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大罪のゲーム  作者: 辺 鋭一
第一章
2/25

オープニング・ルール説明

   ●



「えー、突然ですが、貴様らには殺し合いをしてもらいます」



 どこかで聞いたようなセリフから、僕の物語は狂いだした。


 ……どこで聞いたかは言わないけど。言えないけど。


 ここがどこかはわからない、だがここには僕以外にかなりの人数がいる。そのうちの一人がいきなりのセリフに対して反応して、


「なにバト○ワみたいなこと言ってんだよ!」


 ……あ、言っちゃった……。


「こんな所に俺がいるのもわけがわかんねーのに、いきなり殺し合いたー、どーゆーことだよおい!」


 確かにその通りだ。僕にも訳が分からない。

 昨日の夜は確か、『やったー、明日から夏休みだ! 遊びまくるぞー』とか言って寝たはずなのに、気が付いたらこの公園のような変な広場にいた。

 ベットに入る時にはきちんとパジャマに着替えて寝たはずなのに、今僕は制服を着ている。この制服は僕の通っている高校の夏の制服、というか僕個人のものだ。


 周りの人たちの様子を見るに、彼らも僕と同じなのだろう。この場にいる人数は2~3クラス分ほどで、歳は見た感じ中学生もいれば高校生もおり、中には小学生にしか見えない少年もいる。

 男女比は大体半々ぐらい。着ているものは小学生らしき子どもたちと一部の高校生っぽい人たちの私服を除いてほとんどの人が制服だ。

 だがその制服も統一されておらず、僕の高校の近所にある有名不良校の制服を着崩してあたりをにらんでいる人もいれば、これまた有名な私立の金持ちお嬢様校の制服を着て落ち着いている人もいる。

 同じ学校同士の組み合わせはないようで、誰かと話している人はほとんどいない。


 てんで共通点のないばらばらな集団だけど、大なり小なり現れている不安そうな顔色と、皆若いということだけは一致している。


 ……というより大人が一人もいない?


 どこを見ても自分と同年代かそれ以下で、明らかに大学生以上に見えるのは皆の前にいる殺し合い宣言男だけだ。


 と、皆の視線が殺し合い宣言男にもどったところで殺し合い宣言男が口を開いた。


「いきなりのことで混乱しているだろうが、まあ落ち着いてくれ。まずは自己紹介からいこう。

 ――我は神だ」


 ……ああ、頭の中がお花畑系の人か……


 皆の顔の不安の色に呆れの色も混ざる。ほとんどの人が僕と同じことを考えたようだ。


「ちょっと待て貴様ら、今なにかとても失礼なことを思ったものがかなりいるようだが」


 それはそうだ。目の前のお花畑男は、中肉中背、歳は二十三、四ぐらい、顔は多少整ってはいるがどこにでもいそうな兄ちゃんだ。どこをどう見ても神々しさのかけらもないし、さらに来ているものがアロハシャツにジーパンでは尊敬の念などわくはずもない。どう見てもただのパンクな兄ちゃんである。

 そんな男がどこかの学校から持ってきたような机の上に立って『ワレハカミダ』とのたまったところで誰が信じようか。


「まったく、貴様らがなじみやすいように最近の若者のいでたちをしてきてやったのに、どういうことだこれは」


 格好もセリフもどこかずれている。そういうところは神様らしいと言えなくもない。

 お花畑さんはしばらくぶつぶつ言っていたが気を取り直して、


「そんなことより、貴様らに集まってもらった理由を説明しよう」


 そう、それが知りたかった。どうしてこんなところにいるのか、なぜ殺し合えと言われなければならないのか、さっぱりわからない。


「ここに集めた者たちには共通点がある」


 共通点? こんなランダムな集団にまともな共通点などあるのだろうか。


「貴様らの共通点とは……『欲望が強い』ということだ。すべての人間には『こうなればいいのに』、『こうだったらよかったのに』、『こんなことができればなぁ』というような欲望が大なり小なり必ずある。今回集めたのはその望み方が特に強い者たちだ。ここにいる九十九人は種類を問わず何らかの強い欲望を持っている。それが貴様らの共通点だ」


 ……強い欲望……? でも僕はそんなもの……。


 僕は何も思い浮かばず黙り込んだ。だが、


「それがいったいなんだってんだ!」


 自覚があったのであろう誰かが叫ぶ。それを皮切りに次々と声が上がる。


「強い欲を持ってちゃいけないのか!」

「大体ここはどこなのよ!」

「せっかくの夏休みなのになんでこんなところにいるんだ!」

「おうちにかえりたいよ~」

「今日は友達と買い物に行く約束してたのに!」


 叫びが叫びを呼び、広場が叫びで満たされていく。

 僕も叫びたかった。どうして僕はここにいるんだ? だって僕は……




 『静まれ!!!!!』




 お花畑男の、否、神の一喝に場が静まり返る。

 と同時に、僕は体が震えていることを自覚した。


 どうしてこんな普通そうな男の声にこんなにも力があるのだろう?


 どうして高々一人の大声にここまでの畏れを感じるのだろう?


 猛獣を前にしたのならわかる。

 いや、猛獣を前にしてもここまでにはならないだろう。

 それほどの力が、覇気と呼ぶのも生ぬるい力がこの男から発せられた。

 この男に、この存在に逆らってはいけないと、知識でも脳でも脊髄でもなくもっと根本的なところ、遺伝子に、本能として刻み込まれているような感覚を覚える。

 この場にいる全員が同じものを感じたのだろう。皆の顔には恐怖と驚きの色があふれていて、中には膝をついて呆然としている人もいる。


「我がこれから説明してやろうというのにうるさくしおって、まったく」


 先ほどとは打って変わり、老人の愚痴のようなことをいうこの男からはもう何も感じない。いったいあれはなんだったのだろう?


「まあいい、それでは説明を始める。何度もせぬからよく聞くように。――いいか、これはゲームだ。名前は特に決めていない。貴様らで勝手に決めておけ」


 ……ゲーム? この(ひと)は一体何を言っているんだろうか?


「このゲームのルールはとても簡単だ。各自で殺し合い、最後に残った一人が勝者となる。そしてフィールドはこの空間すべてだ。大体ネズミの遊園地と同じぐらいの広さがある。ここには普通の町と同じような施設や建造物がそろっている。コンビニや銭湯、むろん民家もある。好きに使うといい。また、町は普通のものだがこの空間にいる人間は貴様らだけだ。ほかには誰もいない。……あと、この空間から逃げようとしても無駄だ。外側に向かって進んで行けばこの空間の端にたどり着くが、そこからさらに進もうとしてもこの空間の中心である、この広場に瞬間移動するようになっている。逃げようとして走っていたら、飛ばされてこの広場にいる敵とご対面、なんてことになりたくなければ注意することだ。……ルールはこんな所だ。これ以外は何をしてもかまわん。自由にするといい。何か質問はあるか?」


 何もかもが突然すぎて何も考えられない。何が何だか訳が分からない。


 ……つーかネズミの遊園地って……。


 それでも何とか思考を働かせたのだろう。僕の隣にいる人が声を上げる。


「食事はどうすればいいんだ? 風呂は、寝るところは?」

「我の話を聞いていたのか? コンビニも銭湯もあると言ったであろう。ここでは何をしても自由だ。コンビニから勝手に持ってくるなり銭湯に勝手に入るなり好きにすればよかろう。ここにはきちんとライフラインも通っているしな」

 

 とりあえずの無難な質問の答えを聞いている間に思考が追い付いてきたのであろう女の子が声を上げる。


「殺し合えって言ったって、どうしてそんなことをしなければならないの? 第一武器も何もないじゃない! どうしろっていうのよ!?」


 彼女の叫びのような問いかけに、自称神は何かを思い出したように目を見開き、


「おお、そうだったな。大事なことを言い忘れていた。――まず戦闘方法だがな、普通に戦ってくれてかまわん。そのあたりの石で殴り殺してもかまわんし、どこかで包丁を持ってきて刺し殺してもかまわん。むろん素手で殴っても首を絞めてもいいぞ。なんでも有りのケンカととらえてくれてかまわん。だが、この世界では普通と大きく違うことがある。それはな、――ここでは自分の望みが叶う、ということだ」



   ●



 ……自分の望みが叶う? どういうことだ?


「この空間では、キサマ等が常日ごろから思っていた望み、その中でも特に強いものが現実になる、ということだ。無論、あくまで一番の望みだけだ。なんでも叶うという訳ではない。例えば、『早く走りたい』と思っている者、なれるぞ。思えば思うだけどんどん速くなる。力もそうだ。上限はない。自分たちの考えうる限りの能力が出せる。この世界においては、思いこそが力であり、つまりは想像力が創造力になる。そのことをよく覚えておけ。この能力をいかにうまく使えるかがこのゲームのカギになるといってもいいだろう。……ああちなみに、全く同じ能力を持つ者はいない。多少かぶる者はいるがな」


 ……こいつ、いったい何を言って――


「次に『どうしてこんなことをするのか』だったな。理由など特にない。強いて言うなら人間はかなうはずのない望みが現実のものとなったとき、どのような行動をとるのか興味が出ただけだ。先ほども言ったが、ここにいる者たちは強い望みを持っている。このような実験にはうってつけの人材だ。貴様らは自分の望み通り好き勝手できる。我は我の好奇心を満たせる。双方の利害は一致しているだろう? それでいいではないか。貴様らはただ、己の望みを自覚して頑張ってくれればよい」


 ……そんな、そんなことのために人殺しなんて……。


 ためらいの感情が僕を包み込む。

 だがそれにかまわず、自称神の話は続く。


「だがまあ、それでもなお、理由がないと戦えぬ者たちにいい知らせだ。このゲームの勝者にはどんな望みでも一つだけ叶えられる権利をやろう。どんな願いでもいいぞ?」




 金か?

 いいだろう!


 名誉か?

 上等だ!


 世界か?

 くれてやる!


 人の心か?

 持って行くがいい!




「どんな起こりえぬ奇跡でも叶えてやろう! 我は神だ、不可能はない! ふはははは――!」


 ひとしきり騒いだ後、男は皆を見渡す。


「――どうだ? 少しはやる気になったか?」



   ●



「そんなバカなこと信じられるか!」


 自称神の演説に対し不信の叫びが上がる。

 その叫びに、それまで夢見心地のような顔をしていた者たちがはっとして、そのあとすぐに不信の色を出す。

 不信の理由は簡単だ。

 望みをかなえると言いうが、本当に叶えてくれるという保証がまったくない。

 今ここにある事実は、変な男が『望みをかなえるから殺し合え』と言っているだけであり、願いを叶えるという言葉が嘘だった場合、もし優勝できたとしても殺人犯になるだけだ。人を殺せと言われている以上、冷静にならざるを得ない。


 ……というか、なんで僕は殺すことを前提に考えているのだろう?


 僕の中のどこかに、この話が真実だという確信でもあるのだろうか?


 ……ばかばかしい。こんな有り得ない現実があるものか。有り得ない現実(そんなもの)が僕の(なか)に入ってこられるわけがないのに……。



 不信感に支配されていく皆を自称神は呆れた顔で見渡し、


「まったく、最近の人間はこれだから面倒臭い。昔は神を疑うなど考えられなかったのになぁ。――まあいい、要は証が欲しいのだろう? そうだな……『雷よ』」


 その刹那、背後からの腹に響くような音と衝撃波が僕を貫いた。



   ●



 驚いて振り向くと、広場の外にある大きな木が燃えていた。

 その光景に息をのんだ瞬間パチパチという音と共に焦げ臭い空気を感じる。

 呆然とする僕らを見ながら彼はニヤニヤ笑い、


「これでいいか? それともまだ信じられんか? まああの程度なら爆弾と燃料で偽装は可能と考える者もいるかな? ならばこれならどうだ? ……『超局地的な雨』」


 皆の驚きが消える間もなく、自称神は――否、神は新たな言葉を発した。



 その途端に燃えている(・・・・・)木の辺りにだけ(・・・・・・・)雨が降り出した。



 木の半径5メートルぐらいの範囲にのみ降り注ぐ雨は、木にまとわりついた火の手を蹴散らしていく。


「さて、爆弾と燃料で落雷のような現象は起せても、このような超局地的な雨はどうだ?  この中にこの現象を説明できるものはいるか?」


 ……いや、無理だろ、これは。いくらなんでもあり得ないし。


 確かに雷のようなものなら爆弾なりなんなりで音を出して燃料を仕込んだ木を燃やせば偽装できるし、ある程度の設備とエネルギーさえあれば実際に疑似落雷を起こすことも可能だ。雨についても飛行機で雲の上からある種の薬品をまけばただの雲を雨雲に変えることもできる。

 だがこの広場には落雷を起こせるような設備があるようにも思えないし、こんな狭い範囲を狙って雨を降らせることができるとも思えない。木の周りにだけ雨が降り、そこだけ半透明の柱になっていて、しかも見上げてみればその柱は空にまっすぐ伸びていててっぺんが見えない。何より空は雲一つない晴天だ。こんな光景は現実では有り得ない。


 周りもそのことがわかるのだろう、皆無言で雨の柱を見ている。

 何とか説明付けようとしているらしい者もいるが、目の前の光景の意味が分からず、口を噤んで眉をひそめることしかできていない。

 神はその光景をニヤニヤしながら眺めていたが、すぐにそれにも飽きたのか手をたたき皆の注目を集め、


「……まあ、今は我が神かどうかなどはどーでもいい。とにかく今貴様らには特殊な能力が備わっている事と、最後に生き残った者一人しかここから出られないということを理解していればいい。ここから出たくば最後の一人まで殺し合うがよい」


 その言葉に、また疑問の声が上がる。ただしその声はとても弱々しい。


「……死んだらどうなるんだ?」

「どうなるも何も死ぬだけだ。これは現実だからな。復活の呪文や蘇生魔法などない。生き返れるとしたら神であるこの我が生き返らせた場合ぐらいだが、我が自発的にその様な事をすることは絶対にないので覚えておくように。ああ、それと、ここで死んだ者には現実世界では最も自然な形で命を落としてもらう予定だ。よって勝者が殺人犯になることはない。安心してゲームを楽しむとよい」



   ●



 わからない。

 今ここで起きているすべてのことが理解できない。

 いったいなんなんだ、この悪夢は。

 その考えはこの場にいるほとんどの人が感じているらしく、皆何とも言えない表情をしている。

 そんな様子をしばし眺めていた神が、ふと優しそうな顔になり皆に向かって声をかけた。


「まあとはいえ、我もそこまでひどい神ではない、戦いを回避する方法を教えてやろう」


 その言葉に何人かは安堵したような顔を神に向ける。無論僕もその一人だ。


「『我が名において我が内の欲を否定する』、と唱えるといい。そうすればこの戦いから解放される。 ちなみにこの方法はゲームを通していつでも有効だ。無論、今すぐに言っても良いぞ?」


 その言葉を聞いて、5、6人の人が急いで唱える。僕も唱えようとしていたが、ほかの人の声に驚き声が途中で止まってしまった。



「「「「「「我が名において我が内の欲を否定する」」」」」」



 ――そしてそのおかげで僕は助かった。



   ●



 六人分の声が響き終わったと同時に、その六人の体が青白く光り、2、3秒でその人たちの体が見えなくなり、そしてその光が収まった後には――



 六人分の元人間、現死体が横合わっていた。



   ●



 死因はわからない。外傷らしきものは見えず、苦しみの表情も見えず、ただ開いた眼には生気が見えず、目が開いていなければ寝ているのではないかと思ってしまうような、ただ死んだとしか言えない死体がそこにあった。しかも、その死体もすぐにふっと消えてしまう。


「とまあ、さっきの言葉を唱えるとこのようになる。この方法に限らず、このゲーム中は死んだらその死体は消えてなくなる。そしてこの方法なら一切苦しまずにゲームオーバーだ。ある意味勝者よりも気楽だな」


 その言葉を聞き僕はこの場に来て初めての叫びを上げた。


「どういうことだ!? この言葉を唱えればゲームから解放されるんじゃないのか!?」

「その通りだ。だが我は生きて解放されるとは言っていない。大体先程も言ったはずだぞ? このゲームでは『最後に生き残った者一人しかここから出られない』、とな。ここから出るためには最後まで生き残るか死ぬしかない。先程の言葉を唱えればその場で死亡(ゲームオーバー)だ。戦いの中で苦しんで死ぬのと、苦しまず一瞬で安らかに死ぬのとどちらがいいと思う? 戦う意志も、自ら命を絶つ勇気もない者どもにも救いの手を差し伸べる、我はなんと優しいのだろうか」

「ふざけんな!! そんなの納得できるわけないだろうが!!」


 誰かの叫びに、神はあざけるように鼻で笑い、


「別に我は納得してもらおうと説明しているわけではない。貴様らにはある程度のルールを理解してもらう必要があるからだ。そうしないと一方的な戦いになってしまい詰まらんからな。せっかくこんなゲームを開催したんだ、それでは意味がないだろう?」


 ……そんな、それじゃあまるで僕たちは……


「俺たちはお前のおもちゃだ、とでも言いたいのか!?」


 誰かが僕の思ったことを声に出した。 


 だが、その声に神は何でもないように答える。


「その通りだが、それがどうした?」

「――なっ!?」


 絶句した皆に向かって、神は語り続ける。


「貴様らにそれ以上の価値など求めていない。もともとこのゲームを始めたのは、我の興味を満たし、楽しむためだ。それ以上の理由はない。……神には娯楽が少なくてなぁ」

「ざけんじゃねえ!! 俺たちはゲームの駒じゃねえんだぞ!!」

「そうだ、お前たちはそんなものではない。ゲームの駒ならば我が思うがままに動いてしまう。――それでは見ていてつまらない。貴様らは、言うならばNPCノン・プレイヤー・キャラクターだ。我の思い通りに動かず、時に予想外の行動をする。――まこと、愉快ではないか」


 この神は、そんなことを平気な顔で言ってくる。

 そう言われて黙っていられるようなものはここにはおらず、その代表である誰かが叫ぶ。


「ふっ、ふざけるな!! 僕たちは人間だ!!」

「たかだか『死すべきもの』ごときが何をほざくか。貴様らの生活など退屈な劇にすぎんよ。大体、貴様らの一生に何の価値がある? 毎日毎日似たような日々の繰り返しではないか。朝起きて、飯を食い、学校へ行き、時々居眠りをしながら授業を受け、昼飯を食い、また授業を受け、部活に行き、家に帰り、飯を食い、風呂に入って少し夜更かしして寝る。休みの日は家でゴロゴロするか遊びに行くか、そんなところだろう。そんなつまらん物など見ていたくもない!」


 嫌気の感情を隠す振りすら見せず、神は吐き捨てるように言う。


「だからそれを我が変えてやる! 面白くしてやる! たった百人足らずとはいえ、変わらねばつまらない! もっと楽しみたいのだよ! 貴様らとて心のどこかでそう思っているはずだ! この生活を、この世界を変えてみたいと!! この世界の在り方を、自分中心に変えていきたいと!! なぜなら貴様らの中には欲がある! 我が目を止めるほどの大きな欲が! 欲とは、今の自分に不満を持ち、怒り、憎み、もっとよくなりたい、もっと変わりたい、もっと、もっと……。――そういう気持ちだ! ならばもっとそれを膨らませろ! はじけさせろ! 吐き出せ! 表に出せ!! 今なら我が力を貸してやろう! 能力(ちから)を貸してやろう!! 欲望をかなえるちからを! 望みをかなえられる権利を! さあ戦え! 見せ合え! そして権利を奪い合い、生き残れ!! 己のちからを証明してみせろ!! ――そして、我を楽しませてみせろ!! ふははははは……!!」


 ……正気じゃない。この(ひと)は、狂っている……。


 僕はそう思い、周りの人の顔を見た。ぼぉっとしている顔の集まりを。

 そして、気が付いてしまった。皆の表情の変化に。


 最初は皆、僕と同じだったはずだ。

 あまりに理解の及ばぬ出来事と、死への恐怖に怯え、こわばった顔をしていた。

 だが今は、喜んでいる。

 皆のほとんどが怯えの成分を無くし、中には笑う一歩手前の者までいる。

 僕は、何よりもそのことに恐怖した。


 ……まずい。何か言わないと。このまま行くと皆流される……!


 気が付くと、僕は叫んでいた。


「待ってください!!」


 その瞬間、皆がこちらを見た。

 それにより、驚きと苛立ちが混ざったような視線が僕に突き刺さる。

 そのことに若干戸惑い、混乱した頭で僕は口を開き、


「僕は自分の欲がわかりません。使える能力がわかりません。教えてください!!」


 とっさに出てきた言葉がこれだった。何か言わなければと思ったら、一番の疑問が出てきてしまった。

 さっき神は、ここに集められたのは欲が強い者たちだ、と言った。 

 だが、僕自身は自分の中にそんなに強い欲があるとは思えなかった。


 ……いつも周りを観察して、結局なにもしないような僕に……。


 すると神は笑って言う。


「ふむ、もっともな疑問だな。だが、それもこのゲームの目的の一つだ。自分の欲、本当に欲するものを探す。――何とも哲学的ではないか。そして我は意地が悪い。だが正直者だ。だから貴様にはこの言葉を贈ろう。貴様は、ここに集まったものの中でもかなり特殊な欲を持っている。それも、使い方次第ではかなり強力なちからだ。そして皆よ、この者はいま言った通り、自分の持つ欲に、ちからに気付いていない。――これはチャンスだ。いいか? 近い将来、強力な障害となるであろう竜が、今は非力な雛同然の状態だ。

 一人でも敵を減らしたいのならば、すべきことはわかるだろう?」


 その言葉に、皆が僕をよりよく見始めた。


 ……これは、まずい……。


 先ほどとは違うまずさ。しかも今度は僕だけだ。

 神はその様子をにやにやしながら眺め、そしてもう質問がなさそうであることを確かめると、


「――ふむ、ではそろそろ始めようか。……ああ、言い忘れていたが、参加者の残りの人数は空に表示されるので参考にすると良い。それでは、各々にはこの空間の各所に散ってもらう。ここから始めるといきなり乱戦になってしまい詰まらんからなあ。ああ、移動はしなくていい。我が飛ばしてやる。飛ばしてから一時間は準備時間だ。能力の確認なり装備の入手なり好きに使え。この準備時間の間は他の参加者については認識も干渉も一切できない。たとえすれちがい、ぶつかろうとも何も感じない。安心して支度を整えると良い」


 最後に、神は僕たちをざっと眺めると、手を広げて言う。


「さあ、それでは行って来い!」


 その言葉が聞こえた瞬間、僕の周りの景色が溶け、別の場所が見えてきた。



   ●



 こうして僕の、僕たちのゲームが始まってしまった。



   ●

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