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墓王!  作者: 菊次郎
フィールの冒険者活動
96/129

対ペーター

ご覧いただきありがとうございます。

 気づくと練兵場にいた騎士たちは己の鍛錬を中断し、俺達を遠くに囲うようにしてこちらをみていた。そして倉庫の扉からペーターが練習用の剣を持ち、こちらに向かって歩いてきている。それに気づいた騎士たちは一様に驚きの声を上げ、


「おい、閣下あの剣持ってきたぞ」

「壁剣まで持ってきたってことは本気でやるってことか?」

「それだけあの青い魔法使いが強いのか?そうは見えんが…」


「壁剣?」


 気になる単語がありペーターが持ってきた剣に目を向けると、子供の胴体ほどの幅がある巨大な剣だった。長さもコロネの肩くらいまではあり、バッソが持っていた長剣がまるでペーパーナイフに見えるくほどの大きな剣だった。


「おう、俺の練習用に作らせた剣だ。刃は潰してあるが他は何も変わらん」


 重量がどれほどあるか想像もできない剣を片手で振り回し、俺の所まで風を吹き飛ばす鈍い音が聞こえてきた。準備運動なのかペーターは壁剣を薙ぎ、突き、払い、切り上げる。壁剣の重量に振り回されず、止めるべきは止め、重量を活かすときは活かし、特大の大剣を意のままに操っていた。


「バーサーカーかよ…」


 ショットガンにゴム弾を装填し楔の盾を召喚しながら、本人に聞こえないよう呟いたつもりだったが、バッソやティアラ達は聞こえていたらしく、ぶほっと吹き出していた。

 ペーターは上段からの切り下ろしで一通り準備が終わったらしく、ふぅと軽く息を整え声を掛けてきた。


「待たせたな、ソーイチローの準備はいいのか?」


「はい、このままで構いません」


 ショットガンを胸の辺りで両手で構え、いつでも戦闘態勢に入れるようにしていた。


「よし、じゃあやろうか!!」


 ペーターの大声を合図に模擬戦が始まった。


 すかさずショットガンのストックを肩に当て、ゴム弾を立て続けに発砲する。腹に響く発砲音と共に高速のゴム弾が殺到するが、ペーターはひょいひょいっと横に避け簡単に回避される。


「なかなか速い魔法だな、だが…」


 ペーターはわざと俺の攻撃を待ってくれていたようで、こちらに向かってくる様子は無かった。そしてある程度ゴム弾の弾道を見た後、突然回避するのを止め、


「フンッ!!」


 と壁剣を振り下ろした瞬間、目に見えない程速いはずのゴム弾に刃をぶち当て、壁剣に切られたゴム弾は壁にぶつかったように爆発し飛び散った。


「まじかよ…『ショートバレル、バードショット、ゴム弾』」


 俺は呆れとも驚愕とつかない声をあげつつ、一粒の大きなゴム弾から仁丹のような粒状のゴム弾に変更し、バレルを短くして散弾の飛び散る範囲を広げた。しかしそれでもペーターは避け続け、一向に当たる気配が無い。


「なんであんな巨体なのに素早いんだよ!『閃光手榴弾』」


 片手でショットガンを撃ち牽制しながら閃光手榴弾を呼び出す。そしてそのまま投擲し数秒後、ペーターの耳を潰す爆音と目を焼くような閃光を撒き散らすその瞬間、


「『喝ァァァァァァッ!!』」


 ペーターは壁剣を盾のように構え閃光を防ぎ、閃光手榴弾に負けないほどの大声を出して音の攻撃そのものを防いでしまった。


「いやいやいやいや、喝の一言でどうにかなるようなものでもないでしょ?!」


 驚いてはみたものの、直前に魔法を使ったような形跡があったため、なんらかの防御魔法を行使したのかもしれない。実は気合でどうにかした、と言われても驚かないが。


「かぁ~…効くねぇ!じゃあそろそろ、俺からもいくぜ?」


 宣言した直後、ペーターは10m以上あった距離を一気に詰めこちらに襲いかかってきた。ペーターは八相の構えから、壁剣の重量と突進の勢いをそのままに全て打ち砕けとばかりに振り下ろす。


「『楔の盾』」


 こちらも負けじと積層型防御壁を打ち出し迎え撃つ。壊せない物は無い壁剣と全ての攻撃を防いできた『楔の盾』がぶつかり合うと、まるで大鐘を全力で突いたような大音声が鳴り響く。壁剣の突進を受け止めた『楔の盾』はその力を地面に逃すと、頑丈な石畳がピシリとヒビが入った。


「くはっ!やるねやるね!俺の突進を受け止めた人間はお前が初めてだ!」


 ペーターは目を細め、新しい玩具を手に入れた少年のような笑顔を浮かべていた。ただ、厳ついおっさんがそんな笑みを浮かべても不気味なだけだが。


「嘘だろ…閣下の突進を防ぐなんて…」

「まだ手加減してるんだろ?」

「あの勢いで手加減とか言われてもな。お前なら受けられるか?」

「まさか!端までぶっ飛ばされるに決まってるだろ」

「じゃあなんで止められたんだ…?」

「「「…」」」


 『楔の盾』と壁剣が激突した音が消えた後、観戦していた騎士達のざわめき声が聞こえてきた。


「12%…一撃でか」


 『楔の盾』が壁剣によってどれほど食い込まれたかの数値だった。セフィリアに試し切りしてもらった時は0.1%にも満たない数字だったから、どれほどの力を持っていたか分かる。


「まだまだ行くぜ!」


 ペーターはその場に留まりながら重量ある壁剣を振り回す。『楔の盾』と壁剣がぶつかりあう度に金属をこするような嫌な音が周囲に響き渡り、コロネはその音が苦手なのか耳を塞ぎながらもこちらを注視していた。周囲にいる騎士たちも、ペーターの怒涛の攻めに恐怖を抱いているのか、それとも『楔の盾』の防御力に驚愕しているのか、口を開けている者はいるが言葉を発する者は居なかった。


「くはは!いいねいいね!」


 飛び散る汗をそのままに喜悦の声を上げ、初めてもらった玩具を全力で遊び倒すように壁剣を叩き込んでくる。俺も負けじと反撃をするが『なのです』で電撃をまとえば一歩下がり、『ファランクス』で棘を出せば逆に隙間を狙って反撃してくる始末。

 こちらが反撃すれば反撃した以上に壁剣を叩き返してきて剣風が増す。しかし埒が明かないと見たのかペーターは一度大きく後ろに飛び下がった。


「おっそろしいほど硬ぇな…それどんな魔法だ?」


「楔は硬くなければいけませんので」


 『楔の盾』は元々セフィリアの人生を変えたいと願い作成した描画魔法。この程度で敗れるわけにはいかない。


「へっ、じゃあ意地でも抜いてやる」


 そう言ったペーターは壁剣を肩に担ぎ体を捻じり、斬撃を全力で行う構えを見せた。それだけではなく、


「しっかり耐えろよ!『妨げる者無し、止める者無し、只進む者!』」


 ペーターは詠唱魔法を唱えていた。魔法が発動するとペーターの方から強い風が吹き、小石がカツンと『楔の盾』に当たる音がしていた。そしてその風に乘り、石畳を踏み抜きながらペーターは突進を始めた。

 最初とは比べ物にならないほど速い突進で、あっという間に剣の間合いに入る。溜めていた体のバネを一挙に解放し、イノシシのような突進の力と共に、壁剣の刃先のただ一点に力を集中させ『楔の盾』に叩きつけた。


「ガアアアア!!」


 獣の声と大鐘が割れるような音が轟き、ペーターの全力を受け止めた『楔の盾』は力を地面に受け流すと、石畳が凹み砕け周囲に石片が飛び散った。視界の隅にちらりと映る『楔の盾』の損耗率は33%を示し、今もジリジリと数値を増やしていた。

 子供の太腿ほどの太さがあるの腕は膨らみ、軋み、血管が主張する。全力をもって押し潰そうと更に力を加えるが、『楔の盾』の堅牢さとペーターの剛力の狭間にあった壁剣が悲鳴を上げ始めた。刃先が欠け、ついで刀身も耐えられなくなったのか、刃と柄の境目からヒビが入り、そしてあっという間に広がり、くるくると回りながら刀身は飛んでいった。


「「…」」


 柄の部分しか持っていないペーターと『楔の盾』ごしに見合う俺たち。さすがに続ける雰囲気では無くなったため、模擬戦はお開きとなった。

 お互いがふうと息を抜くと、先程まで張り詰めていた戦いの空気が弛緩し、周囲にいた者たちも握っていた手のひらをやっと開くことができた。


「しっかし、ソーイチローの防御魔法はいったいなんだ?ぶち抜けなかった魔法は初めてだ」


 ティアラが急ぎ足で近寄り、ハンカチで汗を拭ってくれる。俺とペーターの汗臭い空間だったのが、ティアラの花のような香りに包まれ戦いが終わった事を実感した。


「ありがとうティアラ。ペーター様、ありがとうございました」


 ティアラが後ろに一歩下がり、俺はペーターに頭を下げる。


「こっちも面白かったからな」


「それにしても私の魔法を簡単に避けていましたが、分かりやすい魔法でしたか?」


「ああ、あれか。来るタイミングさえ分かってればどうとでもなるな。お前の魔法は…そうだな、謂わば突きしか無い状態だ。だから避けるのはそんなに難しくはない、まあとんでもなく速いから気ぃ抜くと当たるが」


「なるほど…」


「だから剣のように薙ぎ、払い、下ろし、上げる。これに似たような魔法があれば戦略は随分と変わる」


 柄しか残っていない壁剣で自身が言ったように剣を振るが、刀身が無く重量が狂っている事に不満なのか、ペーターはしかめっ面をしていた。


「ひょっとしたら試合では使えない魔法があったのかもしれんが、まあ今みた範囲での指摘と思ってくれればいい」


 今までは現代兵器のコンセプトを思い出し、それを魔法で再現しようと試みてみていた。それはそれでいいのだろうが、俺が対峙する相手は地球にはいない魔獣であったり、とんでもない身体能力を持った者が相手。いい加減頭を切り替える必要があるのかもしれなかった。


「ありがとうございました。今の言葉を参考に精進していきます」


「そうか、参考になればいい。それでまた試合したかったらここに来い。いつでも相手してやる。つか、必ず来い!今度は勝つからな!!」


 そう言ってペーターから握手を求められ、俺も求められるままに握手した。しかし手が悲鳴を上げるほど強く握り返してきたのは何故だろうか?

 それからも『なのです』や『ファランクス』の弱点を聞き、対応策に頭を悩ませる事になった。ペーター曰く、「雷系の魔法は発動する瞬間に肌が粟立つ感覚がある」らしく、それで回避しているとのこと。『ファランクス』に至っては「見てから回避余裕」とまで言われた。

 ペーターの感覚が一般的なら俺の魔法って意味無くね?と自信を無くしかけたが、カサドールやバッソが呆れた顔しながら「それは無い」と顔を横に振っていたため、ごく一部の戦士くらいのはずだ。まあこの予想が俺の願望も含んでいることは否定しないが。


 そして夕食も食べていけというペーターの誘いを丁重に辞退し、お屋敷を去った。去る間際、ペーターが絶対にまた来いよ!と重ねて言われ、カサドールからは「お足代です」と小さな巾着袋を貰った。


 それからの帰り道、


「(へっぐち!うぃー…、なあソーイチロー、なんかワシのことを年寄り扱いせなんだか?)」


「(知らないよ?!)」


 突然の遠距離通話魔法『無逢の言』と内容に驚き、そして図らずも王都も通話可能と判明することとなった。





「閣下、バッソ様、お疲れ様でした。閣下、ラチェット様のことですが…」


「ああ、わかってる。ラチェットのことはしばらく三人だけの秘密だ。いいな?バッソ」


「了解しました、父上!ところで何故秘密にしておくのですか?葬儀を行わないでしょうか?」


「今、ラチェットが死んだ事をあいつの母親に言うと何をしでかすかわからん。ヘタしたらラチェットと駆け落ちした女の親族を皆殺しにしろとか言いかねん。あいつが落ち着くまでは行方不明のままにしておく」


「そう、ですか…」


「それでしばらくしたらバッソにやってもらいたいことがあるから、心づもりしておけ。内容は…今言っても忘れそうだから、後で言う」


「了解しました」


 ソーイチロー達三人がペーターの屋敷を辞した後、ペーター、カサドール、バッソの三人はペーターの執務室のソファで向かい合っていた。本来ならカサドールはペーターの後ろに控えさせるべきだろうが、ペーターが座れと指示を出していた。ペーターやバッソの前にはエールが置かれているが、さすがにカサドールは遠慮し何も置かれてはいなかった。

 水代わりにエールを煽っていたペーターはジョッキを飲み干し、やっと一息ついて先程までの試合の統括を始めた。


「まずはカサドールからいくか、俺はちびっこいの見てたからそっちをあんまり見てなかったんだよな。で、メイドの嬢ちゃんはどうだった?」


「順調に成長していけば私の後を継がせたいと思うほどには」


「はっ、えらい評価が高いじゃないか?」


「あの年齢で自身の存在感をコントロール出来るのは大したものかと、まだまだ未熟でしたが。暗器などの扱いも相当教えこまれているようです」


「ほー…じゃあ相応の使い手が近くにいるってことか?」


「はい。あと確定はできませんが…袖の使い方に特徴がありました。ひょっとしたらヴァウンス家の傍流の可能性があります」


「ヴァウンス家っていったら優秀な執事やメイドを輩出し続けて、とうとう家名まで賜ったっていう変わり種の一族だろ?結構前に滅んだようなこと言ってただろ」


 バッソは話についていけず首を傾げていた。そんなバッソの様子に気づきつつも、無視して話を進めていた。


「家長と奥方が亡くなり一人娘も行方不明になったため、今では主家は無くなったと思われます」


「なるほどな、まあいいや。次はちびっ子だな、バッソ、何か言う事はあるか?」


「今度は負けません!!」


 水を向けられたバッソはソファから立ち上がり、直立不動でペーターに宣言していた。しかし、ペーター達が聞きたかったのは勝敗の行方ではなかったため、ガクリと首部を下げていた。


「そうじゃなくてだな…まあいいや。ちびっ子は体の使い方が抜群に上手い。まるで猫みたいなやつだったな。

それにありゃセフィリア婆に師事してるな、えげつない所がそっくりだ」


 苦虫を噛み潰したような顔でペーターは断言していた。情報を知るカサドールは特に表情を動かさないが、バッソはそうもいかず首を傾げていた。


「セフィリアというと…父上が仰っていた家庭教師の一人でしょうか?最強の魔女とか色々言われていたとか」


「その通りだ。そういえばバッソに言ってなかった。今日来たソーイチローはフィールの大暴走を防いだ英雄だぞ」


「はあ?!あの青瓢箪が?!…と、失礼しました」


 身を乗り出し驚愕の声を上げてしまったバッソだが、その叫んだ相手は自分の父親であり師であるペーターであるため、なんとか取り繕ってソファに座り直した。


「バッソは本当に見掛けで人を判断するな…その癖直せ、痛い目を見るぞ」


「っ…き、肝に銘じます」


 ペーターは言葉に怒りを乗せギロリと睨むと、バッソは一回り小さく縮こまった。そんな息子を見てやれやれと息を抜き会話を続ける。


「ったく。それでソーイチローの師はセフィリア婆らしいから、その繋がりでちびっ子は教わったのかもしれん。まあ二人共将来が楽しみな素材だったな、女としても、な」


「はい!その通りだと思います!あ…」


 半ば冗談で言ったペーターだったが、バッソから予想外の反応が返ってきて目をパチクリとさせていた。


「そういえばさっきも…おいバッソ、正直に言ってみろ」


「カモシカのような足から繰り出される蹴技に見惚れ、胸を撃ちぬくような鋭い掌底を食らった時、自分の心も撃ちぬかれました!!」


「誰が上手いこと言えと…それにちびっ子は止めとけ、ありゃソーイチローのもんだ」


「では!自分が助け出します!!彼女は従者などよりもっと活躍する場があるはずです!」


「助け出すって…お前なぁ…」


 呆れて口を閉じることができなかったペーターだが、妙な正義感に燃えるバッソを諌めるよう話を続けた。


「それに俺が勝てなかった相手にどうやって勝つんだ?」


「え?父上が練習剣ではなく宝剣を使えば簡単に勝ちましたよね?あの場は引き分けのようでしたが…」


 執務室の奥に保管されている宝剣”大地裂”を見ながら自身の意見を述べた。そんな息子の認識にペーターは頭痛に襲われたようにこめかみを揉みほぐしている。聞き分けのない子供を諭すように、ゆっくりと言葉を区切りながら話し始めた。


「いいか、バッソ、よく聞け。俺の師…というか単なる家庭教師だったんだがな、セフィリア婆は対峙すればその武威は山津波を相手取るかのような巨大な何かと思うほどだ。こういう気配を持つ者とは絶対に敵対するな。ここまでは分かるな?」


「はい、自身と相手の力量を正しく把握し、戦うべきに戦う、そういうことだと思います」


「そうだな。それでだ、ソーイチローの事をどの程度やると考えた?」


「漏れ出る魔力や武威を見ても、凡百の魔法使いとしか考えていません」


「確かにそうだな。ぱっと見魔力があるようにも思えんし、佇まいも…まあ大したこと無い。だがよく考えてみろ。そんな普通の魔法使いが俺の攻撃を凌いだり、最強の魔女の弟子になることは出来るのか?」


「……いえ、それは…」


「まずこの時点で疑問を持て。まあ分からないからと後れを取るのも論外だが、疑問を持たないのもまた論外だ。俺はセフィリアのことを巨大な山と例えたが…ソーイチローについては最後まで形が分からんかった」


「父上の経験をもってしても、ですか?」


「おう。まあそうだな…あえて言うなら、魔力が溢れる穴、ってところだな。その穴を少しだけ覗きこんだが、やっぱり形は分からんかった。底が見えない穴だからこそ、もっと覗きこみたい衝動に駆られたが…下手すると落ちたまま戻って来られなくなる。まあ付き添っていた二人は既に穴に落ちてるだろう、ひょっとしたらセフィリア婆も同じなのかもしれんが、な」


「それほどですか…」


「それほど、だ。恐らく要注意人物リストに奴は記載されるだろう、その情報が出揃うまで敵対することは許さん」


 5名の魔法使い集団を捕縛しようとしたら500名の兵士が死亡した、なんていう事件が過去にあった。高位の魔法使いに多いのだが、個が数を負かすような事が度々起きていた。あまりの被害の大きさに、国家は力を持つ人物を──自国他国問わず──リスト化し、能力や弱点の把握に努めている。

 リストに上げた人物を積極的に重用するのかそっとしておくのかは、各国の方針によって異なるのだが、ここイカルス王国では僅かな接触だけに留めている。このような意味では、ソーイチローの行動はカモネギだったと言えなくもない。


「では父上!自分がフィールに向かい、奴の情報を集めてきます!!」


「却下だ、馬鹿者。派閥争いに余計な波風を立てるな」


 イカルス王国は歴史が浅いとはいえ結構な派閥争いがあり、主に三派存在し王家派、貴族派、中立派とある。王都周辺を領地に持つ貴族は王家派と貴族派の二つ、魔獣の森に接する領地を持つ貴族は中立派、と大体このような感じになっていた。ただ王家は質実剛健・花より団子な性質であるため、似たような性質である中立派と比較的良好な関係を結んでいる。

 中立派であるフィール辺境伯に王家に連なるバッソを送り込んだら、それこそ余計な腹を探られることにもなりかねない。例えバッソの本心が単なる恋心だとしても。

 一方バッソもハイそうですかと簡単には引き下がらなかった。


「父上。父上も若いころは冒険者として修行し、名を売りましたよね。自分も父上を見習い、武者修行しつつ冒険者になろうかと考えています!」


「てめぇ…」


 ペーターはバッソの言い回しになんとか反論しようとしたが、いい切り返しが思い浮かばなかった。ペーターの父親である前国王も、ペーターが冒険者になると言った時に同じように苦悩したのだろうか、と立場を同じくして初めて実感した。


「冒険者はその生命を対価に仕事をする。お前が怪我しても死んでもどこにも文句はつけねぇ、てめぇの腕一つでのし上がれ。あとソーイチローとの接触は極力禁止だ。この二点は絶対に守ると約束するなら、バッソが冒険者になることを認めてやる」


「了解しました!!ありがとうございます、父上!コロネさん、待っててくださいねええええええ!」


 フィールの方向に向かって吠えるバッソ。


「うるせえ!というか接触は禁止って言ったばっかだろ!あと根回しに時間掛かるからおとなしく待っとけ」


 一体この馬鹿さ加減は誰に似たのかと天を仰いでいたペーターだったが、一方カサドールは「似たもの親子」と心の中で呟いていた。

 またバッソはバッソで、頭の中には「冒険者になれる!」という言葉しか残っていなかった。


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