夢と記憶②
周りの景色がにじむ様に消えて、新しい風景が出てくる。
今度は前よりも大きくなった私たち。私は前のお姉ちゃんと同じセーラー服を着ているから、中学校の時だな。たぶん場所は教室で、私が話してる相手は和美だ。
「あれ?今日はあんた一人か。安藤君は」
「なんか、女の子に呼び出された」
「うわ、またか。ホント、人気あるよね安藤君」
「まあ優しいし、気がきくし、頭良いし、落ち着きあるしね。他の男の子とはちょっと違う所あるから、目立つのは目立つかも」
「いややっぱり見た目大事でしょ。あたしの趣味とはちょっと違うけど、いい男だと思うわ」
「和美の趣味って?」
「年がねー、もうちょい下だったら」
「もうちょい下って、それ小学生じゃん」
「そだよ?」
「えー、それはないわー」
「まああたしも本当に付き合いたい訳じゃないから」
「付き合うんじゃないなら、なにするのさ」
「愛でる!」
相変わらず何言ってるんだ和美は。
中学生が小学生を「愛でる」って。
「私には分からないなあ」
「まあリアルで愛でれる子なんかいないけどね。結構安藤君はいい線行ってるから小学生の時に会いたかったよ」
「私は和美と海流が会わなくて良かったと、いま心の底から思ってるよ」
この頃から和美はこうだったのか。
頭痛い。
「で、あんたはなんで普通にしてんのさ」
「普通って、別に普通で良いじゃん」
「安藤君の相手、気にならないの?」
「気にはなるけど、私があれこれ聞くのも変じゃない」
「あんたはそれでいいの?瑠璃」
「まあ当人たちの問題だし、海流が決めることだから」
「それで、もし安藤君がOKしたらどうすんの?」
「え、そりゃあ大喜びだよ。ようやく海流にも彼女ができた!って」
「あんたは何とも思わないの?」
「え、何がさ」
「もし、その子と安藤君が付き合うことになったら、あんた、ただの邪魔者だよ」
「邪魔とかしないよ」
「あんたは良くても、相手はそうはいかないだろうに」
「まあそん時は、ちゃんと気を遣うようにするよ」
「……分かってるのか、分かってないのか。お、安藤君帰ってきたよ」
教室の扉を開けて、海流が入ってくる。
私たちと同じように、中学生になった海流は少しだけ顔つきが大人っぽくなっている。髪色は元々薄くて茶色っぽかったけど、今みたいに光を通すと、加減によっては金髪に見えたりする。
私達のクラスには運動部系の男の子が多くってほとんどの子が日焼けしてるのに、海流だけは一人だけ透き通るように色が白い。白皙って言うんだっけか。目の色も青みがかっていて、髪色、肌の色とと組み合わさるとハーフみたいに見えるから、見た目に関しては他の男子生徒とは違っている。
海流のお父さんもお母さんも普通に日本人で外国人の血は入ってないそうだけど、どっかからの隔世遺伝とかかもしれない。
太陽の光が目に入ったのか、少し眩しそうに目を細めて海流が言う。
「用事終わったよ。帰ろうか瑠璃ちゃん」
「その『瑠璃ちゃん』はそろそろやめて欲しいなあ」
「え、何でさ。瑠璃ちゃんは瑠璃ちゃんじゃない」
「だから連呼しないでってば。『瑠璃』で良いじゃん『瑠璃』で」
「あんた達二人ともルリルリうるさい」
「だってさー」
「安藤君はそれで言い慣れてるんだから良いじゃん。安藤君もいきなり呼び捨てには出来ないよね」
「ちょっといきなりはね」
「えー。私すぐ海流のこと『海流』って言えるようになったよ」
「それはあんたが大雑把だから。あんたと安藤君を一緒にすんな」
和美の言葉に、私はぶすっとして、
「でもさあ、なんか子供っぽいじゃない?ちゃん付けって」
「そうかな?子供の頃からそうだからあんまりそう思わないんだけどね」
「安藤君には意外と合ってる言葉遣いだと思うけどね」
「そうなのかな。自分では意識してないんだけど」
「なんかね、物腰が柔らかいっていうか、言葉が優しいって感じがする」
「あ。そ、そう?ありがとう鈴木さん、なんかそう言われると嬉しいよ」
「えー、私は納得いかないよー。直して直して」
「まあ、そのうち、おいおいね」
「絶対海流は変える気がないでしょ」
「まあまあ。そのうちって言ってるでしょ。安藤君も戻ってきたから帰ろう」
「あ、ごめん私先にトイレ行ってくる。ちょっと待ってて」
「そういうのは先に済ませとけ!」
「ごめんごめん。すぐ戻ってくるから」
ばっと駆けだして教室を出て行く私。
「安藤君」
「え、何?鈴木さん」
「さっきの話なんだけど」
「さっきの、って呼び方の話?」
「そう。余計なお世話かもしれないけど、早めに直しておいた方が良いと思うよ」
「え?でもさっき鈴木さん、」
「まあ瑠璃の前だからあんまり強くは言わなかったけど、今後のために直しておいた方が良い」
「今後、って」
「そうしないと、今日みたいに勘違いした子が安藤君にまた告白してくるよ」
「……」
押し黙る海流。
「幼なじみだからってのは分かるし慣れてるのも分かる。でも傍から見たら、そのまんま、幼なじみに見えるからね。安藤君と瑠璃が本当に『ただの幼なじみ』ならそれで良いけど、安藤君はそうじゃないんでしょ?」
「……そんな風に、見える?」
「付き合いがそれなりだと分かると思うよ。でも何も知らない、他のクラスの子とかはワンチャンあるかもって勘違いするかもね。たぶん、それって誰も得しないと思うよ。告白した当人も、安藤君も、瑠璃も」
「瑠璃ちゃんの呼び方を変えたら、それが変わるの?」
「中学生で下の名前で呼び合うのは、特別な関係同士だと私なら思うけどね。それが呼び捨てなら尚更。KYな子も中にはいるけど、少なくとも安藤君の説明の手間は省けるし、周りもそう認識する」
「……それは、外堀を埋めていくようなものだよね」
「なんかマズいの?別に良いじゃん」
少し考え込んで、海流が答える。
「いや、やっぱりしばらくはこのままで良いよ」
「そう。まあ強制してる訳じゃないから、安藤君がそれで良いなら構わないんじゃない?でも」
「でも?」
「ただ待ってても、安藤君の気持ちに瑠璃は気付かないよ?」
ちょっと困り顔で、海流が言う。
「瑠璃ちゃんに、そういう無理強いはしたくないんだよ」
「まあそれも安藤君の自由だけど。言っとくけど、瑠璃、あれでも意外と男子生徒に人気あるからね?獲られて悔しい思いをしたくないんなら、一度はちゃんと気持ちを伝えた方が良いよ」
「鈴木さんってさ」
「え?」
「意外と世話焼きなんだね」
「……あの子の鈍さと、安藤君の繊細さを足して2で割ったら良い感じになると思うんだけどね。見ててイライラするから早くくっ付けバカップル!っていうのが本音だよ」
「まあ、期待に沿えるよう頑張るよ」
「そうして」
ぱたぱたぱた。
「ただいま!さあ帰ろうか!」
「その前に言うことあるだろう」
「ごちそうさま?」
「なんであたしがあんたに奢る前提になってるんだよ。そこは『お待たせしました』だよ」
「お待たせしました。ごちそうさまです」
「今日はあたし本屋に寄るから、それは安藤君と行け」
海流は苦笑する。
「晩ごはんがあるから、軽めにしておこうね?」
「やった。チキンにしよ」
「脂ばっかり食ってると、ウエスト周りに油田ができるぞ」
「大丈夫だよ、お茶をこう、ごきゅっと」
「あんたの中の『お茶』は、どんだけ万能飲料なんだ」
「まあまあ。寄り道するならもう出ないと遅くなるよ」
「じゃあ行こっか!」
そう言って教室を出て行く、私と和美と海流。
なに、これ。
私、こんな話、知らない。
私の記憶にあるのは、教室を出ていくまでで、その後の和美と海流の話は、今初めて知った。
和美からもこんな具体的な話は聞いてないから、ということは、
これは、私の記憶じゃ、ないの?




