神ってなんだ?
神。
そう呼ばれるものが、この世界には存在する。
それは人を導き、幸せにするものなのだろうか。
神の選択は、いつだって正しいのだろうか。
俺は幼い頃、そんなことを考えていた。
俺の名前は、ガイウス・レム。
どこにでもいる魔道士だ。
……少なくとも、俺はそう思っている。
両親は兵士だった。
そして、戦場で死んだ。
国のために戦い、国のために命を落とした。
俺は、そんな両親を誇りに思っている。
だが、この国では違う。
アルメディオ神聖国。
王政国家ではある。
だが、この国で本当に重んじられているのは、王の言葉ではない。
神の神託だ。
神に選ばれた者。
神に認められた者。
神官と呼ばれる者たちこそが正しい。
そう信じられている。
戦場で死んだ兵士は、神に救われなかった者。
つまり、愚かな者の死。
そう捉える人間すらいる。
兵士だけではない。
商人も、研究者も、果ては王でさえ。
神官でなければ価値はない。
神官にならずば、人にあらず。
そんな言葉が、当たり前のようにまかり通る国だった。
俺の両親は、そうは考えていなかった。
だが、世間は違うらしい。
そして俺は十五歳になり、神官学校に通い始めた。
半ば強制だった。
神官になるには、この学校で認められなければならない。
皆が言う。
神のために。
神のために。
神のために。
それが当たり前で――俺には、ひどくおかしな世界に見えた。
神官学校に通い始めて、三ヶ月が経った。
今、俺はいつも通り教室の椅子に座り、前に立つ教官の話を聞いている。
授業中だ。
授業は楽しいかって?
……よく分からない。
ただ、教室は異様に静かだった。
教官の声。
紙にペンを走らせる音。
それだけが、たたた、と響いている。
誰も喋らない。
誰も笑わない。
静かで、個性のない教室。
そんな中で、ただ一人。
俺の隣で、堂々といびきをかいている男がいた。
橙色の髪。
端正な顔立ち。
寝癖のついた髪。
俺から見ても男前だ。
……なのに、誰も近づかない。
ディール・フォスター。
こいつは授業中、当然のように寝ている。
なのに教官は起こさない。
それどころか、生徒たちも誰一人気にしない。
まるで空気だ。
いや、空気にしてはうるさい。
これが、この国では当たり前だった。
他人などどうでもいい。
神の選択こそがすべて。
皆が同じ方向を向き、同じことを学び、同じように生きる。
だからディールは、誰よりもこの教室で浮いているのに、誰からも見られていない。
やがて、淡々と授業が終わった。
その瞬間、ディールが大きく背伸びをして立ち上がる。
こいつは授業中に寝て、休み時間になると起きる。
何をしに学校へ来ているのか、俺には分からない。
多分、寝に来ている。
そんな変な奴だ。
やる気があるところなんて、ほとんど見たことがない。
だが、それでもこいつは学園最強と噂されている。
俺はまだ、戦っているところを見たことがない。
しかもディールは、ルミナール教会の頂点――教祖ティル・フォスターの息子だ。
血筋。
容姿。
才能。
すべてが揃っている。
普通なら、人が寄ってきそうなものだが。
こいつの周りには、誰もいない。
……まあ、俺も似たようなものだが。
理由は単純だ。
ディール・フォスターは、本気で自分が神を超えた存在だと思っている。
頭のおかしい奴だからだ。
神官を目指す生徒たちからすれば、関わりたくない存在。
つまり、学園一の問題児。
その問題児が、背伸びを終えると、俺の肩を叩いた。
「ガイウス」
「なんだ」
「授業、つまんなかったな」
「……聞いてなかっただろ、お前」
「うーん……そうか?」
「無理やり会話しようとするな」
いつも通りの会話だった。
ディールとまともに話すのは、多分俺くらいだ。
そのせいで俺は、学園で二番目に変な奴だと思われている。
……こいつのせいで。




