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想いの違い

「アリスっ」


 聞き慣れた声に名前を呼ばれ、アリスはびくっと身を震わせた。飛び出す前のやり取りを思い起こし、嫌われたんじゃないかと怯む。

 背後から足音が近づき、やがてすぐ横で止まった。

 走って来たのか、息が荒い。

 探しに来てくれた。

 ケンタの気配を横に感じ、アリスの心に喜びが広がる。

「……」

「………」

「…………」

「……さっきは悪かった」

 しばしの沈黙が流れたのち、ケンタがポツリと呟いた。

「俺が無神経だった」

 そんなことありませんわ!

 すぐに言い返そうとしたアリスは、続くケンタの言葉に口を噤む。

「テンネにも怒られてさ」

「ーーーっ」

 またテンネ!

 テンネのことは大事な友達だと思っている。けれど今は、ケンタの口から彼女の名前が出てくるのが憎たらしい。

 そんな自分が嫌で、アリスはきつく唇を噛み締めた。

「アリスも知ってると思うけど、俺とテンネは物心ついた頃にはすでに当たり前のように一緒にいた。テンネは俺にとってかけがえのない大切な人なんだ」

「……好き……なんですの?」

「ああ」

 躊躇いのない即答に、アリスは泣きたくなった。

「大事な家族だと思っている」

「家族……?」

 意外な言葉に、アリスは思わずケンタを見上げる。その表情は真剣そのもので、嘘をついているとは思えない。

「妹のような存在だ」

 戸惑うアリスに、ケンタはきっぱり言い切る。

 アリスを捜している途中、ケンタは自分の気持ちを出来るだけ客観的に整理してみた。自分のテンネに対する感情と、アリスに対する感情の違いについて。

 その結果、気付いたことがある。それは自分がテンネに対して「欲」というものを持っていないことに。

「王家に生まれたから、家庭環境は一般とは大きく離れている。だから家族愛というのは未知なものだった。テンネのことは大好きだ。ずっとその笑顔を守りたいと思っている。けれど、それは言わば兄が可愛い妹に対して感じる感情に似ている」

「本当に?」

「ああ。そもそも、俺はテンネとキスしたいとか、それ以上の関係になりたいとか、思ったことがない」

 言葉の行為を想像し、アリスは反射的に赤くなって俯いた。

「それに気付いた時、テンネへの想いは家族愛だと確信した……それに比べて、アリス………のことは…………」

「わ、私のことは……?」

 どぎまぎしながら、アリスは聞き返す。大きな不安と、同じくらいの期待を込めて。

 だがいつまで待っても答えが返って来ない。

 ドサッ

 どんどん不安が増していくと、何かが倒れる音が聞こえた。

「えっ?」

 思わず横に視線を向けたアリスが、声をあげる。そこには目を回して引っくり返ったケンタがいた。

「け、ケンタ様!!?」

 慌てて駆け寄ると、ケンタはぜいぜいと荒い息を繰り返しながら気絶していた。

 真っ赤な顔に手を伸ばせば、焼けるように熱い。

 ケンタが病人であることを思い出し、アリスは悲鳴をあげた。

「し、しっかりなさってください、ケンタ様!!」



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