Summer isn`t over
久しぶりに戻ったラトビアの王都の風景が目に眩しい。僕らは砂漠地帯を無事抜けてから約10日で王都へとたどり着いた。
誰もかれもが疲労していたが、馴染みの風景が目に入ると笑顔が自然と湧く。
誰とも無しに「風呂入りたい」と言いだし、それが全員に伝染するまで時間はかからなかった。
「髪を思い切り洗えないのがこんなに辛いとは思わなかったわ」
「同感です、シャリーさん」
シャリーとパネッタはげっそりした顔だ。ラトビア領内に入ってからは時々宿に泊まることも出来たけど、湯が限られていることもあり女性陣に地味に辛かったようだ。
そんな二人を横目で見ながら、僕は腕に抱えた壺をもう一回抱き直した。
ランセルさんの遺骨がカランと鳴る。
「ランセルさん、帰ってきましたよ。王都に」
もちろん壺からは返事は無い。ほんとは生きて皆で帰ってきたかったな、としみじみ思う。
二週間程の帰路の間に心の方は大分整理されてきた。ようやくスタート地点に戻ってきた感じだ。
近寄ってきたシャリーが壺を撫でた。何だろうと思っていると「ご遺族には私が話すから。カイトは来ない方がいいわ」といきなり言い出した。
「行かない方がいいのかな。むしろご遺族の目障りってこと?」
「そうじゃないけどね。多分、貴方がまともに話したらかなりプレッシャー受けるだろうし、少し間を置いて訪問した方がいいわ。私とアッシュで行く」
ああ、そうか。ランセルさんはアッシュの副隊長格だった。少し迷ったが結局はシャリーの言葉に従った。重い役目を引き受けてくれる彼女に感謝しよう。
僕が行っても感情的になるだけかもしれない。
「ありがとう。ごめん、辛い役目任せてるね」
「いいのよ。私、一応国使だしね。カイトや他のメンバーが訪ねるのは落ち着いてからで十分だと思う」
そこまで言ってくれるならとシャリーに任せることにした。
ラークが「僕も行きますよ」と言ったのにはちょっとびっくりしたが、シャリーは嬉しかったようで「無理しなくてもいいのに」と言いつつ同行は許可したようだ。
(なんかいい雰囲気だな)とやや不謹慎ながら思う。
******
王都につき事の顛末の報告と預かった50万ゴールドを事務官に渡すと、とりあえずはそれで終わりだ。正式な報告書と経費精算などは明日でいいらしい。すぐにランセルさんのところに行くというシャリーとラークとはここでお別れだ。
他のメンバーとも同様にまた再会の時を祈りつつ、握手で別れる。
「ドラグーンと一緒に旅が出来て嬉しかったよ」と一人の兵には言われて少し嬉しかった。彼らがいなければ砂漠を行くのはもっと厳しい旅路になっていただろう。
「元気で」と僕も手を振った。次会う機会はあるかどうか分からないが、生き延びて欲しい。
疲れた体を引きずって街を歩く僕とパネッタとトマス。報告を終えたのが午後五時頃、日の長い夏とはいえそろそろ夕暮れ時だ。
「何か予定ある?」僕が聞くと二人は首を振った。
「とりあえず帰って眠りたいぜ」
「私もだ。体がこれ以上動きたくないと言っている」
トマスもパネッタも相当疲労していた。砂漠の熱に当てられた疲れが今頃出たのかもしれない。
そして僕もそれは同じだった。
「じゃ、明日打ち上げしようか。ラークに連絡しといてくれる?」
トマスが無言で頷く。いつも元気な彼にしてこれだ。
パネッタはもっと酷い。「ご遺族の方に挨拶っていつ頃がいいんだろうか」などと呟きながら肩を回している。任務が終わった後の一種の放心状態かもしれない。
******
少しパネッタと話したかったなと思いながら一ヶ月以上ぶりの宿舎に戻ってきた。
自分の部屋に入り荷物を置くと、体の底から疲れが溢れてきてベッドに倒れ込む。
(全くいろいろ有りすぎた)
こんなに長期の遠征に出たことは無い。幽霊船事件から砂の部族への訪問まで一気にこなし、その間にかなりの数の戦闘もこなした。体も心も疲れて当たり前だろう。
服を洗濯しなければ、と思いつつ怠さが勝りベッドから動けない。
こんな時シャワーが使えればと文明の利器が欲しくなるけど羨んでも仕方ないことだ。
(そういえばパネッタは風呂入れたのか)とちらりと考えたが、不埒な想像をする前に慌ててそれを打ち消した。こんな時に彼女の入浴姿を妄想している場合じゃない。
夏のけだるい暑さが開け放した窓から流れこむ。ベッドも暑く感じたので床にのろのろと移動し大の字になった僕は、起きているとも眠っているともいえない半端なまどろみにいつしか包まれていた。
・・・結局、ようやく体が動き始めたのは真夜中近くになってからだった。
どれだけ疲れていたのだろうか。
そうっと身を起こし足音を立てないようにして宿舎の裏手に回る。
そこにある井戸水を使ってザブザブと頭から水を被るとようやく生きている、と実感出来るようになった。
(まずは寝よう、荷物の整理も全部後回しにして休んでからこれから考えよう)
間違いなく休みは貰えるはずなので、それでリフレッシュしよう。そう考えると気が楽になり、僕は夏の夜空を見上げてから自分の部屋に戻った。
******
翌朝、天気は憎たらしい程の青空だった。真夏日らしい。
温度計が無いから何とも言えないけど、湿度が高くないから日本にいた時程は蒸し暑くは無いのが救いだ。
とは言え日差しはきつく、げんなりすることに変わりは無いが。
正式な報告書をあげる為に王宮に向かわねばならず、まだだるい体を無理矢理起こす。
コバルトの気配が心の底から伝わってくるが、荒れもせず静かだ。凪の状態という感じがする。
洗濯物を宿舎の管理人にお願いして王宮に着くと久しぶりにネイス上官に会うことが出来た。
変わらない髭面を見ると何となくホッとする。昨日は所用で不在だったので会えなかったのだ。
「ただ今戻りました」
「おー、久しぶりだなあ。聞いたぞ、敵のドラゴンとやりあったんだってな。よく無事で帰ってきやがった!」
僕を見つけるとネイス上官が近寄ってきて嬉しそうにバンバンと肩を叩いてきた。相変わらず手荒な挨拶だ。
「何とか生きて帰ってこれました。でも犠牲者が出てしまって」
「ランセルか、昨日聞いたよ。残念としか言いようがないが、、気を落とすな。とにかくお前が戻ってきて嬉しいぞ」
顔を曇らせたまま僕を励ますという複雑な表情をしたネイス上官に、ただ頭を下げた。
これから正式な報告書をあげるのだがシャリーらと一緒に書いての提出となるのでまずは彼女を探す。
昨日提出した略式の報告書で賄えている部分も多いが、"砂嵐"の部族との交渉結果や過程、デズモンド軍との戦闘結果、敵のドラグーンについての情報などは正確に報告書を仕上げる必要がある。
役割的にシャリーと僕が書かねばならないのだ。パネッタ達はというと今日は来てはいるだろうが概ね暇だと思う。
シャリーの使っている宮廷魔術師の私室に行くと、たまたまアッシュと出くわした。久しぶりに会った彼の顔は笑顔になろうとはしていたが、どこか重い。
「おはよう。久しぶりだね、アッシュ」
「ああ、元気だったか、カイト?すまん、さすがに昨日の今日じゃこんな顔が限界だ」
ランセルさんの残されたご家族に昨日訪ねたのはシャリーとラークだけじゃない。
アッシュもまたランセルさんの上官として義務を果したらしく、表情が冴えないのも仕方ないだろう。
「何と言えばいいのか、、」
「そういう時は黙っておけばいいさ。戦場なんだ。さ、シャリーに用だろ、入ろう」
気まずい感じの僕の肩をぽんと叩いてアッシュはシャリーの私室の扉をノックした。
開いてるわよ、どうぞーという間延びしたシャリーの声の後、僕とアッシュは部屋にお邪魔する。
「おはよう、お二人!」
「おはよ、ってお前その格好どうした?」
やたらと元気な声のシャリーにアッシュが怪訝な顔をしたのも無理は無い。
普段は仕事着として黒いローブしか着ないシャリーは袖の無い麻のタンクトップに足首まである綿のロングスカートを着ていた。さらにアクセントとして赤と緑に染めた長い布を腰に巻き付けている。
これが現代日本なら軽井沢辺りの避暑地か海辺にいそうだ。
「どうしたって暑いからこの服にしたのよ。毎年リー師父に掛け合ってたけど遂に認めてくれたわ。渋い顔してたけど私の功績を認めてくれたみたい」
「それで働くの?」
若干飽きれた僕は思わず聞いてしまった。どう考えても魔術師の制服では無い。似合ってはいるけど男性は気が散るだろう。
そしてアッシュも同じ考えらしかった。
「せめて半袖にしたらどうなんだよ。肩むきだしはちょっとと思うぞ」
「別にいいじゃない。これくらい普通よ?意外と二人ともお堅いのねー、男性てこういう格好好きだと思ってたわ」
そりゃまあ健康美を発散させているシャリーの夏っぽい服装は目に優しいが、ここ王宮だぞ。
しかし言っても聞かないようなので黙っておく。本人は「さっさと報告書完了させちゃいましょうか。ほら、座って座って」といつもの調子だ。
難解そうな本が何冊も積み上げられた机の上を片付けてスペースを作り、そこにシャリーが報告書を広げた。
どーんと分厚いわけでは無いが、それなりに枚数がある。
「これ、全部書くのか」
はあ、とため息が出た。
程なくパネッタ、トマス、ラークの三人も訪ねてきた。三人ともシャリーの服装を見ての反応はそれぞれだった。
パネッタはちらりと自分の胸を見下ろし微妙な表情をし(彼女の名誉の為に言っておくとけして小さく無いと思う)、トマスは「マジでいけてるっすね、シャリーさん」とおだて、ラークは「やっぱりシャリーさん、そういう格好似合うなあ」と頬を赤らめていた(乙女かと突っ込んでしまいそうになった)。
この三人は報告書に書くことは少ないのでアッシュと共に雑談しながら僕とシャリーが書くのを待っている時間の方が長い。
アッシュはランセルさんが亡くなったのでそれについて報告書をあげる必要がある。
「ここはこう書いて、あとドラグーンのところはカイトがやって」
「OK、シャリーは交渉の様子の方を」
僕とシャリーで手分けして書いていると、夏休みの宿題を友達と仕上げているような感じだ。
アッシュらが和やかに話しているのを見ると楽しそうだな、と羨ましくもなったがこっちもそこそこ忙しくあまり気を散らす暇は無い。途中でパネッタが気を利かして冷たいお茶を持ってきてくれたのは嬉しかった。
「はい、一休み」
「ありがとう」
その様子を見ていたラークが慌ててお茶を取りに行くのを見てパネッタが「微笑ましい」と少し笑った。
「あ、パネッタさん。わざと私の分のお茶持ってこなかったんだ?」
「ラークが怒りますからね」
シャリーとパネッタの短いやり取りを挟んで更に報告書を仕上げること二時間が経過した。
もういい加減羽根ペンを持つ手が疲れた僕が「パソコンさえあればなあ」と皆には意味不明のぼやきを発し、シャリーが「なんでこんな天気のいい日に書類仕事・・・」と不満を漏らしつつも何とか最後まで書き上げた。
会社の仕事を思い出しつつ、最後に署名する箇所を見直していき、全員の確認を取る。
これで終わりだ。
「お疲れ様だったな、二人とも。すぐ提出しに行くだろ?」
アッシュが労ってくれる。ランセルさんの死亡した状況を読んでいる時には真剣そのものの顔だったが、今は少なくとも表面上は普通だ。
「勿論。今日はこれ出したら終わりだもの」
シャリーが得意そうな顔で返す。
その言葉通りサクッと出してそれで完了だった。
「お疲れ様でした。シャリーさん達には本日含めて四日間の休暇が出ています。合わせてアッシュさんも同様に休暇とのことです」
報告書を受けとった事務官がそう言ってくれると僕らの顔に笑みが浮かんだ。長期遠征だったので肉体的にも精神的にもリフレッシュする必要があったので有りがたい。
今日はもう昼過ぎなので実質三日半休みか。
「アッシュさんもどこかに長期任務だったんすか?」
「ああ、シルベストリ攻めに参加してたからな。激戦だったよ」
トマスの問いに答えるアッシュ。金色の前髪をかきあげる様子は女の子なら誰もが見とれるだろうな。
ってパネッタまでちらちら見てるし。
肘で軽く突く。
(何でアッシュに見とれてる訳?)
(ヤキモチ焼いてくれてるの?)
ふふ、とパネッタが微笑する。
(いやあ、絵的にアッシュ隊長って格好いいなというだけだよ。それでも心配かな?)
(べっつに!)
そりゃアッシュに顔で負けてるのは知ってるから張り合う気にもならないけどね。
あれか、芸能人にキャーキャーいうようなものかな。
竜の大地に芸能人ているんだろうかと脈絡も無く考えてしまう。
「で、休みが重なったわけだが。全員予定はあるのかい」
アッシュの一言に僕を含めて皆、一斉に首を横に振った。
「いつ休みになるか分からないからとても予定なんて」というラークの言葉だけで全て説明してくれている。もっとも本人はちらちらシャリーの顔を見ているのだけど。
「威張ることじゃないけど俺もだ。せっかく皆揃っているんだ、この六人でどこか遊びに行かないか」
いきなりの提案に真っ先に飛びついたのはトマスだった。
顔をぱあっと輝かせて「楽しそうっすね!アッシュ先輩、お供します!」と大きな声を出したものだから王宮の廊下をすれ違ったメイドに笑われてしまった。
「どちらか当てがあるのですか?今日合わせて四日なのであまり遠くは」
「パネッタのいうとおり遠くは無理だ。明日から二泊三日でモレーン野外宿泊場はどうかと考えている。あそこなら馬で三時間程度だし、お手頃だろ」
パネッタが質問するとアッシュがさくっと答えた。
僕は行ったことが無いが、確か王都から近い野外キャンプ場みたいな場所だと聞いたことはある。少年少女の野外体験を育む林間学校として使われたり、家族連れが遊びに行くポピュラーな場所だったはずだ。
軍が管轄している施設なので見回りの兵が何人か配置されており、もともと怪物の出現率が極めて低い地域ということもあって安全にキャンプが楽しめる、というのは後からアッシュから聞いた。
「で、カップル二組の意見は?」
トマスの言葉に僕とパネッタ、シャリーとラークが顔を見合わせた。
それぞれでごにょごにょと五分程話し合った結果全員参加に落ち着いたのは、純粋に中々無い機会だから皆で息抜きしに行こうという考えに、付き合い悪い奴と思われたく無いという不純なリスク回避の気持ちも少し混ざっていた、と思う。
「じゃ、全員参加てことで。あそこはロッジあるから特に宿泊用具不要だから手荷物だけで行けばいいしな」
簡単にアッシュがまとめてとりあえずその場で解散となった。昨日パネッタらと約束した今晩の打ち上げはこの思わぬグループ旅行があるからもういいや、ということでキャンセルだ。
「シャリーさん、この後の予定は?」
「うーん、旅行行く前にちょっと荷物の整理とかしたいかな。夕方からなら大丈夫よ」
「じゃあご自宅に六時に迎えに行きますね」
ラークとシャリーのやり取りが初々しい。正式に付き合うことになったのだろうか、と思いつつ僕もパネッタと二人で話しながら王宮の門を出た。
******
既にアッシュやトマスらとも別れて二人きりだ。肩を並べて歩く相手がいるというのはいいな、と何となく思う。
「パネッタはモレーン野外宿泊場って行ったことある?」
「あるよ。ほんとに軍に入り立ての時に新入り全員で泊まりに行った。団体行動の何たるかを叩きこまれたり、野外での宿泊技術を学んだり。一種の研修だったんだろうね」
楽しそうである。そういえばコバルトはその野外宿泊場に連れていってもいいのだろうか。
「休みがかぶった時ってトマスやラークと遊ぶことあった?」
うーん、とパネッタは首を捻った。
「一回くらいトマスが一人で入るのは気まずいからついてきてくれと頼むから中央商店街の大きな服屋に行ったことがあるような。。」
思わぬ方向に話が行った。浮いた噂の無いトマスだがそんなことがあったのか。
「その時、トマス何買ったか覚えてる?」
野次馬根性丸出しだ。
「冬だったな、確か手袋一式と外套を一着。似合うかどうかしきりに聞いてたよ。付き合わせたお礼に私は靴下一足買ってもらった」
かわいいところあるから、とパネッタは笑う。
(その時はトマスがパネッタに気があったのか?いや、それなら何回かは誘うよな)
どうにも分からない。多分気に入った女の子がいてその子と会う時の服を見て欲しかったんだろうと結論づけた。
しかし暑い。湿気が低いとはいえ乾いた暑さが王都の石畳を炙る様は見ていて恐いものがある。
「モレーンには水遊びが出来る小川があるよ。林もあるしここよりは涼しいはず」
パネッタのありがたい情報だ。
「そういえば前から聞いてみたかったんだけど、この世界に水着ってあるのかな?」
僕の質問に彼女が変な顔をした。
「何?何があるって?分からなかったよ」
それで悟った。どうやら共通認識出来ない単語は発音しても通じないらしい。
「水着。泳いで遊ぶ時に着る体にピタッと合う専用の服」
「知らない。初めて聞いたよ。そもそも泳ぎって漁師や船員は習うけど普通は泳いで遊ぶってしないし」
どうやら無いらしい。ということは小川で遊ぶといっても本当に水遊びだ。パネッタの水着姿が見られるかと思っていただけにちょっとがっかりした。
「何だかがっかりした顔してるけど、水着が無いと困るの?」
「あー、いや別に困らないけどね。でもちょっと残念かなー」
ついごまかしてしまうと何となく怪しいと気づいたらしい。パネッタが目を細める。
「その水着ってどんな服なの。ちょっと絵で教えてよ」
「いや、絵には自信無くて」
「ちょっとくらい描けるはず。ほら、紙とペン」
物持ちのいい彼女を持つとたまに苦労する。記憶のままに男の水着姿を描きあげるとパネッタが「あー、まあ上半身は裸ってそうなるよね。ねえ、女性はまさかこんなんじゃないよね?」と興味深そうに聞いてきた。
これ新手の拷問か羞恥プレイか。しかも逃げ場を塞ぐように「無いと残念ってどう考えてもこれじゃないよね」とパネッタが男の水着姿の絵を見て呟いている。
仕方ない。さらさらとデパートのマネキンにビキニの水着を着せたところを想像しながら女性の水着姿を描いてみた。顔が無く無機質なので扇情的では亡いけど、身体を覆う布地の少なさにパネッタはびっくりしたらしい。目が点になっている。
「ほとんど何にも着てないじゃないか!いや、水の抵抗無くすと考えたらその方が合理的か。でもこれは無いよ!」
自分の声が大きくなってるのに気づき慌てて口を閉じるがその顔が真っ赤だ。絵と僕の顔を視線が往復する。
「ふーん、それはこの水着とやらが無かったらがっかりするわけだー。はー、君のいた世界ってこんなの着て泳いで遊ぶんだ」
「うん、そうなんだよ。信じられない?」
「正直下着より露出してるよ、これは。。破廉恥だ」
断言されてしまった。しかしパネッタの言うことも分かる。こっちの世界の女性用下着は上がTシャツ、下が綿のピタッとしたブリーフみたいな感じであまり色気が感じられない。
何故僕がこんなことを知っているかというと、各任務の間に女性兵士が洗濯した自分の下着を干しているところをたまたま見てしまったからだ。けしてやましい思いから研究した訳じゃないよ(中高生の頃は興味もあったけどね)。
ふう、と街路樹の木陰に入ったパネッタがため息をつく。唇が微妙な形だ。呆れているのかもしれない。
「で。あの水着があるのを期待して私に着て欲しかったんだ?」
ピンチ。なんて答えようか。正直にイエス?それともいまさら紳士ぶってノー?
こういう場合は素直に白状しようと二秒で決めた。抵抗を諦めたとも言う。
「着る機会があればね。太陽の下で着たら健康的だから単純にかわいいと思って」
「か、かわいいかな。あれは恥ずかし過ぎるよ。とてもあれを着て泳ごうなんて思えない」
「慣れだよ。子供の時から海や湖で水着着て遊べば恥ずかしくないし」
僕も木陰に入る。街中の小さな休憩所なのか小さな椅子が置いてあり、そこに腰掛けた。
「カイトって前から思ってたけど、普通の男性なんだよね」
まじまじとパネッタが僕を見ながらぽつりと言った。
「普通に話が出来て、優しくて、時々すごく頑張って、ちょっとエッチで。でもドラグーンなんだよね」
「そうだね。普通の人だよ、僕は。よく眠りよく食べて泣いたり笑ったりする、普通の人だと思う」
「うん」
頷いてパネッタは黙った。木陰から差し込む木漏れ日がその赤茶色の髪をきらきらさせる。
「不思議だなあ。竜に乗ってる時と全然違うんだよね、印象が。コバルトと一緒にいると神々しさまでたまに感じるのに、この水着とかの絵見てたらすっごい普通の男性なんだなって」
どっちが本当のカイトなんだろうと呟くパネッタに「多分どっちもだよ」と答えるしかなかった。
特別なのはスキルだけで僕自身は普通の男性に過ぎない。普通に恋愛もしたいし、それなりに幸せに生活したいという25歳。
でももし特別だというなら。
「君だけには特別な人であれば後は普通でいいよ」
思いがけないタイミングだったのだろうか、パネッタの目が大きくなり口がぽかんと開いた。木陰でもはっきり分かるくらいに頭から湯気が出ている。
「カイトってずるいよね、、」とそっぽを向いた彼女を見て(一本返した)と心の中で小さくガッツポーズ。
一応本心ですよ。彼女の為に死ねるかって言われたら言葉に詰まるけど。
なんだかんだいってこの子達は18歳~25歳ですからねー。楽しむことも重要。




