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墓王!  作者: 菊次郎
フィールの冒険者活動
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時間が無い時ほど

ご覧いただきありがとうございます。

 セフィリアの庵で一泊した俺は、まだ日が昇る前から用意を開始した。定番の描画魔法を起動し、体に異常が無いかチェックをしていく。


「よし、問題無し。さて、薬草は…よしよし、ちゃんと生えてるな」


 ”熱さまし”の薬草を根を残し刈っていく。すこしヨモギのような香りがして中々美味しそうな感じだった。

 昨夜急ぎ作った『氷室』の中にどんどん放り込んでいき、目に見える範囲を刈り取った結果、ざっくり数えたら50本程になっていた。


「ま、こんだけあれば十分か。まってろよ、コロネ」


 身体強化を施し昨日の道を逆に駆け出し始めた、高熱で苦しんでいるコロネを少しでも早く楽にするために。


 復路の戦闘回数が少ないといいな、などと祈っていたら本当に戦闘が少ない、どころか0だった。走りながら何故かと考えると、いくつかの理由が思いついた。


 一つは往路で魔獣を倒しまくったおかげ。俺がギッタンバッタンと魔獣を倒したせいで魔獣が俺に恐れを成した!だったらいいなぁ…。

 もう一つはこのエリアにとんでもなく強い敵がいて、魔獣たちが逃げ出したから。


 どうか前者でありますようにと願っていたが、もちろんそんなわけもなく。俺の進路上にでっかいトカゲがいることを探査魔法は示していた。

 ある程度近づき観察すると体長8mはある大トカゲが鎮座していた。沼に頭を突っ込んで水を飲み、長い尻尾を外でぷらぷらと揺らしている。


「あれは鎧大トカゲか。この先は迂回路が無いんだよなぁ…やりすごせるか?」


 周囲は沼地が点在し、草が少々生えている程度で身を隠す場所は見当たらなかった。足場も不安定で雨が降る度に道が変わってしまうという難所の一つだ。

 鎧大トカゲはその名の通り鱗が鎧の如く硬く、生半可な攻撃は利かない。さらに鱗の下は分厚い脂肪に覆われているため打撃系の武器も意味が無い。魔法もその防御力からよほどの高火力でなければいかず、まさに難敵といえる。

 倒す手段といえば、目や口の中に攻撃を加えるか、ひっくり返して腹を叩くくらいだそうだ。まあセフィリアなら鎧の上からこんがりと焼きそうだが。

 こっそりと通れる道が無いかと首を長くして探しているうち、つい足元が疎かなり小枝を踏んでしまった。パキリという小さな音だったが鎧大トカゲをこちらに振り向かせるには十分だった。


「あ」


 振り向いた鎧大トカゲと、数瞬だけ目線を交わし、


「グギルルルルル!!」


「ああもう!『閃光手榴弾』!」


 手元に現れた手榴弾を鎧大トカゲの前に放り投げ、程なく爆音と閃光をまき散らした。『楔の盾』で音を遮断し、手で光を遮っても尚、体の芯にまで響くほどだった。

 収まった光の向こうでは鎧大トカゲが地に伏せ目をつむっていた。


「よし!」


 横をすり抜ければこのデカブツは追ってこれまい、と考え即座に行動に移した。だがすり抜ける直前、鎧大トカゲの尻尾が鞭のようにしなりながら『楔の盾』を打ち付けた。

 パリンと何枚か『楔の盾』の防御が破られる音がしたが、即座に反応した『楔の盾』は積層防御壁を再展開し、防御魔法としての役割を存分に果たしていた。そのおかげで俺に鎧大トカゲの攻撃が届くことはなかった。

 しかし、下からすくい上げるような鎧大トカゲの攻撃であったため、その衝撃を吸収しきれず『楔の盾』に守れた俺ごと吹き飛ばされることになった。そうしてゴロゴロと転がりながら吹き飛ばされた先は、まさにスタート地点だった。


「ちっくしょ!振り出しに戻るかよ!」


 ショットガンとグレネードを織り交ぜながら牽制がてら連打しているが、攻撃を全て弾いていて効いているようにはまったく見えなかった。

 目や口を狙ってはいるが、こちらが攻撃している時は鎧大トカゲは目も口も閉じ防御に専念していて中々隙が無かった。どうやら先ほどの『閃光手榴弾』もこのように防御していたため、大した効果を発揮出来なかったようだった。


「全然効いてねぇ…『タレット』でもあの装甲抜けるか怪しいし、足場も不安定だし…足場?あれやってみるか」


 固い敵にはトップアタックかボトムアタックが有効というのは古今東西世界が変わっても同じだ。そこで編み出してあったのは対魔獣用大型地雷『上を向いて歩こう』だ。

 ちなみにこの地雷、実戦では一度も使ったことがない。理由は単純で今までショットガンで事足りていたのと地雷に引っかかるような魔獣と戦ったことが無いせいだ。

 ぶっつけ本番でもまあなんとかなるだろと考えつつ、


「『上を向いて歩こう』、あんにゃろ見てろよ…」


 と若干八つ当たり気味に描画魔法を起動した。少し先の地面の中に余剰魔力の全てをつぎ込み形成していく。幾らかの時間を掛けて完成した地雷は、地面から突き出ている一本の棒だけがその存在を表していた。


 牽制のために撃っていたショットガンを止めると、鎧大トカゲは薄っすらと目を開けた。俺が一歩下がると、鎧大トカゲも一歩前に進み、俺が背を向けると猛然とダッシュしてきた。その迫力はトラックが自分目掛けて走ってくるようなもので、目にすれば足がすくみ動けなくなるような突進だった。


 しかし、俺はそれどころではなく本気で逃げていた。別に鎧大トカゲが怖いということではなく、『上を向いて歩こう』のせいだ。威力が足りないならまた設置すればいい話なのだが、調子に乗って魔力を注ぎまくった地雷がすぐ後ろにある。


 威力の計算を忘れていた。


「うおおおおおおお!!」

「グルアアアアア!」

「って、足速えな?!」


 思ったより足が速い鎧大トカゲに驚きながらも足は止めない。そして思った通りまっすぐ突っ込んできた鎧大トカゲは地雷の真上を通り、突き出ていた棒をへし折った。

 その半呼吸後、沼地を光が覆った。

 強烈な光の後、音より早い爆風が同芯円上に広がり、草を薙ぎ払い水面に波を作っていく。遅れてやってきた高熱が周囲の水を蒸発させ、巻き上げた土砂と共にキノコ雲を形成していた。

 俺はというと、『楔の盾』ごと吹き飛ばされ、再び泥まみれの地面に転がることとなった。


「うえ~、ペッペッ!口の中がジャリジャリしてるな。薬草は…問題無しと。で、鎧大トカゲはどこにいった?」


 背後を見渡しても姿形も見えない。あるのは大きなクレーターとそこに水が流れ込んでる水音、上空に残っている煙だけだった。他に何か無いかとキョロキョロすると大きな鱗が一枚、転がっていた。


「やはり鎧大トカゲの弱点はお腹だったようだな」


 そう呟いたが、なんとなく「やり過ぎだ、馬鹿者!」とセフィリアから怒鳴られた気がした。

 空から降ってくる土砂を払い変わってしまった地形を眺めつつ、


「池がひとつ増えちゃったな。トカゲ池とでも名づけておくか。それにしても『上を向いて歩こう』の魔力量は要調整だな、危なくて使えん。さてマラソンを再開するか」


 ちょっとだけやり過ぎたことは気にかけつつ、再び走り始めた。これ以降、極めて順調に魔獣の森を抜けることができ一安心であった。

 鎧大トカゲに時間を取られたが、道中のゴブリンなど弱い魔獣の戦闘回数が減ったため、トータルではそれほど時間を取られること無く、フィールの街に辿り着いた。

 夕方に近い時間帯になると街に入ろうとする人達で溢れかえり、入場待ちの列が長く伸びていた。


「セフィリアの言うとおりに優先通行証をもらっておいて正解だったな」


 そんな列を無視して先頭に向かった。しかしいくら優先通行証を持っているとはいえ、列の人達からの視線は少し痛いものがあった。


 門に向かうと門番をしていたのは知り合いのコワードだった。


「お、星屑様じゃないか。久しぶりだなって、泥だらけだな」


「コワードさんまで言わないでくださいよ。普通にソーイチローでいいです。泥はまあ依頼でちょっと」


「ははっ、そうか。で、ソーイチロー、列を飛ばしてきたけどどうしたんだ?」


「優先通行証を持っているので、確認してもらっていいですか?」


「む、証書を貸してくれ」


 雑談モードから仕事モードに切り替わったコワードは証書をしっかりと確認していた。


「よし、問題無い。通っていいぞ」


「ありがとうございます」


「あ、ソーイチロー、急いでるとこすまん。他の冒険者達が魔獣の森で何やら騒ぎがあったらしいんだが知らないか?」


「騒ぎ?」


「森で大爆発があったらしい。何組かの冒険者が血相変えて戻ってきてな、調査隊を出すか検討してるそうだ」


「………薬草採取に必死でどうだったかなー、ちょっと記憶に無いかも。あ、急いでるんですみません!」


 大爆発ねぇ。きっと威力調整を間違え魔法を使ったお馬鹿が居たんじゃないかな。迷惑な話だ。


 門から出た後は冒険者ギルドではなく、コロネの元へと向かった。あと少しで到着すると思うと、早る足が止まらない。

 早々にミストさんの家に到着し、


「戻りました、ソウイチロウです」


「待っておれ、今開ける」


 と、出迎えてくれたのはセフィリアだった。


「もう薬草を持ってこれたのか?」


「うん。これでいいんだよね?」


 袋から魔法で冷やしてある薬草を取り出し、渡した。セフィリアは葉の紫色の部分や裏側を観察していた。


「む……よし、良い品じゃな」


「この”熱さまし”の薬草ってどうやって処理するの?」


「単に挽いて水に溶かし飲ませるだけじゃ。苦くて飲みにくいがな」


「じゃあ早速コロネに飲ませてやってくれ」


「そうじゃな。ミスト!ティアラ!道具は用意できておるか?」


 中に戻ろうとするセフィリアに俺は冒険者ギルドに向かう事を告げ、再び街へ足を向けた。




有名な歌とは関係ありません。多分。

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