印籠
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そうして俺はセフィリアを連れて音の鎖亭に向かった。音の鎖亭に辿り着き扉を開けると、昼食後の掃除中なのか女将さんは椅子をテーブルに上げ床のモップがけをしていた。
「こんにちは、女将さん」
「はいはいってあらソーイチローじゃないの!お帰り!また泊まってくれるのかい?」
「ええ、またお願いできれば。今度は二人部屋ってあります?」
「あらあらまあまあ、あら、こりゃまたとんでも無い別嬪さんじゃないかい!どこで捕まえてきたんだい?あんたも隅に置けないねぇ!いい女にはいい男が近寄るってもんだし、あんたはいい男なんだねぇ。で、どこで知り合ったんだい?冒険者仲間かい?そこのお嬢ちゃんも冒険者なんか辞めて身を固めたほうがいいんじゃないかい?綺麗な顔に傷がついたら大変だろ?」
「いやあの女将さん、予約…」
「あっはっは!台帳みるからちょっと待ってておくれよ…えーと、ちょうど今日空いたね。とりあえず一週間でいいかい?」
ちらりとセフィリアのほうを見たが、特に異存は無さそうだった。
「それでお願いします」
「あいよ、食事やらなんやらも以前と同じで?」
「同じで」
「あいよ、それでそのお嬢さんとの…」
「あーーー!用事思い出した!急ぐんで失礼しますね!」
強引に話を区切って、セフィリアの背中を押しながら音の鎖亭から飛び出す。そうじゃないといつまで立っても引き止められそうだ。
「くっくっく…随分と変わったもんじゃの」
「あれ、ここ知ってるの?」
「まだ先代が居た頃に泊まったことあるの。今の女将がまだ花も恥じらう少女だった頃に一度会ったことあるはずじゃな。あの頃は随分とお淑やかじゃったのになぁ…」
後で女将さんをからかうとしよう、今日のマシンガントークの仕返しに。
そして俺たちはそのまま冒険者ギルドに向かう。ギルドに到着するなりセフィリアは迷いなく受付嬢のほうに向かっていった。
「こんにちは、どのようなご用件でしょうか?」
「小僧おるか?じゃなくて、ギルドマスターだったかの。取次をお願いしたいのじゃが」
「ご予約はされていますか?」
怪訝な顔をしながら受付嬢は聞き返した。セフィリアがどうするのかと思えば冒険者ギルドの印章を受付嬢にそっと見せると、彼女は一瞬固まった後、勢い良く座席から立ち上がり、
「しょ、少々お待ちください!すぐに確かめて参ります!」
と、元気よく了承してくれた。しかし受付嬢が勢い良く椅子から立ち上がったため、ガタンと後ろに倒れ大きな音を出してしまい、ギルド内の注目を集めることとなった。
余計な注目を集めることになったセフィリアは若干機嫌が悪くなったような感じはするが、被ったままのフードのおかげで表情までは見えなかった。
俺はセフィリアの左手にある冒険者ギルドの印章を指差しながら小さく耳打ちした。
「それ随分と威力あるね」
「それだけ重いということじゃ」
「今度悪人がいるところに乗り込んでさ、左手の甲を掲げながら「控え控え控えおろう!こちらにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くもSランクのセフィリア様であらせられるぞ!一同、頭が高い!控えおろう!」ってやってもいい?」
「たまにお主が何を言ってるのかさっぱり理解できん時があるな…」
ジト目のセフィリアを見ていると、先ほどの受付嬢が急いでこちらにくるのが見えた。
「ギルドマスターがお会いになるそうです、どうぞこちらへ」
受付嬢は後ろから見ても分かるほど緊張しながらギルドマスターのいる部屋まで案内をしてくれた。
「お連れしました」
「入れ」
俺も必要なのかどうか判らず付いてきてるがいいのだろうか?まあ咎められないうちは付いていこう。一緒に部屋に入ると、部屋の中には目にくまを浮かべたギルドマスターのギザルムが書類に埋もれていた。
セフィリアはそんなギルドマスターの様子には頓着せず、今まで被っていたフードを外して勝手にソファーに座りギルドマスターに声を掛けた。俺も座っていいのかこれ…
「久しぶりじゃな、小僧」
「やっぱりセフィリア婆かよ…ってか、もう小僧って年じゃないんだから勘弁してくれよ…」
「婆………?」
セフィリアはギザルムを見ていた目をスッと細め、凍てつく視線を向け灼熱の釜の蓋を開けたような空気を発し始めた。そんなセフィリアを見たギザルムは冷や汗を垂らしている。
「セフィリア…様。私もいい年なので小僧はお許し下さい」
「素直にそうして言えばよいものを…それでソーイチロー、何をぼうっと突っ立っておるのだ?横に座ればよかろう」
セフィリアは座っているソファーの右隣りをポンポンと叩きながら促してきたので、そのまま座ることにした。その様子を見たギザルムは、
「そういえばソーイチローはセフィリアの弟子っつってたな…」
ギザルムのセフィリアに対する敬称が消えたのは、昔の呼び方に戻っただけだろう。
「しっかしセフィリアとも久しぶりだな、いつ以来だ?」
「5年振りくらいじゃな、お主が変な依頼を寄越した時以来じゃ」
「もうそんなに経つのか…んで、今日はどうしたんだ?弟子の様子を見に来たって訳じゃないんだろ?」
「当たり前じゃ、一つ確認したくてな。魔獣の…ゴブリンの大暴走の兆しがあるのではないか?」
セフィリアはまるで夕飯のメニューを尋ねるように気軽に、一方そう言われたギザルムは眉間のシワを倍増させることになった。




