優先通行証
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街中を駆け抜け早々に冒険者ギルドに到着し中に入ると、昼前という時間帯にも関わらず結構な数の冒険者がたむろしていた。大暴走の参加者特典である税免除の恩恵を受けるために、少しでも割のいい依頼を探していたり、臨時でパーティーを組もうとして仲間を探していたりと様々であった。
Eランクの掲示板を見ると”熱さまし”の薬草採取依頼は張りっぱなしだった。報奨金を見ると一本10zと初心者用だけあってものすごく安い。しかし、今はこの金額より優先通行証のほうが大事だった。
薬草採取の依頼が残っているのを確認した俺はそのまま受付の順番に並んだ。とっとと事情を話して通行証を発行してもらい街を出たかったのだが、俺に気づいた一部の冒険者がお喋りを始めていた。
「おい、あれ大暴走で有名になったやつじゃないか?」
「なに?ああ、ホントだ。”星屑の夜梟”って二つ名で、名前はソーイチロー…だったか?」
「へ~、そんな名前だったのね。私は星屑としか知らなかったわ」
「それまでは無名だったから知らないのも無理ないぜ。それにしても随分と若いな、まだ17、8に見えるな」
「本当よね。それで英雄様はどんな依頼を受けたのか…」
衆目を集めているのは気づいていたが、まあ絡んでこなければいいかと考えているうちに俺の番が回ってきた。
「こんにちは、”熱さまし”の薬草採取の依頼について相談したいのですが」
言った瞬間、聞き耳を立てていた冒険者達が騒ぎ始めた。ゴブリンを殲滅したのに何故薬草採取なんて!という声が上がっていたが、あえて無視し受付嬢と会話を続けた。
「あの依頼ですか、ゴブリンの食害でだれも薬草を持ってこれる人がいなくて困ってたんですよ。実際に何名か薬が無くて苦しんでいる人がいるようですので、あの依頼を引き受けてくれると助かります」
そこで俺は仲間が高熱で苦しんでいる事、薬草を有効期限内に持ってこれる能力がある事、ギルドに卸す分まで採ってくる事、少しでも納入時間を短くしたいため優先通行証の発行をしてほしいということを説明した。
「なるほど、優先通行証の発行ですか。そうですね、この場合は…分かりました、発行させて頂きます」
受付嬢が了承してくれ発行手続きに入ってくれた。実はこの優先通行証は中々発行してくれないそうだ。それもそのはずで入門の優先通行が認められているのは貴族か軍くらいであり、一般人に発行が認められるのは複数の人命が掛かっている時くらいだ。
今回の依頼は”熱さまし”の薬草採取であり、複数の人命が掛かっているかどうかは微妙なところだった。それでもギルドが優先通行証を発行してくれたのは、俺が大暴走の英雄であったのが大きいだろう。
10分ほど待つと、受付嬢が手のひらサイズの紙片を渡してきた。これが優先通行証らしい。
「お待たせしました。こちらが優先通行証で再発行はされませんので失くさないで下さい。また一回限り有効ですので、入場の際に門兵に渡してください。有効期限は本日より四日間とさせて頂きました。何か質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「では、いってらっしゃいませ」
受付嬢に送り出され、さっそく冒険者ギルドを後に…できなかった。冒険者の男三人組に呼び止められた為だ。出鼻を挫かれたのは今日はこれで三度目だな。
「よう”星屑”様、俺たちと依頼を受けねぇか?儲けられるぜ」
話しかけてきたのがリーダーらしく、残りの二人は後ろで頷いているだけだった。
「申し訳ない、今は急ぎの依頼をこなそうと思ってるんだ。誘いは嬉しいがまた今度にしてほしい」
「急ぎって薬草だろ?別に今じゃなくてもいいだろ。あんな安い依頼より…」
次第に剣呑になっていったのを感じたのか、リーダーっぽい男は声が尻すぼんでいった。
「俺の仲間が熱にうなされている。そのために急ぎ依頼を受けたんだ。重ねて言うが、また今度にしてくれないか?」
コロネの命が掛かっている時に、余計な事で時間を取っていくこいつらを本気でぶちのめしたくなった。俺に触れた瞬間に極大の電撃をお見舞いしてやる、そう考えながら一歩踏み込んだが、男たちは二歩下がった。
「あ、はいどうぞ!」
思ったより素直に通してくれたことに拍子抜けしながら、まあ絡まれないならいいかと考え男たちをパスした。
「どうも、では」
やっとギルドを脱し街の外に向かった。一方、ギルドでは何やら騒ぎが起こっていた。
「誰だよ!あんな優男余裕だって言ったのは!」
「おめえだろ!まじでビビったぜ、なんだあれ」
「二つ名は伊達じゃないってことか。これに懲りたら…」
などと聞こえてきたが、まあ二度会うことも無いだろうし忘れることにしよう。
門兵に挨拶し、フィールの街を出ると街中では出せなかった全速力を出した。といっても時速20kmくらいだからものすごく早いという訳ではないが、身体強化と合わせるとこの早さを維持し続けられる。
程なく魔獣の森に差し掛かり、ここからが本番となる。冒険者ギルドで絡まれた時は説得(威圧)でどうにかなったが、ここからはそうはいかない。一旦とどまり、
「『篠突く雨の輪』、『ショットガン、バックショット、グレネード』」
探査魔法を魔獣の森用に範囲を広げ、手元に鹿撃ち用の弾丸をセットしたショットガンと銃身の下にはランチャーをセット。腹ごしらえとばかりにミストさんが作ってくれたサンドイッチを頬張ると、塩気が効いていて体が求めている味だった。
「さて、いくか」
用意が終わるとバイアスロンもかくやと駆け抜け始める。
森に入って30分も走ると魔獣たちがちらほらと現れてきた。大体がゴブリンの集団で、先の大暴走の残りのようだった。探査魔法に現れた次の集団は、ちょうど進路上にいるが迂回するのも面倒なため、このまま押し通ることにした。
走行中の足音を消したりはしていないため、前方に見えるゴブリンの集団がキョロキョロと俺を探している様子が見える。一瞬だけ足を止めゴブリンの集団に向かって立て続けにグレネードを発射した。小さく空気が抜けるような音と共に複数の榴弾が飛び出し、ゴブリンの集団の中心付近に着弾した。
「ギャギャギャ?!」
「ゴギャ…」
「グガガ…」
「押し通る!」
すぐに走行を再開しゴブリン達の中に突っ込んでいく。ゴブリン達は何が起こったか分からず大きく混乱し、運悪く被弾したゴブリンがのたうち回っていた。とどめを刺す必要も無く、集団の中を突っ切り駆け抜けた。
「グッギャギャギャ!」
「グギャッ!」
勇気あるゴブリン、というか蛮勇ともいうべきゴブリンが数匹追跡してきたため、
「褒美だ!」
と、手榴弾を足元に落としながら走り抜ける。数瞬の後、爆音が森を驚かし爆風が木々を揺らし破片が命を散らした。
その結果を振り返らず再び森を走る抜けることに専念し始めた。
その後も狼達に追いかけられ熊が壁のように立ちふさがってきたが、手榴弾の置き土産をプレゼントし、頭を吹き飛ばし、走るペースを落とさずただひたすら走り抜けた。
その甲斐あって街を出たその日の夕方、およそ150kmの距離を踏破しセフィリアの庵に到着した。
「はぁ…はぁ…さすがに、きつかった」
水をゴクゴクと飲み喉を潤す。魔法で集めた水は味気ないのだが、今飲んだ水はとても美味しかった。
「さすがに夜の森を走るのはやばいか。時間は…だいたい9時間くらいか?最速記録だな。んじゃ今日はセフィリアの庵で一泊する…前に、薬草が周りにあるか確認しておこう」
誰が聴くともない独り言を言いながら、周辺の探索を開始した。といっても探し始めてすぐに薬草を見つけた。
たんぽぽの葉っぱのようにギザギザで、色が紫色であるためとても分かりやすい。この紫色に薬効成分があるようで、刈り取ると段々と紫色が緑色に変わっていき、単なる葉っぱに変わってしまうそうだ。つまり、この紫色の部分がタイムリミットを示しているというわけだ。
「よし、現物確認っと。採取は出発寸前でいいな。それにしても、なんでここの周りだけ薬草が残ってたんだ?」
などと考えたが、理由は簡単だった。ここはセフィリアの庵のほど近く。だれが好き好んで竜の巣に頭を突っ込むというのか。
「居ても居なくてもセフィリアだな。セフィリアの服の切れ端を魔獣避けのお守りとして売れば一攫千金できるんじゃない?」
………なんか突然寒気がしてきた。なんでだろう?
一方、フィールの街では。
「へっぷし!ういー」
「セフィリア様?もう少し女性らしいくしゃみをされたほうが…」
「む、ミスト聞いておったか、これは恥ずかしい。いやな、どこかでワシの噂をしておる奴がいそうでな」
「あらあら、どこの誰でしょうね?」
「判らん。判らんが、なんとなくソーイチローを魔法の的にしたくなってきたな」
ソーイチローの与り知らない所で命の危機が生まれた日だった。




