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大罪のゲーム  作者: 辺 鋭一
第二章
22/25

かなり、まずいことになるわね

   ●



 たった数日ではあったが密度の濃い日々をともにすごしていた僕たちは、今日も同じことを繰り返している。

 明君と音色さんが朝早く起きるのを確かめ、身支度を整え、朝食をとり、そして本を読み漁り、そしていいアイデアが浮かべばノートに書きとめ、昼食後のミーティングで発表・調整を行う。

 その後、休憩ということで各々好きに過ごすというのがいつも通りの流れであり、大抵僕は本を読み、明君は何かを食べ、音色さんは明君に付き添って何かを食べたり一人で本を読んだりとその時の気分次第でいろいろな事をしている。

 今日も今日とて僕たちは自由時間を思うがまま満喫していたのだが、手洗いに行っていた音色さんがあわてた様子で戻ってきて、


「――ちょっと、急いでこっちにきて!!」


 と叫んだ。

 明らかに今までの『日常』とはかけ離れたその尋常でない様子に、ゆったりとしたソファに座って本を読んでいた僕は一つ大きなため息を吐き、


「どうしたんですか、音色さん。また例のアレが出たんですか? いい加減自分でどうにかして――」

「違うわよ! 大体あの時は無防備な所にいきなりだったから動転してただけで、今だったら銃で――って、そんなことはどうでもいいから、早く来なさい! 空がおかしいの!!」


 僕の言葉に一瞬顔を赤く染めた音色さんだったが、しかしすぐに焦った顔に戻り、僕と明君を急かすように呼び立てる。

 その様子に若干の戸惑いを得ながらも、僕と明君は顔を見合わせ、頷きあって立ち上がり、先導するように歩き出した音色さんについて家具売り場から離れる。

 そうして向かった先は、一つ上の階にあるレストランだった。

 そこはこの建物でも外側に位置しており、外の景色を楽しむためか一面ガラス張りになっている。

 もし今が夜で、ここがふざけたゲームの会場でなければ、素晴らしい夜景と共に運ばれてくる料理に舌鼓を打っている事だろう。

 そんな場所で、外から姿を見られないようにガラス窓から数歩離れて立っている音色さんは、右手の人差し指を真っ直ぐに伸ばすことで、自分の隣に並ぶ僕たちの視線を空へと向けさせる。


「あれ、どう思う?」

「……どう思うも何も、判断付くわけないじゃないですか。どう考えてもアレはあの(バカ)の所業でしょう」

「まぁ、アレ以外にこんなことできる――というか、しようとする人なんていないよねぇ……」


 僕ら三人の視線の先には、青の色が広がっている。

 それはいっそ病的とも言えるほどに雲一つない青空で、ただ一つの例外を除けばとてもいい日和だと判断できるだろう。

 おそらくこのゲームを企てたあの(バカ)の手が入っているのだろうが、今朝までのごく普通の天気――青空に雲がいくつか浮かんでいるというものだ――からは想像もできないほどの晴天振りだ。

 そして、そんな天気にした理由は、実にはっきりしている。

 あの神に限って、『せっかくだから皆にいい気分でも味わってもらおう』なんて理由はありえないし、『偶にはこんな天気も良いだろう』なんて考えるぐらいなら槍でも降らせて皆が慌てふためく様を見ようとするだろうことは想像に難くない。

 ならば、こんな天気にしたのか。

 その答えは、最初から示されている。


「……こんなめんどくさい事しなくても、ゲーム開始時みたいに全体放送かければよかったんじゃないですかね?」

「二度ネタはしたくなかったんじゃないの? アレ、そう言う事気にしそうだし」

「二度目でこれだとぉ、次はどうなるんだろうねぇ……?」


 少し前――少なくとも今朝までは71という数字を浮かべていた空には、今現在違うものが浮かんでいた。


「……だからって、空をメッセージボード代わりにしますか、普通?」

「普通って言葉が辞書にあるかもわからないような存在でしょう?」

「むしろぉ、あっても黒く塗りつぶしているかぁ、全く違う定義に修正されてそうだよねぇ」


 現在のプレーヤー数を示すはずの天空には、数字ではないとあるメッセージが映し出されていた。

 雲一つない澄み渡った空は、それを一切遮ることなく見上げる者に言葉を見せつけてくる。

 曰く――




『五分後、テレビを見よ……!!』




 何回も思ってはいたが、もう一度思い直すことにする。


 ……バカなんじゃないだろうか、あの神は。



   ●



 ここ数日、空に浮かぶ数字は刻々と変化を続けてきた。

 変化とは言っても例外なく減少でしかなかったが、それでもその減り方には波があった。

 その波も、遠くで大きな音がしたと思ったらカウントダウンが一進んでいたり、いつの間にか三人分ほど一気に減っていたりと様々だ。

 だが僕には、全体の傾向として、その波はだんだんと小振りになってきているように思えている。

 実際、一日目にがくんと減ってからそのカウントダウンはゆっくりになり、今では一日に二人減るかどうかという状態だ。

 空の数字は、今朝の段階で71。

 空の数字がこれまでとまったく違う変化をしたのは、このままだとこのゲームが終わるまでに一月以上かかるのではないかと考え始めた、そんな矢先の事だった。



   ●



 音色さんによると、最初に発見した時は『七分後、テレビを見てね♡』だったらしいので、この『五分』というのは割と正確な時間なのだろうということがわかった。

 あの神の事だからどうせろくでもない事なのだろうと察しはつくが、それでも見ておかないと後々不利になるだろうという結論に達し、僕たちはレストランを後にして四階の家電売り場へ向かう。

 エレベーターではなくエスカレーターで移動した先に、その一角はあった。

 本来ならば雑踏に包まれ、店員や客の声が飛び交っていたであろう家電売り場には、勿論誰もいない。

 大きなガラスから飛び込んでくる外の景色と日光の他にあるのはただ、新たな持ち主となる者を黙して待ち続ける機械たちだけだ。

 家電売り場につきものである、色とりどりの画像を映し出し続ける何十台ものテレビ群すら、今は黒い画面を晒すのみである。


 ……まあ、静かで良いけど。


 閉店中を模してこの店が作られていたことが唯一の幸いだろう。

 そうでなければBGMやテレビの音などが常に響き、やかましい事この上ない有様であったはずだ。

 ここを拠点にすると決めてから一度だけ『テレビやBGMなどをつけておけば物音をごまかせるのではないか』という案が出たりもしたが、『紛れはするかもしれないが、その数倍目立つから人が集まってきて意味をなさない』と一瞬で却下された。

 ちなみに、案を出したのは僕で、却下したのは音色さんだったりもするが、まあどうでもいい話だ。


「――じゃあとりあえず、この一番大きいのにしましょうか」


 テレビ売り場の前まで歩いて行った僕たちは、音色さんの提案によって、見える範囲では一番大きな画面であろうテレビを操作し、電源を入れた。

 一応音は最小限に抑えておいたが、それはあまり意味を成していなかったようである。

 なぜならば、


「……なにもぉ、映らないねぇ……」

「まあ、そもそも電波が来てない――というか、発信すらされてないでしょうからね」


 二人がそう話していることからもわかるように、電源をつけたはずの画面は未だに真っ暗である。

 一応うっすらと光はついているし、『電源』と書かれたランプはしっかり点灯しているし、そして何より画面の右上には今何が映っているかを表す表示がしっかりと出ている。

 だが、その表示は明らかに異質なものであった。


「……どの局を選んでも、同じ局しか表示されないみたいね」

「というかぁ、そもそもリモコンのボタンからして全部『G』って文字しか書いてないしぃ、他のチャンネルが存在しないのかなぁ……?」


 そう、どれだけチャンネルをいじっても、本来ならば何らかの数字が表示されるはずの画面の右上に現れるのは同じ『G』の文字だけだ。

 あの神の事だ、いくつもチャンネルを作るのがめんどくさかったに違いない。


「……でもぉ、この『G』ってどういう意味だろうねぇ……?」

「わかりきったことを聞かないでくださいよ明君。どう考えてもあいつ(GOD)の頭文字に決まってるじゃないですか」

「まあ、それ以外にはあてはまりそうにないものねぇ……」


 本当にわかりやすい神だ。

 と、そんなことを話している間に、


「……そろそろ時間のはずなんだけど、何が起こるのかしらね」

「どうせろくでもない事でしょう。せいぜい僕に対する嫌がらせじゃないことを願って――」

「――あぁ、なんか映りだしたぁ……!」


 時間になったらしく、今まで真っ暗だった画面に別の映像が映し出された。

 それは先ほどまでとは真逆の真っ白な世界で、じっと見ていると目が痛くなってきそうなほど眩しく、白の色以外何もないさまは、まさに『神々しい』という言葉がぴったりで、そして――


『という訳で我だ! 貴様ら、元気にしていたか!?』


 ――いきなり現れた(バカ)にすべてが台無しにされた。


 白の世界に画面外からそんな叫びと共にいきなり飛び込んできた神のドヤ顔を見て、音色さんは怒りを抑えきれなかったのかすばやく銃を出すと画面に映る神の眉間に銃口を向け、撃つ。


「――は?」


 ――が、画面に映る神の首から上のどアップには一切の変化がない。

 一瞬呆けた顔を見せた音色さんだったが、すぐに何かの間違いだと言わんばかりに弾丸を連続で放つ。

 それでもテレビには穴の一つどころか傷すらつかず、その下には音色さんが引いた引き金の数と同じだけのつぶれた弾丸が転がるのみだ。

 そに弾丸は何か堅い物にぶつかった年度のようにひしゃげており、それを見たさすがの音色さんもこれ以上は無駄だと察したのか、引き金を引くのをやめて銃を消す。

 すると、それを待っていたかのように今まで静かにしていた神がにやりと笑い、


『……ふむ、我が顔を見せてから今までの数十秒で、この世界のテレビを何らかの方法で壊そうとした者が六十七名、挑戦した回数二百三十二回、か。貴様らそんなに我の顔を見たくないか?』


 そんな当然のことを聞かないでほしい。


『と、そんなことはさておくとして、今日は貴様らに知らせたいことがあってこのような方法を取らせてもらった。これは貴様らのこれからに大きく関わってくることなので、途中で席を立つことなく、しっかり最後まで聞いておくように』


 まるで小さな子どもに言い聞かせるかのようにそう言った神は、数歩下がって全身が映るように映像を調節すると、


『――ああそれと、今は我の話をしっかり聞いてほしいのでこの世界のテレビすべてを『破壊不可能物体』とした。ただし、これは我の話が終わるまでの限定的な処置であり、その後は普通に壊れるように戻るので、『これを持ち運んで盾にすればいい感じじゃね?』などという魂胆は無駄になる。その事はしっかり理解しておくように』


 心の中で舌打ちした僕をあざ笑うかのようにまたにやりと笑った神は、いつの間にか画面の中央に有った大きな椅子にドカリと腰を下ろす。

 そうしてゆったりと足を組み、顔を若干上にあげて僕らの方を見(くだ)すようにしてから、また声を放つ。


『一応、我は真面目かつユーモアにあふれる素晴らしい神であるため、今日この日この時間のために様々な企画を用意してきた。『御主神さまといっしょ♡ ~メイドさんが冥土にご招待!~』や『154回目の神生で魔王に戻ったが、部下がアレ過ぎてどうしよう……?』、『例えば、こんな日常 ~ドラゴンと神が一緒に暮らす世界~』等々、タイトルを聞いただけで夜も眠れなくなるほどわくわくできる素晴らしい企画だったのだが……、まあ、時間も押しているのですべてやめて本題に入るとしよう』


 むしろそんなことを話している時間がもったいないと思う。


『さて、今日は何のためにわざわざ大空に文字を浮かべてこの映像を見てもらったのかといえば、貴様らにプレゼントをしたかったからだ。――これを見ろ』


 と、いきなり画面が切り替わり、何やら灰色の背景に緑色の丸がかかれ、その内側に様々な大きさの点が描かれている変な絵が出てきた。



     挿絵(By みてみん)


 

 ……これって、まさか……!?


 じっと画面を見ていた僕は、不意に頭の中に湧いてきた可能性に恐怖を覚える。

 もしこの考えが本当だとしたら――


「――かなり、まずいことになるわね……」


 と、同じ考えに至ったのであろう音色さんと僕の思考が重なったところで、画面はそのままに再び神の声が響いてくる。


『この画像の意味を察することのできた者も何人かいるようだが、一応解説をしておくぞ。良く聞いておくように』


 念押しするようにそう言った神の声は続く。


『今貴様らが見ている大きな円は、この世界の簡単な地図だ。一応貴様らの常識に則って上を北、下を南としている。方角がわからなければ後で上空の数字の前後左右に東西南北を表示をしておくので、参考にすると良い』


 『そして、最も大事な事だが――』と神は続け、


『この地図に配置されているいくつもの点。これは先ほどこの地図が表示された時点での貴様らプレイヤーの居場所だ。敵味方問わず近くにいる者同士は一つの大きな点でまとめているから、点の大きさが大きいほどその場所にいるプレイヤーの数が多い、ということになるな』


 ……やっぱりか。


 僕の予想通りの事を口にした神は、無言のままの僕らを差し置いてさらに続ける。


『ちなみに、この地図はテレビをつければどのテレビでも見られる。その時地図にバツ印が表示されると思うが、それはその時その地図が映し出されているテレビの場所だ。表示される地図はテレビごとにバツ印の位置が違うので、参考にしろ。また、この世界の時間を基準として、午前と午後の六時にこの地図は更新される。少なくとも今の段階では(・・・・・・)、その時間になるまで画像はそのまま表示され続ける。たとえ、表示された次の瞬間にその場所からいなくなろうと、な』


 と、そこまで話した神は、画面をまた椅子に座る自分の画像に変え、先ほどまでの平坦な説明口調とは打って変わった楽しそうな口調で、


『さて、これをどう使うかは貴様ら次第だ。他の者から逃げるために使ってもいいし、獲物を探すために使ってもいい。良く考えて(・・・・・)使うことをお勧めしておこう。――では、せいぜい励んでくれよ。さらばだ!』


 と、物理的に光る歯を見せる良い笑顔の表情がどアップになって、数秒後に先ほどの地図に画面は切り変わった。

 そのまま数瞬固まったままだった僕たちだったが、それ以後テレビから何も響いてこないのを感じ取り、話が終わったのだと悟る。


 ……さて、面倒になったな……。


 未だに表示されたままの地図を見ながら、僕は今後どうすべきかをじっと考える。

 そして、ある程度考えをまとめた僕は、同じく無言で考えている音色さんと、静かにニコニコしている明君に声をかける。


「――二人とも、今すぐ荷物をまとめてここを出ます。支度してください」



   ●

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