キャノンボア達の事情
うり坊の姿がスッと消え、キャノンボアのメイジェルが一鳴きすると、バレットボアたちは方々へと散っていった。
メイジェルはその場で脚を折り、シルバ達と広場に残った。
一旦は消えたうり坊だったが、こっそりまた顕現していた。
通訳のリフを挟み、もうちょっと人里から離れられないか、シルバはメイジェルに聞いてみた。
「に。そもそもメイジェルたち、人の来ないもっと山の奥の方、棲んでた言ってる」
リフは、山の方角を指さした。
「それが、人里近くに下りてきて、人間と衝突することになったってか」
「に」
「どうしてまた、そんなことに?」
シルバが疑問を抱いた。
わざわざ別の場所に移動するからには、何かの理由があるのだろう。
「にぅ……」
リフは、メイジェルに向き直り、再び話を始めた。
しばらく待つと、話は終わったのか、リフは振り返った。
よくない話だったのか、しょんぼりしているようだ。
「山の奥、沼があった。メイジェルたちの聖地」
「過去形だね」
スン、とカナリーが鼻を鳴らした。
「に、今はない。干上がった」
「水源が涸れたのか」
確か豚とか猪は、寄生虫を取り除くために水や泥に転がる習性があると、シルバは何かの本で読んだことがあった。
そこが枯れれば、泥遊びもできないだろうし、周辺の食べ物も減るだろう。
移動せざるを得なかったということか。
「にぅ、近いけど違う。沼を満たす水を生む花、人間に取られた。背の低いメスと背の高いオス二人」
リフの言葉の通りなら、沼は自然に枯れたのではなく、人為的なモノだったということか。
いや、それよりも……その人数と組み合わせには、とても不吉な予感がする。
そしてシルバと同じく、勘を働かせたパーティーメンバーがもう一人いた。
「……何かちょっと読めてきたぞ」
目を細めたカナリーである。
「カナリーさん、どういうこと?」
一方ヒイロは分かっていないようで、しきりに首を傾げていた。
「山の奥だろう? モンスターだってそれなりにいるし、何より当時はメイジェルたち猪の群れがいた。彼らの手強さは、僕達が身をもって味わっただろう? 相当、腕に覚えのある奴しか入らないし入れない。リフ、その花って高く買い取られるか、特効薬的な素材だったりしないかい?」
カナリーの問いに、リフは頷いた。
「にぅ……水霊花は、長く太い根で水脈から水を汲み上げる植物。含まれる水には地中の霊力がたっぷり含まれてる。霊力と魔力、厳密には違うけどほとんどいっしょ。月の光をもう一つの養分にして、花が開く」
月の光ね……と、カナリーが忌々しげに、呟いた。
「ふむ、その花が沼地のポンプの役割を果たしていたのであるな。しかし、それらがならず者たちに奪われ、沼地が枯れたと」
キキョウがシルバを見た。
「月の光が養分……か」
シルバの頭に浮かぶのは、商人の少女一人に男二人のパーティーだ。
そのシルバの心を読むかのように、カナリーが指を鳴らした。
「そういうことだよ、シルバ。あの別荘は、拠点だ」
エトビ村の外れにあったのは、半吸血鬼であるクロス・フェリーの邸宅だ。
そして沼から盗られた、月の光を秘めた水霊花。
さすがに無関係とは考えにくい。
他の皆も、気付いたはずだ。
「んん? 二人だけ分かるのは、ズルいと思う!」
ヒイロを除いては。
「ええとヒイロ、つまりですね、推測ではノワさんの仲間である、クロス・フェリーさんか、狼男のロンさんって人が、おそらく水霊花を奪っていったんです。目的はおそらく、自分達の力を強めるため。吸血鬼も狼男も、月が満ちるほど強くなると聞きますからね」
「そっか、なるほど!」
タイランの説明に、ヒイロはポンと手を打った。
「あくまで推測であって、確定じゃないけどな。ヴィクターを引き入れる前の話なら、辻褄は合う。リフ、その水霊花を盗んでいった奴らの特徴を聞いてみてくれ。リフがこういう奴らだったかって尋ねるんじゃなくて、向こうに思い出してもらう形で」
「にう、がってんしょうちのすけざえもん」
「……ヒイロ」
シルバは、細めた目でヒイロを見た。
キキョウやカナリーも、同じ目をしていた。
「い、以後気をつけます、はい」
頬から一筋汗を流し、ヒイロは目をそらした。
が、瞬きをしたかと思えば、何か思いついたのか、シルバを見つめ返してきた。
「先輩ちょっと気になるんだけど、その水霊花ってどれぐらいの大きさなの? なんか、大きくても多くても、沼地に生えてるそれ、少人数で盗んでいけるってイメージがないんだけど」
「……さすがに植物は管轄外だな。という訳で専門家頼む」
シルバは、リフに話を振った。
「に。水脈までたどり着く根はごくわずか。沼の大きさ次第だけど、多分十本もない。その根に他の根が絡みついて、水を分けていく。例えるなら、シャワーみたいなの」
「あー、枝分かれするんだ」
「水脈に届く根を持った水霊花は、他より色が濃い。多分それを持っていったんだと思う。大きさはこれぐらい」
言って、リフは西瓜ぐらいの大きさの玉を抱えるような真似をした。
「割と大きいね」
「でも、台車があれば十本ぐらい余裕。あと乗せられるだけ、他の花もいくつか持っていったんだと思う。色の濃い花を抜かれたら、水は地上まで上がらない。沼は涸れる」
リフは、帽子のツバに指をやり、目を伏せた。
「メイジェルたちは花を守ろうとしたけどできなかった。背の低いメスの人間が、邪魔した」
「タックルかませば、一撃だったんじゃないの? メイジェルたち、強いよ?」
「にぅ……できなかった」
「なんで?」
リフは、大猪の骨を指さした。
「女が、ご神体を斧で砕こうとした。そっちを守るので精一杯だったって」
本気で砕くつもりがあったとは、シルバには思えない。
やれば人質に価値がなくなるからだ。
けれど、メイジェルたちにとってはご神体であり、何としてでも守らなければならない存在だった。
そちらに気を取られ、その隙に沼の水源である水霊花は、奪われてしまった。
「ブルル……」
「ピギィ」
ヒイロは、メイジェルとうり坊を見、それから焼き印の入った骨剣を見た。
猪達の無念を汲み取ったのか、力強く頷いた。
「承った」
「いや、言えてねえぞ、おい」
すかさずシルバは突っ込んだ。




