表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」
29/39

第17話 (3)





あもーな

〔みんな春祭り楽しんでる??〕


〔こちら休憩中でーす〕

〔てかかのあいつ来るのー? はなやぎの皆さんへのプレゼント用意して待ってるんだけど(`・ω・´)〕



かのあるふぁ

〔もう少ししたら移動するよー!!パン屋さんすぐそこに見えてる!〕


あもーな

〔りょうかいだよー(*'ω'*)ノ〕

〔なゆたも来るんでしょ?イマドコー?〕


那由多

〔今トイレ待ちだから〕

〔もうちょっとしたら行く〕


かのあるふぁ

〔トイレ待ち?あれ、那由多って1人で来てたんじゃなかったっけ!〕


那由多

〔なんか 1人でお祭り楽しんでたら、妊婦さんが休憩所でうずくまってるのが見えてさ〕

〔声掛けて、胎動がすごくてーって言ってたから、とりあえずそばにいて様子伺ってたんだけど〕

〔話してる内に連れのお友達も含めて気が合ったから、そのまま一緒に行動してるんだよね〕

〔で、2人の今トイレ待ち〕


あもーな

〔ぇ??ちょ情報量やばない?_(:3」z)_〕

〔コミュ力どーなってんの??男1人でお友達連れの妊婦さんに声掛けるって〕

〔メンタルっょっょマ?〕


那由多

〔いや…別に急いでるわけでもなかったし〕

〔荷物持たせてくださいーってお願いして、勝手に持ってる〕


あもーな

〔(な、なんてやつだ…( ; ゜д゜)ゴクリ)〕


かのあるふぁ

〔かのあからしたらお祭りに1人で行ってるだけでメンタル激っょなのに、それを遥かに上回ってくる、だと…?!〕


那由多

〔あれ、俺もしかしてやばい…?〕

〔でも困ってる人に声掛けるのなんて、あもななんか普通にもっとやってるだろ〕


あもーな

〔いやホント、実はそうなんだよね。双子だよねやっぱ\( 'ω')/〕

〔実はこの前も、アパートの隣に住んでるおばあちゃんの家のお掃除手伝って、御礼に晩ごはんご馳走になったった(*^-^*)〕

〔肉じゃがうまうまでしたーん〕


かのあるふぁ

〔は?!ちょっと!揃いも揃って何良いことしてんのさ!〕


あもーな

〔高いところの掃除が大変でねぇ…って言ってたから、じゃ私やるよおばあちゃん!つって( 'ω')ノ〕


那由多

〔俺からしたら、ご近所のおばあちゃんと普段からそんな会話するくらいフランクにコンタクト取ってんのがすごいけどな〕


あもーな

〔はー?お友達連れの妊婦さんに声かける方が難易度高いでしょ( ˙-˙ )〕


かのあるふぁ

〔高度なところで言い争いすな!どっちも無理だわ!〕

〔えー…?じゃぁ…かのあも何か……何かする、か……?〕


那由多

〔いや〕

〔かのあは日頃はなやぎの皆さんに支えてもらってるみたいに、誰かに助けてもらって生きる方が性に合ってるよ〕

〔煽ってるわけじゃなくて〕


かのあるふぁ

〔バチバチに煽ってんだろ!!〕

〔やんのか!!〕


あもーな

〔あれー?でもかのあはあれじゃん?〕

〔確か、自分の身体で誰かを助けたりはできないからって、結構いろんなとこに寄付してんじゃなかったっけ?〕


かのあるふぁ

〔は!!言われてみればそうだった!!〕


あもーな

〔だしょー?〕

〔逆にあもなはそれができないから尊敬だゎ(*´ω`*)〕


かのあるふぁ

〔おぉ…!〕

〔ボタンぽちーで労力使ってないからなーって思ってたけど、それはそれでちゃんと助かってる人がいるんだもんね!〕

〔人助けの適材適所、ってコト…?!〕


那由多

〔なにいってんだ〕


あもーな

〔でも実際そうかもだよねー(´-ω-`)〕

〔あもなが10人いたら、手の届く範囲の10人に手を貸してあげられるケド〕

〔10人が助かるのに経済的な支援をしてくださーいって言われたら、できないもん(°▽°)〕

〔万年金欠だしぃ〕


那由多

〔まぁそう言われると…適材適所ね。確かにそうかもな〕

〔人助けってどうしても偽善的にうつるし、自己満足の押し付けだろって言われたらそうかもしれないけど〕

〔どんな形であれ、誰かの為を思うことには絶対何かしらの学びがあるよな〕


かのあるふぁ

〔ふぁー!なんかそれめちゃ分かるかも!!〕


あもーな

〔なんか、やりすぎるのも学びだし、手を貸せないのも学びだし〕

〔手を貸せた時の嬉しさも学びだし、偽善だって言われるのも学びだし(´-`)〕

〔結局 それを踏まえた上でさ、最終的に自分がどうしたいかってコトなんじゃないかなーって最近思ってる_(:3」z)_〕


かのあるふぁ

〔ふぁー〕


あもーな

〔ふぁー\( 'ω')/〕


那由多

〔善意って、全部が全部良い結果にはならないだろうけど〕

〔少なくとも俺は、自分に満足してるよ〕


かのあるふぁ

〔うんうん〕

〔うん…?というか、何でこんな真面目な話になったんだっけ…?〕



那由多

〔とりあえず、2人ともトイレから戻ってきたっぽい〕

〔パン屋に行きたいって言ってたから、今から移動始めるわ〕


あもーな

〔りょーかーい〕

〔あもなもそろそろ休憩終わりだー〕

〔んじゃ お店の前で待ってるねん(*´ω`*)〕


かのあるふぁ

〔ふぁーーーーい!!!うちらももう少ししたら行きまーす!〕


あもーな

〔はいはーい ふたりとも気をつけて来てねーん〕










「いらっしゃいませー!」



ーー元気の良い声が響き渡った、春祭り最中の商店街。


焼きたてパンの良い香りが漂うパン屋の前に立っていたその声の主は、可愛らしいシュシュでまとめた栗色の髪を揺らして、笑顔でお客さんを出迎えていた。


常連客や自身のお友達が「あもなちゃん」「あもなー」と親しげに名前を呼ぶ中で、それぞれに気さくに声を掛けていく。


お祭りの活気でさらに賑わうパン屋の中。

彼女の案で小さいお子様向けにと提供されたフレンチトーストは特に飛ぶように売れており、留まることなく補充が為されていく。


アレルギー対応の米粉パンも同様に売れ行きが良く、SNSでも子育て世代にタグ付けで情報提供が盛んに行われていた。



「SNSで見て来たんですけど…フレンチトーストと米粉パンまだありますか?」


「ありますよー!レジ横の見やすいところに置いてます!」


「良かったー!広場で売ってたおにぎりセット売り切れちゃってて。抱っこしながらでも食べさせられるから本当に助かります」


「よかったです!どうぞどうぞ、中へ!良かったらそこにキッズスペース設けてるので、お会計までの間お子様たち預けて行かれてくださいねー」


「えー!すごい!」



隅に設けられたキッズスペースでは、既に数人の子どもたちがエプロンをつけた女性たちに見守られながら遊んでいる。

新たにやってきたお客もまた同じように子供たちを預けて、しっかり両手の空いた状態でトレイを持ち、ゆっくりとパンを選ぶことができた。


何度も御礼を言われながら、そういったママさんたちを何度も見送った後。

少し流れが落ち着いてきたかと言う頃に、休憩を終えた潮やかのあ達が到着した。



「あもなーー!来ったよー!」


「こんにちはー」


「こんにちは〜」


「あ、こんにちは!待ってましたぁ」



名前を呼ばれ、柔らかく微笑んだかのあの妹ーー蘇芳すおう あもなは、潮たちに深々と頭を下げてみせた。



「いつもかのあがお世話になってます!あもなです、今後ともよろしくお願いしますー」


「おお、かのあの妹なのにちゃんとしてる…」


「な、何だとぉ!?と、言いたいところだけど、反論の余地なし!!」



「あの、これ。大学の友達と一緒にかわいい石鹸とか作ってるんですけど、形と匂いにこだわってるので良かったら玄関に置いたりとか、好きなところに飾ってもらえたら嬉しいです!」


「何とまぁおしゃれな」


「え、めちゃくちゃ可愛い〜!」


「こういうの欲しかったんだよね。嬉しい、貰っちゃって良いの?」


「ぜひぜひ!喜んで頂けてめっちゃ嬉しいです!」


「や゛ばい!かのあの妹なのにちゃんとしてるぅ!!」


「自分で言ってて悲しくなくならないかい、かのあちゃん」


「なる!でも…それ以上に誇らしい!!」



1人1人に可愛らしい紙袋が手渡される中、貰えると思っていなかった春一が驚いて口を開いた。



「え、俺も貰っちゃって良いの?」


「はい、良かったらぜひぜひ!」


「はー。いいこだなぁ」


「そりゃぁ春さん!なんてったって、かのあの妹ですからね!!」



かのあが誇らしげにあもなの肩を抱いて言うと、パン屋の前がほっこり暖かい雰囲気に包まれる。

嫁さんにあげるわ、と言って紙袋をエコバッグの中にしまった春一。

その横に綾瀬と織寿がいるのを確認して、あもなはにこにこ微笑んだ。



「あの、うちキッズスペース設けてるので、パンを選ばれている間預けて行かれませんか?子供向けのDVDもかけてますし、中2階では色んな面白い装置とかも置いてますよー」


「え!なにそれなにそれ!」


「ずっとくるくる回ってるやつとかー、磁石でゴールを目指す迷路とか、1から30までのボタンの早押しとか!ちょっと楽しそうでしょ?どう?」


「おれ、やってみたい!行きたーい!」


「ぼくもぼくもー!」


「いいよー!じゃぁ、上にいるお兄さんの言うことよく聞いてね。あっちの階段を上がってねー」


「「はーい!」」



行ってきまーす!と元気よく中2階へ上がっていった綾瀬と織寿。

その後ろ姿を見送った後、あもなは芹と手を繋いでいた萌の方へ微笑み掛けた。



「萌ちゃん、ですよね?めちゃかわいいー!お利口さんですけど、どうします?預けて行かれますか?小さいけどキッチンのおもちゃとかもありますよー」


「萌、どうする?」


「遊びたいな!いいの?」


「もっちろんだよー!エプロンのお姉さんたちがいるところ分かる?お母さんたちがお会計終わったら声掛けるからねー」


「はーい。ママ、行ってきまーす」


「行ってらっしゃい」



キッズスペースの方へと移動する萌の背中を見送った後、パン屋をくるりと見渡した芹が感心しきったような声を漏らす。



「すごい…子育てしてるとパン屋さんってどうしても敬遠しがちだから、こういうお店があると助かるね」


「ですよねー。私、同級生が早くに子供産んでて、大好きなパンが買えない…って泣いてたからここで働き始めたんです。バイト終わりに持って行ってあげたくて」


「いいこだなー」


「お友達嬉しいだろうね」


「へへ。今回お祭りがあるってことだったんで、店長に頼み込んでこんな風にしてみたんです。実験的な感じではあったんですけど、結果的に色んな人に喜んでもらえて良かったです!」


「こんな感じだったらお友達も此処へ気軽にパンを買いに来れるね」


「はい!いろいろ調整しながら、このまま続けていけないか店長と模索していきます」


「え、てか普通にママさん層獲得できてめっちゃウィンウィンなのでは?あもなちゃんはアイデアマンだなぁ」


「えへへ…自慢じゃないですけど顔だけは広いんで、今回いろんなお友達にいろんなことお願いしてるんですよね。キッズスペースで子供達見てるのは元保育士の知り合いと保育士の卵のお友達で、快くオッケーしてもらって」


「めちゃめちゃええやん」


「おもちゃはママになったお友達から提供してもらったり、中2階の装置とかはそういうのが好きなお友達にお願いしたり。本当助かってます」


「関心しちゃうなぁ。思っててもなかなか形にできるものじゃないと思うよ」


「行動できるってすごいわ」


「いやいや…手伝ってくれる人がいるからできたことですし…」


「君の熱意で人が動くのがそもそもすごいんだよ。そこにそれだけのエネルギーがあるってことだからね」


「いやいや…えへへ…」



関心しきりの大人たちに囲まれて、照れるあもな。

その横で、「でしょでしょー?すごいでしょうちの妹ー」と得意げなかのあ。


ーーそれから、挨拶も程々にさぁ中へ、と移動を始めようとしたその時。

今度は潮たちが来たルートとは反対の方角から、「おーい」と聞き慣れた声が届いた。


女性2人男性1人の組み合わせで歩いてくる姿に目を凝らしていると、かのあが一際大きな声をあげる。



「…ん!?待ってあれ、蛍と詩津さんと……隣にいるの那由多じゃない!?」


「お、マジ?」


「めっちゃ文豪みたいな人歩いてきてるじゃん」


「ぇちょ待っ、那由多がお手伝いした妊婦さんが詩津さんだったって、それマ?!どんな確率?!」



向こうから近付いてきた3人に手を振ると、まずは詩津が深々と頭を下げて見せた。



「お疲れさまです!子供たちのこと見て下さって、本当にありがとうございました…!」


「いえいえ、とんでもない。ほとんど春さんが1人で見ていらっしゃいましたし、2人ともすっごくお利口さんでしたよ〜!」


「それな。ガチで割と遊んでただけでむしろ何もしてなくてすみませんって感じですわ」


「いやいや何を仰います!助かりました本当に。感謝です!」



次いで、蛍が口を開いて隣に立っていた青年へ手のひらを向けた。



「お疲れー。こちらの文豪みたいな好青年ナユタくんに手伝ってもらって、気持ち良くお祭り見て回れましたの図がこれですわ」


「あー…。ええと、どうも…那由多です…」


「詩津さんにおっきい胎動が来て大変な時に手を貸してくださってね。フィーリングが合ったからそのまま一緒に行動してまっすの図がこれね。めっちゃ良い人なんだわマジで」



大袈裟にうんうんと頷きながら言った蛍に、かのあがもどかしそうに唸る。



「う、うぐぅ…!言いたいこといっぱいあるんだけど、何から言えばいいのこれ!」


「え?あれ、てか何この空気」


「う゛ーーん゛!蛍!聞いて驚け!!そのめっちゃ良い人の那由多くんはなぁ…!かのあの…かのあの、かわいい弟だぁーーーーー!!」


「ファッ…?!」


「あー…ええと、お名前伺った時に一瞬 ん? と思ったんですけど。まさか本当にはなやぎの蛍さんだったとは」


「いや、私も…めっちゃ文豪みたいな人だしナユタくんだしまさかな…?とは思ってたけど…」


「でも結構重要な条件揃ってない?それ」


「いや、だって、そんなことある?祭りエンカウントでかのあの実弟引き当てるマ?」


「那由多が1人で祭り来れるし友達連れの妊婦さんに普通に声掛けられるしそのまま一緒にお祭り楽しんじゃうような鋼メンタルの持ち主だったからこんな状況になってるんだっていうのが…人生ってホント面白いなって感じだよね!!」


「うーん、そう聞くとすごいな那由多コーチ」


「あ、その声は潮さんでしたか。お初にお目に掛かれて光栄です」


「いえいえこちらこそ」



潮や芹たちに挨拶をした後、事実を知って狼狽える蛍へ、那由多は改めて頭を下げる。



「あの…今更ですが、かのあがいつもお世話になってます。改めて、かのあの弟の 蘇芳すおう 那由多なゆたです。今後ともよろしくお願いします」


「あ、どうもどうも…宇留島うるしま ほたるですぅ…ほぼ毎日お世話してます、よろしくですぅ…てかかのあの弟なのにちゃんとしてるぅ…」


「あ!蛍さん、奥様も。ついでにあたし、かのあの妹のあもなっていいますー初めまして!これ、良かったら石鹸もらってください!これからもかのあをよろしくお願いしまーす!」


「いやまさかの妹さんまでいて草。え、てかかのあの妹なのにちゃんとしてるぅ…」


「まぁね!!2人ともお姉ちゃんの背中をよく見てるからね!!」


「そうか、これが反面教師パワーか…」



蛍と詩津もあもなへ名乗り、挨拶が一通り終わる。

軽口を叩いた潮がかのあからタックルを喰らっている横で、詩津がきょろきょろと辺りを見回して言った。



「あれ。パパ、子供たちは?」


「中にキッズスペースがあるんだってさ。遊ばせてもらってる」


「え!そうなの?!それはやばい、常連になっちゃう」


「え、ぜひぜひー!てかやば、美人すぎ。あの、写真撮ってスマホの壁紙に設定したいんでツーショットお願いしていいですか?」


「お、あもなちゃん…潮と同じ匂いがするね」


「潮って確か、セリーとのツーショットを壁紙にしてんだよね」


「いや。秘密だけど、スマホの壁紙もPCの壁紙も部屋に飾ってある写真も全部、2人で撮った2ショット写真かと思いきや、まさかの芹単体ショットっすね」


「うわやっば…!!何かやたらスマホの画面隠すなぁと思ったら、まさかのセリー単体かよ…!」


「潮ちゃん…君ね…中学生じゃないんだから…」


「いやいや全然、やらしい目で見てるとかじゃないんだよね。むしろどっちかというと純愛っていうか綺麗な気持ちっていうか、そういう意味でいくと自分にとって天女さまに近い存在なんだよね。だから例え誰に引かれたとしてもこれ自体は私にとって最早純然たる御守りなんだよね。こういうことって、往々にしてあるよね、そうだよね。分かってくれるよね、あもなちゃん」


「分か………分かる」


「あ、あもなが押されてる…!!すごい、無理やり

分かった振りして誤魔化してる…こんなあもな初めて見たよかのあ…!!」


「同意以外を受け付けなさそうな “ね” が怖すぎ」


「変な人に早口で捲し立てられて怖かったでしょ、おいであもなちゃん」



何やかんやで結果的に芹に抱きしめられて御満悦のあもな。


その後ろから便乗して抱きついた潮の背中にかのあが飛び乗ったところで、周が2つ大きく手を打ってみせた。



「はいはい、お店の前でずっと立ってたら他のお客さんにご迷惑だよ〜!パン買いに行こう」


「せやな」


「まともな人がいて良かった」


「やっぱ私たちにはあまねんがいないと駄目だわ」


「じゃあ、皆さん早速どうぞー!トレイは入り口右手にありまーす」


「はーい。やったーパン屋さんのパンだー」



周の一声で、面々はぞろぞろと動き始める。

それから店内が空いたタイミングを見計らって、全員でパン屋さんに入った。


店内には可愛らしいパンが並べられ、どれにしようかと思わず手が迷ってしまうほど。

奥ではパンが焼かれている様子が店内から見て取れて、見ている間に焼きたてのパンが次々に並べられていった。



「いや店内のビジュ最高すぎんか」


「パン窯の方に陳列されてるんだね〜!焼き立てがぱっと並ぶの新鮮だね」


「あとで焼き立て一個だけ食べちゃお」


「サンドイッチはあっちか、深夜に小腹が空いた時用に買っておこっと」


「え!!レジの横見て!コーヒーマシンあるんだけど!!」


「そうそう、カフェオレも始めたんで良かったらどうぞー。持ち歩きの容器も用意してます!」


「絶対買う」


「食パン明日の朝食べるから買っちゃお。わ、ふわふわ系だ!」


「え、ハンバーガー用のバンズもある。すごーい!冷凍してたハンバーグあるから、明日子供たちにハンバーガー作ってあげようかな」


「ちょっと詩津さんやめて飯テロやめて」


「えーん!!セリーーーー!!かのあ達にもハンバーガー作ってよ゛ぉ゛ーーーー!!」


「はいはい…丁度いいから今日泊まって帰ろうかな。夜にハンバーグ仕込んどくよ」


「いや最っ高かよ!!やったーーー!!」



楽しい会話を交わしながらパンを選び終えて、それぞれ会計をしていく。

全員が買い終えて外へ出ると、子供たちも戻ってきた。



「父ちゃん!!めっちゃ楽しかった!!」


「良かったな、ちゃんと御礼言えたか?」


「うん!言えた!あのね、くるくるーってするやつとか、すごかった!」


「おれ、数字ぽちぽちするやつめっちゃ早かったよ!」


「ママ、萌も楽しかった!おねえさんたちにたくさん遊んでもらったの」


「良かったね、萌。すみません本当に。ありがとうございました」


「いえいえ!こちらこそ、パンたくさん買って頂いてありがとうございます!また是非ご贔屓にしてくださーい」


「絶対来ます!」



パン屋さんの前であもなとのお別れを交わすと、次いで那由多も口を開いた。



「ーーそれじゃ、俺もここで。明日食べるパン買えたんで、大広場の晩御飯プレート持ち帰りしたら適当に帰ります」


「えーー!!一緒に来ればいいのに!」


「ごめん俺、集団行動できるの4人までなんだよね。基本ソロが心地良い人間だから」


「いっそ清々しすぎる!!」


「かのあの弟って感じだわ」


「那由多コーチ、またNIROのコーチングしてくださいっす」


「こちらこそです、潮さん。楽しみにしてます」



そんな会話に、春一が「おお」と声を上げた。



「そういえば、コーチング配信見てるよ。俺も楽しみにしてるわ」


「うぇーーーーーー!!!春さん見てたの草ぁ!てか春さんもNIROやりましょうよー!!」


「こらこら、三鼓家はもうすぐ赤ちゃん産まれるんだから」


「そうだね、お腹の赤ちゃんが無事産まれて大きくなって、幼稚園に入って落ち着いたくらいで…俺も虎哲誘ってNIROやってみるかー」


「うおーー!!あと数年耐えろ!NIRO!!那由多、それまで盛り上げ続けて!頼む!!」


「……んん?盛り上げる…?あれ、ちょっと待って。那由多くんってもしかして、最近PHOENIXに入ったナユタくん?」


「あ、そうです。ご存知でしたか。光栄です」


「え、マジ?あ、そうだったんだ。ええ、すご。俺ashくんの配信ずっと見てて、期待の新人が入ったって最近聞いてたから気になってたんだよね。え、本物?」


「あ。ashさん、いつも可愛がってもらってます」


「うおー、本物じゃん…。かのあちゃんの弟だったんだ…え?そんなことあるの?やばいわ。これから配信めっちゃ見るね」



春一の反応に、珍しく照れている様子の那由多。

すると、この機を逃すまいとかのあは過去一のドヤ顔で言ってみせた。



「那由多!何を隠そう、この春さんはなぁ!!かつての閃光でランキング1位だったあの!HALU1さんなのだーー!!」



「はっ?!マジ?!」


「お、那由多くんのテンションが恐らく過去一上がったであろう瞬間を見た」


「えっ?冗談じゃなくマジすか?俺、当時中1くらいだったんすけど、HALU1と勝負したくてめっちゃ閃光やり込んでたんすよ。結局4位まで上がったところでそのまま勝ち逃げされちゃったんで勝負できなくて…」


「うんうん!!予想通りめっちゃテンション上がってて満足!!」


「早口だなぁ」



前のめりで事実確認する那由多に、にこにこと温かい笑みを浮かべる大人たち。

春一も満更ではなく、両手を挙げながら答える。



「まぁ閃光やり込んでた時は正直、俺の動体視力と反射神経がずば抜けてた時期だったね。今はかのあちゃんにぎりぎり勝てるくらいかな?」


「いや!前にはなやぎでゲームしてもらった時ぼっこぼこのぼこにされたの忘れてませんけど!?」


「おい、何一緒にゲームしてんだよ。初めてかのあのこと羨ましいと思ったわ俺。え、今度俺とも閃光勝負してください、お願いします!子育てとかお仕事とか、お忙しいのわかってるんで、あの、お時間空いた時にいつでも、いつでも呼んでもらえたらすぐ」


「何だよこの子可愛いなぁ」


「若い男の子に詰められてデレデレしてる春さんほんま草」


「いいぞもっとやれ」


「お嫁さんがそれ言うの…?」



詩津と蛍がにやにやしている横で、冷静に突っ込む潮。

那由多と春一が連絡先を交換したところで、面々は改めて別れの挨拶をすることに。



「ーーあの、テンション上がっちゃってすみませんでした。奇妙な縁でしたが、今日はご一緒できて楽しかったです。詩津さん、母子ともに健康でありますように。出産のご無事を祈ってます」


「ありがとう!頑張ります、今日は手を貸してくれて本当に助かりました。2人が一緒にゲームできる時間は私が必ず作るからね!」


「えっ嬉し…ありがとうございます。でも、絶対無理はなさらず」


「可愛いなぁ那由多くん」


「那由多くん、機会があったらはなやぎにも遊びに来てね。定期的に色々やってるんで」


「ありがとうございます、是非遊びに行かせてください」



そうして那由多とも別れを告げ、大広場の方へとことこ向かっていく背中を見送る。



「ーーさて。それじゃぁ我々も、今日のメイン会場へ向かいますか」


「ほーい!楽しみだなー!」


「何食べよっかなー。メニュー見なきゃ」


「え、てかメニュー表見た?めっちゃ分かりやすいよ」


「どこどこ、ホームページ?」


「そうそう」


「おその待ってろよー!」


「頑張りすぎて小腹空かせてるだろうから、焼きたてパンあげようと思って買っちゃった」


「お、喜ぶだろうなー」



各々ホームページにてメニュー表をダウンロードして、今日のメインイベントに心を躍らせる。


僅かに夕空を迎え始めた赤と青のグラデーションを浮かべた空に、春祭りの曲が優しく響いていた。







* * * * * epilogue







(ん!焼き立てパンうまぁ…)


(え、待って美味しそう)


(焼き立ての塩パンなんて今食べるしかないんよなぁ…)


(えー そしたら私もポンデケージョ食べよ)


(ママ、萌もフレンチトースト食べたいな)


(いいよ、ちょっと待ってね。…はい、あーん)


(あ。芹さん、私もフレンチトースト、)


(潮、お前はもうこれ以上重ねていくべきじゃない。絶対)


(……そうね…さすがに自重するか…)


(まぁでも、実は言われる前から知ってたよ)


(マ?!)


(何だと…?!知ってていつも通り接してたとか、セリーさんまさか、本当に天女…?!)


(いや、いつかネタとして言ってくるんだろうなぁ、今言って白けても可哀想だし黙っておいてあげるかぁ って思ってた)


(……ぉぅ…)


(潮、セリーがセリーで本当に良かったね!!)


(セリーお前ってやつは…)


(え、でも私もハロウィンの時のおそののしまうま壁紙に設定してるよ。一緒じゃない?)


(一緒一緒。一緒です間違いないですはい)


(だよね?)


(いや、ちょっと待って!!その時着ぐるみもう1人いたよね?!なのにソロなのおかしいよね?!なんでツーショットじゃないの?!)


(あーー…じゃぁ今度から月替わりにするね)


(何で渋々なの?!乗り気じゃないのおかしいよね?!どう見てもかのあがかわいいよね?!)


(うん…)


(潮のスマホに自分の写真壁紙設定されてたことより5億倍困ってて草)


(私の写真を壁紙に設定しろやぁ!!ってキレられてるのつら)



(ところで、晩御飯プレートどうする?食べて行く?それとも持ち帰る?)


(パン食べちゃったけど、並ぶ時間とかもあるだろうし全然食べられるよ)


(お昼軽食だったから私は全然余裕かも!)


(私も。よーし、じゃぁ今日はぱんぱんのぱんになるまで食べるぞー)


(おれもいっぱい食べるよー!)


(ぼくもー!)


(君たちは本当、始めから終わりまで良い子だったねぇ)





(そろそろ潮たちくるかなー)


(おい、おその!見ろこれ!無くなる前にミニショートとフルーツジュースもらいに行ったらお前の分もくれたぞ!)


(おー!でかした理助。たまにはやるじゃん)


(ちなみにミニショートはおばちゃんが苺2つずつつけてくれた!!)


(おばちゃん神ー!お腹空いてたから助かる)


(お、なんか持ってくるか?)


(ううん、大丈夫。今はこれで充分……あ、いらっしゃいませ、ご注文承ります)


(あ、いいですか?えーと、桜餅と最中ひとつずつお願いしまーす)


(ありがとうございます、プレート頂戴致しますね)








第十七話(三) 了









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ