表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/227

Episode47

***



講習を終えた帰り道。


夜風が少し冷たく、街灯がぼんやりと歩道を照らしている。


「今日の講習、難しかったけどいい経験になったなー」


美菜がそう呟くと、隣を歩く瀬良が「まあな」と短く返す。


「でも、楽しかったよ。やっぱりスパって奥が深いなって思ったし」


「そりゃそうだ。お前の手、割と力強いし、向いてるかもな」


「え、ほんと?」


思わず嬉しくなって瀬良の顔を覗き込むと、彼は軽く肩をすくめた。


「まあ、俺が言うまでもなく……店長もお前のことちゃんと評価してるしな」


「……そうかな」


なんとなく照れ臭くて、美菜は前髪を指で弄る。


そんな美菜の仕草を見ながら、瀬良が不意に手を伸ばした。


「……!」


美菜の手が、瀬良の手に包み込まれる。


指先が触れた瞬間、心臓が跳ねた。


「な、なに……?」


戸惑う美菜をよそに、瀬良は何でもないような顔をして、そのまま自分の方へ少し引き寄せる。


「夜道、危ないからな」


さらっと言う瀬良だったが、繋いだ手をわずかに揺らしながら、美菜の指に絡めるように遊ぶ。


その動きがあまりにも自然すぎて、美菜の顔が一気に熱くなる。


「……っ、ちょ、やめ」


「手を繋いだだけでこれだと、先が思いやられるな」


わざと耳元で囁く瀬良の声に、美菜の体がビクッと跳ねた。


(……ッ!)


冗談めかした言い方なのに、やたらと低く響く声が心臓に悪い。


27歳にもなって、こんなことでいちいち動揺するのはさすがに格好がつかない。


(大人の女の余裕を見せるべき……!)


そう思った美菜は、努めて落ち着いた声を作り、ふっと笑った。


「……ふーん? そんなことで調子に乗らないの」


「お?」


瀬良が面白そうに眉を上げる。


「別に手を繋いだくらいで動揺なんてしないし」


そう言いながら、今度は美菜の方から瀬良の指をぎゅっと握り返す。


「……ほう?」


瀬良がじっと美菜を見つめる。


目が合った瞬間、余裕を装っていたはずの美菜の顔が一気に熱くなった。


(やっぱ無理!! 余裕ぶるの無理!!!)


美菜がぱっと手を放すと、瀬良は肩を揺らして笑った。


「ふっ……やっぱり、ありのままのお前が好きだな」


「……!!」


美菜は反論する言葉もなく、ただ顔を赤くするしかなかった。


結局、今日も瀬良の余裕には敵わない。



***



何だかんだ会話をしながら歩いていると、結局美菜の家の前まで送ってもらう形になった。


「ありがとう、瀬良くん」


「どういたしまして。お前、今日頑張ってたな。」


「……うん!」


褒められるのはやっぱり嬉しい。


瀬良は軽く頷くと、「じゃあな」と帰ろうとする。


だが、美菜はその腕をそっと引き止めた。


「晩御飯、食べていかない?」


瀬良が足を止め、美菜をじっと見つめる。


「……まだ気にしてんのか?」


「な、なにが?」


「さっきの」


美菜の余裕ぶりを見透かしたように、瀬良が口角を上げる。


そして、不意に少し顔を近づけ——


「……飯だけじゃ終わらないかもよ?」


「……ヒョッ…!!?」


予想外の言葉に、変な声が出た。


瞬間、美菜の顔が真っ赤になる。


「な、ななな、何言って……!」


バッと瀬良から距離を取ろうとするが、手はまだ掴まれたまま。


「……っ!!」


その場で必死に顔を背ける美菜を見て、瀬良はくすくすと笑った。


「冗談だよ。……でも、今日は疲れただろ?」


「……」


「また今度、ご飯作ってくれ」


そう言いながら、瀬良は軽く頬に口付けて美菜の手をそっと離す。


「……おやすみ」


そう言い残し、瀬良は歩き出した。


美菜は、去っていく彼の背中を見つめながら——


(やっぱり、瀬良くんの余裕には、まだ追いつけないな……)


そう思いながら、自分の頬をそっと押さえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ