リリアンヌの独白②
最初、自分がリリアンヌだと気付いた時は驚いたよ。今よりずっとちっちゃいときは「瑠璃」の自覚がなかったから、リリアンヌなのは当たり前だったし。
でも、3歳の時、初めて自分を鏡で見た瞬間、
「え?違う違うこれ私じゃないから!」
って感じでいきなり「瑠璃」の記憶が出てきちゃってパニクった。
自分の記憶にある「瑠璃」とは、どこもとっても全くの別人だし、そりゃびっくりするよ。で、「何か見たことある子だなー」とか思ってたら、メイドさんから
「いかがなさいました?リリアンヌお嬢様」だもん。
「リリアンヌ?わたし、リリアンヌっていうの?」
「は?」
「いや今『リリアンヌ様』って言ったよね?」
「はい。そうお呼びしましたが、何か?」
「『瑠璃』じゃないの?リリ?」
「『ルリ』…ですか?」
「そう!瑠璃!!」
「…リリアンヌ、様、ですよね?」
だからそれを聞きたいんじゃない。
「瑠璃、じゃない?」
「…それが、どなたなのかは存じあげませんが、私の前にいらっしゃるのは『リリアンヌ=ギュスターブ様』と認識しております」
うわ、私なんか違う人になってる!でも、「リリアンヌ=ギュスターブ」って、何か聞いたことあるなぁ。「リリアンヌ」ねぇ。リリアンヌ…
「あー!!!」
「ど、どうしました!?」
「そっかそっか、リリアンヌかー!!いやーリリアンヌとか言うから誰かと思ったら『ハトプリ』の『リリアンヌ』かー!」
「お、お嬢様?」
「なるほどねー、だからこのビジュアルかー。リアルすごいね、こんな可愛くなっちゃうんだー」
「お、おじょ」
「え、でもちょっと待って、なんで私がリリアンヌになっちゃってるの?ていうかここ『ハトプリ』?ゲーム?なんでなんで?」
「お」
「なんでここにいるの私?なに、お約束の『転生』しちゃったの?で、『リリアンヌ』なの?うわー、聞いたことありすぎるなー!でも3歳からスタートとかゲームにない設定じゃん。でもリリアンヌやっぱり可愛いわ3歳設定おいしいわ!」
「…」
あ、やばい。全部口に出てた。横にいるメイドさんを見る。
やだ、そんな可哀想なものを見るような目はやめて。
そしたら、そのメイドさん、別のメイドさん呼んで
「主治医を呼びなさい、内密に」
とか言い出した。
大丈夫だから!私病気じゃないから!正常だから!
…結局、あれこれあって、父と母、それにそのときいたメイド、カチュアっていう実はメイド長だったんだけど、その3人には全部話した。隠しててもいずれバレることだし、私は隠し事が上手じゃない。なにより、父と母に嘘をつきたくなかった。
父も母もカチュアも、私の話を聞いて絶句した。そりゃそうだ、私だって3歳の女の子が流暢に自分の身の上を語り始めれば、混乱するしどう受け止めていいものか悩む。でも結局、私の話を信じるしかなかったみたい。
お母様顔色悪いなあ。大丈夫かなあ。いきなりすぎて話についてけないかしら。
父が、見たこともないような苦い表情で私に尋ねる。
「…リリアンヌ」
「はい」
「これから、お前はどうしたい?」
え?
「いや、特に何にも考えてませんが」
父が意表を突かれたような顔をした。お母様もだ。あれ?
「そう、なのか?」
「だって、『瑠璃』の記憶があっても私はリリアンヌですし。これまで通りですが?」
そしたら、母がぽろぽろと泣きだした。
「え?ど、どうしたのお母様」
「…あなたは、私の娘なのですね?」
「ええ?当たり前じゃないですか。お母様はお母様ですし、お父様はお父様ですよ。…え?もしかして違ったんですか?私、実は養女だったとか」
「そんな訳ないでしょう!あなたは私の娘です!!」
ですよねえ。
「ああよかった。もし養女だったら、いや別にお父様とお母様が一緒なら別に養女でも、ぐぶっ」
お母様どうしたの。なんで急に抱き着くの。く、苦しい。ギブギブ!
…でも、なんだかあったかくって気持ち良いから、このままでもいいか。
「リリアンヌ!あなたは私の娘です!絶対に私の娘です!!」
「うん。私、お父様とお母様の娘ですよ、ずーっと」
お母様はぎゅうって私を抱きしめた。
私の記憶の中にある『瑠璃』にも家族がいて、そこにはお父さんとお母さん、お姉ちゃんがいた。だから、その人たちも私にとっては家族なんだけど、でも、今ここにいるお父様もお母様もやっぱり家族で、どっちが大事なんてない。両方とも私も大切な家族だ。向こうの家族に会えないのはちょっとさみしいけど、その分、私はお父様とお母様を大切にするつもりだ。リリでも瑠璃でもそれは変わらない。
いや、ひとつ問題が。
「あの、お父様、折り入って相談が」
お母様の顔がまた青くなる。
「え?リリアンヌ!やっぱり私たちのもとを」
ええ!なんか変なこと考えてると思ってたらやっぱりそうか!いや、旅立ったりしませんよ!?3歳ですから!義務教育も受けてませんから!自立心あっても生活力ありませんから!!燕の雛より弱っちい自信ありますから!
「違います違います!」
「え?じゃあ何を」
「私、将来、悪役令嬢になる予定なんです」
「「「…はあ?」」」
あら、カチュアもハモった。