送られてきた札
カナリーに同意を求められ、キキョウも渋い顔で「うむ」と頷いた。
それに、人造精霊であるタイランと霊獣のリフも、できれば注目を浴びて欲しくないんだよなーというのが、シルバの考えだった。
「そ、それに色々と事情が複雑だったみたいなんです。私達が霊樹と戦ったこと自体、悪魔の問題と関わりがあるので、口外も出来ませんし」
ジョッキの水を飲みながら言うタイランに、カナリーは眉を寄せた。
「難儀な話だ……あと残ってる問題は、魔人にされた冒険者と、トゥスケルか」
「に。トゥスケルは教会と父上が追ってる」
「……無茶苦茶怒ってたよな」
笑いながら激怒するフィリオを思い出す、シルバだった。
「にぅ……父上、都市中の野良猫と野良犬つかってた」
「で、分かったことといえば、商業ギルドには、タヌリック・ウェルズっていう行商人は存在しないってことさ」
「偽名かね、シルバ」
「おそらくね。魔人に関しては、教会預かりだ。俺達じゃ現状どうしようもない」
と、そこまで言った所で、ノックの音がした。
「ん?」
シルバが立ち上がり、タイランはスッと大テーブルの下に潜んだ。
「ウィンディン運送っすがー。よろしいっすかー?」
シルバが扉を開くと、帽子に作業着の男が小包を持っていた。
「場所間違えてるんじゃないすか? ホントにウチに?」
「えーまー。ほらここに『アンノウン』シルバ・ロックール様宛ってなってるんですが、ここで間違いないっすよね」
間違いなかったので、シルバはサインをして受け取るしかなかった。
荷物は平たく薄かった。
「うわ」
送り主を見て、思わず声を上げてしまう。
「誰からだい、シルバ」
カナリーの問いに、シルバは扉を閉め、自分の席に戻りながら答えることにした。
「ネイト・メイヤー」
「げ」
呻いたのは、席にいた全員だった。
「しかも、住所がルベラント聖王国の王都大聖堂。アイツ一体何やりやがった」
「何やりやがったとはずいぶんだな、シルバ」
まだ梱包も解かれていないその荷物から、声がした。
「うわ!?」
「やあ、暗くて狭いから開けてくれると助かる」
「お、おま、お前、その声は……まさか」
「できれば脱がすのは、シルバにして欲しいモノだ」
「ただの包装紙だろうが!?」
「なら、そんなに遠慮することはない。さあ、ビリビリと力任せに破いてくれていいぞ」
この台詞だけを抽出すると、大いに誤解されかねない発言であった。
「シルバ、僕に任せてくれてもいいぞ」
「某でも構わん」
「待て! その爪と刀を引っ込めろ二人とも!」
カナリーとキキョウが身を乗り出すのを、シルバは慌てて制した。
「で」
開いた荷物の中には、一枚のカードが入っていた。
悪魔の絵が記されたそのカードから、幻影のように半透明な黒服金ボタンの麗人が手の平サイズで浮き上がっている。
だが以前のような葉の髪に茶色の肌の木人ではなく、黒髪に色白の肌となっていた。
一見何でも屋のクロエと似ているが、こちらは全体的にシャープな印象が強く、蝙蝠の翼と長い尻尾、それに耳も尖っている。
「やあ、みんなも久しぶりだね」
「……何でまた、そんな姿になってるんだ。いやいい。やった人の検討はついている」
「教皇……猊下とやらか、シルバ殿?」
キキョウの推理は、送り先を考えれば妥当な所だろう。
だが、シルバは首を振った。
「その、もう一段階えらい柱だろ」
「うん。前に話していた通り、やり残していたことがあってね。それを果たしに来たんだ」
「……某達のパーティーに入れろという話か? まだ、話し合っていないぞ?」
キキョウは、難しい顔でネイトを見ていた。
「そもそも、やり残していたこととは何だい、悪魔」
問うカナリーに、ネイトは無表情な微笑みという、複雑な顔で応えた。
「ネイトでいいよ。ほら、身体を造り変えられた冒険者がいただろう? 彼を元に戻しに来たんだ」
靄によって、魔人にされてしまった冒険者、グースという戦士のことだ。
まさしくつい今し方、この集まりで話していた人物である。
「できるのか」
シルバが尋ねると、ネイトは無表情なまま答える。
「やるのは君だよ、シルバ。僕はもう、自分ではほとんど何もできないのだ。完全にこの札に封じられているからね。契約者である君の魔力を借りなければ、獏としての能力・心術も使えない」
シルバは契約した記憶はなかったが、そういえば第三層で別れ際、髪の毛を渡したのを思い出した。
あれが契約か。
一方、荷物の中に入っていた手紙を、シルバから預かったカナリーが目を通し、頭を抱えていた。
「……その手紙には、何と書いてあるのだ、カナリー」
「譲渡契約書だ。そのカードは、シルバが管理するようにという任命書でもある。ゴドー聖教総本山直々のな」
「つまり僕はシルバの所有物という訳だ。好きにしていいぞ」
えへん、とささやかな胸を張るネイトである。
「……お前に一体何をしろって言うんだ」
「それは君次第だ、シルバ・ロックール。そうだな。いい加減、僕の説明が必要か」
ネイトは、ここに運ばれるに到った経緯を話し始めた。
「僕がシルバから奪った『女帝』のカードを、本来の所有者の元に戻しておいた。サフォイア連合の有力国の一つギブスにね。……もちろんタダでじゃあない」
言って、ネイトはフッと微笑んだ。
ギブスは連合内でもかなり発言力のある国であり、コランダムやカコクセンを始めとしたいくつかの国との繋がりも強くして派閥を成している。
ネイトはチラッとタイランを見たが、ほんの一瞬だったので、気付いたのはシルバぐらいだった。
「……お前、何か、さっきのカナリーの顔そっくりになってるぞ」
「ちょっと待つんだ、シルバ。それは一体どういう意味かな?」
カナリーが身を乗り出したが、シルバは完全に無視した。
「あとは、サフィーンの砂漠を歩いていたゴドー氏に頼んで、この札に封じてもらった。そこから先は東サフィーンから海路宅配便でルベラント経由だったから、結構時間が掛かったようだな。一ヶ月ぐらいか……ん? いや、意外に掛かってないのか?」
ゴドー? とキキョウが首を傾げる。
説明するとややこしいことになりそうだったので、シルバはすっとぼけた。
「それでわざわざ戻ってきて、後始末をしに来たって訳か」
「ゴドー氏からの言伝もあるんでね。『お前にできるんなら面倒くせーから、そっちに任す』だそうだ。うん、頭を抱えたくなる気持ちはよく分かるが、あの男らしいと言えよう」
「に」
「あー、ありがとう、リフ……」
シルバは、リフから受け取った水の入ったグラスを、一気に煽った。
「ふむー、やはり君は強力なライバルのようだな。対抗意識がメラメラと燃えてきたぞ」
「にぅ……」
相変わらずの表情をするネイトと、尻尾をゆらゆらと揺らすリフが見つめ合う。
「うわ、何か火花が。えと、でもネイトさんって何が出来るの?」
ちょっと怯みながらもヒイロが手を挙げると、あっさりとネイトはリフとのにらめっこをやめてしまった。
「さっきも言った通り、今の僕は何もできない。やるのは、シルバだが――つまり『女帝』のカードと似たような使い方ができる」
「えぇ……っ!?」
シルバが、ノワの『強制』を受けるのを目の当たりにしたヒイロは、明らかに怯んでしまった。
それを宥めるように、シルバが言い添える。
「ヒイロは『魔術師』のカードも知ってるだろ。あれのバリエーションだ」
「悪魔と聞いて、君は何をイメージする?」
ネイトの問いに、ヒイロは少しだけ考えながら答えた。
「えっと『悪』?」
「では、君」
ネイトは、リフにも質問する。
「にぃ……『黒』?」
「タイラン君とカナリー君はどうだ」
「す、『数学』でしょうか」
「決まっている。『魔』だ」
「サムライの君だと、どういう解釈をする」
「某の国には悪魔というのは馴染みがない。だが、お主のしたことを考えれば、『誘惑』ではないか?」
次回で、ひとまず終了となります。
今後については終了後に、活動報告に書こうかと思ってます。




