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06兄視点/愚かな長男はただ真似をしただけ

 妹が結婚して出て行ったと聞いても「へえ」としか思わなかった。仲が良いわけでもなく、話したこともほぼない。年齢が離れていただけではなく、父が話しかけないならば構うだけ時間の無駄だと思ったから。弟なら話が合うかもしれないが、性別が女となれば話す気は起きない。

 母親があまりにも干渉してくるから父と同じように後をついていけば、家に帰らずに済むと気付き妹と母を残した家を思い出すこともなくなっていた。母からの過干渉が実の娘に向けられていればいるほど、益々実家のことなど忘れて行った。


 自分が受けた物を妹が受けていたとわかってはいたが、女で娘なのだから受け入れるべきだ。男で長男の自分と当主で父親のために。でないと、稀に家に帰ると聞こえてくる「もっと早く帰ってきて」という煩わしい話がまた耳障りになる。


 なんのためにこの家にいるのだと、妹を咎めるように見たら目が淀みこちらを恨みの籠った目で、粘着質に睨みつけていた。ゾッとした気持ち悪さに、いつもより早く家を出るとヒステリックな声もじっとりとした目線もなくなり、ホッとする。


 なぜあんな目で妹に見られなくてはならないのかと、あとから怒りが湧いたがそれもすぐなくなった。ホテルや宿に泊まると女家族たちは目に入らなくなり、忘れてしまうから。


「?……最近、羽振りが悪いな」


 妹が他国に行って暫くした時、母親からの帰宅の懇願の手紙が連日届いたものの父も長男も手紙を開封することもなく、ゴミ箱の近くにある箱に入れるだけ。そうしてまた静かに仕事ができる環境をそなままにしていると、仕事内容に齟齬がで始めた。


 前は契約してくれていたところからの返事が鈍い。一つ返事してくれていた者が今回からは高くなる、無理になったと言われることがじわりと増えてきていた。去年の資料を捲ると、確かに若干減っている。しかし、誤差だから気にすることはない。


 父も変化に気づいたが、理由がわからないので今年だけの反動だと気にしないことになった。一応言ったのだが、最終的な判断は父だ。それでも、全く意見が反映されずに歯噛みした。少しくらい嫡男の話を聞き入れないところが、傲慢なのだ。


 意見に左右されることがないから、あのような人を妻にしていながら今みたいな対応で終わる。少し悔しく思ったが、自分が当主になったら変えるのだ。意気込んでいたのに、なかなか譲ってもらえない立場にヤキモキした。

 だから、いつ継承するのかと相談する軽い口調で言ってみたのだ。もしかしたら「そろそろ」なんて言うかもしれないのだから。


「何を言ってる?」


「え?」


「それより、お前はあいつのところへ帰れ。ラディシャがいなくなってこちらへ意識が向いて煩わしい。馬車を手配しておくから荷物をまとめておけ」


 父の言ったことが分からなくて、無言でいるとこちらを向いた男が眉をひそめて苛立ちも隠さず手を振る。


「話は終わりだ。部屋から出なさい」


「なっ。ですから、後継の話がまだ」


「お前には関係ない」


 関係がないわけがない。妹が嫁に出たので、さらに子供として関係があるからこそ父の後について回ったのだ。何を言っているのだこの人はと。おまけに母のところに送り返そうとしていると聞けば嫌に決まっているのに。


「母といたらまともに仕事も勉強も捗りません。寝るのも難しくなるのですよ?私は、母のお守りなんかでありません」


 なんのために後ろをついて回ったのかと、言いたくなる。しかし、父から来たのは侮蔑と見下した失望の声音。


「勝手に生まれた人間が当主ぶるな。お前などそもそも、予定では十年後ほどして生まれさせるつもりだった。あれが勝手に産んだんだ。ここまで育ててやった恩も忘れて親に意見するか」


「……は?」


 父の言う内容を把握して咀嚼するも、やはり一つもわからない。十年後なんて高齢出産となり、母も子供も無事では済まない。産後のこともそうだ。そんなことをすれば女主人すらいなくなる。


「な、なにを」


「お前たちは勝手に宿っただけの子供だ。偉そうに意見するな。連れ回ってやっただけで、お前の権利などない。賢い頭もそこまで行くと無知だな」


 厄介な息子を見る目ではなく、言うことを聞かない使用人を切り捨てる目をしていた。父にとって息子は駒使いや便利な側近扱いだったのだ。今知った事実に、この人に情など期待してはいけなかったと、ミスに気づく。後継者と思っていたのは父以外。


 ふらふらと部屋を出る。生まれた家に戻ると随分煤けた母親が嬉しそうに抱きしめてきた。気持ち悪くて突き飛ばそうとしたが、この後この家で住み続けるのならば避けて通れない共同生活に爪が皮膚に食い込む。


 妹を生贄にしていたら、次は自分が父に生贄にされた。それを知ったところで妹のされてきたことを思えば、配慮などあるわけもないとわかる。妻を娶ったところで、こんな姑がいるのならば出ていくのはすぐだろう。後継者にならないのならば自分はこの家で一体なんなのだろう。


 じわじわと締め付けられるように落ちぶれていく未来も知らず、同じように帰ってくる父親に長男の男はどうするのか。仄暗い瞳を浮かべた瞳は、かつての妹のよりもどろりとしていた。無意識に格下扱いしていた人間より、下層に叩き込まれた人間のいる家はさらに暗くなる。


 手紙を送れど返事はない。かつて、妹からの手紙を無視したことを棚上げし恨みを募らせる。執務室で頭を手でかきむしる姿は、捕食者に食べられかけてもがく姿に酷していた。

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― 新着の感想 ―
兄がもっと頭が回るのなら、父親の発言を自分は父の血を引いてない様なので…って曲解して家を出ていく口実に出来ただろうに… 父親が現時点ではさしてダメージ無いのが腹立たしいですが、その内同じ目に遭うんだろ…
兄視点により謎が深まる。 母はダメ人で兄は親見て学習し人でなしになって、父は押し付けられたのかしら、托卵かしら、ただのダメなのかしら、と気になっちゃった。 主人公視点だから主人公は常識人に感じるし社交…
兄も屑だが父親のが屑とアホ度が高かった。だが屑父ももうすぐドールハウスの仲間入り。
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