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墓王!  作者: 菊次郎
帰宅
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憧れ

ご覧いただきありがとうございます。


11話くらい連日投稿となります。

 翌朝、ゆっくりと意識が覚醒していくと右腕にはセフィリアの頭が乗っかっていて、右腕が痺れていて言うことが利かない。心地の良いしびれなので気にはならないが。

 俺が起きた気配のせいかセフィリアも続けて目を覚ましたみたいだ。


「おはよう、セフィリア」


「うむ…おはようソーイチロー…」


 ムニャムニャと言いながらこちらのほうに頭を乗せてくるセフィリアも可愛いがいい加減起床の時間だ。


「セフィリア、今日はフィールに向かうぞ」


「…ああ、そうじゃった、一体何年ぶりのフィールかのぅ。いい加減起きるか…」


 セフィリアはベットから抜け出し、んーー、と言いながら伸びをしていた。一糸纏わない姿であるため、背中まで伸びた朝日に輝く白髪や括れた腰、肉付きの良い尻など均整のとれたセフィリアの後ろ姿を見ていると、視線に気づいたセフィリアは、


「散々弄くり回しておるのに、まだ見るのか」


「意外と飽きが来ないもんだよ?」


「ではワシも飽きられないよう努力するとするかの」


 と、セフィリアはカラカラと笑いながらいつもの衣装を着始めた。いい加減に俺も朝の甘い空気から抜け出すとしますか…


 そのままいつもの朝食に干し肉と何かの葉っぱと果物という朝食…というか夕食も同じメニューな気もするが、それを胃に収めた。そろそろこのメニューもどうにかならんものか…って、そうだ。


「セフィリア」


「なんじゃ?」


「例の魔力欠損症の一家だけどさ、母親のほうをセフィリアのメイドとして雇えないか?元々メイドとして貴族の屋敷で勤めていたらしい」


「構わんぞ、それくらい」


 ミストさんの話だとティアラとコロネを俺に付けるという話はしていたが、ミストさん本人の話が上がっていなかったんだよな。もし魔力が回復して動けるようになれば、いい働き手になるだろう。

 というか…この庵、ぶっちゃけ汚い。セフィリアはいい女なんだ、いい女なんだが…家事全般が全滅なんだ。唯一洗濯だけは魔法具があるため問題は無いが、炊事(いつも同じメニュー)と掃除(たまに風の魔法で埃を吹き飛ばす)が兎に角残念なんだ。これをミストさんに是非改善してもらいたい、割りと切実に。


「ありがとう、じゃあ朝飯終わったら出立でいいか?」


「用意は出来ておるからな、問題無い」


「あいよ」


 そしてまたフィールへと足を向けてた。今度は一人ではなくセフィリアと一緒なので、フィールへ走り続けるわけにはいかない。前回より時間は掛かっているがセフィリアも共にいるため、同じような森のなかでも飽きが来ることは無かった。森のなかでの生活が長いセフィリアは、あの木の実が旨い、あの草は煎じて飲めば腹下しになる、あのツルの下には長芋がある等その膨大な知識を惜しげも無く披露してくれた。


 それから俺とセフィリアは早歩きで森を踏破し三日後の昼過ぎには再びフィールへと辿り着いた。


 初めて来た時と同じように入場待ちの列の最後尾に並ぶと、他の並んでいた人達がセフィリアに気づきざわめき始めた。何のざわめきかと耳を澄ませば、セフィリアの美貌に驚いていたようだった。新雪の髪に灼熱の瞳を持つ美人が近くにいるのだから、当たり前と言えば当たり前の話しだった。

 しかしセフィリアはそれがとても鬱陶しいのか、周りからの視線を遮断するようにローブに付いているフードを頭に被せた。


「やっぱりこの視線は鬱陶しい?」


「無論じゃ。全く素直に前だけ向いておればいいものを…」


「美人の宿命だから諦めたら?」


「お主に美人と言われるのは嬉しいが…試しにお主がこの視線に晒されてみればワシの気持ちが分かるぞ」


「御免被る」


「貴様…」


 セフィリアはこちらを睨んでいるが、まあじゃれついているようなものだし気にならない。気にならないが…今度は美人と親しげにしている俺に視線が集まる。その好奇と怨嗟の視線が…鬱陶しい、本当に鬱陶しい。


「その視線、鬱陶しいじゃろ?」


「まったくだ。素直に前だけみてればいいのに…」


「ワシの相方じゃから諦めたら?」


「相方なのは光栄なんだけどね、試しにこの視線に晒されてみれば俺の気持ちが分かるぞ」


「御免被る」


「…」


 ブーメランってやっぱり痛いよね。そんな暇つぶしの会話をしてるうちに俺たちの順番が巡ってきた。門兵はいつものコワードらしい。


「こんにちは、コワードさん」


「お、ソーイチローじゃないか。依頼だったのか?」


「ちょっと帰省してました」


「実家が近かったのか。一応規則だからギルド印章を」


「はい」


 左手にある冒険者ギルドの印章に魔力を流し浮かび上がらせコワードに見せる。


「よし、いいぞ。次の人はソーイチローの知り合いか?」


「師匠というか相方というか…まあそうです」


「そうか、あんたの印章も見せてもらっていいか?」


「…」


 セフィリアは黙って冒険者ギルドの印章を浮かび上がらせ、コワードに見せた。それを見たコワードは一瞬硬直し、突然最敬礼をしながら声を上げた。


「ど、どうぞお通りください!」


「どしたの、コワードさん」


「ソーイチロー!この方とどういう関係だってさっきも聞いたな。ああもういい、ちょっと他に知らせることがあるから時間空いたら詰め所まで来てくれ。その時この方との関係も詳しく教えろ!」


 コワードはひどく動揺しているのか、早口で俺に囁きガチガチになっている。


「はあ…いつでもいいです?」


「なるべく早めにな」


「分かりました」


「では自分、次の職務がありますので!」


 と最後まで緊張したままコワードは対応していた。

 俺たちはそのままフィールの街に入り、以前と変わらない喧騒の中に身を投じた。


「フィールも変わらないねぇ。ところでセフィリア、門兵になんかしたのか?」


「一週間も経ってないんじゃから当たり前じゃろ。あと、なんもしとらんわ。冒険者ギルドのランクがSじゃからかの?」


「珍しいのか?」


「珍しいぞ。この国ではワシだけじゃったはずじゃ。他にランクアップした者がいなければ、の話じゃがな」


「ふーん。ところでこの後はどうする?まずは宿を取るとして、このまますぐにミストさんの家に向かう?」


「ふーんって…そうじゃな、最初に宿を取るのは賛成じゃがその家族に会うのは明日にしよう。まずは冒険者ギルドに寄ってもいいか?」


 セフィリアは苦笑いしながら、少し予想外なスケジュールを提案してきた。直行するものだと思ってたんだが…


「そりゃ構わんけど、何かあるのか?」


「少々気になることがあってな、小僧…ギルドマスターにちょっと話を聞きに行くだけじゃ」


「了解。以前俺が泊まった宿でいいか?そこそこの客室で旨い飯が出てくる」


「頼む」


 小鳥の気配しかしないセフィリアの庵とは全く違う、人の気配ばかりあるフィールの雑踏を二人連れ立って歩み始めた。

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