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はなやぎ館の箱庭  作者: 日三十 皐月
第2章 「箱庭の夢語」

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幕間 「背中の羽は虹色に輝く」







「あれ、那由多じゃん。もしかして暇人?」


「…ちょっとね」




ーー商店街の昼下がり。


パン屋さんに顔を出した那由多は、双子の妹 あもな に茶化されて、困ったように頬を掻いてみせた。


「もうほとんど売れちゃってるよー」と言われた通り、盛況さを伺える店内。

少しずつ残っていたパンをトレイに移していると、あもなは思い出したように続ける。



「あ!てかさー、那由多っていま、かのあの真似っこしてるんでしょ?ゲームの配信とか」


「あぁ。かのあから要らなくなった機材もらって…もう半年くらいやってるかな」


「半年?!何で言わないのー!」


「いや言ったけど…」


「え、まじ?もー、聞き流しちゃったかー。ちなみに登録したからこれからは毎回見るよーん」


「え…お前、かのあの配信も全部見てるんじゃなかったか」


「見てる。寝る間も惜しんで見てる。眠い」


「やばすぎ…」



おやつ用のラスク、明日の朝ご飯の食パンも…と乗せていたら思ったよりいっぱいになってしまったトレイをレジに置いて、あもなに向かって眉根を寄せてみせる。


あもなは尚も飄々として言った。



「えってか何か、アーカイヴもコメ欄も全部見漁ったけど、那由多ってプロになるの?」


「やばすぎお前本当に…怖いわ何か」


「はー?那由多だってかのあの配信見てるでしょ」


「まぁ、たまにね。さすがに全部見るのはきついけど」


「えっ。あもなは全部見てるけど?」


「えぐ…」



手際良く会計を進めていくあもなに「で?」と質問の答えを催促されて、那由多は何と言おうか思案しながら口を開く。



「配信でNILOのチームランクやってたら、プロチームのオーナーに声掛けてもらえたんだよね。だから…プロチームに入って、プロとしてこれから大会に出るって感じ」


「え゛ーやっばーい!お姉ちゃん配信者でお兄ちゃんプロゲーマーやばない?あもなも何かしよっかなー。

でも、ネットとかで活動したらめっちゃ大変じゃないの?大学も行ってるし」


「うーん、勉強との両立は正直かなりきついかな。配信も…嫌なコメントしぬほど来るし」


「わ、やっぱそうなんだー。アーカイヴのコメ欄も、最近のやつ結構えぐかったもんね。今朝見たら消えてたけど、消える前に見ちゃった」


「そう、友達がそういうのめっちゃ詳しいから管理してもらってる。消すから見るなよーって言ってくれてるんだけど、悲しいことに見ちゃうんだよな」


「いやしょうがないよ、何て言われてるか気にならない人の方が珍しいんじゃないの?」


「まぁ…うん」


「かのあだって最初からああなわけじゃないじゃん。最初とかかなり参ってたし、今は強くなったというより、麻痺して痛くなくなっちゃったのかも」


「麻痺、か。確かにそうかもな」


「これから続けててさー。もし落ち込んでちょっとやばいかもーって思ったら呼んで。3人で旅行しよーよ」


「お前は底抜けに明るくていつも助かるよ」



会計を終えて、おまけの小さなシフォンケーキも入れてもらって。

満足な買い物だったとパン屋を後にしようとすると、あもなが呼び止めた。



「ねぇねぇ、ちょっと待って。わざわざあもなの顔観に来るなんて珍しいよね?今結構やばいんじゃないの」


「……うーん。正直ちょっとまぁ、チームがガタついてて、結構キテはいるかも」


「そうなの?大会近いんでしょ?あ…むしろ近いからとか?」


「それもあるけど…。

これまでは仲良くて連携も良かったんだけどさ…全員でプロチームに入ったことで、モチベーションみたいなものが各々できてきて。今まで出来てたことができなくなって、つまずいてる感じかな」


「あー」


「嫌なコメントとかも全員見てて、それでメンタル落ちてもっとギスってきたり。なんか…全部において経験値不足だよな」


「壁は乗り越えるまでがキツいけど、上がった後は空気も澄んでて気持ち良いもんじゃん。今が耐え時なんだね。那由多」



ちょっと待っててーと、あもながパン屋に戻り、すぐに帰ってきた。

その手に握られていた紙コップが差し出され、静かに受け取る。



「最近コーヒーマシン導入しててね。牛乳と割ってカフェオレにしてるの。パンと一緒に買えるんだー」


「そうなんだ?道理でコーヒーの良い匂いすると思った」


「あげる」


「ありがとう」


「なんかさー。壁に登ってた手離しちゃったらさ、落ちたら痛いし、もう登りたくなくなっちゃうかもしれないじゃん。

だからさ、その前にちゃんと言ってよね。ヘリでびゅーんと助けに行ってあげるから」


「うん…いや…それ反則じゃないの?」


「はー?一生懸命登ってたのに上まで連れてってあげるわけないでしょ。途中から上に登っても何の意味もないし」


「まぁ、それはそうか」


「途中で上に行ったって、わーなんか空気気持ち良かったなーで終わりだよどうせ。

ヘリは、もっかい頑張る為の休憩だよ。何回でも行ってあげるからさ」



だから安心して頑張りなよ、と肩を小突かれて、笑顔で返す。



「息抜きにかのあのコーチングでもして、元気出そうかな」


「えー!いいじゃんそれ。あ、かのあに旅行の話もしといてねん。ホント近いうちに遊園地とか行こーよ」


「分かった。伝えとく」



「バイト中にごめんな」と謝ると、あもなは首を振って笑った。



「同じお腹で臍の緒繋がってた仲じゃん!」


「…………何かちょっと、言い方どうなんだそれは…」



手を振って、パン屋さんを後にする。

角を曲がる前にちらりと振り返ると、いつまでも手を振っているあもなの姿がはっきりと見えた。


最後にもう一度手を振り返し、那由多は家路へと急いだ。





* * * * *






「ーーというわけで、ガス抜きしに来ました」


「コーチお久しぶりっすー」



その日の夜。


今日コーチングお願いできませんか、と連絡が有り、那由多は早速嬉々として引き受けた。


相変わらずの空気に、ウォーミングアップ中の2人をほっこりした気持ちで見守る。



「那由多コーチ、今忙しいんじゃないすか?コーチング無理してないすか」


「あーいや、むしろ本当に有難いんです。結構煮詰まってたんで」


「いやぁ…大変だろうなぁ」


「我々のド下手ランク見て、あー何か悩んでたことどうでも良かったかもーって思ってもらえたら嬉しいっす」


「いやいや。でも、気持ちが嬉しいです。ありがとうございます」



それから、最初にコーチングした時より驚くほど成長した潮とおそののプレイに感嘆していると、スキンやアイテムを選んでいたかのあが爆音で話し始めた。



「てかかのあさー!結構びびってんだよね!えっ那由多でも悩むことあるんだ?!って!」


「うるさ。お前は俺を何だと思ってるんだよ…あと早くウォーミングアップ始めろよ」


「君以外の人類が全員メンタル激つよなわけじゃないからね、かのあちゃん」


「えー分かってるけどさー!那由多って何か、悩んでても全然顔に出ないじゃん。だから急に悩まれると似合わないっていうか、意外なんだよねー」


「いや似合わないってなんだよ。自然に悩ませてあげろや」


「急にって。かのあが知らないだけで、別にいつも悩んでるけど」


「えーー!いつも悩んでるの?!那由多悩み多き青年マ?!」


「こいつうぜー…VCで良かった。隣にいたら那由多コーチの代わりに締め落としてた」


「いや制裁えぐくない?!」



ウォーミングアップを始めたかのあが混ざり、3人の連携練習も進めていく。

「那由多悩むマー?」と尚も続けるかのあに、那由多は溜息をつきながら応えた。



「そりゃ…俺でも悩むだろ。プロチームに入れてもらって、喜んでる間もなくアンチコメ大量に来て…。普通に勉強もしなくちゃいけないし。

正直悩むところしかないよ、今は」


「だよなぁ…」


「ただでさえメンタルきつそうな中でアンチコメとかも来るのとか、考えただけで無理そう」



練習を終えて、ランクのマッチング待機中。

一連の会話の後、かのあは「うーん」と一つ唸ってみせた。



「まー、配信の先輩から言ってあげるとさ!那由多のコメ欄なんか赤ちゃんだよ。かのあに送られてくる諸々のやつ見たら卒倒するんじゃないのー?って感じ」


「ほーん。見ててあんまり不快に思ったことなかったけど」


「配信ではちゃんと見えないようになってたんだ?」


「もっちろん!え、だってスポーツで応援してるチームがいてさ、観覧席行ってずーーーーっと暴言吐いてる人たちが真ん前陣取ってたらマジでしんどくない?!

お願いだからつまみ出してほしい!普通に見させて!って思わない?!」


「分かる」


「リアルで見たら絶対そう思うはずなのに、ネットだったら一意見を無視するな!こういう意見もあって当たり前!アンチいて当たり前!ってなるのはさ。それは変じゃない?」


「隣にいたやつが自分が応援してるチームでっかい声で馬鹿にし続けてたら…まぁ、普通に無理かな」


「だよね!だからお金かけてでも一生懸命消してる!それはその意見を無視してるとかじゃなくて、自分の配信をたくさんの人に見てもらう上で必要な配慮だと思ってるから」


「えらい」


「治安悪いとこに自分から行こうと思うのは、精神が疲れてる人だけ。健全な人は避けるもん。だって、そこに引っ張られたくないからね!」


「………」


「プロチームに行ったっていう強い光はさ、どこかにすっごい暗い影を作っちゃうもの。それは仕方がないよ那由多。でもだからって、光の方まで陰させちゃだめ。そう思わない?」



かのあが言い切ったタイミングでランクマッチが始まり、「マッチきちゃー」と楽しそうな声が響く。

那由多は一寸遅れて、悔しそうに口を開いた。



「…やばい…かのあからクソまともなこと言われててめちゃくちゃ腹立つけど、ぐうの音も出ない…」



画面のチャット欄に、

osonomaru:【悲報】那由多コーチ、姉からの右ストレートめちゃくちゃ効く

と表示されて、「K.Oっすね」と小さく返す。

かのあはドヤ顔で続けた。



「大事な時期なんだから、得る情報は厳選しなきゃ!落ち込ませたい傷つけたいようなコメ自分から見て、馬鹿正直に落ち込んで傷ついててマジで草ァ!」


「いやメンタル激つよなの絶対お前だろ」


「落ち込んでる人間に…すげぇよ、お前が最強だ」



膨大なマップの中からランダムでマップが選択され、複数のチームが入ってくる。

各々アイテムを獲得後、ゲームが始まった。


チームは各々進んで行きながら、NPCと他チームによる攻撃を避け、マップ全体を囲む高い壁を超えたら勝利。


壁を越える為には所持しているクリスタルの覚醒が必要となる為、まずはチーム指定の覚醒の扉を開く鍵を集めていく。



「こっち反応あり、鍵ゲットー」


「敵の足音する、スキルリンクしたい」


「おけー向かう。NPC近いので注意ねー」


「NPC任せて!!やるわ!その後カバー行く…あ゛!鍵の反応あり!行くわ!」


「すみません接敵中なんで後にしてくれませんかね」


「オッケーやめるわ!!」



その後も順調に乗り切りながら、残り3チームがぶつかり合う。

3人の様子に新鮮な気持ちを抱えつつ、那由多は様々を考えながら見守った。



「覚醒率700超えた、あと50」


「他まだ600前後だからこっち側攻めてくるかも」


「もう扉の方向かっちゃうね!!」


「待って、1チーム近い」


「無視で行こう!」


「無視できない無視できない」


「スキルリンク最終で取っておきたいけど!!厳しそう?!」


「やれる…かも。分からん。近くまで来てほしい」


「うん、あ、いや…!やっぱここキープしたい!スナイパーでカバーする!」


「了解」



ーー結果的に2位で試合は終了。

次のマッチまで、しばらく反省会の時間となる。



「ーー細かいところはそれくらいですかね。あとはスキルリンクも、おそのさんと潮さんタイミング完璧でした。今回接敵かなり多かったですけど、アイテムも上手く使いながら乗り切ってましたし…言うことないです」


「あざす、嬉しいなぁ」


「わーい」


「ただ最後の場面だけは…かのあと意見割れて接敵2の扉側1になっちゃいましたけど。あれだけは俯瞰で見てて、相手が3人いる情報は途中で気付いたとしても絶対必要だったように思います」


「そうですよね…」


「3って分かった段階で報告できていて、且つ潮さんがグレ0だったって情報があれば、かのあがメミニのスキル単独で使用してキープもしつつカバーも行けたかと」


「ぇ潮グレなかったんだ!!スキル残したくてそれしか頭になかった!!」


「いやーー申し訳ない」


「私もいっぱいいっぱいだったわー。即ダウンしたし」


「ただ、かのあが残ってたから2位まで持って行けたわけですし。その辺りを考えると…最善は難しいですね。俯瞰で見てた僕から言えるのはこんな感じでしょうか」


「はい…ありがとうございました、コーチ」


「コーチまじすごいっす」


「いやいや…偉そうにすみません。こちらこそ、改めて自分を省みる良い時間になりました。ありがとうございます」



コーチング内容のメモを閉じ、1戦目の反省会を終える。

すると、それまで黙っていたかのあが一際大きな声で言い放った。



「じゃ!!2戦目、行ってみよーーー!!」



「ちなみにかのあだけ別で反省点メモってるから、今からまとめて送りつけるからな」


「ええええええ?!なにそれ聞いてない!!」


「反省会で俺の話を一切聞いてないことはもう分かってる。そしてそんなお前が唯一反省して改めようかな?と思える方法を俺は知ってる」


「な、なにさ…!」


「箇条書きだ」



1試合目のかのあの反省点を32項目箇条書きで書き連ねたメモを、チーム全体のメッセージに送りつける。


すると、それを確認したかのあから絞り出すような悲鳴が聞こえてきた。



「ぎええぇぇぇえ…!!!か、箇条書きだぁ…!!!こ、この攻撃はかのあに…めちゃめちゃ効くぅ…!」


「何で箇条書きなんすか?」


「こいつ高校生の時、隣に住んでたお兄さんが始めたケーキ屋でバイトしたくて面接行ったんすけど、あまりに酷くて…

お兄さんがかのあの行く末を心配して、何が悪かったか箇条書きで書いたメモをくれたんですよ」


「何それほんま草」


「お兄さんの優しさが痛かったエピほんま森」



「痛いよ!!箇条書きで20個あったよ!!配信でもらうお気持ちコメの1億倍効いたよ!!」



「何が一番効いた?」


「・謙譲語の使い方をもっと勉強しましょう(例:私のご自宅にある自転車でいらっしゃいます!など)」


「アイタタタタやめてやめて笑う笑う笑う」


「・分かりやすい嘘はやめましょう(例:ご自宅で毎日おやつにブッシュドノエルを作っています!など)」


「的確すぎる箇条書き腹筋痛すぎ」


「ちなみに、コーチの箇条書きでかのあに一番効きそうなやつ見つけたわ」


「見たくないし聞きたくないんだけど、一応聞くね……なに………?」


「・猪突猛進」


「っはーーー?!何その箇条書き!!全部書いてないのが余計ムカつくー!!」



効き過ぎたかのあの台パンを聞きながら、2戦目のマッチを待つ。



ーーその時、チームメンバーからメッセージが飛んできた。



〔俺、このままじゃだめだと思って、最近の配信全部見返した。

マジで良くなかった。変わりたい。友達の延長じゃなくて、同じチームになったプロとしてちゃんと一歩踏み出したい〕


「………」


〔明日の配信、話し合いから始めたい。よろしくお願いします〕



3人の仲の良い会話を聞きながら、返信内容を考える。


迷った結果、〔オーケー〕とだけ返し、那由多はこれから先の未来を臨んで一つ、大きく息を吐いた。



「はー。やっぱ、生きてんのって楽し」




「んぇ?那由多なんか言ったー?」


「いいや。何も」






* * * * * epilogue






(えっ てか待って、あもなから3人で旅行しよーって連絡きたんだけど!!なにそれ最高!いつにする?!)


(めっちゃいいじゃん)


(君ら本当仲良いねー)


(あもなは遊園地に行きたがってたけど)


(何泊する?!何泊する?!クソ高いホテル予約しとこうか?!)


(テンション上がりすぎだろ)


(あ、2名追加しといて。うちらも行くわ)


(わーい、人の金で遊園地だー)


(あ゛!!そうだ!!あまねんとセリーに、日頃の御礼を兼ねて何かしよーって話あったけど、ガチで遊園地良くない?!そうする?!)


(お、思いつきにしては結構ええやん)


(そうするか)


(じゃぁ萌ちゃんも入れて、9人で旅行しちゃいますかー!!)


(いや多すぎだろ)


(えぇ?!)


(せっかくなんだから、蘇芳兄妹だけの旅行はそれとして行ってきなよ。

で、別日にあまねんと芹、萌と、私だけで行ってくるのがいいんじゃないかな。かのあの金で)


(ねーちょっとマジで意味分かんないこと言ってるやついる!!はぁー?!キレそう普通に!!連れて行けや!!)


(もしくは芹と萌と私、あまねんと残りのやつでいいんじゃないかな。どう?)


(どう?じゃないでしょ!!残りのやつ呼ばわりマ?!却下却下!!)


(まぁでも2グループに分かれるのは正直有り。2人の行きたいところもそれぞれ違うだろうし)


(だよねー。かのあ予算どのくらい?あ、大変だと思うからお金だけでいいよ)


(あ、じゃないわ!!無理!!潮の分だけ絶対費用出さないから!!)


(別にいいですぅーー自腹切って芹と同じ部屋取りますぅーー)


(おーい、皆さーん。次の試合始まりますよー)








幕間 「背中の羽は虹色に輝く」 了






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