後編
日差しのある裏庭から部屋へと連れてこられたシャルロッテは、落ち着く間も無くオーランドを問いただした。
「結局、どういう経緯であんな茶番劇が行われたのですか?」
「ちゃ、茶番……確かに。まぁ、始まりはガイルの報告からかな」
人の目がなくなったことで普段通りに愛称で呼び始めたオーランドは少し悪戯な笑顔を浮かべガイレルを見た。
「可愛い女の子がいるが、男に囲まれていてアタックできないってね」
「そんな報告してません。身分の高い者達が一人の女性に集まっていると言っただけです」
なんとも真面目な返答に苦笑いを返したオーランドは、そうでした、と睨むガイレルを軽く流す。
「まぁ、そんな感じで様子を見るため近づいたんだけど、見てると男を虜にするのが上手くてね。それも、男達の家の事情なんかを少しずつ聞き出していくんだ。もちろん、私は流れていいような情報ばかり流したけどね」
「なるほど。何か嗅ぎ回っている様子だったのですね」
「さすが、話が早いね。彼らは国の中核を担う人物の息子だからね。王子の私なんて中核どころじゃないだろう?だからアリス・マニロエスを探らせた」
ニヤリと笑うオーランドは獲物を見つけたかのようだ。余程、面白い情報が得られたのだろう。
「いやぁ、出るわ出るわ。マニロエス男爵は国の情報を他国に売っていた。もちろん、アリス嬢から仕入れた情報もだ。アリス嬢が知っていたかなどはこれから調べるけどね」
「……私はただの男好きにしか見えませんでしたが」
「あら、わたくしは二人とも楽しそうに見えましたわよ?」
シャルロッテの発言に情けない顔をする二人を見た彼女は小さく吹き出した。それにムッとしたのはオーランドだ。
「楽しくなんかないさ。異常にくっついてくるし、甘えてくるし。アリス嬢は調子に乗りすぎた。笑顔でいることがこれ程大変だと思ったのは初めてだったよ」
「それはお疲れ様でした。でも、なぜあんなことになるまで放っておいたのです?さすがに彼らに忠誠を誓わせるためではないでしょう?」
「そ、それは……」
「それは?」
言いづらそうにしているオーランドを一瞥したガイレルは小さくため息を吐いた。
「殿下はシャルロッテの話が出た時に怒りで暴れそうだったので、黙っていていただきました」
「黙ってって……どうやって?」
「それは聞かないでくれないかな」
落ち込んだ様子のオーランドを見たシャルロッテは、それ以上聞き出すことを止める。しかし気になったので後でガイレルに聞こうと決めた。
「まぁ、何をしたいのか見たかったから止めはしなかったけど、食堂でしようとした時はさすがに止めたよ」
「当たり前です」
「結局、茶番だったけどな」
そこで三人のため息が重なった。先ほどの出来事を思い出したのだろう。
「しかし、不快な思いをさせてすまなかったね」
「いいえ、もう気にしていませんわ。しかし、なんだかんだオーランド様の地位が確固たるものになっただけな気が……」
「ルド、でしょ?」
「え?」
シャルロッテの言葉を遮るように呟いたオーランド。しかし驚いたのはその内容だった。
「今は三人しかいないんだ。オーランドではなく、昔のように“ルド”と呼んでくれ」
真剣な表情で見つめてくるオーランドにシャルロッテはドキッとした。彼も愛称のことを気にしてくれていたのだろうか。昔のように話せなくなったことを寂しいと思ってくれていたのだろうか。
「茶番と言っておきながら、シャーロはあの時、私を疑っただろう」
「そ、それは……」
「私がシャーロ以外を愛することなんてないのに」
「え?愛す、る?」
次に驚いたのはオーランドだった。シャルロッテの反応はどう考えても思いが伝わっていない様だったからである。
「待って、シャーロ。まさか気付いてなかったの?」
「え、だって。そんなこと言われてなかったですし……」
「……嘘だろ」
頭を抱えたオーランドを眉を下げて困ったように見つめるシャルロッテは混乱していた。まさか一方通行だと思っていたのに両思いだったのだ。突然のことにどう受け止めれば良いのかわからなかった。
そんなシャルロッテの混乱に拍車をかけたのは、もちろんオーランドだった。
「だって、シャーロが言ったんだよ。絶対に欲しいもののためには他を我慢しろって」
「た、確かに言いましたけど、それとこれはどういう関係が」
「何言ってるんだ。あの日以来、私は我儘を言わなくなったじゃないか」
「それはそうですが」
「私の絶対欲しいものは君だよ、シャーロ。婚約者では手に入った事にはならない。だから、君を手に入れるために全てを我慢してきたんだ」
そう、あの日オーランドは生まれ変わった。何よりも大切なシャルロッテを手に入れる、妻にするために。
「言葉にしなかった私が悪いのかもね。それなら改めて言うよ。シャーロ、君を愛している。大切にするから私のものになってくれないかい?」
優しく笑うオーランドを見つめるシャルロッテの瞳には大粒の涙が溢れていた。
今まで王妃になるためと、たくさんの勉強を熟し、厳しい指導に耐え、多くのことを犠牲にしてきた。それはオーランドを支えたいからであり、彼の隣にいたかったからだ。しかし、彼から愛されるという高望みはしていなかった。だから思う、こんなにも幸せで良いのだろうかと。
「返事を聞かせてくれないか?」
壊れ物を触るようにそっと指でシャルロッテの涙を拭ったオーランドに精一杯の笑顔を向けたシャルロッテ。
「わたくしも愛しております、ルド。どうか受け取ってくださいませ」
「ありがとう、幸せにするよ」
その言葉を言うと同時にオーランドの腕の中へと引き入れられたシャルロッテは彼の背へと腕を回す。いつの間にか大人になった彼を感じながら、いつまでも幸せの涙を流した。
****
名残惜しげにシャルロッテと別れ、王宮へと向かう馬車の中。オーランドは向かいに座るガイレルに呟いた。
「こんな結末になるとはな」
「よかったではありませんか。問題のある者を捕らえ、優秀な人材を手に入れ、愛する者と気持ちを通わせられたのですから」
「まぁ、私としては幸せな結末だったが、まさか気持ちを知られていなかったとは思っていなかったからな」
「私はまさか殿下が気持ちを伝えていないとは思いませんでした」
窓の外を眺めながら呆れたように呟くガイレルの厳しい言葉に眉を顰めたオーランドは、何かに気付いたように眉を上げた。
「なんでそんな冷たいんだよ。まさかあれか、本当にアリスが気になってたとか?」
「……殿下」
「う、嘘だって!今回の件は秘密裏に動いてくれたガイレルのおかげだ、感謝してるよ!」
「そういう事を言っていただきたい訳ではありません。もう二度とシャルロッテを不安にさせるような事はしないでいただきたいだけです」
「あぁ、そういうこと」
納得したように笑ったオーランドはすぐに真剣な顔つきになると、しっかりと頷いた。
「当たり前だよ。シャーロは私の何が何でも手に入れたかった大切な人だからね」
その言葉に満足気に頷いたガイレルは思う、二人の友人は己にとって何が何でも守りたいものだと。
お読みいただきありがとうございます。
流行り物風にはなっていたでしょうか?
いや、なってないな…(汗)
乙女ゲーム小説にしては一番取り上げたいところが少し違ったのかなぁ、と思いますが、これが今の作者の文作力だと諦め、これからもっと勉強しようと思います。
ただオーランドとシャルロッテのほのぼのカップルが可愛らしいと思えて貰えたらいいなぁと思います!
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
史煌




