少しだけ慣れたのよ
お、お待たせし過ぎました?(汗)
見捨てずにお気に入り登録をしてくださった方、本当にありがとうございます!
短いですが、どぞっ!です(`_´)ゞ
原始の魔力とは、イナール神が持つ至高の魔力である。
イナール神はその魔力に属性を付けることで、今のイナールを支える二匹の聖獣と四人の精霊王たちを生み出したとされる。
《イナール創世記研究録・序より抜粋》
今より三十年前、大国ヴェリンの伯爵家では、四人の精霊王に祝福された類い稀なる男児が誕生した。その名をバーセル=ナットという。
バーセルが母であるラミィの腹から産み出された瞬間、世界中の精霊たちが歓喜の声をあげた。その声は、まるで幻想の中で聞く歌声のようで、普段は精霊の姿を見ることも、その声を聞くことも出来ない者たちにすら聞こえたという。
そんな伝説紛いの出生をもつバーセルは、二ヶ月前に小国ロッソから娶った妻、シンリを今日も今日とて探していた。
バーセルの妻シンリは、原始の魔力と呼ばれる至高の魔力の持ち主で、バーセルが贈った力を封じる術式の組み込まれているアクセサリーを普段からいくつもつけている。しかし、原始の魔力はなにものにも侵されない至高の魔力であり、その術式は意味を成していない。それでも、シンリがそのアクセサリーを常時身につけているのは、単にとの魔力の存在を他者に知られたくないがため。シンリの魔力に初夜の際に気づいたバーセルは、己が贈ったアクセサリーを無意味だと知りつつ身に付けてくれるのは、妻から自身への愛故だと思っているぶっ飛んだ勘違い野郎である。
己の魔力を開放して、探索の術式を展開するバーセル。
シンリの魔力は普段は全く使われることなく、シンリの内に秘められている。しかも、開放したところで周囲に溢れる魔力と同化してしまうので、彼女を探すのは通常、目視か勘ででしか出来ない。だが、そこは妻を溺愛している、どこをとっても規格外の男バーセルにはあまり関係がない。探索の術式を展開後、僅かに感じる違和感の場所へとすぐさま転移の術式を展開させた。
彼には何故かいつも妻の居場所がすぐにわかってしまう。それがただの勘ではなく、妻への溢れんばかりの愛があるからだと常々思っているのだった。あながち間違ってはいないのだが、そのウザいくらいの愛を向けられている妻は、その重過ぎる愛と顔面凶器のとも言えるバーセルの顔に愛の片鱗すら見出せていない。
バーセルが転移した先は、妻のお気に入りの場所である自宅の書庫。
いきなり近づけば恥ずかしがり屋の妻が逃げてしまうと思い、気配を完全に消し去り、物陰に潜む。
(あぁ、今日も可愛らしいっ!)
愛しい妻の後ろ姿を物陰から窺うバーセルは、その愛しい妻の夫であるはずなのに、完全にストーカー化している。
妻のシンリは、陽射しが柔らかく差し込む窓際に腰掛け、熱心に本を読んでいた。少しだけ開け放たれた窓からの風が、シンリの髪を優しく撫ぜる。
「ごふっ!?」
バサッ
穏やかな雰囲気はシンリの乙女らしからぬ呻き声と、シンリの手から床に滑り落ちた本が立てた音によって終わりを告げた。
「シンリ…」
声だけ聞けば、渋くて甘やかな感じのする声なのだが、残念なことに発したのは、シンリの醸し出していた穏やかな雰囲気に興奮してしまったバーセルだ。
囁きとも言えるほどの小さな声ではあったが、突然現れ、羽交い締めにしたシンリの耳元で言うようなことではない。
いきなり拘束され、耳元で聞こえた夫の声にシンリの魂が抜けかける。
(な、なんでこんなに早く帰って来たの…!?)
夫にいつものように魔力を封じる術式の組み込まれた縄(シンリには術式は効かないが、普通の縄と同様の拘束はできる)で、ぐるぐる巻きにされながらシンリは動揺していた。
時間は昼食にはまだ一刻程早い。いつも昼食時は帰ってくる夫に、最近では逃げを打つよりも大人しく食堂の椅子に座り、目線を合わせない様にした方が自身の被害が少ないとわかり始めたシンリ。
夫が昼食時以外に帰ってくるなど、今までなかったことでシンリは完全に油断していた。
縄で縛り終えたバーセルがシンリの顔を覗き込む。
「ひぃっ!!」
もろにバーセルの顔を拝んでしまったシンリは、その鋭過ぎて殺人級の視線と背後に立ち上る恐ろしいまでの気配に歯がガチガチと鳴り出してしまう。
いまだに夫を心構えなしに直視すれば、失神してしまいそうな気分になるシンリ。二ヶ月たって、多少は夫に慣れたといっても、いきなり距離を詰められればビビるのだ。
危うく、自身の魔力を開放しかけたが、なんとか思い留まる。
結婚当初は初夜からして、隠していた魔力を暴走させてしまったシンリは、その後もバーセルの奇襲により何度か邸を破壊している。しかし、初夜はいくつかの属性魔力を集め、己の魔力に馴染ませ誤魔化し、その後の邸宅破壊はバーセルの仕業になり、シンリの魔力を知る者は今だバーセルのみとなっている。
シンリも邸宅破壊を好きでやっている訳ではないし、近頃はバーセルの優しさ(?)にも少なからず気づき始めている。しかし、吹っ飛ばしたバーセルが瓦礫の下から満面の笑みで立ち上がってくるのはいつまで経っても慣れない。
(ど、どうにでもしてくれ)
縄でぐるぐる巻きのシンリを肩に担ぎ上げたバーセルは、シンリの蒼白の顔にも気づかず、ホクホクとした気分で夫婦の間へと歩み出した。
はたから見れば、かどわかされた少女とその犯人の様だが、すれ違う邸の使用人たちは微笑ましそうに見守るだけ。シンリはその生易しい眼差しに助けを求めることは無駄なんだといつの頃か悟っていた。
因みに、早めの帰宅をしたバーセルは、シンリに伝えなければならないことがあったのにも関わらず、いつもより妻と長くいれることに感動して、用件をすっかり忘れて妻を撫でくりまわしていたのだった。
お知らせです。
私オールマイティにこなす事ができないと悟った今日この頃…。
続きをお待ちの皆さま、どうか気長に待っていただければと、お願いしたい次第であります(;´Д`A
今後は他作品をメインに更新して行きたいので、そちらが完結、もしくは区切りがつくまでお待ち頂くかと思います。私事で大変申し訳ありませんが、どうぞ今後もよろしくお願いします。