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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」
38/39

第20話




ー春一が写真を送信しましたー



春一

〔昨日の夜に陣痛が来て、朝方に生まれてきてくれました〕

〔我が家の第3子、媛夏ひめかです〕

〔無事にお産が終わったのでご報告でした! 落ち着いたら見に来てね〕


セリー

〔三鼓家に…天使が降臨しました…〕



ーセリーが写真を送信しましたー



セリー

〔マジでね めちゃくちゃかわいい〕

〔かわいくて泣けてきちゃう〕


春一

〔今回、里帰りでしばらく実家で過ごすことになったんで〕

〔適当に遊びに来てくれたら嬉しいな 詩津も心待ちにしてます〕



〔うおー ついに!ご出産おめでとうございます〕

〔媛夏ちゃんかわええ〕

〔詩津さん、本当にお疲れ様でした 近い内にお祝いお届けに伺います〕


〔ほあー 既に顔面が出来上がりすぎている件について〕

〔美人爆誕!ご出産おめでとうございます!お身体大事にしてくださいっす!〕


おその

〔ご出産おめでとうございまーす!〕

〔え?ちょっと待って生まれたてマ?さすがに美しすぎんか〕

〔やっぱり遺伝的にどう足掻いても美人に生まれてきちゃうんだなー〕


あまねん

〔ご出産おめでとうございます~!かわいい~!〕

〔賑やかになりますね!詩津さんの体調が良いタイミングで、皆でお祝いに伺わせてください!〕


春一

〔みんなありがとう!〕

〔体調だけど、上の子たちの時に比べてすこぶる良いみたい〕

〔新生児期に人に会える気力があることに驚いてるから、育児疲れする前に会いたいそうだよ〕

〔我が家はしばらくのんびり過ごしてるので 皆の予定の空いたタイミングで〕

セリー

〔綾くんと織くんの時、出産後すぐはしばらく詩津さんの笑顔見れなかったもんね〕

〔織くんの時が一番産後の体調が良くなくて、すごく辛そうだったからなぁ〕

〔そう思ったら、今回笑顔が見れて私たちも安心してる〕


おその

〔そうか…同じ身体で起こることなのに、ひとえに出産っていっても色々有るんだなー〕


〔わいのママーンは〕

〔わいの時は出産に丸2日かかって、2人目は出血過多で即入院、3人目は緊急帝王切開、しかも産後の予後が良くなくてしばらく辛さでずっと泣いてたで〕


おその

〔マジか…〕


〔マジで毎回違って毎回命懸けだったって言ってた〕

〔だから詩津さんの体調が良いって聞けて我が事のように嬉しい〕


〔とはいえ全然寝てないだろうし、身体も全快とは言えなくてしんどいだろうし…〕

〔そんな大変な時期にわらわら大人数で会いに行っちゃって、ご迷惑にならないもんですかね?〕


春一

〔詩津が横で「むしろ会いたい…!」って床ドンしてるよ〕


〔床ドン…?〕


春一

〔綾瀬の時は初めての子育てで余裕もなくて、睡眠不足と疲労で…って感じだったけど、3人目ともなるとある程度要領も得てるから全然大丈夫ですよー!と、詩津が横で言ってる〕

〔上の子たちも会いたがってるんで、良かったら気兼ねなくね〕


〔おお ご本人からそう言ってくださってるなら、我々に会いに行かない理由なんてないんですわ〕

〔予定調整して、決まったらまたお知らせしますね〕


春一

〔ありがとう、待ってるよ〕



〔それにしても〕

〔新生児と会えるなんて、芹が産んですぐ萌見せてくれた時以来だわ〕

〔なんか緊張してきた〕


おその

〔こちとら初めての体験なんだよねぇ〕

〔生まれたての人間見れるなんてすごい〕

〔てかさ、生まれたて見せてくれるってすごくない?貴重な体験だよ〕


〔生まれたての人間とかいうワードチョイスやめてね?〕


〔弟たちの生まれたては見たことあるけど、確かに人様の赤ちゃんを生まれてすぐ見せてもらったことはないなぁ〕

〔てか普通そうだよね お母さんの出産立ち会ったけど…思い出しただけで震えるもん〕

〔あの壮絶な出産の後なはずなのにさ いくら3回目だからって、あの壮絶さに回数なんかないよ…すごすぎるよ詩津さん…〕


春一

〔分かる 俺も詩津の強さを心から尊敬してる〕

〔ただ、詩津も横で言ってるけれど〕

〔自分の赤ちゃんに会いたいって、お祝いしたいって会いに来てくれる友人がいるってすごく幸せなことなんです、と〕

〔皆さんが良かったら会いに来てあげてください、だそうだよ〕


おその

〔泣ける〕

〔ありがとうございます、詩津さん〕

〔ひめちゃんたち待っててねー〕


〔すごいなぁ…〕

〔もしかして女神?女神なの?〕



かのあるふぁ

〔WOOOOOOOO!!遅ればせながらぁぁぁ!!ご出産おめでとうございまぁーーーっす!!!!!〕



〔WOOOOO〕

〔こいつの会話の締めくらいに参加してくる率の高さ何なん?〕


かのあるふぁ

〔完徹配信後で10時間寝てやってたZE!逆に眠たいZE!〕

〔お祝いがっつり用意しちゃってるんでぇ!!ありがたく渡しにいっちゃいますよぉ!!FOOOOOOOOO〕


〔マジでどんなノリなんこいつ?〕


春一

〔テンション高いねぇ かのあちゃん、ありがとう〕

〔あ そういえば、旅行の動画もありがとね 母さんと萌の動画編集してくれたやつめっちゃ良かったよ〕

〔あと虎哲のやつもツボすぎて1日1回見ないと気が済まない体になっちゃった〕


〔え…っ?〕

〔春さんは…虎哲さんを1日1回見たい体に…なっちゃった…?〕


〔やめんか貴様〕

〔節操がないですぞ節操が〕


〔こりゃ失敬〕


おその

〔でも分かる〕

〔何か虎哲さんのあの動画、スマホ開いたついでにとりあえず見たくなっちゃうんですよねー〕


あまねん

〔私はね~潮のごはん食べてるとこ毎日リピしてるよ!〕


〔虎哲さんはともかく、私のリピはくだらなさすぎるでしょ もっと有意義なことに時間使ってね?〕

〔あと普通にやめてね?〕


あまねん

〔えー!?〕

〔潮は私たちの旅行写真全部保存してたのに!私が潮のごはん食べてるとこリピしてるのは駄目なの?〕


〔おっふ…〕

〔とんでもないぐう正論パンチきた…〕


おその

〔普通に声出してワロタ〕

〔クリティカルヒットでしょこれ〕


セリー

〔あれ?そういえばこの前、ルームウェア新調してはなやぎに泊まりに行った時…〕

〔写真撮りたいっていうからオッケーしたけど、あの写真ってまだ持ってるの?潮〕

〔あと萌の園行事でちょっとおしゃれしていった時も横でパシャパシャ撮ってなかった?〕


〔オ、オーバーキルだぁ!〕


〔あの 普通にすみませんでした、許してください〕


あまねん

〔あ!そういえば、この前セリーに猫耳帽子プレゼントしてたの見たけど…あれってもちろん、はなやぎの皆にお揃いで買ったんだよね~?〕


〔あれ…?もしかして私今、リスポーンキル(リスキル)されてない?〕



おその

〔那由多コーチが大会の予選でバチボコ勝ち上がってる時に弟子ボロクソにやられてて草〕



春一

〔お、そうそう那由多くん! 我が家でもテレビにキャストして全試合リアタイしてるよ〕

〔普通にグッズ買っちゃった 大会はグッズ持ってテレビの前で応援するんだ〕


かのあるふぁ

〔マ?!那由多めっちゃ喜ぶやつーーー!!伝えとこーー!!〕


〔同じく那由多くん応援したくてグッズ買っちゃった民〕

〔マジでめっちゃすごいですよねぇ 全試合激熱で盛り上がってる〕

〔ゲーム好きだけどゲームの大会見たのは今回が初めてだったから、こんなに面白いんだって感動してる〕


セリー

〔分かる〕

〔横から見てるだけですごい熱量で、兄さんの解説聞きながら私も楽しんで見てるよ〕


おその

〔決勝が楽しみですなー〕


〔ま、かのあと私はもうコーチが絶対勝ちあがるって確信してるんで〕

〔既に会場近くのホテル予約しちゃってまっす〕


かのあるふぁ

〔まっす!!〕


〔おー会場応援いいなぁ〕

〔わい人混みがダメだから お前たちに応援託した〕


かのあるふぁ

〔任せてよ!!我が弟の晴れ姿めっちゃ動画撮っておさめるんじゃーーーー!!!〕

〔目指せチャンピオン!!〕



〔というわけで、予定決まったらまたご連絡しますね〕


春一

〔はーい 心待ちにしてるよ〕

〔気を付けて来てね〕


セリー

〔待ってるよー〕













「こんにちはー」


「いらっしゃい、来てくれてありがとう」


「おじゃましまーす」




ーー芹の実家にて。

緊張した面持ちで訪れた潮たちを、春一たちは笑顔で出迎えた。



「ご出産おめでとうございます」


「おめでとうございます!詩津さんお疲れ様でした」


「ありがとうございます!お陰様で母子ともに元気です!来てくださって本当に嬉しいです…!」


「こちらこそです!」


「お招きありがとうございます~!」



そのまま早速居間へと案内してもらって、そろりとベビーベッドを覗くと。

三鼓家の新しい家族、媛夏ひめかがすやすやと眠っていた。



「ぎょ、ぎょえーー…!!」


「か、かわいい…!」


「これが生命の神秘か…うつくしい…」


「もう少ししたら起きると思うので、良かったら抱っこしてあげてください!」


「ふぁ…こんな天使を…ワイみたいな人間がそんなことしてええんか…?」


「あ、一応。昨日の夜も入ったけど朝もちゃんと風呂入ってきました申告しときますね」


「わいも一応シャワー浴びてから来たわ…でも一回手洗わせてください」


「私も!」


「かのあもー!!」



赤ちゃんを触るから、と洗面所を借りて手を洗い始めた5人。

戻って改めてベビーベッドに集まって、美しい芸術品を愛でるようにして媛夏を眺める。



「おあー…!待って、赤ちゃんってこんなに可愛かったっけ?私の生まれたての時の写真と全然違うんだけど?」


「おい、こちらにあらせられるは三鼓家の赤ちゃん様やぞ」


「そりゃ他の追随を許さないくらい美しかろうて…」


「ねぇ見て…!呼吸してる…!生きてる…!」


「あの、生きてるやめて?」


「だって、お人形さんみたいだよぉ…!ちっちゃい人間が一生懸命生きてるの…!めっちゃかわいぃぃ…!」


「新しい命が生まれてくるって、想像以上にすごいことだよね」


「私たちもその内の一つなんだよ」


「そうなんだよなぁ…」



小さな手のひらがにぎにぎと動き、小さな足が布団の中でもそもそと動く。

薄いカーテン越しに優しく揺らぐ日の光と、彼女を包む白いふわふわの服が、触れてはいけないような神秘さを潮達に感じさせていた。



「命って、眩しいなぁ…」






ーーーそれから、皆で詩津の近くに寄って、持参したお祝いを差し出す。

「改めて、ご出産おめでとうございます!」と頭を下げた5人に、詩津が土下座の勢いで「ありがとうございますー!」と頭を下げ返した。



「来てくださっただけで嬉しいのに…!お返し既にめっちゃ考えてありますから!期待してください!」


「いやもう本当、お祝いしたくてしてるのにお返しとかやっちゃだめじゃないすか?」


「いやいや!私たちの方こそ、お祝いに対して御礼がしたいものじゃありませんか!ていうかさせてください…!」



かわいらしいお祝いの数々を胸いっぱいという様子で眺めた後、開けてもよいか確認を取って、早速一つ一つ丁寧に開け始める。

まずは蛍の出産祝いで、箱の中にはたくさんの服やドレスが入っていた。



「あ、それ私のっすね。私が着てほしいを詰め込んだとびきりカワイイ服を仕立てさせて頂きました…良かったら使ってください!」


「えぇー!か…かわいすぎるーー!いやちょっと待って、このクオリティ仕立てたマ…?!蛍先生デザインのお洋服…神…?!」


「いえいえそんなそんな…大袈裟ですぞ…」


「ほわー…!汚したくないから一点のしみすら作らず家宝にしたいけどせっかく媛夏に作ってくれたんだから絶対着させたいこの葛藤」


「何を仰います、こんなので良かったらいくらでも作らせてくださいよぉ…!あ。あと詩津さんにもこれ、推しカプのイラスト…特別なやつ…送っときますね…へへ…」


「マ!マジですか先生!?ご褒美きちゃー…!」



音が鳴って、詩津のスマホにイラストが届く。

光の速さで壁紙に設定されたイラストを、詩津はしばらくの間眺めていた。


一旦満足いくまで堪能した後、お次は周のプレゼントが開かれる。



「あ、それ私です~!バスローブなんですけど、出産したお友達に聞いたら、新生児期から3歳くらいまで使えるバスローブが一番助かったって言ってたので。良かったら使ってください!」


「う、うわぁー!ありがたーーい!お風呂あがった後順番に身体拭くから…バスローブで包んであげてるの本当効率良いんです。めっちゃ助かります。感謝…!」


「ふふ、喜んで頂けて良かった!あとこっちは詩津さんに…ボディクリームなんですけど、優しい匂いなので良かったら寝る前とかの癒しにどうぞ~」


「えー!?めっちゃ好きな匂いだ…!す、すきぃ…!」



お洒落な容器に入ったボディクリームを少し手に塗り込むと、ふんわり落ち着く香りが辺りを包んだ。

自分から良い匂いがする…!と一頻り感動した後、次に手を取ったのは潮のプレゼント。



「私っすね。私からは絵本をば。電子絵本が増えてるって聞いたんですけど、やっぱりページを捲るっていう動作って良いものだと思ってて。いざ選べるくらい買おうと思うと結構な値段するんで、僭越ながらいくつかプレゼントさせていただきやした」


「う、うれしいーー!こんなにくれるの…?!潮ちゃんチョイスの絵本とかそれだけでもプレミアだよ!擦り切れるまで読み聞かせるね!」


「いつか私にも読み聞かせさせてくださいっす。あと詩津さんにはこれ、野菜スープの詰め合わせっすね。疲れでどんなに気持ちが落ち込んでしまっても、ご飯だけはちゃんと食べてくださいね」


「えっ…ありがとう…!文言イケメンすぎる…!」



栄養たっぷりの野菜スープ各種を、勿体ないから食べずにこのまま大事に保管したい…と胸に抱きしめた詩津。

それらを丁寧にもう一度箱の中へ戻した後、続いて開かれたのはおそののプレゼント。



「私、上がお兄ちゃんでお下がり全部男物だったという苦い思い出があるので……勝手ながら私チョイスのカワイイ服をいくつか選ばせて頂きました」


「えーー!全部カワイイーー!ありがとうございます!ほんとにその通り、今後お兄ちゃんたちの服着させることが絶対多くなってたと思うので、カワイイ服助かります!」


「喜んでもらえて良かった…あと、うちのじいちゃんたちからもご出産祝いということで和菓子を少々。お身体大事に労わられてくださいとのことでした、良かったら是非」


「ふぉわー!葛まんじゅうときなこのわらび餅だ…!産後の身体に優しい気遣い…!」



また御礼も兼ねて和菓子買いに伺いますね、と綺麗な和菓子を眺めて嬉しそうに言った詩津へ、おそのもまた嬉しそうに頷いた。

そして、最後に開かれたのはかのあのどでかいプレゼント。



「そしてぇかのあたちからはぁーーー!!どーーーん!!なんぼあってもええでしょう、おしりふき1年分ーーー!!!」



「わーーーー助かりすぎて後光差すーーー!」


「そしてさらにどーーーーーん!!!雨の日に新生児から3歳まで色んな場面で役に立つカッパ!!」


「おわーーー!これめっちゃ話題のやつ!抱っこ紐にもつけられるし、大きくなっても普通に着させられるやつ!」


「そしてさらにどぉーーーーーーん!!産後ケアスペシャルエディションーーーー!!」


「え、えぇええー?!これ産後ケアのマッサージとか骨盤矯正とかしてくれる、ものすごい高いお店のやつじゃ…?!」


「あもなと那由多とかのあの3人からでーすっ!おめでとうございますーん!」


「すごいー…!本当にありがとう…!お2人にも御礼させてね…!」


「おしりふきが那由多コーチで、カッパがあもなちゃんで、クソ高いエステ券がお前だろかのあ」


「え゛ぇぇぇ!!何で分かったの!!?」



分かりやすいラインナップに言及した潮を驚愕の表情で見つめるかのあに、全員から笑みが溢れる。

終始暖かい空気の中出産祝いを渡し終えると、現れた芹の母 鈴菜が人数分の飲み物を持って現れた。



「皆いらっしゃーい。この前の旅行振りね」


「鈴菜さーん!最高の旅行でした!」


「また行きましょうー!」


「お孫さん増えて賑やかになりますね、おめでとうございます」


「ありがとう!本当にね~もう皆可愛くって困っちゃう。詩津ちゃんに感謝ね」


「わー、アイスコーヒーだ。嬉しい」


「旅行の時にお土産で買ったコーヒーあるでしょ?それを淹れたの」


「えぇ!やった!嗅いだことある匂いだと思った。美味しすぎてもう飲み切っちゃったんですよね…めちゃくちゃ嬉しい」


「私実はね、多めに買ってたの。帰りに持って帰って。あ、詩津ちゃんはこっちよ、ノンカフェインのコーヒーにしたから」


「ええぇ…!お義母さん、お気遣いありがとうございます…!」


「あとこれ、近所のケーキ屋さんのレモンケーキとオレンジピールの入ったチョコレートなんだけどね。美味しいから良かったらコーヒーと一緒に食べて」


「わーい!!ありがとうございますー!!」


「頂きます。ありがとうございます」


「あ、そうだ。これうちのおじいちゃんとお母さんから三鼓家の皆さんへ、あんみつです」


「あ!私からも!これマンゴーゼリーなんですけど…良かったら皆さんで食べてください~!」


「えー!2人とも本当にありがとう。おじいさまとお母さまにも気を遣わせてしまって。有難く頂くわ」



レモンケーキとオレンジピールのチョコレートと一緒に、コーヒーが並べられていく。

それぞれの手元に行き渡った後、ジュースの並べられたお盆が残された。



「あれ…そういえばお父さんと、上のお兄ちゃんたちと、芹と萌はお外ですか?」


「そう。赤ちゃんが寝てる時は起こしちゃだめだからって、自分たちから外に遊びに行ってくれるの。潮ちゃんたちが来るって伝えてあるから、もう少ししたら帰ってくると思うけれど」


「何と良い子たちなのか…」



そんな話をしていると、玄関から物音が響く。

手を洗った後、控え目な足音と共に部屋へ入ってきたのは、綾瀬と織寿だった。

まず潮たちに頭を下げた後、愛しい妹の姿をきょろきょろと探して見渡す。



「ばあちゃん、ママ、ただいまー…ひめちゃん起きた…?」


「おかえり。大丈夫よ」


「おかえり2人とも。丁度良かったよ。皆さん、今から少し授乳してくるので、目が覚めてたら抱っこして頂けませんか?」


「是非!!」



入れ替わりに詩津が媛夏を連れて部屋を出て行き、綾瀬と織寿は2人揃って座ってご挨拶をしてみせた。



「「皆さんこんにちは!今日は来てくれてありがとうございます!」」


「こ、こんにちは…!こちらこそ…!」


「あの、春さんさぁ…ちょっと行き届きすぎじゃぁないですか?」


「こんな顔面良いのにこんな礼儀正しくしたらやばいっすよガチで」


「顔面言うな」


「いや、確かにめっちゃ言わせてるみたいだけどね?潮ちゃんたちが来たら何てお迎えしたらいいのー?って自分から聞いてきたんだよ」


「ほぁー…すごいなぁ」


「綾瀬くん、織寿くん。実は2人にも持ってきたものがあるんだ~」



お利口さんの2人に周が差し出したのは、子供たちに大人気のゲーム『ジョナバルーンショット』の創作お菓子。

可愛らしい袋の中には、キャラクターやロゴを模したアイシングクッキーやドーナツ、ポップチョコやチーズサブレなどが入っていた。

受け取った2人の目がきらきらと輝く。



「わー!ジョナバルのおかしだー!」


「すっごー!」


「ふふ。2人とも前にこのゲームが上手って言ってたでしょ?だから色々調べて、それっぽく作ってみたんだ。お口に合うといいけど」


「あまねお姉ちゃん、ありがとう!」


「いただきまーす!」


「う゛…!か、かわいい…!作って良かった…!」


「いやちょっと待って。公式のお菓子じゃないよね?プロの所業で最早草なんよ」


「ちなみにぃーー…じゃーーーん!!!かのあちゃん何と、今日の為に自分のゲーム機持ってきちゃいましたーーーん!!」


「うおおーー!!」


「前に約束してたもんね!一緒にやろー!」


「やったー!!」


「あ、春一。ジュース一緒に持って行ってあげて」


「はいはい」



お菓子を大事に持ってゲームがあるのであろう隣の部屋に駆けていく3人を、春一が「セッティングするからちょっと待ちなー」と追いかける。


「そういえば、この前那由多くんと一緒に閃光とNIROやったよ」

「なにぃぃぃぃ?!!何で呼んでくれないんですかぁ!!!バチボコにやっちゃいました?!やっちゃいました?!」

「おれもジョナバル一緒に遊んでもらったー!」「ぼくもたのしかったー!」

という声を聞きながら遠ざかっていく様子にほのぼのしていると、今度は芹と萌、そして芹の父が入って来た。



「ようこそー」


「皆さんいらっしゃい」


「みんな、こんにちはー!」


「わー!お邪魔してます~」


「おじゃましてます。おめでとうございます!」



挨拶を交わした後、芹の父はそれぞれに頭を下げ、そうもしない内に「たくさんのお祝いをありがとう。どうぞゆっくりしていってね」と部屋を後にした。

潮たちも同じように頭を下げてその後姿を見送る。



「なんか…春さんって鈴菜さんに似てるなーって思ってたけど、背格好まんまお父さんですね」


「そうなのよ。今ここに帰ってきてるでしょ?だからたまに廊下で見かけた時にどっちか分からなくって思わず笑っちゃう」


「我々も今後ろ姿見てて、あれ…?春さんさっき出て行ったはずよな…あれ…?ってなっちゃいましたもん」


「セリーは背格好が鈴菜さんで、お顔立ちはお父さんにも似てるのかな?どっちにしても美人家系すぎるよ~!」


「どう転んでも美形にしかならないのやばいよな」



そんな話をしていた時、詩津が戻って来た。

抱えている媛夏の目は開いていて、ほけーっと詩津の顔を見上げている。



「授乳したけど寝ませんでしたー!起きてます!」


「ほっほあーーー…!目開いてるぅかっかわ…!かわぃぃ…!」


「もうほんとに何から何まで自分含め弟たちの赤ちゃんの時とも全然違うんだけど?レベチなんだけど?」


「いいんですかこんな天使を抱っこして…!」


「もう一回手洗ってこようかな…!」



洗面所へ行こうとする面々を制して、詩津が座る。

そして、まずは隣にいた潮へ。



「頭の下を手のひら全体で支えて、首に負担がかからないように…」


「わぁ…」


「もう片方の手でおしりから腰にかけて…で、自分の身体に添わせるようにして抱っこします」


「ふわぁ…」


「潮から聞いたことない声が出てるんだが」


「動画撮れ!動画!」



「媛ちゃん…君が望む時に、私たちがいつでも駆けつけるからね…」



小声で囁いた潮の言葉を聞いて、媛夏が綺麗な瞳に一つ瞬きをする。

永遠とも思えるような尊い数秒を過ごした後、続いて蛍へ。



「むぉーー…っかんわぃぃ…!おててちっちゃ…」


「媛が大きくなったら、この漫画の作者さんが抱っこしてくれたんだよーって自慢しなきゃ」


「ほわぁ…君がどれだけ大きくなっても、変わらず誕生日をお祝いさせてねぇ…」



続いておそのへの腕へと移動するその小さな頭を、優しく撫でる蛍。

それから、曇りのない瞳がおそのを見上げた。



「がっ…!?やばい口角天元突破」


「タイミング良い時に和菓子屋さんに伺いますね!おそのさんもいらっしゃる日がいいな」


「仕事の日じゃなくても、連絡くださったらいつでも駆けつけますんで!じいちゃん喜ぶだろうなー…でも無理はなさらず」



続いて、もう待ちきれないと言ったような表情の周へ。



「私…小さい時とても病弱で…心配して来てくれたカナダのおばあちゃんが、何日か泊まって私をずっと抱っこしてくれてたらしいんです。その時の私がとても小さくて、かわいくて、この世の何よりも守らなくてはいけないものだと思ったって言ってて…

今、あぁ、おばあちゃんってこんな気持ちだったんだな~って…思ってます…」


「素敵なおばあさま…周ちゃんの朗らかさがどうやって形作られてきたのか、そのお話だけで伺うことができますね」


「えへへ…詩津さん、こんな貴重な機会をくださって、本当にありがとうございます…!」



涙ぐんだ周に、こちらこそ、と優しく微笑んだ詩津。

ほのぼのとした時間を過ごした後、さてと振り返る面々。



「かのあちゃんはどうしましょう?」


「かのあは…いいんじゃないすか?赤ちゃんが赤ちゃんを抱っこするのはちょっと。危ないでしょ」


「私もそう思うわ。責任取れないもん」


「ひ、ひどい言われよう…!ゲーム部屋覗いてみて、タイミング良かったら抱っこしてもらおうかな」


「あ。でも絶対手離しちゃだめですよ!一緒に支えないとマジ危ないっす!」


「すぐでかい声出そうとするんで口にハンカチ突っ込んでおいた方が良いですよ!代わりにやっときましょうか?」


「あの、さすがにそれは大丈夫。大丈夫です。じゃぁちょっと覗いてきますね!」


「何かあったらやばいから補佐で着いていってくるね」


「頼んだわ、萌は任せて」


「ありがとう」



媛夏を抱えてかのあのところに行った詩津と芹。

それを見送った後、萌が恥ずかしそうに呟いた。



「あのね。萌ね、家族が増えて嬉しい」


「そうだね」


「…あのね。萌のママもとってもかわいけどね。パパも…とってもカッコよかったんだよ」



ーーー消え入りそうな声で言った萌の頭を、潮が優しく撫でる。



「…うん。知ってる」








*   *   *   *   *   epilogue







(びょ!!!びょぇぇぇ…!目開いてるぅぅぅ…!!がわ゛ぃぃ…!)


(偉い。びょ!の後がデカいままだったら馬乗りになって口封じてるところだったよ)


(え゛ぇ…?!ご褒美じゃん)


(は?)


(ひめちゃんおはよー!綾にいちゃんだよ~)


(織にいちゃんだよー!)


(心なしかお兄ちゃんズ見て嬉しそうにしてるようにも見えるのも尊い…!)


(かのあちゃん、良かったら抱っことかどうでしょう…?)


(マジで感謝!ほぁぁぁ…ちょっと待ってセリーどうやって抱っこすんの助けて助けて助けて)


(右手でちゃんと支えて…体に優しく添わせるように、そう)


(おおおお…!あったかい…!これが命の温もり…ちょ、あの…でっかい声出しちゃいけない縛り結構キツいんだけど…?!)


(やーーん、媛ちゃん本当にかわいい…甥っ子も姪っ子もカワイイなんて最高だよ本当に)


(ええぇ!やーん…?!セリーから聞いたことない声出た…!録画頼んどけばよかった…)


(すごい今更だけど、画面越しに応援してる配信者さんが自分の子供抱っこしてるの…めちゃくちゃ不思議な気分…ありがとうかのあちゃん…!)


(こちらこそ抱っこさせてくれてありがとうございます!!ちっちゃい時、あもなと那由多抱っこしたかったけど、2秒しか許されなかったんですよねー。それ以上は注意力散漫すぎて抱っこしてるの忘れちゃって落としてたらしい!)


(落としてたらしい!ってちょっと他人事っぽいのがかのあちゃんらしくて良いなって思うよ俺)


(かのああんた本当…我が友達ながら本当…)


(セリーそんな目で見るのやめてよ!でもほら!今抱っこできてるから!セリーの補助有りだったら何とかのあでも赤ちゃん抱っこできます!)


(偉いねぇ…よしよし…)



(ふぁー。命ってすごいなー…かのあもいつか、自分のお腹で赤ちゃん育てて、こうして抱っこする日が来るのかなー…)


(かのあちゃんの子供だったら、すごく活発でとってもかわいいだろうなぁ)


(でもー!かのあに性格めっちゃ似てたらどうしよう。同族嫌悪発動したらどうしよう!って思うと萎えぽよになっちゃう)


(萎えぽよ…?)



(ーーかのあちゃん、私ね。あんまり家庭環境が良くなくて。自分の子を愛せなかったらどうしようってずっと悩んでたんです)


(…詩津さん…)


(いざ産んでみて、子供たちを育てながら…愛されなかった過去の自分を振り返って、酷く辛くなる日もあって。愛したいのに愛せない瞬間だってどうしてもあって。自分がどうしようもなく母親として不甲斐なく感じる瞬間も山ほどあって)


(……、)


(それでも子供を産むと矢が降って来るみたいに常識を求められて…普通に育ててあげたいのに、普通っていうのを知らずに育ったから全然分からなくて苦しくて。それでも、それでもね。たくさんの人に恵まれて、今こうしてお母さんやってます)


(………)


(私が間違っていることは、春が教えてくれる。私が教わらずに来たことは、お義母さんやお義父さんが教えてくれる。葛藤や不安は芹ちゃんが共感してくれる。不甲斐ない私でも、子供たちは変わらずママ大好きだよって愛してくれる…。救われないってずっと思って生きてきたけど、私が前を向いて手を差し伸べていれば私を大事に思ってくれる誰かが手を引っ張ってくれるんだって、教えてもらったの)


(…何か分かんないけど、涙がぼろぼろ出てくるんだけど…!)


(はいティッシュ)


(ありがと…ってセリーも泣いてるじゃん…!)


(ふふ。だからね、かのあちゃん。素敵な人たちに囲まれたかのあちゃんも、きっと大丈夫…大丈夫ですよ)



(かのあお姉ちゃん、泣かないで。ぼくの大事にしてるニンニンレンジャーの剣あげる)


(おれも、めっちゃかっこいいクロモンの鉛筆あげる!)


(ほら、ひめちゃんも。おねえちゃん泣かないでーって、良い子良い子して)



(む゛ぉぉぉ…!)


(声にならない声絞り出すのやめてね)


(平和な昼下がりだなぁ)


(う゛ぅ…!絶対に絶対に何があっても、君たちのことだけは守り続けるからね゛ぇ…!!大好きだよぉ…!)










第二十話 了






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