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「ギャレット侯爵が私を!? まさか……失礼ながら碌に顔も存じ上げないくらいなのに? ……何故でしょう?」


狼狽えるアリシアにウィローは苦笑した。


「分かりません。でも……もしかしたら、スウィフト伯爵領が欲しいのはジョージなのかもしれませんね。皆さんは、グレースがスウィフト伯爵家を狙っていて、それをジョージが支援している、というようにお考えのようですが、私は逆の可能性があると思っています」

「逆……というと?」


ジョシュアも戸惑っている。


「ジョージは何らかの目的があって、スウィフト伯爵家が欲しかった。だから、グレースを利用して、それを手に入れようとしていた、と考える方が私にはしっくりきます」

「ギャレット侯爵がスウィフト伯爵家を狙っている? そういえば、アリシアの父君はギャレット侯爵に強引にグレース夫人と結婚させられたそうだが……」


顎に手を当てて考え込むジョシュアの呟きを聞いてウィローは頷いた。


「なるほど、そうなんですね。私が離縁された後の出来事だと思いますが……。だとしたらやはりジョージがアリシア様を狙っているような気がします。スウィフト伯爵家にはジョージが欲しいと望む何かがあるのでしょう」

「スウィフト伯爵家に……? それは何でしょうか?」


呆然と呟くアリシアにウィローは静かに首を振った。


「私には分かりませんわ。ジョージは権謀術数に長けた人間です。例えば、私がジョージと婚約してから父はギルモア侯爵家の後継ぎとなる養子を探していました。でも、何故か必ず話が途中で頓挫するのです。先方から辞退されたり、事故で亡くなったり……。ですから、私がジョージと結婚した時にもギルモア侯爵家には後継ぎが決まっていない状態でした」

「まさか、それで……?」


アリシアの顔が青褪める。


「はい。それで、ジョージはギルモア領をギャレット領に併合しよう、という主張を始めたのですわ。後で分かったことですが、実はジョージが裏で全て糸を引いていたようです。もちろん、証拠はありませんが……」

「力を得るために手段を選ばないという噂通りの方ですね……。つまり、彼にとってスウィフト伯爵家に何らかの利があるということか」


ジョシュアは呟く。アリシアは内心混乱していたが、平静を装いウィローに頭を下げた。


「分かりました。ありがとうございます。あの、それから……ギャレット侯爵邸の内部は良くご存知ですよね? アーロンのご家族がどこに監禁されているか調べたいのですが邸内の様子を教えて……」


アリシアの言葉をウィローは遮った。


「もし、アーロンの家族がギャレット侯爵邸にいるのが見つかったら、ジョージは申し開きできなくなります。あの人は自分の安全を確保した上で悪だくみをするのです。ですから、人質はギャレット侯爵邸にはいないと思います。確かに、あの屋敷は迷宮のように秘密の通路や隠し部屋がありました。他の貴族の密偵を監禁して情報を得ることもあったようです。でも、今回は自分の屋敷に人質を置くのはリスクが高すぎます。王族の視察中に起こった傷害事件ですからね。強引な家宅捜索の可能性もゼロではありません」


「なるほど……では、人質はどこに?」


ジョシュアの質問に、ウィローがふっと微笑んだ。


「たとえ人質が見つかってもジョージが『自分は関係ない、知らなかった』と言い訳できる場所。それでいて、利害関係が一致する人間が住んでいる場所……」


ジョシュアとアリシアはウィローの顔を食い入るように見つめた。


「……恐らくですが、グレースが人質を隠しているのではないかと思います。万が一見つかっても罪はすべて彼女になすりつけることができるでしょう?」

「お継母さまが?」


衝撃を受けるアリシアだが、言われてみれば納得できる。


「アーロンにアリシア暗殺を命じたのはグレース夫人。そして人質を隠していたのもグレース夫人、となると確かに彼女が全ての真犯人らしく見える。……ということは、やはりスウィフト邸に?」


ジョシュアの質問にウィローは頷いた。


「スウィフト伯爵邸に監禁されているのかもしれません。現在アリシア様はそこに住んでいらっしゃらないのでしょう?」


「た、たしかにそうですけど……」


思わぬことを指摘されてアリシアは呆然となった。しかし、困惑と同時に、誘拐、監禁のような物騒な犯罪にスウィフト邸を利用するなんて、と強い怒りも湧いてくる。


「スウィフト伯爵家にもきっと秘密の通路や隠し部屋はありますわね?」

「はい。父が生前に教えてくれたので、私も知っています」

「それにあなたはスウィフト伯爵家の次期当主なのだから、堂々と捜索することができますね?」


ウィローがニッコリと微笑んだ。


***


「え、もう帰るの!?」


スカーレットは驚いたが、人質となっているアーロンの家族のことを考えると迅速に行動した方がいい。


ウィローは城のエントランスまで見送りに出てきてくれた。


彼女の隣には精悍な顔立ちの壮年の騎士がピッタリと寄り添っている。


「正式に婚姻はしていませんが……ずっと私を守ってくれている夫です」


照れながら紹介された騎士は、ギャレット侯爵夫人だった頃から護衛を務めていたらしい。


もちろん、その頃に不貞の事実はなかったが、ウィローが一方的に離縁されギャレット侯爵家から追い出されたことに憤った彼は一生彼女についていくと誓ったそうだ。


一緒に追い出された息子たちとも仲が良いらしい。


ウィローたちがギルモア領で幸せに暮らしている様子が見てとれて、アリシアは嬉しかった。


「現ギルモア侯爵には感謝してもしきれませんわ。私が離縁された時には、爵位を私に返還するとまで言ってくださったんです。でも、私がただ平穏な生活を送りたいだけと知ると、ギルモア領で暮らせるように手配してくださいました。私たちはこの城に住んでいる訳ではありません。誰にも知られない場所に家を用意してくださって……。余計な詮索をされないように、私の消息は誰にも分からないようにしてくださいました。スカーレット、どうか、お父さまとお母さまによろしく伝えてね」


そう言ってウィローはスカーレットに笑いかけた。


「はい! お父さまとウィローおば様は仲が良くて、私は子供の頃にウィローおば様を訪ねてギャレット侯爵邸に行ったことがあったの」


ウィローは憂いのない笑顔を浮かべる。きっとギャレット侯爵家に居た頃よりも遥かに幸せな生活を送っているのだろう。


アリシアたちは大きく手を振って、王都へ戻る馬車に乗りこんだ。

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