Episode48
翌日、美菜は仕事を終え、いつも以上に気合いを入れて配信の準備をしていた。
(この頃、配信頻度落ちてたもんね!)
ファンを待たせてしまった分、今日はたくさん配信しようと思っている。
今日の内容はゲーム実況。リスナーからのおすすめで、恋愛シミュレーションゲーム……そう、乙女ゲームをプレイすることになった。
(乙女ゲームかぁ……)
美菜自身プレイしたことはないが、リスナーのおすすめなら楽しめるかもしれない。
「みなさーん!こんばんはー! みなみちゃんです!」
元気よく挨拶をすると、コメント欄が一斉に沸いた。
【待ってました!】
【みなみちゃんの乙女ゲーム楽しみ!】
【頑張ってー!】
視聴者の反応を見て、美菜も気合いを入れる。
「今日はね、リスナーさんのおすすめの乙女ゲームをやっていこうと思います! 初心者でも比較的やりやすいって聞いたんだけど……ホントかな?」
コメント欄には、すでにこのゲームを知っているリスナーたちが期待の声を上げている。
【まあ、みなみちゃんならすぐ攻略できるでしょ!】
【エズ王子なら初心者向けだし余裕だよ!】
【頑張れ〜!】
「よーし、それじゃあ早速始めていきます!」
***
「……おかしい」
何度目かのゲームオーバー画面を見つめながら、美菜は呆然と呟いた。
ついさっきまで甘い雰囲気だったはずのエズ王子が、突然剣を抜き、主人公を刺してしまう。
(さっきまで「愛してる」とか言ってたのに……!!)
コメント欄にも悲壮感が漂っている。
【えぇ……また!?】
【みなみちゃん、バッドエンド製造機説】
【なんでヤンデレルート入るのw】
「私が聞きたいよ……」
どうやらこのゲーム、恋愛成就は割と簡単なのだが、ハッピーエンドである「結婚式」まで持っていくのが異様に難しいらしい。
特にエズ王子は初心者向けとされているが、選択肢を間違えるとすぐにヤンデレ化してしまい、最終的に主人公が殺されるバッドエンドになるという。
美菜は何度かやり直したが、結果は変わらず——
(な、なんで!? どうしていつもこうなるの!?)
だんだんイライラしてきて、思わず口を尖らせる。
コメント欄には、リスナーたちの笑い声が並ぶ。
【みなみちゃん、恋愛の才能ない説】
【ある意味すごいww】
【ガチで乙女ゲーム向いてないの草】
「そ、そこまで……!?」
若干拗ねつつも、ふと流れてきたコメントに目が止まる。
【周りの恋愛が得意な人を真似すれば?】
投稿者は「タヅル」。
(……タヅルさん)
最近、タヅルのコメントはよく目に入る。ネット上では冗談を言い合うような仲になっていて、自然と拾うことが多い。
(恋愛が得意な人、か……)
美菜は考えながら、ふと瀬良の顔を思い浮かべた。
(……確かに、瀬良くんだったらこんな時、どうするんだろう?)
そう思った瞬間、何かがひらめいた。
「……よし、もう一回だけね!」
コメント欄が一気に応援モードになる。
【頑張れ!】
【みなみちゃんならできる!】
【次こそはハッピーエンド!】
美菜は、瀬良だったらどんな選択をするのか——そう考えながら、慎重にゲームを進めた。
(ここで焦って告白しちゃダメ……。もっとじっくり……)
(強引にいくより、自然に距離を詰めて……)
そうやって「瀬良くんならどうするか」を意識しながら進めていくと——
(……えっ、うまくいってる!?)
エズ王子の態度が、今までと明らかに違う。
彼はヤンデレ化せず、穏やかに主人公を見つめ——そして、ついにハッピーエンドの結婚式へとたどり着いた。
「や、やったぁぁぁ!!!」
コメント欄が祝福の言葉で埋め尽くされる。
【おめでとう!】
【ついに攻略できた!】
【やっぱりみなみちゃんもやればできる!】
「……ふふっ、ありがとー!」
美菜は満面の笑みで、見てくれた視聴者たちにお礼を言いながら、配信を締めくくった。
***
配信を終えた後、美菜はベッドに倒れ込む。
「……瀬良くんパワーすごぉぉ……」
瀬良を意識してプレイした途端、あっさりとクリアできたことに、改めて彼の余裕ぶりを実感する。
(まさか、乙女ゲームの攻略にまで役立つなんて……)
それと同時に、タヅルのコメントにも助けられたことを思い出した。
(タヅルさん、ありがとね)
今では、タヅルが店長——田鶴屋だということを意識することも少なくなった。
むしろ、ネット上での冗談交じりのやり取りは楽しいし、コメントが流れてくるとちょっと安心する。
(タヅルさんはタヅルさんだもん。店長って思う必要はない……)
そう自分に言い聞かせながら、美菜はふわりと笑みを浮かべ——
そして、そのまま、ゆっくりと眠りについた。




