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空を飛びたい魔法使い  作者: ヨウレ
二章 逃亡
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九話 逃亡

 僕は地理の授業に感謝している。どこに逃げればよいか頭の中の地図だけが頼りだ。あとは空を飛ぶ魔法、これだけで逃げ切ってやる。



「すみません、あなたの家に生まれたばかりの赤ちゃんいます?」


「何だよ、……いや、なんでしょうか?」見知らぬ人に尋ねる質問じゃないよね。それがいかにも高そうな貴族の服着てたら対応に困るよね。


「赤ちゃんいる?」僕は、再度(たず)ねる。


「はい、います」農家の若い父ちゃんっぽい男が答えた。


 大事にくるんだ毛布から少し顔を出した赤ちゃんを見せ、

「お乳を与えてほしい、礼金は出す。申し訳ないがこれは命令だ」


「は、はい、母ちゃんを呼んできます」


 若い可愛い奥さんにエイミーを託し、家に勝手に入り込み台所?(かまどがあった)の隅に座り込んだ。


「僕と赤ちゃんを明日の朝までここにいさせてほしい。君、手を出して」


 僕は彼の両手に金袋から無造作に一掴みの銅貨を乗せた。


「謝礼だ、足りる?」


「はい、十分すぎます」


「それから赤ちゃんのおしめを2、3枚譲って、あと食事も、もちろんさっきとは別に謝礼を出す」


「今すぐに用意します」



 夜が明けた、


「このことは、誰にも言わない方が良いよ。貴族同士のいさかいに関わるより、得た金で人に知られず旨いものを食べたほうが利口だよ」と、ちょっと脅した。ごめんね。


 エイミーとふたり、隠してあったハンググライダーに戻り、飛び立ち逃げる。



 グレンフィートの東にはキャンベル山脈がありアベラフィート王国がある。しかしキャンベル山脈は険しくグレンフィートからアベラフィートへ山脈を越える道はない。ハンググライダーでも事前情報なしに越えるのは躊躇ためらう険しさだ。

 進むべきルートは、山脈に沿って北上し海に出て。海岸沿いを東に進みにアベラフィートに入る。

 このルートで農村、漁村に大量の銅貨をばらまき、お乳と食事を確保しつつ目的地のサイベックに向かって進んだ。


 途中、隊商を見つけ銅貨が少なくなったので両替を頼むために接触した。もちろん赤ちゃんとハンググライダーを隠してひとりで。

「すみません、両替できます。手数料ははずみます」と、商人風の男に訊ねた。


「君、どこから出てきたの?」


「貴族にそんなこと聞いちゃいけませんよ。できます?」


「ああ、少しなら。手数料は高いよ」


 護衛の男がふたり、僕の後ろに回り込もうとしてるのを横目で見ながら、

「銅貨をどのくらい用意できる?」


「ガキ、有り金全部寄こせ!」と先程とは別の商人風の男に言われた。


 僕は、躊躇ためらわずその男と後ろの護衛ふたりをスタンガン魔法で倒し、倒れた3人のすねを短剣で断ち切った。

 ギャー、ギャー転げ回って喚いてる男たちを無視して、最初に相手をしてくれた男に、


「銅貨をどのくらい用意できる?」と再び訊ねた。


 男は声を震わせながら、

「金袋2袋分」


「手数料含めて幾ら?」


「銀貨30枚」

 倒れてる男たちは他の男たちに連れて行かれ治療されてるみたいだ。


「この状況で結構ぼったくるんだ、でもそれで良いよ」


 取引は成立した。


「後ろから弓で狙っちゃだめだよ。あの3人みたいに一生歩けなくなるよ」と再度脅して去った。いやー、心臓バクバク、脛を切ってもあまり出血しなかったからトラウマにならなそうで良かった。


 エイミーはお腹を空かせよく泣いてた。それでも強行軍で飛んだ。



 夜更けのサイベックの街、


 サイベックは特殊な街だ、ここは4つの鉱山を管理する街。通常鉱山は領主が住む領都が直轄管理する。しかしここは鉱山と領都の直線距離は馬で半日程度、しかし川あり谷ありの地形は遠回りの連続で馬で3日も4日もかかる。そのため鉱山から1日程の村を街に格上げし領主代行を置き管理している。

 そんな街だから日が暮れると街は真っ暗になる。既に酒場は終わり、道を行く者は皆無。そんな街を少年は街の外から領主代行の屋敷目指して足を進めていた。


 街の人間ならよほどの大事でもこんな時刻に領主代行の屋敷のノッカーを叩くことなどない。しかし少年は躊躇ちゅうちょなくノッカーを叩き出てきた女中に騎士爵に会いたいと申し出た。

 女中も身なりは良いが供もない少年をどう扱ってよいか分からず、取りあえず待たせ執事を呼ぶことにした。


「申し訳ありませんが旦那様はもうお休みになっています。明日、出直して頂きたく存じます」と、執事が告げる。


「アンナ様の知り合いのシオンと申します。申し訳ないがアンナ様の助けが必要なんです。どうか入れてください」


「それは困ります。勝手な事を為さるなら兵を呼びます」


「どうした?」と、騎士爵が出てきた。


「騎士爵、初めまして。シオンと申します。アンナ様に助けて頂きたくお願い申し上げます」


「こんな夜更けに、非常識じゃないか?」騎士爵が思わず笑ってる。結構豪胆な人だ。執事は怒りで顔が真っ赤だ。まずいな。


「王子、レオン王子、どうしたのですか?」と、赤ちゃんを抱えたアンナが現れた。助かった。


「えっ、王子?」目を白黒してる騎士爵。


「……」少し青くなった執事。


「入っても良いかな?」



 応接間、


「挨拶の前にお願いしたいことがある」

 僕は大きなバッグから毛布に包まれた赤子を取り出し、

「乳を与えてほしい、どうかお願いします」僕は膝をついて頼み込んだ。


 びっくりしたアンナは直ぐに真に戻って赤子を連れて部屋を出て行った。


「騎士爵、挨拶をさせてください。私は平民のシオンと申します。先ほどの赤子は私の妹のエイミーと申します。誠に勝手ながらあなた様の庇護を受けたく、また妹エイミーに乳を与えて頂きたくお願い申し上げます」


「……まあ、アンナが戻るのを待とう」



 30分ほどしてアンナが戻ってきた。


「ごめんなさい、フォスターも泣いたからお乳を上げてきたの今はふたりともぐっすり寝てるわよ」

「王子、あの赤ちゃんは誰なの?」


「騎士爵夫人、私は平民のシオンだ。あの赤子は私の妹のエイミー」


「本当に妹なの? 本当に妹なら連れだしたりしたら大変なことよ」


「グレンフィートでは第二王子が不慮の病で亡くなり、第三王子が誕生して大騒ぎだろう」


「……そうなの。えっ、そんな……」


「? ? なに?」と、騎士爵。まだ分かってない。


「後で説明しますね」


「迷惑を掛けることは分かってる。大変な迷惑になる可能性もある。それでもあなた方に頼むしかないんだ、お願いする。家を出るときに頂いてきたお金がある、少ないが受け取って欲しい」

 私は持ってきた金貨の半分を差し出した。


「これのどこが少ないんだ? この街の税収の数年分もあるぞ」


「もうひとつ、君はどうやってこの街まで来たのか?」


「空を飛んで、始まりの王達の空飛ぶ魔法で」


「? 本当か?」


「そう、王子は魔法がお上手でしたね」


「そういう問題か?」



「あの子が乳離れするまでの間なら許可しよう。金は実費だけ頂く」


「あなた、お金を取るの?」


「えっ、ダメか?」


「当たり前です。シオン様と赤ちゃんは私のお客様です。そのような真似はできません」


レザール(執事)、シオン様の事は外に漏らさないように、エミリー様は従姉いとこの娘で乳が出ないので授乳期間だけ預かっていることにしなさい。この家に関わるもの全てに徹底させなさい。よろしいですね」



 昨晩、ハンググライダーを回収してきた。階下からは赤ちゃんの泣き声がまた聞こえてきた。寒空で聞く泣き声は悲しいが、温かい家の中で聞く泣き声はホッとする。夫人や女中が聞いたらムッとするような事を考えながら、魔法の訓練を始めた。


 一週間が過ぎた、生活の時間割も定まった。11時に起床し12時、18時、0時に食事し3時に寝る。この時間に決定するまで大変だった。


「シオン様、いくら何でも11時起床はだらけ過ぎですダメです」


「この時間割だと昼食と夕食が皆とテーブルは一緒に囲めないが同じ時間に食べられる。0時の食事は夕食の残り物で済むし。18時の夕食後には皆の顔も見れる」


「もうひとつは、農民より朝早く起床するなら起床時間が1、2時になる、食事を2、3時にすると他の食事が皆と合わせられない。それに午前中や午後早い時間は皆が忙しいだろう、私が皆の顔を見る時間が無い」


「カーナル夫人、起床11時は合理的だと思わないか?」


「アンナ、朝11時に起きようが決まった時間に起き、食事し、寝るのなら問題なかろう」


 ぶつぶつ言っていたカーナル夫人も一週間もすると慣れたのか普通に接してくれてる。


 起きてから日が沈むまでは魔法の訓練。夫人と女中が忙しいとふたりの赤子が屋根裏部屋に上げられる、至福の時間だ。ふたりとも可愛い、ず~っと抱っこしてたら夫人に抱き癖が付くと怒られてしまった。


 夜は赤ちゃんを見てる。いや、暗くて見えないから一緒にいるだけだ。真っ暗な赤ちゃんの部屋で床に座りベビーベットに軽く寄りかかり魔法の練習をしてる。泣くとあやす、おしめを替える、お乳が欲しそうならベルで女中を呼びカーナル夫人に来てもらう。

 お乳を与える間は外に逃げる、おしめを抱えて庭で洗濯だ。もちろん魔法で洗浄する。

 洗濯は、失敗の連続だった。魔法の洗浄液に比べてう〇ちは大きすぎだ、魔法だけだと時々う〇ちが残る。部屋で行うとう〇ちの粉末が部屋に残る。日の当たらない裏庭にう〇ちを洗った水を撒くとにおいが残り消えない。う〇ちの粉末も湿気で元の状態に戻され臭いの元となる。カーナル夫人や女中に散々怒られ、先ず井戸水で軽く洗い、汚れた水は日の当たる庭の畑の隅の穴に捨て。(作物にかけるなと言われてる)洗浄の魔法も同じ場所で行ってる。


 魔法は万能ではない(・・・・・・・・・)


 カーナル夫人がお乳を与え戻ると、僕も赤ちゃんの部屋に戻る。そこで3時まで赤ちゃんと一緒に過ごし、おしめを洗濯して就寝だ。それからは赤ちゃんふたりだけでお休み。だけど直ぐに女中頭が起きてくる。女中頭と調理師夫妻は街の人間と同じ5時起きだ。


 平穏な生活が半年ほど過ぎ、少し涼しくなり始めた頃にフォスターが熱を出した。

 カーナル殿と夫人は狼狽し見ていられない、女中頭は風邪だろうが医者に見せた方が良いと言う。今、医者はいない。この街の医者は街に一週間留まり、三週間で4か所の鉱山を回り戻ってくる。


 僕はカーナル殿に領都に行けば何とかなるかと聞くと懇意の医者がいると答えた。僕は今晩領都に向かう事にした。出発は日没1時間後の午後8時、カーナル殿を背負い(どちらかと言うと僕が抱えられているみたいだ)フォスターを毛布で包みデカイバッグに入れお腹に括り付ける。


 人目に付かないことを確認し出発だ。2時間弱で領都に到着、上空を大きく一周し裏城門の1㎞先の林の切れ目に着陸した。僕はカーナル殿に金貨を10枚ほど渡し、

「この金で顔を見せずに買収して城内に入ってください。なるべく城内の人間に顔を見せないでください。私は林の中にいます。この場所に数分立ち止まっていれば出てきます。では、行ってください」


 僕は、カーナル殿を見送ると少し離れた林の中にハンググライダーを置いた。暗過ぎて隠しきれない。少し薄明るくなったらあらためて隠そう。



 カーナルはフォスターを抱いて走った。城門で見張りの兵士に赤ん坊を見せ銀貨を握らせ城内に入った。こんなところで他国の金貨を握らせたら怪しさ満点ですぐに捕らえられてしまう。やはりシオン様はお坊ちゃんだなと納得する。

 友人の医者のラウスを訪ねる、彼は以前所属していた騎士団の専属医師で友人だ。門で友人だ中に入れろと騒いでいたら執事が出てきた。面識のある若様の友人の俺をすんなり通してくれた。居間で待っていると、

「おまえ、今何時(なんじ)か分かってんのか?」と寝ぼけ眼のラウスが出てきた。


 俺はバッグから息子を取り出し、

「熱が下がらないんだ、頼むから診てくれ」


「お前、赤ん坊をどこに入れてるんだ? おい、誰か診察室の準備を。ランボー(カーナルの名)赤ん坊を連れて付いてこい」



 看護婦に、

「この薬を煎じて薄めて飲ませ、暖かくして」

 俺に向かって、

「この赤ん坊、まだ乳離れ前だろ。奥方はどこだ?」


「妻は来てない。乳を与えてくれる人を用意してくれ」


「お前、なぜここにいる? 今は領地にいる時期だろ?」


「それより、息子は大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫だ。一晩寝れば熱も下がるだろう。それよりも質問に答えろ」


「すまん、言えないんだ。明日一日ここにいさせてくれ、明日の晩に帰る」


「おいおい、収穫量の予測の為、役人が領地を回ってる頃だぞ。領地から離れるのは不味いだろ」


「だから、すまん。もう聞かないでくれ」


「分かった、赤ん坊の病室から出るなよ!」


カーナルは明け方までベットの横の椅子でウトウトしていた。途中女性がフォスターに乳を与えに来てくれた、流石医者だな明け方に乳を与える人を用意できるなんて。


 夕食に呼ばれた。俺は断ったが親父さんにばれたらしい。


「先生、お久しぶりです。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と、俺は平謝りだ。先生は実家の皆の主治医だ。親父の学生の時の先輩で実家うちでは誰も逆らえない。


「赤ん坊は、良くなったみたいだな。お前、本当に大丈夫なのか? 不味くなったら俺の所に来いよ、分かったな」


 その日の夕食はそれ以上の質問は無く、馬鹿話が続いた。


 夜の10時、俺は帰途についた。ラウスの馬車で表門から城外に出た。医者の馬車なので夜でもノーチェックの素通りだ。ぐるっと城を回り裏門近くの林で降り、馬車はそのまま隣村まで往復してもらう。


 林の前で立ち止まり少し経つと、人影が現れこちらに向かってきた。


「カーナル殿、フォスターの具合はどうですか?」


「シオン様、熱も下がりすやすや寝ています」


「良かった。では、帰りましょう。ついて来てください」十分ほど歩き、そこから林の中に入った。



「もうすぐ着きます。降下しますが、大丈夫です」と、僕は大声で伝え。屋敷の裏庭目掛け降下した。


 最後に風魔法を目一杯使い速度を殺し裏庭に降り立った。降り立つと同時にカーナル夫人が出てきて、

「あなた、領主一行の先触れが来ています」と伝え、ふたりで屋敷に入っていった。


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