幕間(番外):七夕さま
「ねえアンディ」
「うん?なに、リリ」
「『七夕』って知ってる?」
「いや、初耳だけど」
「あーやっぱ知らないかあ」
「『たなばた』というのは、一体何だい?」
「あのね。織姫と(夏)彦星というふたりがいてね」
かくかくしかじか。
「で、一年に一度しか会えなくなって、その会える日が今日なんだよ」
「それは」
「それは?」
「本人たちの自業自得じゃないのかな」
「わー。夢のないこと言うなー」
「いや、新婚生活が楽しすぎて仕事をしないなんて、どう考えても感情を抑えられないだらしない夫婦だよね」
「そりゃそうなんだけど、でもそれはあくまでお話でー」
「で、神様も器が小さいよね。説明も注意もしないでいきなりふたりを引き裂くのかい?僕なら即、神と戦争だよ」
「いや、さすがにそれは冗談だよね」
「冗談、なにが?」
「…神様。もしそういうことがあるなら事前に説明して下さい。お願いですよ。聞こえてますか神様ー!」
「ああリリは神様に会ったことがあるんだったね」
「いや、ほんものかどうかは分からないんだけど」
「じゃあ、もし神様に次に会うことがあったら伝えて欲しいな」
「…なにを?」
「王家には代々伝わる『神殺しの剣』いうのがあってね」
「逃げてえええ!神様逃げてえええええええ!!」
「まあそれは置いといて」
「置かないで!それ渡してアンディ!」
「やだよ、いざという時必要でしょ。第一、国宝だからそうそう持ち出せないし」
「まあそれはそうか。で、なに言いかけたのアンディ」
「その『たなばた』と言うのの由来は分かったけど、その日はなにかするの?」
「あのね、笹に、願い事を書いた5色の短冊をつけて」
「ふうん。リリはそういうのに詳しいんだね」
「あ、うん」
「しかも、東方の風習とかに妙に詳しい。この間の『こたつ』とかもそうなんでしょ?」
「あ、う、うん。まあ」
「どこからそんな知識得たんだろうね。リリは」
「ほ、ほら、前も言ったじゃない『本だと思う』って」
「ふうん」
「な、なにアンディその疑り深い目は」
「あの後僕も探してみたんだけど」
「う、うん」
「王家の書庫にもなかったよ、そんな本」
「そ、そうかな。おかしいなー。本だと思ったんだけどなー。違ったかなー」
「…まあいいけど。それで『笹』だっけ?植物の」
「あ、うん」
「それ、多分レストニアにはない植物だよ」
「え。そうなの?」
「うん。それは間違いない。そもそも自生してないし、多分東方から持ち込んだりもしてない」
「へえ、意外だね。レストニアにはなんでもあると思ってた」
「まあ。この世の全てがレストニアにある訳じゃないしね」
「そっかー。折角だから一度やってみたかったんだけど、ないなら仕方ないねー。あれ、アンディなにしてるの?」
「いや。今からなら夕方までに戻ってこれると思う」
「行く気なの!?今から東方まで!無理だって!絶対無理だって!」
「リリ」
「え、なにアンドルー」
「世の中には『絶対』なんて言葉はないんだよ」
「かっこいいけど!すごく良い顔してるけど!無理だって!!」
「いやしかし」
あのーすみませーん。アンドルー王子にお届け物でーす。ばさ。
「なんだいきなり。えっ、こ、これはもしかして」
「うわー!『笹』だよ!立派な笹だよー!どうしたのアンディこれ!」
「手紙がついてる。誰からだ…」
「『男は細かい所に手が届く位じゃないとモテないぞ』…パパより」
「……」
「あ、アンディ顔色悪いよ。なんで『七夕』知ってんだろうね、王様」
「…あの人だけは、分からない」
「わー短冊もいっぱいついてるよ」
「すでに書いてあるものもいくつか、!!、これは…」
「どうしたのアンディ、んーと。なになに『娘が嫁に行けますように グリフィス』だって」
「まだ、だったのか…」
「こっちは?『姉に会いたいです ついでに息子にも ハイラ…』あわわわわ!」
「どうしたのリリ?」
「あ、こ、こっちのことだから気にしないで」
「ふうん。…なんだ、この黒い短冊は…
『娘と結婚したければ私を倒してみろ』」
「……」
「……」
「ほ、他のは…
『リリちゃんとアンディくんがちゅーしちゃったのをバラしたのは私たちです。エリーゼ/リディア』」
「……」
「……」
「ねえリリ。『七夕』ってこういうのなの?」
「い、いや、ちょっと、違うと思う、たぶん。あ、あと一つあるよ」
「ん?なに、『アンドルーとリリアンヌに可愛い子供ができますように』…何考えてるんだ、あの人は」
「ちょっと待って、裏にもなにか書いてあるよ。えーと『うちにも可愛い子供ができますように、というか、
もうできちゃった、てへ。』」
「「はあああああああああああああああああああああ!!!!??」」
「本当に、本当に、あの親父の考えてることが分からない…」
「いや、あの、ほら、おめでたいことだから!良かったじゃない、アンディ!」
「う、嬉しいのは嬉しいんだが、これ重要機密なんだよ。継承権とかあるから。それを郵便で…」
「お、お父さん、茶目っ気ある人なんだねえ」
「『茶目っ気』で済ませるきみもすごいと思うよ…」
「アンディそれやめて!『ハトプリ』のメインがorzとかやっちゃだめええ!」
結局、二人分の短冊だけ飾ることにした。
「アンディはなんて書いたの」
「うん。いくつか候補は考えたんだけど」
「どれどれ。『神様、分かってるよね』これは駄目!これ願い事じゃない!脅迫だから!」
「そう。じゃあこれは」
「『絶対に壊れない箱と錠前が欲しい』?前も言ってたけど、なんでこんなもの欲しがるの?」
「いや、多分これから必要になる」
「ううん、でもちょっと即物的すぎるかなあ」
「じゃあリリはどんなの書いたの?」
「えー。それはひみつだよー」
「いや、吊るさない奴でいいから」
「あー。じゃあこれ」
「『イリーナがたくさん育ちますように』って、彼女充分に大人じゃないか」
「女の子には、言えないことがたくさんあるんだよアンディ」
「あっはい」
「よろしい。あとはこんなの」
「『ごはん』 結構リリも即物的だなあ」
「い、いいじゃない別に!」
「まあ、お互いちょっと現実的すぎるかな。じゃあ吊るすのを…」
「ねえアンディ」
「ん?なに」
「吊るす前にさ、見せ合いっこしない?」
「良いけど、そんな面白いことは書いてないよ?」
「うん。それは私も同じだから」
「そう。うんまあいいよ。困るようなことじゃないし」
「うん。じゃあ」
「「せーの!」」
…やっぱり、リリもか。
…やっぱり、アンディもか。
「気が合うね」
「うん。うれしい」
「僕もだよ」
アンドルーとリリアンヌ。
七夕飾りの話は後世に伝わり、二人の愛情を示すエピソードとして、また、恋人や家族の幸せを願う風習としてレストニアに現在も根付いている。
今日が七夕なのを思いだし、急遽書きました。
さすがにこれは時系列にも伏線に乗らないと思います。




