じゃあね、バイバイ
●
明君と僕は、先ほどからずっと能力、つまりは欲望について話していた。
僕の能力がわからない以上、すでに能力が発現している明君から何かしらのヒントが得られるかもしれないと考えたからだ。
「ヒロシくんはぁ、いったいどんな能力を持ってるんだろうね~?」
「それがわかれば苦労はないですけどね……。明君はどうやって自分の能力に気が付いたんですか?」
「ボクはぁ、この近くに飛ばされてぇ、隠れる場所を探しているうちにおなかがすいてきてぇ、『おなか減ったなぁ、おにぎりがここにあったらなぁ』って思ったらぁ、手の中におにぎりが出てきてぇ、それで気が付いたんだぁ~」
「……つまり、日ごろから思っていることか、とっさの時に思うことが能力になっていることが多い、と言うことかな……?」
「そうかもね~。まぁ、一番の欲望ってぐらいだからねぇ~」
……だとすると、僕が一番欲している物って……?
日ごろから何かを特に強く望むということも無く、明確な将来の夢というモノも無かった僕が、一体どんな欲望を持っているというのだろうか……?
だが、僕がこのゲームに参加している以上、強い欲望を持っているのは確かだろう。
……あの神が間違えたと言う可能性も捨てきれないけど。
少々落ち込みそうなことを考え付いてしまい、あわててその思考を頭の外に追い出す。
「とりあえずぅ、試しにいろいろやってみたらぁ~?」
そう提案してくる明君に、僕は先ほどまで開いていた携帯のメモを見せる。
「……なにこれ~?」
「僕が試した能力の一覧です。もっとも、思いついたものを片っ端から確かめただけですけど」
その言葉に、明君は呆れたように言う。
「……こんなに試したの~?」
「ええ。そのおかげで準備時間を全部使う羽目に――ッ!! 明君、アレを見てください!! 早く!!」
話しながらふと辺りを見渡して、窓の外から見えた物を明君に示す。
その言葉に『???』と不思議そうな表情を浮かべながら、二人で窓際まで行き、空を見ると――、
「……うそぉ、もう残り81人~!?」
明君の言うとおり、空の数字はかなり減っていた。
ゲームの開始が宣言されて、まだ30分程しか経っていない。
たったそれだけの時間で、12人も死んだ、と言うことになる。
「もう12人も~。この分だとぉ、思ったよりも早く勝者が決まりそうだねぇ~」
「……いや、そうとも限りません」
「え~? どうして~?」
「ゲーム開始直後にやられるのは、君のような戦いに向かない能力を持つ人か、僕みたいに自分の能力がわからないやつ、あるいは軽率に動いてしまった人か、運悪く強い人に出会ってしまった人たちですから。おそらく、あと十数人はやられると思うけど、それ以降は減り方はゆっくりになると思います。皆がこのゲームに慣れてくるし、人数が少なくなって出会いも少なくなってきますから」
「ああそうかぁ、なるほどぉ!」
僕の説明に明君は納得したのか感嘆の声を上げる。
でも明君、うどん片手に言わないでくれるかな? と言うかまだ食べるの?
……とはいえ、その十数人に僕たちが入らない保証はどこにもないんだけど……。
そんなことを言っても不安にしかならないので、もっと前向きな話題を出すことにする。
「……とりあえず、ここが安全なうちに僕たちなりの戦い方を考えないといけませんね」
「うん~、そうだねぇ~(ズゾゾゾゾゾ~)」
明君はうどんを啜りながら同意する。そして、能力で出したのであろう七味を振りかけながら、
「でもぉ、戦い方って言ってもぉ、ヒロシくんは能力を探すってことでいいと思うけどぉ、ボクの能力じゃあどうやったって戦いにはつかえないよねぇ~」
「……いや、明君の能力でもやり方によっては十分戦えます。たとえば――」
と、僕は今思いついた考えを説明する。
「あぁ~、なるほどねぇ。確かにそれなら戦えるかもねぇ~」
「ただ、この方法は決定力に欠けるし、力押しされれば負けると思います。それでも、そうやって相手を混乱させることができればその隙に逃げられるし、僕の能力によっては勝利することもできる、……と思います。だけど、僕の能力も使えない者だった場合、もしかしたらもう何人か仲間を探す必要が――、誰だ!!」
出入り口の所で何かが動いたような気がして叫ぶと、少ししてから人影が姿を見せた。その姿は――
「待ってください!! お願い、殺さないで!!」
僕たちと同年代の女の子の物だった。
●
女の子は両手を上げて、顔を青ざめさせながらこちらの様子をうかがっている。
彼女の着ているのは制服であり、ブレザータイプにリボンタイをつけて、スカートをはいている。少し茶色がかった黒い髪の毛は背中にかかるぐらいのストレートで、前髪は眉にかかるぐらいで揃えられている。
そのまま椅子に座らせて本でも読ませればお嬢様にしか見えないが、荷物なしで両手を肩の上まで上げて、目の端に涙を浮かべている今はただの小さな女の子だ。
「君は……?」
「わ、私は金乃宮 音色。私立聖神女学院の三年生、です。さっきそこの窓からあなたたちが空を見ているのが見えて、ここに来てみたんです」
僕の問いに、彼女は声を震わせながら答え、そしてすぐに僕たちの方に駆け寄ってきてすがりつくと、
「お願いします、助けてください!! 私、こんな戦いで一人生き残るなんて無理です! いきなり殺し合うだなんて、そんなことできるわけないじゃない!! ……どうして、どうしてこんなことになっちゃったのよぉ……」
そうまくしたてるように叫び、その場にうずくまって泣いてしまった。
僕たちは顔を見合わせ、それから彼女に、金乃宮 音色さんに手を差し伸べる。
「落ち着いてください、ここは今の所は安全ですから」
「ほらぁ、これで顔を拭いて~」
明君も手を差し伸べる。その手には先ほど食べていたシュークリームについていた紙ナプキンを持っている。
彼女はそれを受け取り涙をぬぐうと、小さく「ありがとうございます……」と言い、立ち上がった。
それを見て僕たちもひとまずは安心し、自己紹介をすることにした。
「僕は有松 博。こちらの彼は板森 明。二人とも高校二年生です」
「お近づきのしるしにぃ、ケーキでもどうぞ~」
明君はそういって、ショートケーキを出して渡す。
何もないところからいきなり出てきたケーキに驚き、金乃宮 音色さんは目を丸くする。
「……まぁ! これがあなたの能力なのですか?」
「そうだよぉ、知っている食べ物なら何でも出せるんだぁ~」
それを聞くと、彼女はケーキを上品に食べながら何かを考え、すぐに僕の方へ向き直ると、
「そちらのあなたは、確かあの変な方のお話に出てきた能力不明の……?」
「ええ、その状態は今でも続いてます。……それで、貴女の能力は何なんですか?」
少しは落ち着いてきたようなので質問してみると、彼女は食べ終えたケーキの皿を床に置き、
「はい、私の能力は、大したものではありません。こちらの方の、食べ物を出す能力とよく似ています。
……ただ、私が出せるのは、」
そこで彼女は一度声を止め、うつむいてしまった。
不思議に思った僕は彼女に顔を近づけたところ、彼女はいきなり顔を上げ、叫ぶ。
「『銃』ですけどね!!」
●
なにも持っていなかった少女の手にいきなり拳銃が現れ、明に向けられる。
それに対して、とっさに反応したのは博だった。
隣に立つ明を突き飛ばし、その反動で自分もその場を飛び退く。
その直後に轟音が鳴り響き、博と明の間を何かが通り抜けていく。
その結果に、音色は大きく舌打ちしてほえる。
「動くんじゃねェよゴミどもが!! 動くと撃つぞ!!」
「嫌ですよ!! 動かなくても撃つんでしょう!?」
その声に叫び返した博は、明に向かって叫ぶ。
「一ヶ所に留まらないで!! 狙い撃ちにされる!!」
博に突き飛ばされた明はしりもちをついたが、すぐに転がるようにしてその場から離れる。
博もすぐに走りだし、狙い撃ちされることは防いだ。
2人とも相手にしていては効率が悪いと考えた音色は、後でいくらでも仕留められる明を後回しにして、厄介な博を先に仕留めようと集中して弾丸を放つ。
動き回る二人と、一ヶ所に留まる一人、そしてその一人から四方八方に放たれる弾丸と轟音が部屋の中を支配する。
だがそれもすぐに『ガチン』という音で終わりを迎えた。
「(――弾切れ! 今だ!!)」
そう思い、音色のもとに駆け出そうとする博だったが、使えなくなった銃を『ポイッ』と投げ捨てるのを見て立ち止まり、すぐに逃げることに専念した。
音色の手には、すでに新しい銃が握られていたからだ。しかも、
「(二丁拳銃!? 女の子の筋力でできるわけないだろう!?)」
その予想を覆し、音色はその名の通り、両手の拳銃で重低音の音色を奏で始めた。
彼女の両手の奏でるリズムは、先ほどの二倍速。
しかも、弾切れになったらすぐにそれを捨て、新しい物を出して撃ってくる。
その光景は、彼女の奏でる物騒極まりない楽曲に終わりが存在しないことを表している。
一方的に挑まれたダンスに、男二人は翻弄されながらも何とか踊れていた。
だが、それもいつまでも続かず、気が付けば二人は部屋の隅に追いやられ、動けなくなっていた。
音色はそれを確認すると、ゆっくりと2人に近付き、少し離れたところで立ち止まる。
その距離は、二人が飛び掛かろうとも音色が構え、撃つほうが早いという絶妙な距離だ。
それゆえ、二人は逃走も反撃も封じられたことになる。
博は背後の明をかばいながら、必死で生き残るための策を考える。
そして、博はその時間を稼ぐため、音色に話しかけた。
「……貴女は、女の子なのにどうしてそんな物騒な欲望を持っているんですか?」
話しかけられた音色はこの会話が時間稼ぎだと解ってはいたが、絶対的優位に立つ者の余裕故、話に付き合うことにした。
「あらあら、随分古臭い考え方ねぇ、時代は男女平等よ? ……私はお父様の勧めで、いろいろな趣味に手を出したの。でも、どれもこれも楽しくはあったけど、何か物足りなかった……。そんなとき、ダメもとでお父様が連れて行ってくれたクレー射撃で、私の人生は変わったわ」
その時のことを思い出しているのか、彼女は顔を赤らめ、ブルリと体を震わせる。
「一発撃っただけでもうサイコー!! 反動で体がしびれた瞬間、心も震えたわ! ……でも、お父様もお母様も、さっきのあなたと同じ考えでね、『淑女がそんなものにのめり込むとは何事か!!』って、それ以上は禁止されちゃったの。 私の通ってる学校はお嬢様学校だから、そんな部活も、話の合う人も全然いないの、ホント参ったわ。銃を好きなだけ撃ちたい、撃ちたいってどんどんストレスがたまっていってしょうがなかったときに、このゲームに参加させられた……」
彼女の顔色は喜びから悲しみ、怒りと変わり、また喜びへと戻っていった。
「ホント、渡りに船とはこの事ね! ……とってもいいのよ? この能力。頭で思い描いた通りの銃が出てくるの。そして、このゲームでは人を撃っても罪にはならない……。とっても好都合!! このゲームを始めてくれたあの変な神様に感謝しないとね!」
音色はしみじみとそう語り、そしてゆっくりと2人の方に銃口を向け、
「さあ、もうお話は終わりよ! これからは処刑の時間。……楽しみだわ、人を撃つってどんな気持ちがするのかしら……?」
歪んだ笑みを浮かべる音色に、明は怯えた顔を見せるが、博は音色を睨み付けている。
それを見た音色は、『へえ……』と言いながら博に話しかける。
「……まあ怖い、ずいぶんと良い目でにらんでくれるじゃない。ご褒美にキスでもしてあげましょうか?」
「……いりませんよ、そんなもの」
「あらあら、ずいぶんな言い草ね。これでも私は身持ちが固い女だから、初物よ?」
「あなたの唇には何の魅力も感じませんし、キスはどうせ父親か母親が最初ですよ?」
博の言葉に、音色は一瞬表情を無くし、それから少し悲しそうな顔をして、
「……そうね、確かに父さんか母さんが最初かもしれないわね……」
そうつぶやき、だがすぐに元の笑顔を浮かべると、ためらいなく引き金を引いた。
●
パン、パンと言う音が響き、そしてすぐに大気にとけて消えていった。
体に風穴を開けられた二人は、しばしの硬直の後倒れ、死んで跡形もなく消える。
そう思っていた。
だが、突き飛ばされたように倒れたのは明一人だけで、さらにはすぐに体を起こし、不思議そうな顔で自分の体を触って確かめている。
その一メートルほど前で、博は何かを考え込んでいる。もちろんその体に傷はない。
「……なんでぇ? どうしてボク達生きてるの~?」
困惑する明だが、音色はそれ以上に混乱していた。
「(どうして!? どうしてこいつら死んでないのよ!? 不発? ……ううん、そんなわけない!! ちゃんと音はしたし……)」
そこでよく見ると、二人の背後の壁には確かに二つの真新しい穴がうがたれていた。それを確認した音色は一度大きく息を吐き、新しく大きな銃を出しながら三歩ほど下がり、
「……散弾銃。一発で広範囲を撃てる弾丸よ。さっきは初めてで手元が狂ってはずしちゃったみたいだけど、この距離で散弾を撃てば絶対にはずさない。さあ、今度はちゃんと殺してあげるから、チャッチャとクタばりなァ!!」
音色の叫び声と共に、先ほどよりも大きな音が響き、しかし、
「――!! どうして、どうして死なないのよ!?」
すべての弾丸は、二人にあたる前に何かにあたってはじかれていた。
二人の足元を見ると、床の削れた跡が二人の二メートル前辺りで止まっており、その曲線は円弧を描いている。
それを見て、さらには自分の事をにらんでいる博を見て、音色はある考えにたどり着く。
「……見えない壁、バリアーを作る能力……。こんなこと出来るのは、この場でたった一人だけ……。あの神様が言った通り、確かに変わった能力ねぇ、能力不明の――、いえ、元能力不明の人?」
そう言いながら音色は笑い、しかしその裏で策を巡らせる。
「……たしか、博君、だったかしら? すごいじゃない、こんな土壇場で能力がわかるなんて、マンガみたいよ? でも、ほんとに変わった能力ね。欲望の内容は『守りたい』ってとこかしら? まるで正義の味方みたい。……でも、このゲームにおいて、そんな能力は大して役に立たないわ。だって、いずれ倒さなきゃいけない他人を守って、しかも攻撃能力は皆無……。守ってばかりじゃ意味ないでしょうに」
「………………」
あざけるような音色の言葉に、博は何も返さない。
「……何も言い返さないの? ――でもまあ、その能力もなかなかいいんじゃない? 敵の攻撃をすべて受け止めるなんて、逃げるだけなら最適の能力だわ。でもね、戦いってのは守ってばかりじゃだめなのよ。攻撃能力がなければ敵は減らないし、いつか対策を立てられてやられる。能力が無くてもそれは同じ、早いか遅いかの違いだけ……。だったら、私が今ここで殺してあげるわ!!」
音色の獰猛な笑みから放たれる叫びに明は怯え、博の背中に引っ付いて隠れる。
「それに、バリアーなんてモノの弱点は大体決まってるでしょう? 私でも二つは思いつくわ。一つは、強力な攻撃を当てて壊すこと。でも、これは今の私じゃあ無理。散弾銃まで受け止められたんじゃあ、これ以上の攻撃力を持たない私じゃあ壊すことは不可能。もしできても時間がかかる。……そして、もう一つは――」
音色は話しながら持っていた大きな銃を投げ捨て、先ほどからの銃撃で崩れた壁の一部、その中でも親指の先ほどの小さなものを二人の方向に蹴り飛ばす。
その欠片は勢いよく飛んでいき、二人の後ろの壁に当たる。
博はそれに一瞬気を取られ、そしてすぐに前を見るとそこには、
目の前に迫る音色の顔があった。
「――!!」
驚きで声も出せない博の目前で立ち止まった音色は、なかなかに整った顔をにやりとゆがめ、
「バリアーが出ていないうちにその内側に入り込み、術者に接近して仕留めること。そうすればバリアーを出しても敵ごと包み込んでしまい、身を守れない。……さあ、これでほんとにゲームオーバーね」
そう言うと、新しく作り出した拳銃を博の胸、心臓の位置に突き付けて、
「じゃあね、バイバイ」
引き金を引く。
次の瞬間、銃声と、人が倒れる音が部屋の中に響いた。
●




