被告人の言葉
「あの……」
法廷が固唾を飲んで、次の言葉を待つ。
「私、ピーナッツパン食べました。」
法廷内が凍りつく音が聞こえる。
「私、ピーナッツパン食べたんです。」
裁判長は、冷静に被告人に話しかけた。
「どこでですか。」
「いつもみたいに、コンビニでピーナッツパンを買ったんですーー」
法廷は、被告人の言葉の意味を理解できた。
しかし、飲み込むことが出来なかった。
「それで、いつもピーナッツパンを食べてるベンチがあるんです。そこで、ピーナッツパン食べました。」
裁判長は、ゆっくりと被告人に語りかける。
「あなたは、ピーナッツパンを食べていません。」
被告人の左目から、一筋の涙が溢れ落ちる。
「あの日から、牛くんが笑ってくれないんです。」
「被告人、あなたは無罪です。」
「ミルクチャイおいしいですか。」
「被告人ーー」
「全然おいしくない。おいしくないんです。」
被告人の右目からも、一筋の涙が溢れ落ちた。
「被告人、あなたは無罪です。本法廷は、これにて閉廷いたします。検察官は、すぐに被告人の釈放手続きに入ってください。」
「起立してください。」
弁護人、検察官、傍聴席、みんなが立ち上がる。
その中を、3人の裁判官が去っていった。
被告人が、すすり泣く声が法廷に響く。
傍聴席の木暮真奈が、被告を見つめながら泣いていた。
法廷の外では、満開の桜が綺麗に咲いている。
暖かくなった4月の出来事だった。




