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世界改変の再確認

「よ、よろしくお願いします」


 ペコペコとタイランが頭を下げると、サヴァランは「ガ」と一声上げた。

 カナリーの従者二人と共に、蔓の束を抱え持ってそれぞれ魔人とヴィクターの方に向かう。

 サヴァラン達を見送り、シルバはタイランに尋ねた。


「……タイラン、サヴァランの言葉分かるのか?」

「あ、か、感覚で、ですけど……それなりに。一緒に中にいた間に、ちょっとお話しまして……こう、何だかピリピリ来る波みたいな言葉なんです。一体一体じゃなくて、三つの精霊が合わさってるので、変な感じなんですけど」

「……よく分からないけど、念波みたいなもんか。ウチ預かりになるんなら、言葉が話せた方が便利だよなあ。っていうか、『透心(シンツ)』は使えるのかね」


 後で試してみようと考える、シルバだった。

 一方ロンへの説明も終わったのか、カナリーが戻ってきた。


「翻訳機能か。そういうのは作ったことがないから、学習院で先生方から色々と聞かなきゃならないね」

「で、でも、お話が出来ると、もっと、仲良くなれるんじゃないかと思います……」

「了解。検討しよう」

「ねー、この子達はどうするのー? せっかく手伝ってくれたのにー」

「ちょ、きついきついきついって、ヒイロちゃん! ノワ、その趣味はないんだから!」

「その趣味って?」


 よく分かっていないヒイロは、霊樹の蔓で、しっかりとノワを縛り上げていた。

 シルバはそれに構わず、部屋の隅に固まるカニやイガグリのモンスターを見た。


「あ-、そいつらの問題もあったな。確かに、このまま礼だけ言って別れるってのも、不義理だし……」

「にぅー……」


 どうするかなーと考え、この辺は専門家に任せるべきかと結論づけた。


「テイマーの連中か、召喚師のところに話をつけに行った方がいいな。確か、ギルドにモンスターの登録とかできる制度があったはずだ」

「に。リフがする」


 シルバにもたれかかったまま、リフが見上げてきた。


「お、珍しくやる気じゃないかリフ。えらいえらい」


 シルバは頭を撫でると、リフはくすぐったそうに眼を細めた。


「に、にぃ……リフが呼んだから、リフが世話する。山の掟」


 魔人を縛り上げながらその様子を見ていたキキョウが、緩く尻尾を揺らしていた。


「……むー、うらやましい」

「ガ?」




「じゃあ、後は地上への運搬だけか」


 シルバは天井を見上げ、道具袋から一枚の板を取り出した。

 遠話機と呼ばれるそれは、もう一枚対になっている板へと音声を飛ばす機能があり、遠くにいる人物と会話ができる魔道具である。

 その、対になっているもう一枚を持っているのは、今シルバがいる場所の真上に待機しているはずの男である。


『ういっす、終わったか』


 第二層を飛ばし、第一層で待っていたカートンの声が、遠話機を通して伝わってきた。


『まーな。クロエと一緒に、こっちに来てくれ。大きいのが二人に増えたから、二回往復になる』

『力仕事は面倒だな……お前んとこのデカイの借りるぞ』


 デカイの、とはタイランのことだろう。


『当然。そっちの仕事は、俺達の護衛だっつーの』


 それからふと、シルバは思いついて、カートンとの精神共有を部屋のみんなにもオープンにした。

 これで、全員にカートンとのやり取りが伝わるはずだ。


「……あ、それとノワ達の隠れ家に監禁されてた子達の調子はどうだ?」

『あ? 何で今更そんなこと聞くんだよ。治療中の話のことか? ……それとも、何かの符丁か?』


 不思議そうなカートンの声が響く。


「大したことじゃない。普通に、ただの確認だよ」


 クロス・フェリーが消えた今、吸血鬼の被害にあった女性冒険者の安否は、特にカナリーも気にしているはずだ。


『……よく分かんねーけど、再確認的なモノか? 施療院の話だと、例の百眠草の後遺症はもうほとんどないっぽいな。ピンピンしてるはずだぜ』

「百眠草……」


 強力な睡眠効果のある薬草だ。

 口にすると、飲み食いせず年も取らずに百日間眠り続けてしまう。

 解毒剤はあるが、それを服用してもしばらくは睡眠不足に悩まされてしまうのだ。


『で、彼女達を()()()()()()に売っ払おうとした主犯は、ちゃーんとそこにいるんだろうな』

「……うーん」


 シルバは天井から、ノワに視線を戻した。


「ということになってるらしいぞ、ノワ。本当の意味での主犯、消えちゃったしなあ」

「人身売買組織となんて、繋がり持ってないよ!?」

「ホントに?」

「……な、ないってば」


 ノワの目が泳いだ。


「に。ホントのこと言う」


 リフの『強制』に、ノワは切れたように告白した。


「知り合いにはいるけど、取引はないってば! まだ!」


 シルバはボリボリと頭を掻いた。


「まだって辺りが終わってるっぽいなぁ……」

「人材派遣組織の裏ってことになってるから、繋がりはあってもおかしくないの!」

「その辺で、タヌリックってのと繋がった訳か」

「……それに関しては、ノーコメント」


 これに関しては、もうちょっと問い詰める必要があるかな、とシルバは思った。

 もしかすると、トゥスケルと繋がりがあったクロップ老人からも何か分かるかも知れない。

 この辺りは、フィリオに聞いてみるべきだろう。

 ともあれ、吸血の問題はそのまま、人身売買事件にスライドしてしまったらしい。


「ま、この辺がクロス・フェリーが消えた分、吸血騒動の辻褄合わせになってるんだろうな」

「アレは、クロス君の趣味だもん! ノワは悪くないし!」

「その辺のことは、俺に言われても困る。詳しくは教会の方で釈明してくれ」


 多分無駄だと思うけどなーと、シルバは思う。

 何しろ、クロス・フェリーという存在を憶えているのは、この部屋の中にいた者達だけなのだ。

 彼が罪を犯したという証拠も何もかも、改変されているか消えているに違いない。


「むー……絶対に仕返ししてやるんだからぁ」


 ノワは蔓のロープでグルグル巻きにされたまま、恨みがましくシルバを見上げていた。

 カナリーは、肩を竦めて苦笑する。


「はは……全然反省してないね」

「に」


 ピンとリフが尻尾を立てた。


「ん、どうしたリフ」

「おこった」


 尻尾の先端を揺らしながら、リフが表情を変えずに言う。


「ちょ、ぼ、暴力は駄目だぞ、リフ」

「に。しない」


 リフが指先を、ノワに向けた。


「な、何?」

「お兄にあやまる」


 リフが言い、ノワの身体が傾いた。


「やだ……って、う……ちょ、ちょっと……きゃうっ!?」


 ノワは芋虫状態のまま、前のめりになった。

 完全な俯せにはならず、どちらかといえば中途半端な土下座の形に近い。

 しかも、手が後ろ手に縛られているため、額がそのまま石床に叩きつけられていた。

 この構図は正に、シルバ達が最初にこの部屋に入ってきた時と立場を逆転しての再現であった。

 リフは土下座するノワの前に、正座した。


「『ごめんなさい』は」

「い、言わないもん」


 頭を床に付けたまま、ノワが強がる。


「言わなかったら、ずっとその体勢」

「……!」


 ビクッとノワの肩が震えるが、リフは言葉を続けた。


「光合成してる時も寝る時もずっとその体勢のまま。ずっとそのまま」

「お、脅しだよね?」

「人間社会だと、迷惑かけたらお金はらうって父上から聞いた」


 リフの手が、何かを探すようにノワの葉になった髪を探り始める。


「黄金の葉っぱとか実とか花とか高く売れる。育ったらぜんぶ回収してもらう。で、冒険者ギルド行き」

「えぇっ!? や、やだよ。これ全部ノワのだもん!」

「だめ。はらい終わるまで、ぜんぶ収穫」


 恐ろしいことを口にするリフに、ふとシルバの頭に浮かんだのは文字通りの()()の笑みを浮かべる幼馴染みだった。


「……その辺見越して、アイツ、ノワを木人にしたのかもなぁ」


 ちなみにリフに後で聞いた話によると、黄金の葉は滅多に生えないのだという。


「早く罪をつぐなえば、奪われつづけることもない。どれだけの時間がかかるか分からないけど、それは無限じゃない」


 リフが言い、手が葉を掻き分ける音が響く。

 やがて、土下座するノワが、振り絞るような声を上げた。


「……す」


 数秒後、その言葉はシルバの耳にもちゃんと届いた。


「すみませんでした……」

「に」


 リフの短い鳴き声に、ガクリ、とノワの身体から力が抜ける。


「……リフは、あまり怒らせない方が良さそうだね。根っこはしっかり父親譲りだ」

「……まったくだ」


 カナリーの言葉に、シルバは心底同意するしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと謝った!!! でも、全く反省してないし、この先もしないだろうから、 手足ちょん切って喋れないように口を燃やして「大罪人」の札を下げて教会前に晒して欲しい。 干からびるまで。
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