スライムの分裂
ナナギとファクトは、毎日札を持って祈りそれぞれ魔法のレベルが1あがっていた。
これで、初級の攻撃魔法【球】、いわゆるサンダーボールやダークボールが使えるようになったのだ。
使えるようになったからといって、魔法を実際に試してみるのはまだまだ先だろう。
起動札は一度使うとアイテムとしての効力をなくしてしまう。
そして、なんだか怪しいナナギの起動札を二人の前にだして魔法を使う勇気は、彼にはまだない。
忙しい収穫期が終わり、手の空いた子供たちがちらほらとスライム叩きにもどりはじめていた。
今までの稼ぎ放題(と言っても微々たるものだが)独占状態も終わり、以前と同じようにスライムを見つける競争になった。
(《索敵》スキルのレベルが1上がってくれたおかげで、周りにライバルがいても前に比べたらスライムを見つける数が増えた気が、する)
周囲に似たような子供たちがいても、以前より一匹か二匹倒す数が増えた気がするだけの変化だが。
それでも、それが毎日続けば塵も積もれば山となる、馬鹿にできない数値となるのだから、《索敵》さまさまであった。
「そろそろ寒くなってきましたよね、冬の間もスライムって出てくるんですよね」
このあたりは、冬でもあまり厳しい寒さにはならないらしい。
雪がちらほらと降りはするが、どっしりとは積もらない。
農業中心の家は伝手があるものは町に出稼ぎに行ったり、寒さに強い作物を育てながら家で内職をしたりして稼ぐ。
村にいる子供たちは、防寒をしていつものようにスライム叩きをするようだ。
飲み水を確保できるスライムの核を集めたり、あとは年初めの祭りにつかうお小遣いを手に入れるかきいれどきとして、躍起になるらしい。
「冬の間、動物みたいに冬眠してスライムが出なくなった困るひともいるんじゃないかな。うちだって、スライムの核で水を手に入れてるし、出てもらわないと困るよ。
それと、冬になると珍しいスノースライムが出てくるかもしれないんだ。魔核が手に入ったら、ふつうのスライムの核よりもお金になるんだよ」
ギルドではスライムの小さな核は取引しないが、スノースライムという品種の核は違うらしい。
「ほほう、そんなものがいるんですね」
「スノースライムの皮は氷属性の攻撃アイテムの材料になるし、核は水を氷に変えることができるから、夏に重宝されるんだ」
(レア物との遭遇率が上がる《発見》スキルのレベルは2になったし、冬になったらスノースライムと会えるといいなあ。っと。スライム発見!)
「見つけました!」
ナナギはぽこんと草むらからわいたスライムをゴミ槍で突いた。
突かれた勢いでスライムが勢いよく飛ぶ。飛んだはずみを利用して、スライムのボディがいままでにないほど勢いよく高く跳び上がる。
「わあ、やりすぎだぞナナギ!」
「加減! 加減しないと」
「す、すみません!」
以前の本気と、槍スキルレベルがあがった本気は威力が違いすぎていて、力加減を間違えてしまった。
あの高さから落下して頭に直撃したら危険だと、板の盾で頭を守りながら三人は散開する。
あわやというタイミングで地面に着弾したスライムは、水風船のように破裂するかと思いきや、ぐにゃん、とゲル状の体を四方に拡げるとそのままよっつの体に分かれたのだ。
「分裂だ!」
ファクトが声があげた。
それはスライムを一度に何匹も相手にしなければならないとおびえているというよりは、10ギムの稼ぎが一度に40ギムの稼ぎに増えたという喜びであった。
収穫期のときからファクトとネイヴァンはクラスレベルがあがり、いまではナナギとおなじレベル5だ。
ネイヴァンは剣スキルをひとつあげ、攻撃が一段階力強くなったし、ナナギとて槍レベル3にあがっている。
ファクトの剣レベルは1のままだが、スライムの動きになれて体捌きが向上し、あやうげなくスライムと戦える。
自信がついていてる子供に、四匹のスライムに怖がる理由はなかったのだ。
「ファクト、油断大敵だからね!」
分裂した直後でまだ動き出せないスライムを、ネイヴァンは思い切りゴミ剣で叩いた。そのたった一撃でぶしゅっと音をたてて青いスライムが破裂する。まともな売り物にはなりそうにないくらい、大きな穴が空いていた。今日一番の威力が高い攻撃だった。通常、いかな才能のあるネイヴァンであろうともゴミ剣ではここまで威力はだせない。会心の一撃が発生したのだ。
「会心の一撃、お見事!」
ナナギは喝采を投げながら、もっとも手近にいた槍で突く。今度は飛ばしたりしないよう鋭い突きを意識する。
ぼこっ、体に大きな凹みができるがまだスライムの皮に穴があかない。
「やあっ! えい」
ファクトは掛け声をあげながら、ナナギのゴミ槍に突かれて損傷したスライムを何度も叩く。
ネイヴァンは硬直が解け動き出したもう一体のスライムの攻撃を板盾でいなした。
(三匹で同じタイミングでぶつかってこられちゃたまらないからな)
ナナギはスライムの一匹と距離を取るために、加減してスライムを飛ばす。極力、スライムを上空に飛ばさないよう注意を払って転がした。
「お、ラッキーこっちにくれんのー?」
ちょうどスライムを探している別の集団のほうに飛んでいってしまったようで、歓声があがった。
「おあ、失敗」
「ナナギ! よくやった! ファクトと一緒に一匹をしとめて! マッチスー、そっちの一匹は任せた!」
ネイヴァンは三匹同時に相手どりたくないため、ナナギの失敗をむしろ誉めた。板盾をスライムに押し付けて動きを封じ、飛び跳ね攻撃を防いでいる。
「はい、ネイヴァンさま!」
10ギム失った失態を取り戻すべく、ゴミ槍でべしっとスライムを突いた。そうすると、スライムの肉体は限界を迎え、槍の穂先と同じ大きさの穴が開いて水分が抜けていく。
「よおし、最後の一匹だぞ」
ファクトが気合の声をあげた。




