帰りの護衛依頼
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昨日は王都の貴族街でペーターのお屋敷にお邪魔したが、今日は商会が軒を連ねている街区に来ている。明日の護衛依頼を受けたキンタナという商会を尋ねに向かったのだ。この護衛依頼を紹介してくれたペタッキから「初めて護衛依頼を受ける商人には、最低でも前日には顔を見せておいた方がいい」と進言され、素直に聞いた結果でもある。
「ここか…」
周囲は似たような建屋が並んでいたため目的とする商店を探すのに苦労した。不特定多数を相手するような店はここではなく大通りに面していて、それぞれ自身の店を目立たそうと造りに創意工夫を凝らしているが、今回のキンタナ商会は卸しを主にしているのか看板一つ出しているだけで特徴らしい特徴は見当たらなかった。その看板は所謂ペッパーミルを模した看板をしていた。
「ぱっと見チェスのポーンと見分けつかないな、こりゃ」
「おにいちゃん、チェスってなあに?」
「ボードゲームの一種だな。頭の体操になる」
「ふーん」
頭の体操と聞いてコロネはあっという間に興味を無くし、あさっての方向を向いてしまった。ちなみにチェスのようなボードゲームはすでに存在し庶民に親しまれている。
そんなコロネの様子に苦笑いを浮かべながら、分厚い木の扉を開け店の中に入った。
「こんにちはー」
「はいはい、どちら様でしょうか?」
扉を開けた途端にツンとした胡椒の香りが鼻孔をくすぐる。中に居たのは20代くらいの男で、胡椒らしき粒を小袋に分ける作業をしていた。
「明日のフィールへの護衛依頼を受けたソーイチローと申します。初めてこちらでお世話になるので、まずはご挨拶をと考え伺いました。もしお時間がありましたら担当の方を紹介して頂ければと思います」
「ああ、なるほど。じゃあちょっと待ってて」
店員はそう言うと店の奥へ「会長、明日の護衛の人が来ましたよ~」と呼び出していた。すぐには出てこれないようで少し待っててくれと言われ、何となく店内を見渡す。コロネは興味深げに店内の麻袋を見て回っていて、店員を捕まえて「これなに?」と質問攻めにしていた。店員も人が良いのかコロネを邪険にせず、丁寧に説明をしてくれ、それだけではなく試食までさせてくれているようだった。コロネ自身も料理をするため、チェスの話とは違い話が盛り上がっていた。
ちなみにティアラはおみやげの買い出しで俺たちとは別行動をとっていて、この場に居ない。もしいたらティアラはティアラで違う事を聞きたかったかもしれない。
「いやいや、お待たせしました。あなたがソーイチローさんですかな?」
そう言って店の奥から、でっぷりと腹が出た50代くらいの男の人がやってきた。自身をロッシ・キンタナと名乗り、細々と香辛料の取り扱いをしているしがない商人だと名乗った。細々と言いながらも既に6代目の会長らしいので、謙遜以上の実力と歴史に飲み込まれない胆力を持った一族なのだろう。それにどうやらペタッキが会長に話を通してくれていたらしく、
「色々と話はペタッキさんから聞いていますよ。あなたのような方が護衛についてくれるなら心強い!」
「いえいえ、まだ護衛は素人も同然です。ペタッキさんから色々と学ばせて頂きました」
「いやいや、それでもソーイチローさんのおかげで命が助かったと言っていましたよ?頼もしい限りです」
「いえいえ、自分も必死だっただけです。なんとか結果が付いてきただけですから」
「いやいや、それでも…」
いやいやいえいえ、とお互いに謙遜しあっていると会話が終わらない。アホなこと話してるなーというコロネの視線に気づき、このままではいかんと終止符を打つ。
「それでキンタナさん、明日は6時の鐘が鳴る頃にフィール方面の城門外に集合ということでよろしいでしょうか?」
「ああ、それならすれ違いがあるといけませんので、6時に当店ということで。あとひとつ確認しておきたいことがありまして。その…ソーイチローさん達のパーティーは獣人の方がいても平気でしょうか?」
「平気といいますと?」
聞き返すとキンタナは若干渋い顔をしていた。
「実は獣人嫌いな冒険者は結構いまして、それで以前もめたことがあるんですよ」
中には獣人と一緒にいるとくしゃみや鼻水が止まらなくなる人もいて、護衛依頼などの時には少し気を使っているそうだ。
「それって猫アレルギじゃね?」とも思ったが、分かったところでどうにかなる話でもないため、そんなこともあるんですねーと流しておいた。チラリとコロネを見てもいつもと変わらない様子だったので、きっと彼女たちも問題は無いのだろう。
「私達は問題ありません」
「それはよかった!先に依頼を受けてくれたのは獣人の方だったので、安心しましたよ」
それからも少し雑談をし、また明日よろしくお願いしますと言葉を交わし、キンタナの店を辞した。
今日やる事は全て終えてしまい若干手持ち無沙汰になったが、王都にいるのも今日限りであるためコロネと暇つぶしがてら散歩をすることにした。
そうコロネに告げると嬉しそうに右にいったり左にいったりと、忙しなく自分の興味の赴くままに動き始めていた。そして気が付くと冒険者ギルドの近くにまで来ていることに気づいたため、なんとなく顔を出してみることにした。コロネも俺の動きに気づき、俺の右腕に抱きながらギルドの扉をくぐった。
中に入ると冒険者達からの探る視線を感じ、ついでコロネとつながっている腕を見られ、そして何故か優しい目で見られることになった。
「おや…ああ、なるほど兄妹とでも思われたのかな」
兄にじゃれつく妹、とでも考えられたのかもしれない。しかし、全員が全員そう感じたわけではなく、たった一人だけ騒ぐ人物がいた。
「あああああ!きっさま!コロネさんから離れろ!!」
「バッソ様、こんにちは。こんなところで何をされているんです?」
と、冒険者ギルドにいたのはまさかのバッソだった。
「俺か?俺は冒険者登録してたんだよ…って俺のことはどうでもいいだろ!それよりコロネさんから離れろ!嫌がってるだろ?!」
それを聞いたコロネは、猫が匂いをつけるようにスリスリと頬を擦りつけていた。にゃ~とでも言いそうだな。
「き、きっさまああああ!俺と決闘」
バッソは剣に手を掛け一歩踏みだそうとしていたため、コロネの目がキラリと光っていた。そんなコロネを押し留め、さらにバッソの言葉に重ねるように続きを話した。
「おお!閣下の薫陶を受けたバッソ様なら、自分の”全力”も受け止めて頂けそうですね」
”全力”という言葉に力を入れて話すと、バッソは冷や汗を流しながら視線を外した。
「け、決闘は…そう、昨日戦ったばかりのお前には辛いだろう。だから…よし!コロネさんに似合う赤いバラを沢山集めたほうが勝ちだ!」
「「「「「えー…」」」」」
どちらかというと小柄なコロネがバラの花束をもらっても、結婚式の花束贈呈にしか見えない。コロネ本人も、周囲にいる冒険者も「それはない」という顔をしていた。
「は、はあ…」
「期日は明日の15時の鐘が鳴る頃、冒険者ギルドの前に集合だ!いいか、赤いバラだからな!」
「赤いバラのみですか?」
「ふむ…そうだな、コロネさんには赤以外も似合いそうだ!よし、バラならなんでもOKにしよう!お前はつきまといの割にはいい事言うな?」
こいつはもうだめだと半ば呆れ、それならばと悪乗りすることにする。
「明日の服装などは如何しましょうか?やはり花束にはそれ相応の服装というのがありましょう」
「ほう、気が利くではないか!そうだな…やはり正装とすることにしよう。俺は登城するときの服装があるからな、お前はどうかな?」
「自分は魔法使いとして、としか」
「そうかそうか、まあ正々堂々と勝負をしようではないか!」
ニヤリとしたバッソを見て、もうここら辺で話を締める。
「バッソ様、花を集めるなら早々に行動したほうがよろしいのでは?」
「む、その通りだな。よし、ではさらばだ!コロネさん、またお会いしましょう!」
フハハハと笑いながらバッソは外に駆け出していき、中にいた冒険者の全員が開け放たれた扉を眺めていた。
「おにいちゃん、あの変な人と勝負するの?」
「うん?だって明日の朝から仕事あるから無理だよ。それに俺は勝負するなんて一言も言ってないし」
「だよねー!」
「「「「「ひでえ…」」」」」
翌日、夕方近くからゴテゴテと装飾が付いた服を着たバッソが花束に囲まれながら、冒険者ギルドの前に突っ立っていたそうだ。いつまでたってもこないコロネを待ち続けていたようだが、俺とちゃんと約束を取り交わしていないことを同席していた冒険者に指摘され凹んだらしい。そして凹んでいるうちに、ギルドの女性職員や女冒険者達がバラを勝手に拝借し、終いには花を持ち去られた開店祝いの花輪状態になっていたらしい。
それ以降、女性職員や女冒険者達からは花の件でお礼とからかいを、男の冒険者達からは残念な子扱いになったそうだ。
また”花輪事件”により、冒険者に必要な「名売り」には良くも悪くも成功した形になったバッソは、職員や先輩冒険者達から(ある意味)一直線な性格と共に可愛がられていた。




