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『半径1メートルの日常』  作者: 八神 真哉
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『口説き文句』

先日、あることがきっかけで「初恋」の彼女のことを文章にしてみた。

しかし、これが長い。何と、6枚にもおよぶ大作となってしまったのである。しかも、結局は「失恋」話であり、身の上話である。これは、会報には向くまいと封印するに至ったが、かわいい彼女のことを自慢出来ないのが残念で残念で仕方が無いのである。


――ということで〇〇美さんに送った。

「楽しい」とのコメントが、自身の「初恋」話となったとたん一転した。

「男はずるい」「バカだ」「お前もだ」と、わたしをなじるメールが届いたのである。

「もっともである。女心もわからなければ、わが身大事である。それは認めよう。だが、いい分はある」と、メールを返した。


愚かであった。決めつけてきた女性に反論するなど愚の骨頂である。怒りに油を注ぎ、(そんなお前は)「嫁さんをどう口説いた」というメールまで届く始末である。

モテない男にも譲れぬものがある。相手の関心を買おうと心にもないことを口にすることである。むろん、歯の浮くような褒め言葉も許せない。たとえ、それが正直な気持ちであっても、初恋の彼女に面と向って、そんな恥ずかしいセリフを言えるものか。わたしは硬派なのである。


とは言え、いたいけな小3のころは、ストレートだった。最初の授業で、女の先生に「わたしの第一印象を書きなさい」と言われ、「とてもきれいな先生だと思った」と書いて、しっかりと贔屓された。放課後に友達とタバコもどきを作って火をつけていたところを用務員さんに見つかり、先生のもとに連れていかれたが、親の耳には入らなかった。むろん計算などしていない。本当にそう思ったのである。


さらには、年下で、高校生だったお嬢様からの「わたしは絶対売れ残る」と言う手紙。あるいは、年上からの「妹が会いたいと言っている」との手紙にも、率直に答えを返している。どう答えたか、は書かない。書けば、「何が硬派だ。随分な女たらしではないか」という答えが返って来るであろう。だが、あくまでも相手からのアクションあっての答えである。


さて、「嫁さんをどう口説いた」に関しては、そっちが先に言えよと舌打ちしながらスルーしたものの、〇〇美さんとの付き合いは○十年に及ぶ。わが夫婦生活の倍近い。男が折れねば進むまい。世の中そういうものらしい。


――ならば少しだけ答えよう。

「幸せにする、と言ってもらえないと決断できない」と言われた。正直に答えた。「約束はできない」。むろん、そのあとに続くのは、渾身の口説き文句である。


ちなみに、会報の○号に、『女の影』というタイトルの文章が載っている。

時折やらかすのであるが、手直し前の方を印刷して送っていたようである。抜けていた文面は、大学生になっても、女の子に声ひとつかける様子がない息子の先行きを案ずるわたしに嫁さんが答えたコメントである。(4行目から)


嫁さんに伝えると、「30ぐらいになれば、物足りないけど真面目だからいいか、という女もいるから」と、達観した答えが返って来る。「それはあれか、おれの事か」という言葉をかろうじて飲み込む。


どうやら、わたしの口説き文句は何の効果もなかったようである。「女たらし」マスターへの道のりは遠く果てしない。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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