうございます。揉めると厄介なんで商店街スタッフからは注意しづらい案件なんすよね。バンビ姐さんから言ってもらえたなら百人力っす)
(すごかったよ。小学生数人とマッチョ軍団が睨み合ってると思ったら、古武術道場の師範と門弟がすっと10人くらい出てきて、その場を収めて帰ってった)
(いやどういう状況?ちょっとちょっと、何面白そうな現場目撃してんのさー?見たかったわそれーもう漫画じゃんかよー)
(そんでもって此処にそのマッチョ軍団の隊長と、古武術道場の門弟が一人いるのマジで面白いんよな)
(ガチのマジで当事者だったわけね。そんな面白い一幕があったとは…)
(ちなみに結構盛り上がってたよ)
(そりゃそうでしょうに。理助からメッセ着ててさぁ、「ドンパチ会場でドンパチがあった!三つ巴で超カッコよかった!以上!」とか一切何も分からない内容だったから…全容が知れてスッキリした。当事者から聞けるとは思わなかったけど。ありがとう)
(楽しい春祭りの最後を飾る大舞台だったよ)
(やーんもう、ついカッと来ちゃって…せっかく楽しい春祭りなのに、道端にあんなゴミ放置してたら萎えちゃうじゃない?)
(マジでその通りです。やり切ったー!って後にゴミ捨ててあると、開催側も萎えるんすよね。今日の祭り終わりはゴミ一つ落ちてなさそう。感謝っすバンビ姐さん)
(ちょっと騒ぎ起こしちゃって申し訳なかったから、そんな風に言ってもらえたら嬉しいわ。素敵な春祭りに朝から参加させてもらえて幸せだったわ!本当にお疲れ様、おそのちゃん!)
(いやホントに。朝からお疲れ様でした。来年もぜひ!)
(もちろんよ!)
(ミニ鯛焼きありがとねー。おそのも最後まで無理せず、帰りは気を付けて帰ってよー)
(ゆっくりしたら、またはなやぎで待ってるねー!)
(ありがとねー。打ち上げ終わって一寝入りしたらはなやぎ戻りますー)
(はーい!!)
(三鼓家も虎哲さんもバンビさんも、本当にありがとうございました。どうかお気を付けて!)
(朝からめちゃくちゃ楽しいお祭りでした。おそのちゃんも気を付けて帰ってね)
(こちらこそ楽しいお祭りをありがとーう!!またお米持っていくね!)
(ホントにお疲れ様だったわね!ありがとうね~♡)
(こちらこそですー!)
(いやーマジで今年も楽しい春祭りだった)
(来年はどんな感じになるのかな?)
(思い出がまた一つ増えたね~!来年も楽しみ!)
(またみんなで来ようね)
(楽しかったー!)
第二十八話(五) 了




