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墓王!  作者: 菊次郎
大暴走
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大暴走

ご覧いただきありがとうございます。

 ギルドマスターのギザルムはチラリと俺のほうに視線を向け、口を開くかどうか考えているようだった。そんな様子をセフィリアは察したのか、


「ギザルム、ソーイチローには話しても平気じゃ。むしろ話しておいたほうが色々と良いはずじゃしな…」


 セフィリアはそうフォローしてくれた。後半のセリフは殆ど独り言でギザルムには聞き取れないレベルの音量だったが、俺には聞こえていた。あとで何らかの話がありそうだな…


「そうか…セフィリアがそう言うならいいだろう。ソーイチロー、今からの会話はギルドからの発表があるまで決して他言無用だ。お前から情報の漏洩が確認されたらしょっぴかれるからな」


「分かりました。それで…大暴走って魔獣達が大量に街へ押し寄せてくるって現象ですよね?」


 セフィリアの庵で読んだ書物の記憶を引っ張りだして言葉を挟んだ。


「うむ、そうじゃ。下手したら街一つ滅ぶこともある災害じゃな。このフィールの街にも18年ほど前かな?灰色オオカミの単種大暴走に被災したことがあるの」


 単種大暴走とは一種類の魔獣のみで構成された大暴走のことで、殆どの大暴走は単種と言われている。極稀に複数の種類で構成されたの複種大暴走とあるが、歴史上片手で数えられるほどの回数しか起きていない。


「その時はどうやって防衛したんだ?」


「昔ソーイチローに話したことが無かったかの?魔獣たちが街を攻める方法はな、その数に任せて街の防壁に屍の山を築き、それを踏み台にし乗り越えて攻めてくるんじゃ」


「ああ、そういえばセフィリアが言ってたな。セフィリアの二つ名の”傾壁の白髪鬼”というのが付いた戦いのことか」


 セフィリアは防壁に魔獣の屍の山が出来るまでわざわざ待機し、頃合いを見て屍の山をぶっ飛ばすという力技で防衛したそうだ。それで調子に乗って魔法を撃ちまくってたら、肝心の防壁まで傾かせてしまい、その容姿と相まって”傾壁の白髪鬼”と二つ名がついたそうだ。

 なお、大暴走が起こりそうだから避難するという選択肢は無い。大暴走自体が人間の大量捕食が目的であり逃げても追いかけてくるため、どこかで迎撃しなくてはいけない。それなら防衛機構がある都市のほうがまだマシ、という訳だ。老人子供だけ逃がすという考え方も無い訳ではないが、避難中に襲われる事も多々あるためあまり現実的ではない。また、魔力が多い女性のほうが遠距離攻撃魔法に優れている場合もあるため立派な戦力として数えられている。


「うむ、そうじゃ」


 セフィリアはその二つ名があまり好きではないのか若干渋い顔をしている。そして何故かギザルムも渋い顔をしているが、その理由は伺えなかった。


「まあ大暴走が起きるって確定したわけじゃねえ。大暴走が間違いで、ゴブリン達の単なる異状増殖でしたーってこともあるからな。それでだ、セフィリアが何故大暴走が起きるかもしれんと考えた根拠を教えてくれ」


「良かろう。そのために来たのだからな」


 そしてセフィリアはギザルムに対して自身が見たことを説明し始めた。要約するとゴブリンの目撃数と異常行動が理由だそうだ。普段は居ないはずのところでゴブリンを見かけ、疑問に思い森の中を散策したらゴブリンの数が異様に多かった、らしい。セフィリアの庵の近くでみたゴブリンの焦げ跡もその一例だそうだ。

 ひと通り話を聞いたギザルムはセフィリアに礼を述べた。


「…セフィリア、情報助かったぜ。まだ確証を持てないが有用な情報だった。幾つかの調査団が帰ってきたら確定できるだろう。まあセフィリアがフィールの防衛のために戻ってきてくれたから、今回の防衛は随分と心強くなったな」


「ん?ワシがフィールに来たのは防衛が目的ではないぞ。そっちはオマケじゃ、オマケ」


 防衛の見通しが立ったと考えて笑顔を浮かべていたギザルムの顔が、口が半開きのまま固まっていた。ギギギギと音がしそうなぎこちなさでギザルムはセフィリアに尋ねた。


「まさかすぐにフィールを立つのか?!」


「いや、しばらくいるぞ。他に主たる用事があると言ってるだけじゃ。防衛も手伝ってやるが…まあその必要も無い気がするがな」


 セフィリアはこちらをチラッと見ながらそう答えた。

 ホッとしたのも束の間、ギザルムは今度は疑問符を顔に浮かべた。この人も表情豊かだな…


「どういうことだ?」


「まあ見通しが立ってからまた来る。悪いことにはならんから気にせず職務に励め」


「職務に励む間に俺の頭がハゲそうだ…」


「依頼を寄越せば育毛剤の材料を採ってきてやるぞ?」


「その前に俺を安心させてくれよ…あと嫁さんがそんな金出してくれねえよ…」


 そんなボヤキだか嘆願だか分からない呟きをしているギザルムと2,3の言葉を交わし、冒険者ギルドを後にした。

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