表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/76

50

王都に戻ってすぐにブレイクに報告をすると、彼は難しい表情で顎に手を当てて考えこんだ。


「ギャレット侯爵自身がスウィフト伯爵家を狙っている? ……密偵を監禁して情報を集めている? 諜報が行方不明になる事件が多くなったのは事実だが……」


彼の眉間に深い皺が寄る。


「分かった。こちらで調査しておく。ところで、スウィフト伯爵家についてだが、領地の管理人、マシュー・ゴードンと言ったな? 彼から最近連絡はきたか?」


「いえ、まったく。私はこの世界に戻ってきてすぐに彼に手紙を書いたのですが、その返事もきていません」

「そうか」


そのままブレイクは黙りこんだ。


「あの……殿下、人質を早く救出すべきではないでしょうか?」


恐る恐るアリシアが尋ねるとブレイクはハッと顔を上げた。


「もちろんだ。ジョシュア、第二騎士団を率いてスウィフト邸の家宅捜索をしてくれ。アリシアが許可しているのであれば法律上問題はない。今後、二人とも死ぬほど忙しくなるから覚悟しておけよ!」


ブレイクは見事なウィンクを決めた。


***


その言葉は嘘ではなかった。


驚くほどのスピードで様々なことが起こったのである。


まず、アリシアとジョシュア率いる第二騎士団がスウィフト伯爵邸に乗りこんだ。


屋敷を警備しているスウィフト騎士団はアリシアに忠誠を誓っている。何の抵抗もせずに通ることができた。


当然ながら、グレーズとイザベラはギャーギャーと喚き散らし、使用人たちにアリシアたちを止めるように命じたが近衛騎士団に敵うはずもない。


アリシアが隠し部屋や隠し通路を次々と開けていき、ついにやつれた女性と少年が閉じ込められているのを発見した。


彼らはすぐに保護され、医師の診察を受けるために王宮に搬送された。


衰弱はしているものの二人とも命に別状はなく、少年に対しては薬が投与され、徐々に元気な様子を見せはじめたという。


アーロンは家族に面会した時、男泣きに泣いたそうだ。


そして、積極的に取り調べに協力し、グレースからの依頼であったと証言する供述書を作成した。


アーロンも実行犯としての罪は免れないが、裁判に出廷して証言する気満々である。


グレースとイザベラは略取・監禁容疑で拘束され、王宮で取り調べを受けることになった。


当初は変わらずエラそうに喚き散らしていたが、王宮の地下牢に入れられた後はさすがに大人しくなったそうだ。


ギャレット侯爵に泣きついて、釈放してくれるよう必死に懇願しているらしい。


だが、彼は弁護人の手配はしたものの積極的に救いの手を差し伸べようとはしなかった。


自分の全くあずかり知らぬところでグレースたちが勝手にしたことだ、と全面的に関与を否認したのだ。


ウィローが予測した通りである。


『もし、お前がグレースのことを一言でも漏らしたら……お前の家族の命はない。妻と子供は既に捕えているからな』


ジョージ・ギャレットはアーロンにそう言ったらしい。


しかし、アーロンの証言以外に直接的な証拠はない。


ギャレット侯爵は『そんなことを言った覚えはない』の一点張りだ。


確定的な証拠がない限り、言った言わないの論議には終わりがない。


結局ギャレット侯爵を起訴するだけの証拠が足りず、王宮としては立件を見合わせる結論となった。


***


ジョシュアは人質を発見した立場なので多くの書類仕事や残務処理が忙しく、アリシアは伯爵家の立て直しに忙殺されていた。


アリシアと古参の使用人は全員スウィフト伯爵邸に戻ってきた。グレースが雇用した使用人たちは基本的に解雇したが、新たに雇い入れた者たちと協力して屋敷は再び機能し始めた。


混乱を極めたスウィフト邸だったが、アリシアたちが迅速に家政をまとめ、騎士団も目を光らせていたおかげで、大きな問題もなく邸内は落ち着いたようだ。


しかし、スウィフト邸に戻ってきたことでジョシュアとの接点が無くなった。


(お互い忙しすぎて、もうしばらく会ってないなぁ……)


アリシアはジョシュアを想って密かに溜息をついていた。


(ジョシュア様に会いたい。目が合うときりっとした顔が緩んで、赤い瞳がすごく優しくなって……口づけくらいしてくれればいいのに……)


思わず不埒なことを考えてしまい、アリシアは頬を赤く染めた。


(ダ、ダメよ! 何を考えているの!? 私!?)


慌てて自分を叱咤する。


(ジョシュア様も寂しいと思ってくれているのかしら?)


「……会いたいな」


アリシアは独り言ちた。


***


グレースたちは綿密な捜査や取り調べの後、脅迫罪、誘拐罪、監禁罪で正式な裁判が行われることとなった。アーロンの証言と彼の家族が実際に監禁されていた事実で十分な証拠になるだろう。


伯爵夫人と伯爵令嬢の犯罪というセンセーショナルな話題のため、この裁判は世間の注目を集めている。


ブレイクはこれを機会に大きく司法改革を行おうとしていた。


アリシアが異世界から持ちかえった指紋を物的証拠に使う考え方は、法曹界でも大きな話題になっている。


今後、犯罪捜査において指紋を証拠として使用できるように、国の諮問機関である評議会や法曹関係者らを招いて実証実験を行うことになった。


既に指紋を検出する魔道具は完成しているし、どのように運用するかというガイドラインも作成済みだ。


この新しい魔道具についてはブレイクが統括責任者で、運用方法やガイドラインについては法務官のカラムが担当しているので、アリシアは特に何かするわけではないのだが実証実験には参加して欲しいと依頼されている。


(一体どんなことになるのかしら?)


アリシアは密かに実証実験を楽しみにしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ