表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/49

第36話 走れ、陽だまりパン!

陽だまりパンの香りを胸いっぱいに吸い込み、私は貴族街の石畳を走る。


 高い塀に囲まれた館々。

 整然と並ぶ街路樹。

 上品な風が通り抜けていく。


(ここで……数字を掴むんだ)


 まず向かったのは、雨の日に声をかけてくれたお屋敷。

 昼休憩で出入りする使用人たちの姿がある。


「こんにちは。麦猫堂の陽だまりパン、できたてです」


 震えそうな声を押しとどめ、笑顔を作る。


「あ、あの時の……」

「これが噂の……!」


 視線が籠に集まる。


 一口齧った瞬間、表情が変わった。


「柔らかい……あの味だ!」


 手が次々伸び、

 籠の底が見え始める。


(いける……!)


   ◇ ◇ ◇


「ありがとうございました!」


 二十個が一気に減った。


(あと三十……!)


 だが全てが順調ではない。


「路上販売など、みっともない」


 門の向こうで冷たい言葉。

 使用人すら応じてくれない屋敷もある。


(元侯爵令嬢でも、関係ないんだ)


 胸の奥が痛む。


 でも、下を向かない。


(数字を動かすために、私はここにいる)


   ◇ ◇ ◇


 貴族街から離れ、私は城下の広場へ向かった。


 昼時の広場は、人で賑やかだ。


「陽だまりパン、焼きたてです!」


 働く人々の視線が集まる。


(いける……!)


 その時。


「エリ嬢ちゃん!」


「ベンさん!」


 警備小屋から元兵士の老人が手を振っていた。


「頑張っとるなあ。そのパン、買わせてくれ」


「はい! どうぞ!」


「おいお前ら、腹減ってんだろ!」


 兵士仲間が笑いながら集まってくる。

 勢いよく売れていく。


(ありがとう、ベンさん……!)


   ◇ ◇ ◇


(残り……あと数個!)


 息が荒くなる。

 あと少し――


「エリ」


 振り返ると、セシル。


「私も広場北側で三十ほど売りました」


「えっ、三十!?」


「初日分の目標は、ほぼ達成です」


「すごいよ、セシル!」


「いえ」


 セシルは籠を押し戻す。


「エリが売った数字こそ、エリの力です」


「……うん。最後まで、走るよ」


   ◇ ◇ ◇


(私、変われる)


 拳はもう震えていなかった。


本日の収支記録

項目内容金額リラ

収入陽だまりパン販売 +55

収入通常営業取り分(出張集中のため少減)+5

合計+60

借金残高23,309 → 23,249リラ


セシルの一口メモ

数字は、エリの努力そのもの。

胸を張りましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ