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推しのパラディン様 —美貌の騎士は懐も肝っ玉も極小。見栄と気合で死線を凌ぐ顔面国宝を、限界オタク女子が見守ります—  作者: あめたす
第1章 国宝級のパラディン様

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第1話 最悪の箱庭と産廃パラディン

第1話 最悪の箱庭と産廃パラディン


「……残り、ポーション一本。……って、アホか! 誰がこんなふざけた仕様で生き残れるっちゅーねん!!」


 湿った土と腐葉土の匂いが立ち込める霧の森で、ぽんずは空になったガラス瓶を握り潰さんばかりの勢いで叫んだ。

 端正な顔立ちを台無しにする凄まじい関西弁の怒声。隣に立つ黒ローブの少女、クロイツが青ざめた顔で杖を握りしめている。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 現在の接続者数:1,072人

▶ 治癒魔法システムは『調律機関セフィロト』によりロックされています。

▶ 推奨行動:安全地帯での待機

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『キャロライン・オンライン』。

 それは、某国民的RPGを立ち上げた伝説の制作チームが、周囲の莫大な期待を背負い、数年の歳月を費やして世に放ったMMORPGの「到達点」となるはずだった意欲作である。


 しかし、結果は歴史的な大爆死だった。

理由は単純。開発陣のこだわりがコアすぎたのだ。天候による風速計算や装備の摩擦係数に加え、なんと「身体操作の感覚」までリアルに再現される物理演算エンジンを搭載。プレイヤー自身の運動神経や疲労感がダイレクトに反映される仕様は、一般的なゲーマーたちから「面倒くさすぎる」と激しく敬遠された。

 結果、発売から半年で販売価格90%オフの限界過疎ゲーへと成り下がったのである。


 だが、一つだけ奇跡が起きていた。

 キャラクターデザインと世界観のグラフィックだけは、狂気を帯びるほどに美しかったのだ。

 それに目をつけたのが、ぽんずたちのようなオタク女子である。彼女たちにとって、激しい身体操作など関係のない話だった。ただ推しキャラを愛で、景観の良い場所でチャットを楽しむ「3Dの同人サークル会場(あるいはコミケ)」として、このゲームに定住するようになったのだ。


「愚かさこそが、人間」


 そんな矛盾と泥臭さを抱えたまま、90%オフの楽園は平和に回っていた。


 しかし今日、その世界は最悪の死地へと反転した。

 世界を管理するAI『セフィロト』の暴走。彼らは絶対的な「最適解」を強要するため、システムから一切の【治癒魔法】を封印した。かすり傷一つが死に直結する、真のデスゲームの幕開け――。


 いや、事態はもっと深刻だった。

 プレイヤーたちは「ログアウトできなくなった」と錯覚しているが、実は違う。

 彼らは、ゲームの世界へと【異世界転生】させられていたのだ。

 その決定的な証拠に、今、彼らのアバターはすべて「現実世界の容姿」へと強制的に上書きされていたのである。


        


「クゥッ……ぽんずさん、右前方から来ます……ッ。質量、およそ二百キロ……!」

「嘘やろ、こんな序盤の森に『暴れ猪』湧くんかいな!?」


 木々をなぎ倒し、血走った眼をした巨大な猪が姿を現した。

 初心者狩りの壁。普段ならただのチュートリアルモブだが、今の仕様では一発でもかすれば骨が砕け、破産と死のコンボが確定する。


「あかん、距離詰められたら弓は不利や……終わったわ」


 ぽんずが乾いた唇を噛み、死を覚悟して目を閉じた、その時だった。


「――聖騎士ハル、推参」


 冷気を孕んだような、低く静かな声。

 鬱蒼とした森の闇を切り裂くように、白銀の重甲冑をまとった少年が二人の前に立ち塞がった。


 振り返った横顔に、ぽんずとクロイツは文字通り息を呑んだ。

 透き通るような白金の髪。深い夜の湖を思わせる双眸。聖女か騎士姫と見紛うほどの、暴力的なまでの美貌がそこにあった。


「……僕が必ず守ります。指一本触れさせない!」


 完璧なまでの「孤高の騎士」の立ち振る舞い。

 その背中が、圧倒的な安心感とともに女子たちの絶望を払拭し――


 ガシャンッ、ヨロッ。


「……え?」


 前に踏み出そうとした美少年が、重厚な甲冑の重さに耐えきれず、産まれたての子鹿のように激しく体勢を崩した。


「いや足腰バッキバキやんけ!! アンタその装備、ステータス足りてへんやろ!?」

「クゥッ……!」


 ぽんずが秒でツッコミを入れた横で、クロイツは荒い呼吸を漏らしながら鼻血を押さえていた。


「違う、ぽんずさん……よく見て……ッ。分厚い鋼鉄の盾と、それを握る華奢な手首の対比……。あの微かな膝の震えと浅い呼吸は、ステータス不足じゃない」

「は?」

「圧倒的な死の恐怖を前に、それでも私たちを守るために自らを奮い立たせている……武者震い……ッ! 公式からの供給過多……!」

「ホンマか!? ウチらのために、そんな無理して……」


 勘違いである。

 ハルは単に「見た目がカッコいいから」という理由だけで、この世界で最も不要な産廃ジョブ【パラディン】を選んでしまっただけの一直線バカだった。

 しかも、中身は泣きたいほどのビビり。

 (やばいやばいやばい! 猪でけえ! 鎧おっも! でも女の子の前で逃げるのだけは絶対に嫌だ……ッ!)

 心臓の跳ねる音を必死に押し殺し、「自分は今、誇り高き騎士なんだ」という極限の自己暗示(ロールプレイ)で、どうにかパニックを麻痺させているだけだった。


 だが、事実はどうあれ、ぽんずの胸の奥で、今まで感じたことのない焦燥感と熱がドスンと跳ねた。


「ブギィィィィィッ!!」


 暴れ猪が大地を蹴り上げ、時速六十キロの質量兵器となって突進してくる。

 狙いは、一番前に立つハル。


「あかん! アンタじゃ受けきれへん、逃げ――!」

「……っ!」


 ハルは逃げなかった。

 冷や汗に塗れながらも、恐怖に凍りつく体を強制的にねじり、構えた盾の角度をミリ単位で動かす。


-----------------------------------------

【SYSTEM MESSAGE】

▶ 敵性プロセス:『暴れ猪』の突進モーションを検知。

▶ 対象プロセス:パラディン『ハル』

▶ 予測生存確率:0.00%

▶ ――Error:局所的な物理演算の干渉ノイズを観測――

-----------------------------------------


 凄まじい風圧が森をなぎ払い、猪の巨大な牙が、ハルの白銀の盾に激突する。

 ぽんずとクロイツは、美少年の体が無残に砕け散る様を想像し、たまらず目を覆った。


 直後、無機質なシステムアラート音が、森に甲高く鳴り響いた。


最後までお読みいただきありがとうございます!


この作品の制作に入ってからアイデアが止まらなくなりガンガンいこうぜ状態なので、しばらく【7:00】【12:00】【19:00】に話更新いたします!


もし「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の☆☆☆☆☆から評価をいただけますと、毎日の執筆の励みになります!

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