閑話3:お留守番
「あの連中がいないと、あんた達は華がないねえ」
い、いきなり何ですのレティシア先生!
「だってさ。脳筋、変態、ヘタレ、巨乳幼女、模造品、その他大勢。癖の強さだけは一人前だけどねえ」
も、模造品!?
「私、幼女じゃありません」
「巨乳は否定しないんだね」
「アレックスは、どちらが好みなんでしょう……」
キャサリン、女性を特定の部位で判断するような男はおやめなさい!
「はっはっはっは、私は変態か。まあそれもいい」
「いや、レオは『脳筋』じゃないか?と言うことは僕が『ヘタレ』!?ちょ、ちょっと待って下さい先生!なんで僕が『ヘタレ』なんですか!?」
「私、『変態』ですか……」
「いや君、入学式でいきなり下着で参加とかどうみても変態じゃないか!」
「好きでそうしたんじゃない!お前だってアンドルー様に怒られて、リリアンヌ様に窘められて、まさに『ヘタレ』もいいとこじゃないか!」
「底辺の争いは見てて楽しいねえ」
「「誰が底辺ですか!」」「あんた達だよ」
「私達、『その他大勢』なんですか?」
なんでしょう、この混沌。
今日はリリアンヌ様とアンドルー様、カミラとアレックスが4人で出掛けてしまって私達は「お留守番」ということになっています。
「お土産買ってくるね!」というリリアンヌ様のお言葉はとても嬉しいのですけど、
私も行きたかった。
しょんぼり。
「なんだい。そんな残念そうな胸して」
顔です。か!お!
「ああ悪い悪いつい本音が」
先生だって私のこと言えるほど、いえ、何でもありませんからその目はおやめ下さい。怖いです。
「人間、言って良いことと悪いことはあるから注意しとくんだね」
貴女に一番言われたくない台詞ですわね。ちま。
「それはそうと、何食ってるんだいイリーナ」
あげませんわよ。
「別にくれと言ってる訳じゃないが、なんでそんなにちまちま食ってるのか知りたかっただけだ」
それはですね。
このクッキーは、リリアンヌ様謹製だからですわよ!ほーっほっほっほ!
「いやなんで君が自慢してるんだイリーナ」
え?何か問題でも?ちま。
「うっわー。食い方せこっ!なんでそんなケチ臭い食い方なの?」
だって、食べたら、なくなるではありませんか。ちま。
「当たり前だ」
「私達もまだ持ってるんですよ!」
ちまちまちまちまちまちまちまちまちま。
「う、うざい。貴族が9人でちまちまクッキー食ってる絵面、鬱陶し過ぎるわ!」
「私はもう食べ終わった」
あらそうなの?でもこれはさすがに分けてはあげられませんわよ?キャサリン。
「別に良い。大体それもうそろそろ危ないと思う」
なにが?
「確か、貰ってもう一週間になるはず。いくら焼き菓子が日持ちするって言っても、この時期はそろそろ拙いと思う」
「おいおい。密封してない食品は早めに食べないと悪くなるのは知ってるだろう。お腹壊すぞ」
いえ。それは大丈夫。リリアンヌ様に教えて頂いた秘策がありますから。
「秘策?」
ごきゅ。これで大丈夫。
「おい、それはどこの馬鹿が教えたって?」
し、失礼な!今言ったではありませんか「リリアンヌ様から教えて頂いた」と!馬鹿とは何ですか馬鹿とは!
「それを真に受けるほうも大概だぞイリーナ」
そもそも、レティシア先生はお口が悪すぎますわよ!他人を教え導こうとする教師がその話し方は如何かと思いますが?
「私、教え導こうなんて思ってないから」
え?
「勉強なんてのは他人に言われてやるもんじゃない。自分が知りたいから、学びたいからやるもんで、まして私が他人を導くなんて柄か?私はあんた達より先に生きているだけで、教え授ける気なんてないよ」
で、でも授業をなさっているではありませんか。
「そりゃあ、『薔薇園』で私がやりたいことをやるための対価としてそうしてるんであって、私が好きでやってる訳じゃない。まあやる気がある奴の手助け位はしてやるが、そうでない連中の面倒まで見てやる気もそんな余裕もない」
……先生が、おやりになりたいことって、何ですの?
「それを聞いてどうする」
どうもしませんけど、後学のために聞いておきたいですわ。ちま。
「そのちまちまに説得力を感じないんだけどねえ。まあいいか。私が研究しているのは『魂』だ」
たま、しい?
「人間、死んだらどうなる?」
またいきなり重い話ですわねえ。まあ死んだら骨になって土に還って。でしょうか。ちま。
「そんなえぐい話しながらクッキー食えるあんたも大概軽いけどね。まあ体、というか肉体はそうだな。では『心』はどうなる?」
それは、分かりませんねえ。「正教」の方なら答えをお持ちかもしれませんが、私のような浅学の身ではちょっと。
「『正教』のような観念的な話じゃない。『心』には形も重さもないのか、物理的に存在しないのかって話さ。もしそれがあったら、そしてもしそれを動かしたり、移し替えたりが自在にできるとしたら?」
できるのですか?
「まさか。それが本当にできたなら私は神様になってる」
「正教」の方が聞いたら怒られますわよ。ちま。
「まあ『正教』ならそうだがここは『薔薇園』だ。それに意味があり、答えへの道筋が存在するならそれは不遜でもなんでもない。立派な『研究』だ」
道筋?
「理論を説明するのに宗教観を持ち込むのは反則もいいとこなんだが、『輪廻』って東方の考え方を知っているか?」
いえ、初めて聞く言葉ですわね。ちま。
「人間は死ぬと、別の人間や生き物に生まれ変わって、次の生を生きて死ぬ、そしてまた次の生をって延々繰り返すって奴なんだけどね」
それは、スケールの大きな話ですわね。
「まあ宗教的にはそうだな。ただもう少し現実的な所に落とし込んで、例えばイリーナがクッキーの食べ過ぎで死んだとする」
そんな死に方は嫌ですわ。
「まあたとえ話だから気にするな。ところがイリーナの魂は見えないがそこにあって次の行き先を探している」
元の体では駄目ですの?
「もしそれがクッキーでお腹が破裂するほど食って死んでたらどうする」
どんな死に方ですの私!?
「戻ろうにも戻れない。ところでここに、私が作った新しいイリーナの体がある」
先生が作った、ですか?胡散臭いですわね。
「しかも巨乳」
私それにします。それが良いです。
「さてではこれにイリーナの魂を入れよう。どうする?」
どうする?って言われても。どうするんですの?
「私も知らん」
はあ?
「人間にはそういうものを想像し、実現したいという願望があって、そして、実際に存在するかもしれない。その可能性ってのを手探りで探す。私がやってるのは、そういう雲を掴むような話なのさ」
はあ。分かったような分からないような。
「心配するな。この話に興味を持ってくれたのはただの一人だ。あとは『薔薇園』の連中でも夢物語だと一笑に付したよ」
ただの一人?
「ああ、け…」「あの」
「ん?どうしたキャサリン」
「それは、先生が医者をやっていたことと関係があるのですか?」
「……アレックスから聞いたのか?」
「はい。以前、先生は国の医師として働いていて、倒れる寸前までいってたと」
初耳、ですわね。
「倒れても良かったんだがな」
「そんな……」
「まあ、もう終わった話だ。気にするな」
その話、お聞きしたいですわね。
「時間があれば、いずれな」
今結構お暇なのでは。
「分かりました。先生が話す気になったら教えて下さい。イリーナ様もそれで良いですか」
まあ、無理強いしたい訳でもありませんので別に構いませんが。
「ところでイリーナ。お前は男の一人位いないのか?」
な、なんですかいきなり!
「いや、お前の周りは賑やかな割に、お前自身は結構身持ちが堅いのだなと」
な、なにを言ってるんですか!私達は学生ですよ、学業が本分で、恋愛などにうつつを抜かしている暇などありませんわよ。白薔薇の皆様も同じように勉強しているというのに、
あら?
ど、どうしたのですか皆様、目を背けたりして。
え?ちょっと、エリナさん?ルイーズさん?
どうしてこちらを見ないのですか!?
なんですキャサリン、その「うわー」って顔は!
「イリーナ様知らなかったんですか?『白薔薇』の皆さん、全員が彼氏持ちですよ」
へ?
ど、どう言うことですの?
「リリアンヌ様と同じ、入学前から婚約者がいらっしゃるのが3人。『薔薇園』で相手を見つけられた方が5人。私にはアレックスがいますから」
ちょ、ちょっとお待ちになって。
ちま。ごきゅ。
ふう。
落ち着、きませんわ!
まったく落ち着きませんわ!
以前から、と言うのはまだしも「薔薇園で5人」と言うのはどう言うことです!?
「『白薔薇』は人気がありますから」
それは知っていますが、それが?
「私達『白薔薇』の創設メンバーは、皆リリアンヌ様直々の薫陶を受けている、と思われています」
まあ、そう言えなくもありませんが。
「認識が甘いです。アンドルー様とリリアンヌ様は国中が知る最大級のロマンスですよ?そのリリアンヌ様の恋愛指南を受けた、」
受けましたか?ちま。
「いえ、受けたと思われている私達に男性の目が集まるのは必然です。実際、メンバー全員が呼び出されて告白されたそうですよ。アンドルー様とリリアンヌ様が口づけを交わしたとされる、薔薇の園で」
う、そ、でしょ?
「嘘を吐く必要がどこにあるんですか」
だ、だって、私、一度もそんなこと。
「……イリーナ様は特別ですから」
特別?特別って何?
「特別は、『特別』としか言い様がありません。そういうものですから」
いやそんな困った顔しないでキャサリン!説明を、説明を求めます!
「……あの、いや、なんかごめん。イリーナ」
レティシア先生、なぜそのような目で私を見るのですか?
「まあ、そのうち良い事あるさ」
私いつの間に慰められてるんですの?先生だって。
「ごめん。私この後男と会うんだ」
なんですと?
「まあ逢引というには色気のない話だが、私にだってそういう相手の一人や二人はいるさ」
あ、その方って、きゅる。
あ、あら?
「どうしたイリーナ、顔色が悪いが」
「もしかして、また、ですか?」
あ、あら?だって私、先程殺菌し、ぎゅる。
「……理由が分かったような気がするな」
「これだけ経験から学ばない人も珍しいです」
いや、あのぎゅる、それは。
「しょうがない。薬を処方してやろう。行こうか」
「あれ?どうしたのイリーナ?」
あっ!リ、リリアンヌ様お帰りなさいませ!
「えー。イリーナ、また?しょうがないなー。じゃあ私が、」
「ああ、イリーナは私が面倒見るからお前たちはいいぞ。どうせ引き上げる所だったしな。イリーナに薬を飲ませてくる」
「そうですか?じゃあ、お願いできますか?」
「ああ。これでも医者だ、任せておけ」
「もう。イリーナは可愛いのにそういう所が残念なんだよねー」
そ、そんな。
「あー、それじゃせっかくのお土産も食べられないね」
お、おみやげ?
「いっぱいパン買ってきたの。ブリトーも。ほら」
リ、リリアンヌ様の、おみやげ。
「だいたい今度は何でお腹こわしたの。またなんか悪いもの食べたの?」
「この間リリアンヌ様から頂いたクッキーを」
「えっ!あれ10日も前のやつじゃないの!ダメだよイリーナ、そりゃお腹こわすよ!」
わ、私は。わたしは。
「ほら、行くぞイリーナ。どうせお前はしばらくは食べられん。今回は諦めろ」
「しょうがないねー。じゃあイリーナ、またおみやげ買ってくるから、今日はお大事にね?」
「なんだまたイリーナか。ほんと運がないなー。そんなんだと、折角『薔薇園』にいるのに彼氏も」
「やめてあげて。彼女はもう」
何?、「もう」って何!?
「ほらほら、急がんと間に合わんぞ、ほんとお前はつくづく」
つくづく?
「残念な子だ」
そ、そ
そんなああああああああああああああ!!!
ぎゅる。




