第36話 暴走する承認欲求と、真実の傷
第36話 暴走する承認欲求と、真実の傷
ドクン……ドクンッ!!
ルカの口元にある『黒いホクロ(呪印)』が、脈打つごとに不気味な膨張を始めた。
「ああああッ!! 見て、僕をもっと見てくれッ!!」
ルカが狂ったように叫ぶ。
その瞬間、観客席にいたクレアを含む熱狂的な女性ファンたちの身体から、赤い光の糸(生命力リソース)が強制的に抽出され、ルカの体内へと吸い込まれていった。
「きゃあああっ!?」
「力が、抜けて……っ」
バタバタバタッ!
生命力を吸い上げられた観客たちが、次々と糸の切れた操り人形のように倒れ伏す。乾いた衣擦れの音がスタジアムに響き渡る。
「う、うわぁぁぁぁっ!?」
膨大なリソースを吸い上げたルカの身体が、メリメリと音を立てて異形へと変貌し始めた。
端正だった顔は醜く肥大化し、全身を覆っていた包帯を突き破って、無数の巨大な触手が蠢き出す。香水が腐ったような甘ったるい悪臭が、スタジアム中に撒き散らされた。
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【SYSTEM MESSAGE】
▶ 異常事態検知:プレイヤー『ルカ』が《バグ・エネミー:承認欲求の化身》へと変貌しました。
▶ クエスト目標が変更されました:暴走個体の討伐。
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「ヒィィッ! なんやアレ!」
安全地帯にいたぽんずとクロイツが悲鳴を上げる。
逃げ惑う観客たち。だが、ハルは一歩も引かなかった。
(ここで逃げたら、また莫大なペナルティを課されるかもしれない)
ハルは極めて打算的な計算を巡らせていた。
それに、あの異形を見て、ハルの脳裏に浮かんだのは、自分たちを守るために『本物の傷』を負い、今も病室で動けないアラタテの背中だった。
(アラタテさんがいない今、壁役は僕がやるしかないんだ……ッ!)
ハルは白銀の盾を構え、無数の触手をうねらせる巨大な魔物と正面から対峙する。
「おじさんを馬鹿にした報いだよ、偽物!」
ハルの背後から、ひとみが悪魔の衣装を翻し、巨大斧を構えて跳躍した。
彼女の眼には、アラタテの『真実の傷』を愚弄したルカへの静かな殺意が宿っていた。
「ギィィィィィィッ!!」
魔物が咆哮を上げ、四本の巨大な吸血触手をハルめがけて突き出した。
まともに受ければ、全身の血とリソースを吸い尽くされる致命の一撃。
「遅い!」
カィィィンッ! ガキンッ! ギギギギギギッ!!
ハルは極限の0.01秒パリィで、四本の触手の攻撃軌道を全て『足元の石畳』へと弾き落とした。
地面に突き刺さり、身動きが取れなくなった触手。
「ひとみ、今だ!」
「うんっ!」
ハルは自らが弾き落として固定した触手を『立体的な足場』として逆利用し、魔物の巨大な顔面へと向かって一気に駆け上がった。
ひとみも反対側の触手を駆け上がり、魔物の退路を完全に塞ぐ。
「ギギィッ!?」
魔物が慌ててハルを振り払おうとするが、ハルはすでに、巨大な醜い顔面の真正面に到達していた。
「僕をもっと見ろと言ったな」
ハルは一切の防御を捨てた。
白銀の剣を『逆手』に構え直す。
「なら、その醜いテクスチャのバグごと、切り落としてやる」
氷のように冷たい無機質な瞳が、魔物の口元にある『0.1ミリ浮いた黒いホクロ(呪印)』を正確に捉えていた。




