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「おいっ! ばかっ! そんなことするわけないだろう! いいから、あっちに行ってろ! 俺は大事な話をしているんだ!」
ジョシュアがレイリを叱りつける声がした。
「どうして!? だって約束したのに!!! もう、なによ! こんなもの!」
苛立たしそうなレイリの声が聞こえた瞬間に通話が途切れた。
アリシアは呆然と何も映らなくなった画面を見つめる。
もう一度かけ直すが繋がらない。向こうからの着信もない。
もしかしてレイリが魔道具を壊してしまったとか、奪ってしまったとか……何かあったのかもしれない。
(せっかく楽しく話していたのにな……)
どうしても寂しい気持ちがこみ上げてくる。
就寝前にもう一度連絡しても繋がらなかったので、諦めて寝ることにした。
今頃はレイリと何をしているんだろうかと考えるとモヤモヤが止まらない。
彼女は十三~十四歳くらいか……。恋するには十分な年齢だ。幼い頃から慕ってきたジョシュアを男性として恋してもおかしくないし、いとこ同士は婚姻できるのだ。
そんなことを考えている場合じゃないのにと自分を戒めながらも、アリシアは何度も寝返りをうって眠れない夜を過ごした。
***
それから数日経ってもジョシュアから連絡が来ることはなかった。
国王らもブレイクと連絡を取れずにいるそうだ。
「きっと移動で忙しいのだろう。今は彼らを信じて静観するしかない」
国王は自分に言い聞かせるように頷いた。
***
コリンがアリシアから離れようとしなかったので、翌日から国王の謁見に同席する必要はなくなり内心彼女は安堵していた。
国王らとの食卓ではコリンの席も設けられ、真っ白い子犬の顔をした少年は行儀よく座って大人しく食事を口に運んでいる。
朝食後、コリンと一緒にお絵描きをしながら、アリシアは彼の家族について尋ねてみた。
彼は現在八歳だという。慣れてくると発する言葉も明晰で賢さが伝わってくる。
コリンはスコット王国の森の中で家族と一緒に生活していたが、突然住んでいた家が襲われて攫われたという。
国王が、彼の家や家族がどうなったかを調べる手配をしてくれたと説明するとようやく安心したように笑顔を見せた。
***
その翌日に事件が起こった。
夕食が配膳された時に一緒にテーブルについていたコリンはふんふんと匂いを嗅ぐと、アリシアのドレスの裾を引っ張った。
「アリシア、この食事の中には薬が入ってる」
コリンの言葉にアリシアは目を丸くした。
「どんな薬? 匂いで分かるの?」
コリンは泣きそうな顔で訴えた。
「アリシア……僕、この薬、知ってる。これは人を操る薬だよ」
「え!?」
パニックになったせいか支離滅裂なコリンの主張を辛抱強く聞き取ると、彼の家族は食事にこの薬を混ぜられたらしい。
獣人は普通の人間を上回る遥かに強い力がある。物理的な力だけじゃなく魔力も高い。
だから、通常人間は獣人には手出ししない。逆襲の方が恐ろしい。
しかし、コリンの家が襲われた時、両親や兄は戦おうとせずに命じられるがままだったという。
幼い獣人は高く売れる、とコリンが攫われた時にも何も抵抗しなかった。
その前日に、いつも食料を納入する商人が新しい調味料をサービスしておくよ、と家に置いていった。
その調味料を使って料理をした日の夜におかしくなったから、それが怪しいとコリンは疑っているそうだ。
「その時の調味料の匂いがするのね?」
「うん……僕達が食べても平気だったし、害があるものだとは気がつかなかった。少し甘い匂いがするんだ。でも、犬の僕だから分かることで、普通の人間は気がつかないと思うよ」
アリシアとコリンの会話を聞いていた国王が侍従に言いつけ、食事の分析のためにポーションマスターが呼ばれることになった。
そして、驚くべきことに食事の中には実際に『魅了』という人をコントロールできる薬が入っていたのだ。
「いや、本当に召し上がる前に気がついて良かったですよ。これは毒ではないから銀器は変色しないし、命に別状はない。しかし、摂取すると判断力が下がり暗示にかかりやすくなる。人間を操ることができる非常に危険な薬です。植物から抽出した薬品に魔力を籠めるのですが、完全に違法ではない国もあるので厄介です。独特の匂いがあるというが普通の人間は気がつかないでしょう。コリンくん、お手柄でしたね」
ポーションマスターから褒められてコリンは顔をほころばせた。
しかし、国王の表情は硬い。
「疑いたくないが……誰が食事に混ぜたのか取り調べなくてはならないな」
彼は深く溜息をついた。




