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後始末

 リフは、ノワの葉っぱで出来た頭を掻き回し始めた。


「ちょ、ちょっとノワに何してるの!? 頭まさぐらないでよ!?」


 リフは何かを探しているようだった。

 やがて、動きを止めるとその手を引き抜いた。

 その手には、金色の葉があった。


「あった。ヒイロとキキョウに半分ずつ飲ませる」

「分かった。ヴァーミィ、セルシア頼む」


 カナリーの指示で、ヴァーミィとセルシアが、半分に破られた金色の葉をそれぞれ、ヒイロとキキョウに持っていく。

 それを食べさせられた二人は、即座に身体を起こした。


「はうー……頭痛いー……お肉、もっとほしいー……あれ? ボク、どうしてたの?」

「身体の痛みが完全になくなっている……一体、どうなっているのだ……?」


 キョトンとする二人の様子に、シルバはしぱたんしぱたんと尻尾を揺らすリフをだっこしながら、ノワから一メルト程距離を取る。


「リフ」

「ハゼルの樹。レア種。はっぱは長生きの効果」

「ホント!? それって高く売れるの!?」


 身体を硬直させたまま、目を輝かせるノワ。

 だがリフは、ノワの問いを無視した。


「に……奥の部屋、キキョウ調べるのおねがい」

「む?」


 事情がよく分かっていないキキョウは、戸惑ったようにシルバを見た。


「あ、わ、私が説明しておきます。シルバさん達は、ノワさん達の相手をお願いします」


 シルバの身体から、タイランが離れる。


「大丈夫か、タイラン?」

「ず、ずいぶんと、休ませてもらいましたから」


 言って、タイランはカナリーの元へ飛んでいく。

 事情を聞いたキキョウは頷き、タイラン・カナリーと研究室の方に向かっていった。

 それを見届け、シルバはノワに向き直る。


「なあノワ。そのタヌさんって何者だ?」

「ノワ知らない」


 つーん、と顔を背ける……ことは出来なかったので、目だけ逸らした。


「……お前な」

「べー! シルバ君は敵だもん。教えないもんねーだ!」


 表情は自由が利くらしく、ノワは舌を出してアッカンベーをする。


「……どうしてくれよう、コイツ。ん? リフ?」


 袖を引っ張られ、シルバはリフを床に下ろした。

 リフが、ノワと相対する。


「しゃべって」

「タヌさん……タヌリック・ウェルズは、ノワ達が追われ始めた頃に近付いてきたの……って、何でノワ、喋ってるの!?」


 モース霊山の木々を治める剣牙虎の長の娘は、表情を変えず口を開く。


「続ける」


 それだけ言うと、ノワの舌は本人の意思とは別に動いてしまう。


「な、な、南方の商人で、レアな商品とか情報をいっぱい持ってて、手を貸してくれたの。『女帝』のカードとか『魂の座』はタヌさんから買ったの……って、言わせないでよ!?」

「続きは?」

「ほ、本来ならこんな手を使わずにもっとお金を貯めて、タヌさんから『龍卵』を手に入れるはずだったのよ」

「商人いがいの素性は?」


 リフは淡々と、ノワを問い詰めていく。


「二十代の男。丸い黒眼鏡でどんぐり眼。ゆったりした黒色の衣服。笠と大きいリュック……ううう……背景はぜ、全然知らないけど、シトラン共和国出身って言ってた」

「ほんと?」

「タヌさんの自称……」


 つまり、これに関しては、ノワも本当かどうかは分からないんだな、とシルバは考える。


「にぅ……他に手掛かり」

「こ、これぐらい……取引用にもらったの……」


 ギギギ……とノワの手が動き、腰に下げた布袋から一つのコインを取り出した。

 リフはノワに近付くと、それを回収してシルバの元に戻る。

 コインの表面には、開かれた書物のレリーフが刻まれていた。


「トゥスケル……!」


 『知的好奇心の集団』が絡んでいることを知り、シルバは思わず叫んでいた。

 ノワは言葉を続けた。


「霊獣のことを教えてくれたのもタヌさん……シルバ君と一緒にいた白い仔虎に見覚えがあるって……それで、マタツアを……」

「……リフの親父さんが聞いたら、すごい笑顔になりそうな情報だな」

「に……」


 シルバの言葉に、リフはコクンと頷いた。




 研究室の方から、カナリー達が戻ってきた。


「向こうには、もう誰もいないようだよ」

「……もう?」


 ということはやはり、そのタヌリックという人物がいたということか。

 主に臭いで捜索を担当したキキョウが、頷く。


「うむ。人がいた痕跡はあった。天井の方に隠し通路への抜け道があって、おそらくそこから逃げたモノと思われる」

「……何で、そんなモノが研究室にあるんだよ」


 シルバの突っ込みに、カナリーは親指で後ろを指した。


「ちなみに機能は死んでるけど、自爆装置らしきモノもあるよ、あの部屋」

「あー」


 そういえば、クロップ老の先祖もマッドサイエンティストっぽかったっけと、シルバは思い出した。

 なら、それぐらいあってもおかしくないかと納得することにした。


「それでシルバ殿、そっちは大丈夫なのか?」


 キキョウが刀の柄に手をやりながら、ノワを警戒する。


「あー、うん、リフがちゃんと見張ってるから」

「にぃ」


 リフがコクンと頷いた。

 しかし、キキョウと同じくカナリーも心配のようだ。


「念のため、縛り上げておいた方がいいと思うけどな。さっきのように、どんな反撃をされるか分からないぞ?」

「ねーねー、縛れそうなモノならいっぱいあるけどどうするの? それとも、リフちゃんの用意してくれてた奴、使う?」


 いつの間にか立ち上がっていたヒイロが、リフに近付いていた。

 その指は、枯れた霊樹から垂れている蔓を指差していた。


「に、普通の蔓だと木人に操られるからだめ。あの霊樹の蔓にリフの霊力を込める。それならだいじょうぶ」

「おっけー。あ、こっちの人はどうしよ」


 蔓を回収しようと向かい、ヒイロはそのままロンの所で足を止めた。


「……せめて、事情ぐらいは説明してくれると助かるんだがな」


 気絶から立ち直っていたロンはまだノワの木の根に縛られたままだが、特に抵抗する気はないようだ。


「こういうややこしい事態の説明に向いているのは……」


 シルバは考え、カナリーと目が合った。


「やっぱり僕だろうね。あと彼女には猿ぐつわもしておいた方がいいかもしれないね。横から変に吹き込んで、彼が主犯にされかねない」


 カナリーのジト目が、憮然としているノワに向けられていた。

 その視線を受け、ノワがそっぽを向くのを、シルバは見逃さなかった。


「……今、目を逸らしたな、お前」

「そ、そんなことないもん!」


 もっとも、もうちょっとノワには話を聞きたい。

 リフの尋問でも充分対処はできるが、やはりシルバ自身が直接話す方が、効率的だろう。

 その前に、他の雑事は全部、片付けておきたいところだが。


「……となると」


 ふわふわと宙に浮いたタイランが、壁に身体を半分埋めた巨人と、大の字に倒れた魔人を交互に見ていた。


「残るはヴィクターさんと、ま、魔人さんですね。動かすだけでも、一苦労そうですけど」

「やはり縛っておくか、シルバ殿。下手に復活されても敵わぬ」


 キキョウの申し出に、シルバは頷いた。

 魔人の方は、上司であるストア・カプリスに預けることにした。

 シルバには、少々荷が重すぎる案件だ。

 一応、ヴィクターを無力化した時用の準備だけはしてあった。


「ヴィクターの方は予定通りに。リフ、予備はあったか」

「にぅ」


 リフはポケットから豆を出した。

 小さな掌の中で発芽したかと思うと、何本もの極太の蔓がにょろりにょろりと触手のように育成して、床を這っていく。

 足下を埋め尽くそうとする木の蔓に、シルバは大いに慌てた。


「って、そんなにいらねーって!? 四本でいい、四本で」

「いや、せっかくだし、それぞれ念のため、二本ずつ重ねて縛っておこう。それならさしもの巨人達も、動けはしないだろう。タイラン……ではなかった。サヴァラン、手伝ってもらおうか」


 キキョウは太い蔓を両脇に抱え、大きな重甲冑を見上げた。


「ガ……?」


 重甲冑――サヴァランは困ったように周囲を見、カナリーがロンとの会話に忙しいと見るや、タイランを見た。

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